嵯峨野観光線(さがのかんこうせん)は、京都府京都市右京区のトロッコ嵯峨駅[1]から京都府亀岡市のトロッコ亀岡駅[2]までを結ぶ嵯峨野観光鉄道の鉄道路線である[3]。日本初の観光専用鉄道である[9]。
概要
1989年(平成元年)3月に電化準備及び複線化のため新線に切り替えられて廃止された西日本旅客鉄道(JR西日本)山陰本線嵯峨駅 - 馬堀駅間の旧線を、1991年(平成3年)4月にトロッコ嵯峨駅 – トロッコ亀岡駅間の観光専用鉄道として再生した路線である[10]。JR西日本が線路を所有、JR西日本の子会社である嵯峨野観光鉄道が運営[5]し、無蓋貨車から改造した客車と、ディーゼル機関車を動力とする列車で運転される[11][5]。両端駅に機関車を付け替える設備がないため、どちらの方向に運転される場合も機関車はトロッコ嵯峨駅寄りに連結され、機関車と反対側の先頭に連結される客車には機関車を遠隔制御する運転室がある[12]。開業前、年間輸送人員は22万人程度と予想されていたが、沿線が観光資源に恵まれていたことに加え、営業努力も実り、初年度は69万人を輸送[10]、その後も好調に推移し、2013年(平成25年)以降は年間輸送人員が100万人を超える人気路線となっている[13]。しかし、2019年度末以降の新型コロナウイルス感染症流行の影響により約7割強を占めていたインバウンドの需要が消失、結果2020年度の輸送人員はピークの約36%の46万人まで減少、2020年度以降営業利益は赤字になっている。このため、2022年4月1日に収支改善の目的で開業以来消費税率変更以外で初めての運賃値上げを行なった[14]。
路線データ
歴史
開業に至る経緯
1989年(平成元年)3月にJR西日本山陰本線嵯峨駅 - 馬堀駅間が電化準備及び複線化のため新線に切り替えられ、1899年(明治32年)開業の旧線は廃線となった[10]。一方、JR西日本社内には経営基盤確立を目的とした線区別経営改善推進チームが1987年(昭和62年)11月に設立されており、山陰本線については旧線を活用した活性化が検討されていた[16]。旧線は車窓景観が良かったことから、京都の新しい観光資源として復活の要望が京都府を中心に強く[13]、JR西日本社内で検討の結果、事業化に取り組むことが決定、1989年(平成元年)11月にJR西日本社内に嵯峨野線プロジェクトチームが発足し、運転再開に向けた準備が始まった[16]。運営母体となる嵯峨野観光鉄道がJR西日本の100 %子会社として[5]1990年(平成2年)11月に設立され[4]、同月末に鉄道事業免許が交付されている[6]。開業日が翌1991年(平成3年)4月に設定されたが、廃止以来使用されていなかった線路を短期間で整備するため、社員全員でレールや枕木の交換、草刈りなどの作業が行われた[13]。
年表
- 1899年(明治32年)8月15日:京都鉄道によって嵯峨駅(現:嵯峨嵐山駅) - 園部駅間が開業[10]
- 1907年(明治40年)8月1日:鉄道国有法により国有化[10]
- 1909年(明治42年)10月12日:線路名称制定、京都駅 - 園部駅間が京都線となる。
- 1912年(明治45年)3月1日:京都駅 - 出雲今市駅間全通とともに京都線全線、阪鶴線綾部駅 - 福知山駅間、播但線福知山駅 - 香住駅間を山陰本線に編入。
- 1922年(大正11年)4月3日:保津川橋梁上で列車転覆事故発生[10]
- 1935年(昭和10年)7月20日:馬堀駅開業[10]
- 1936年(昭和11年)4月15日:保津峡駅開業[10]
- 1987年(昭和62年)4月1日:国鉄分割民営化によりJR西日本に承継[10]
- 1989年(平成元年)
- 1990年(平成2年)
- 1991年(平成3年)4月27日:山陰本線旧線を嵯峨野観光鉄道嵯峨野観光線としてトロッコ嵯峨駅 - トロッコ亀岡駅間が開業、トロッコ列車運転開始[10]
- 1992年(平成4年)4月24日:トロッコ亀岡駅の新駅舎が完成[17]、トロッコ保津峡駅で酒呑童子のパフォーマンス開始[10]
- 1996年(平成8年)3月16日:全列車トロッコ嵯峨駅乗り入れ開始[10]
- 1997年(平成9年)4月27日:トロッコ嵯峨駅の新駅舎が完成[10]
- 1998年(平成10年)7月19日:SK300形「ザ・リッチ」が増備される[10]。
- 2013年(平成25年)
- 2014年(平成26年)6月27日:吊橋が復旧しトロッコ保津峡駅の営業再開[21]。
- 2015年(平成27年)
- 2019年(令和元年):沿線のトンネル8ヶ所、橋梁33ヶ所は「嵯峨野観光鉄道の構造物群」は土木学会選奨土木遺産に選ばれる[24][25]。
- 2020年(令和2年)4月8日:近隣府県における新型コロナウイルス感染症拡大防止のための「緊急事態宣言」の発出に鑑みて、同年6月12日までの間、トロッコ列車を全面運休[26][注釈 1]。
路線概況
