ユーロバンはPSA・プジョーシトロエンとフィアットグループが手がけている欧州専売のピープルキャリア(MPV、ミニバン)の総称である。
それぞれの車名は、初代モデルが(シトロエン・エバシオン/シナジー)、ランチア・ゼータ、プジョー・806、二代目モデルはシトロエン・C8、ランチア・フェドラ、プジョー・807となっており、フィアットブランドのみ、初代・二代目ともフィアット・ウリッセとなっている。
この項では、これらの車種を一括して「ユーロバン」として説明する。
なお、Dセグメント乗用車のプラットフォームを流用している都合上、車両総重量としてほぼシャシ容量の限界に達しているため、より高荷重が予想される商用バージョンの設定は無い[1]。
歴史
初代(1994-2002年)
初代ユーロバンは1994年にデビューした。しかしその頃には同コンセプトのルノー・エスパスが欧州ではポピュラーになっていた。もともとエスパスは、プジョーが買収したマトラが提案したアイディアであり、プジョーがそれを袖にしたため、マトラがルノーに売り込んだものであった。その経緯が関係しているためか、エスパスの後追いをすることを避け、ミニバンの祖であるクライスラー・ボイジャーを研究し「アメリカ車のようなミニバン」を商品コンセプトとした。この判断は的を射たものであり、今では欧州でもこの方向性がポピュラーとなっている。
スケルトンとも呼ばれる、マルチチューブラーフレーム・樹脂外板のエスパスに対し、ユーロバンは一般的な鋼鈑プレス・溶接組み立てであり、利益率が重視された。また、「アメリカのミニバン」の特徴であるスライドドアを導入した。その特徴的なスライドドアは、バッジエンジニアリングでもある商用車にも有用であった。
短い全長に3列シートを配置するため、アップライトな(立った)着座姿勢となった。A・Bピラー間の距離も短いため、乗降性を損なわないよう、フロントドアは90°近くまで開くことができる。乗車定員は2・3・2の7人乗りで、二列目、三列目の座席は個別に取り外しができ、移動可能である。この点はエスパス同様で、欧州ミニバンの特徴となっている。
エンジンとトランスミッションは、PSAのDセグメント乗用車(406、エグザンティア)のものが使われており、フロントに横置き搭載され、前輪を駆動する一般的なFF方式である。
足回りは、フロントがストラットとコイルスプリング、リアは(トレーリングビーム)とコイルスプリングの組み合わせであり、これもきわめてコンベンショナルな構成である。
ユーロバンが登場したのち、クライスラーからボイジャーの上級車種である、ホイールベースを延長した「グランド・ボイジャー」が登場し、のちの1997年、エスパスにも同様のグランエスパスが加わったが、ユーロバンにはロングモデルは追加されなかった。
その後1998年10月にマイナーチェンジを行った。主な変更点は、
- シフトレバーをフロアからダッシュボードへ移設
- パーキングブレーキレバーをフロアセンターから運転席とドアの間に移設(左ハンドル)
- センターコンソールを廃止し、フロントシートの間を空ける
など、比較的大掛かりなものとなったが、これらの変更は、前席の前後左右のウオークスルーを実現するためには、一つとして外せないものばかりであった。この改良は市場に好評を持って迎えられ、インパネシフトは欧州の実用車ではひとつのスタンダードとなった。
車名
- シトロエン・エバシオン/シナジー(Evasion/Synagie)
- このモデルは、コンチネンタル・ヨーロッパでは「エバシオン」の名で発売されたが、イギリスとアイルランド共和国では「シナジー」に変更された。英語圏での「Evasion」の意味が、「脱税」、「言い逃れ」(つまりその物や事から逃げる意味)などのマイナスな意味合いであることから、これを避けたことが理由である。フランス語での意味は、英語での「Evasion」ほどではなく、「Escape(エスケープ)」の意味に近い。が、英語圏であるニュージーランドでは「Evasion」の名で発売されていた。
- フィアット・ウリッセ(Ulysse)
- ランチア・ゼータ(Z、Zeta)
エンジンバリエーション
初代ユーロバンは、「PSA XU/XUDエンジン」を始めは搭載していたが後に「PSA EW/DWエンジン」に変わった。
「直4EW10 DOHC 16バルブ」エンジン搭載車はオプションで4速ATが搭載され、その外は5速MTが搭載された。
エンジン | 排気量 | パワー | トルク | 備考 |
---|---|---|---|---|
直4 XU10 2C SOHC 8バルブ | 2.0 L (1998 cc/121 in³) | 121 PS (119 hp/89 kW) | 170 N·m (125 ft·lbf) | 2000年に廃止。ランチア・ゼータには搭載されなかった。 |
直4 XU10 J2TE SOHC 8バルブ ターボ | 2.0 L (1998 cc/121 in³) | 147 PS (145 hp/108 kW) | 235 N·m (173 ft·lbf) | 2000年に廃止された。 |
直4 EW10 DOHC 16バルブ | 2.0 L (1998 cc/121 in³) | 132 PS (130 hp/97 kW) | 180 N·m (133 ft·lbf) | このエンジンの搭載車はオプションでATが装備できる。2000年7月から導入された。 |
直4 XUD9 SOHC 8バルブ ディーゼルターボ | 1.9 L (1905 cc/116 in³) | 90 PS (89 hp/66 kW) | 196 N·m (145 ft·lbf) | 2000年に廃止。ランチア・ゼータには搭載されなかった。 |
直4 XUD11 12バルブ SOHC ディーゼルターボ | 2.1 L (2088 cc/127 in³) | 109 PS (108 hp/80 kW) | 250 N·m (184 ft·lbf) | 2000年に廃止。 |
直4 DW10 SOHC 8バルブ コモンレール式ディーゼルターボ | 2.0 L (1997 cc/121 in³) | 109 PS (108 hp/80 kW) | 250 N·m (184 ft·lbf) | 2000年1月に導入された。 |
1998年式 シトロエン・エバシオン
シトロエン・エバシオンのサイドビュー
90°近く開くフロントドアも4車に共通の特徴プジョー・806
1994年式 フィアット・ウリッセ
ランチア・ゼータ
2代目(2002-2010年)
二代目ユーロバンは2002年にデビューした。フロアパン(床板)、ホイールベース、全高は変更されず、全長と全幅が増加した。およそ30cmの長さの増加は衝突安全性の向上と、車内スペースの拡大に充てられ、居住性と荷室容積は向上した。
インテリアでは、(インパネシフト)とウオークスルーは受け継がれたが、ドライバーの前の小ぶりなメーターナセルには、タコメーターとスピードメーターは無く、ダッシュボード中央に取り付けられた、液晶モニターとのコンビパネルにフローティングアーチのひさしがかぶせられた、独特の構成へ変更された。一目でユーロバンと分かる特徴的なダッシュボードと、ミニバンでは重要となる、どの席からもよく見えるセンターメーターは、洗練と機能性を兼ね備えた優れたデザインである。