路線はトロッコ嵯峨駅を起点とし、山陰本線を約900m走行したのち、小倉山トンネル手前で分岐、トンネルに一部かかる形でもうけられたトロッコ嵐山駅から旧線に入る[16][11]。トロッコ嵯峨駅 - トロッコ嵐山駅間は駅構内をのぞきトロッコ嵯峨駅発、トロッコ亀岡駅発とも山陰本線の下り線を走行する[28][10]。旧線は保津川に沿って進み、2箇所のトンネル、1箇所の鉄橋を超えたところにトロッコ保津峡駅がある[16]。途中の保津川橋梁までは保津川左岸、以降は終点まで保津川右岸を走行する[16]。トロッコ保津峡駅から大小6箇所のトンネルを超え、山陰本線と合流する直前、馬堀駅から約500 mの地点が終点トロッコ亀岡駅である[16]。途中3箇所で山陰本線の下を通過する[16]。全区間がJR西日本山陰本線に属し、嵯峨野観光鉄道が第二種鉄道事業者として列車を運行している[5]。
運行形態
トロッコ嵯峨駅 - トロッコ亀岡駅間の折り返し運転で、全て各駅停車である。トロッコ嵯峨駅 - トロッコ嵐山駅間は山陰本線の下り線を走行するため、開業から1994年(平成6年)までは一部列車はトロッコ嵐山駅 - トロッコ亀岡駅間の運転となっていた[10]。休日・行楽期除く水曜日と冬期は運休する[29]。
全列車「嵯峨野号」の列車愛称で運行される。ただしオープン車両「ザ・リッチ」の座席については「嵯峨野リッチ号」となる(「嵯峨野号」と同じ列車でありあくまで発券上の区分)。座席は全席指定で、乗車1か月前よりJR西日本の主な駅のみどりの窓口、e5489、日本全国の主な旅行会社で販売される[30]。座席に余裕がある場合は当日券も発売される[30]。なお5号車「ザ・リッチ」は荒天時には座席が濡れて乗車できないため、当日販売のみとなっている[23]。指定席が完売した場合は号車指定の立席券が枚数限定で発売される[30]。
機関車1両と客車5両で運転されるが、両端駅に機関車を付け替える設備がないため、機関車は常にトロッコ嵯峨駅寄りに連結され[28]、機関車が最後部になる際は先頭となる客車に設けられた運転室から遠隔制御される[31]。
使用車両
JR西日本から譲受し、塗装などを変更したディーゼル機関車(DE10形1104号機)を動力車とし、トキ25000形貨車を改造した客車5両が使用されている[11][5]。車両には平安ロマンをモチーフとした塗装を採用、平安の王朝色である緋色、山吹色でまとめられ、客車の窓下にアールデコ風の黒の模様が入れられた[32]。また予備の動力車としてJR西日本所属のDE10形1156号機が1104号機と同塗装に変更されている[33]。
DE10形ディーゼル機関車を先頭にした編成。大阪駅でのお披露目(1991年4月)
「ザ・リッチ」
トロッコ亀岡駅寄り先頭車
利用状況
トロッコ嵯峨駅 - トロッコ亀岡駅間7.3 km[注釈 2]の運行は1991年(平成3年)4月27日に再開され[3]、年間利用者数は22万人程度と見込まれたが、開業初年度の利用者は予想の3倍となる69万人超を記録した[13]。1992年(平成4年)から社員の手で沿線に桜、松などが植樹されたほか、酒呑童子に扮した社員が乗り込むパフォーマンスの実施[10]、2005年(平成17年)からは紅葉の季節の最終便ではライトアップなどの集客策が採られている[35][10]。2013年(平成25年)には年間乗客数が100万人を突破、 2010年代以降は日本国外からの団体客の利用も目立ち、ツアーに組み込まれることも増えている[13]。観光シーズンには当日券が午前中に完売するほどの人気路線[36]となり、2015年(平成27年)には年間123万人を輸送[注釈 3]、乗客の1/3を日本人以外が占めている[37]。2015年(平成27年)12月から、冬季は3号車、4号車の座席を一部撤去し、ダルマストーブを設置したストーブ列車として運行されている[23]。
駅一覧
- 全列車普通列車(全駅に停車)
- 全線単線(列車交換不可)
- 全駅京都府内に所在
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d 『トロッコ嵯峨駅』
- ^ a b c 『トロッコ亀岡』
- ^ a b c d e f g h i j k l 『新車年鑑1992年版』p156
- ^ a b c d 『会社案内』
- ^ a b c d e f g h 『ローカル私鉄車輌20年』p72
- ^ a b c d e 『鉄道ピクトリアル』通巻544号p.69
- ^ a b 『よくあるご質問』
- ^ a b 寺田裕一『改訂新版 データブック日本の私鉄』 - ネコ・パブリッシング
- ^ 『知られざる鉄道』p12
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 『歴史で巡る鉄道全路線 公営鉄道・私鉄04』p17
- ^ a b c 『歴史で巡る鉄道全路線 公営鉄道・私鉄04』p16
- ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻544号p.70
- ^ a b c d e 『外国人観光客の〝ドル箱〟ツアーになった京都・トロッコ列車 USJから流入…2年連続100万人突破の秘訣』
- ^ 『鉄道事業の旅客運賃上限変更認可申請について』
- ^ 『アクセス』
- ^ a b c d e f g h 『鉄道ピクトリアル』通巻544号p.68
- ^ “嵯峨野観光鉄道のトロッコ亀岡駅 ログハウス風駅舎が完成”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 1. (1992年4月28日)
- ^ 『「嵯峨野トロッコ列車」運転再開のお知らせについて』
- ^ “「嵯峨野トロッコ列車 年間ご利用者数100万人達成日 記念セレモニー」の開催について”. JR西日本 (2014年3月19日). 2021年10月14日閲覧。
- ^ 「【鉄道ファン必見】外国人観光客の〝ドル箱〟ツアーになった京都・トロッコ列車 USJから流入…2年連続100万人突破の秘訣」『産経ニュース』産経新聞社、2015年1月13日。2021年10月14日閲覧。
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- ^ 『運行スケジュール』
- ^ a b c 『乗車券について』
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- ^ 『京滋乗り物図鑑 嵯峨野トロッコ列車』
- ^ 『嵯峨野観光鉄道物語』
- ^ 『トロッコ嵯峨駅』
参考文献
書籍
- けいてつ協會『知られざる鉄道』JTB、1997年。(ISBN 4-533-02660-5)。
- 寺田裕一『ローカル私鉄車輌20年』JTBパブリッシング、2003年。(ISBN 4-533-04512-X)。
- 『歴史で巡る鉄道全路線 公営鉄道・私鉄』通巻4号「京福電気鉄道・叡山電鉄・嵯峨野観光鉄道・京都市交通局」(2013年3月・朝日新聞出版)
- 「嵯峨野観光鉄道」 pp. 16-17
- 「嵯峨野観光鉄道 今を走る車両カタログ」 pp. 32
雑誌記事
- 『鉄道ピクトリアル』通巻582号「新車年鑑1992年版」(1992年5月・電気車研究会)
- 藤井信夫、大幡哲海、岸上明彦「各社別車両情勢」 pp. 96-110
- 鉄道ピクトリアル編集部「嵯峨野観光鉄道SK100・200形」 pp. 130
- 「1991年度に開業した鉄道・軌道」 pp. 156
Web資料
- “” (PDF). 嵯峨野観光鉄道 (2014年3月10日). 2015年9月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年4月7日閲覧。
- “消費税率引き上げに伴う運賃改定のお知らせ” (PDF). 嵯峨野観光鉄道 (2019年9月9日). 2019年11月4日閲覧。
- “鉄道事業の旅客運賃上限変更認可申請について” (PDF). 嵯峨野観光鉄道 (2022年1月19日). 2022年1月19日閲覧。
- “「嵯峨野トロッコ列車」運転再開のお知らせについて”. 嵯峨野観光鉄道 (2013年9月18日). 2018年2月11日閲覧。
- “”. 京都新聞 (2014年6月27日). 2014年7月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年6月28日閲覧。
- “外国人観光客の〝ドル箱〟ツアーになった京都・トロッコ列車 USJから流入…2年連続100万人突破の秘訣”. 産経WEST(産経新聞) (2015年1月13日). 2018年2月11日閲覧。
- “京の“底冷え”対策完了 京都・嵯峨野トロッコ列車に「だるまストーブ」あすから運行”. 産経WEST(産経新聞) (2015年2月28日). 2018年2月18日閲覧。
- “会社案内” (PDF). 嵯峨野観光鉄道. 2018年2月11日閲覧。
- “アクセス”. 嵯峨野観光鉄道. 2018年2月11日閲覧。
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- “トロッコ嵯峨駅”. 嵯峨野観光鉄道. 2018年2月11日閲覧。
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- “運行スケジュール”. 嵯峨野観光鉄道. 2018年2月10日閲覧。
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- “嵯峨野トロッコ ストーブ列車2015”. 嵯峨野観光鉄道. 2018年2月4日閲覧。
- “2017年 秋 紅葉ライトアップと臨時列車運転” (PDF). 嵯峨野観光鉄道 (2017年9月7日). 2018年2月10日閲覧。
- “嵯峨野観光鉄道物語”. 嵯峨野観光鉄道. 2018年2月10日閲覧。
- “京滋乗り物図鑑 嵯峨野トロッコ列車”. 京都新聞 (2009年3月23日). 2018年2月4日閲覧。
外部リンク
- Sagano Romantic Train 嵯峨野トロッコ列車 - 嵯峨野観光鉄道
- 京都・亀岡 保津川下り - 保津川遊船協同組合
- “嵯峨野トロッコ列車30周年特設サイト”. 嵯峨野観光鉄道. 2021年10月14日閲覧。
- “祝開業30周年! 嵐山~亀岡を走る「嵯峨野トロッコ列車」の魅力に迫る”. 『そうだ 京都、行こう。』キャンペーン. JR東海. 2021年10月14日閲覧。