座席配置と定員は、2・3・3の8人乗り、2・3・2の7人乗り、2・2・2の6人乗りの3種類で、上級グレードになるほど座席数は少なくなる傾向がある。
二代目ユーロバンは2010年11月に製造を終了した。
車名
- シトロエン・C8
- 初代ではシトロエン版は「エバシオン/シナジー」を名乗っていたが、新しいCxシステム導入に合わせ、「C8」へと変更された。
- ランチア・フェドラ(Phedra)
- プジョー・807
- 「806」は、伝統の"x0x"システムに従い、「807」となった。
V6エンジンの追加設定に伴い、プジョーは2003年、ジュネーブショーで「807 Grand Toursime」を発表した。
エンジンバリエーション
二代目ユーロバンのエンジンは「PSA EW/DWエンジン」を搭載し、トランスミッションは6速・5速マニュアルか4速オートマチックを選べる。
エンジン | 排気量 | パワー | トルク | 備考 |
---|---|---|---|---|
直4 EW10 DOHC 16バルブ | 2.0 L (1998 cc/121 in³) | 132 PS (130 hp/97 kW) | 180 N·m (133 ft·lbf) | |
直4 EW12 DOHC 16バルブ | 2.2 L (2230 cc/136 in³) | 158 PS (156 hp/116 kW) | 217 N·m (160 ft·lbf) | 「フィアット・ウリッセ」、「ランチア・フェドラ」には搭載されなかった。 |
V6 ES9 DOHC 24バルブ | 2.9 L (2946 cc/179 in³) | 204 PS (201 hp/150 kW) | 285 N·m (210 ft·lbf) | 2003年にラインナップに加えられ、トランスミッションは4速オートマティックのみ |
直4 DW10 SOHC 8バルブ (コモンレール式)ターボディーゼル | 2.0 L (1997 cc/121 in³) | 109 PS (108 hp/80 kW) | 250 N·m (184 ft·lbf) | |
直4 DW12 DOHC 16バルブ コモンレール式ターボディーゼル | 2.2 L (2179 cc/132 in³) | 128 PS (126 hp/94 kW) | 314 N·m (232 ft·lbf) | 2005年に6速マニュアルと変わったトランスミッションのみ搭載されている。 |
プジョー・807
シトロエン・C8
ランチア・フェドラ
2代目 フィアット・ウリッセ
03モデル 2.0 マルチジェット エモーション特徴的なメーターパネル
(フィアット・ウリッセ)
関連項目
- en: Sevel
- PSA・プジョーシトロエン
- シトロエン
- プジョー
- フィアット
- ランチア
- ミニバン
- MPV
- バッジエンジニアリング
外部リンク
- シトロエン C8 オフィシャルサイト(仏語)
- フィアット ウリッセ オフィシャルサイト(英語)
- ランチア フェドラ オフィシャルサイト(英語)
- プジョー 807 オフィシャルサイト(英語)
- ユーロバンポータル(英語)
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タイプ | 1980年代 | 1990年代 | 2000年代 | 2010年代 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | ||
ハッチバック | 2CV | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
LN / LNA | AX | C1 I | C1 II | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ヴィザ | サクソ | C2 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
C3 I | C3 II | C3 III | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
DS3 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(C4エアクロス) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
GSA | ZX | クサラ | C4 I | C4 II | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
オープン | DS3カブリオ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
セダン | BX | エグザンティア | C5 I | C5 II | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
CX | XM | C6 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ミニバン | C15 | ベルランゴ | ベルランゴ II | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
C3ピカソ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
クサラピカソ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
C4ピカソ I | C4ピカソ II | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
エバシオン | C8 I | C8 II | C8 III | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
オフローダー | メアリ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
クロスオーバーSUV | Cクロッサー | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
DS4 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
DS5 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ハイブリッドカー | C-ZERO | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
EV | Eメアリ |
脚注
- ^ 商用車には、許容荷重の大きな専用シャシを持つ、シトロエン・ジャンピー / ディスパッチ(Jumpy)、フィアット・スクード(Scudo)、プジョー・エキスパート(Expert)が用意される