ハルニレ(春楡、学名:Ulmus davidiana var. japonica)は、日本産ニレ科の落葉高木。別名ニレ[1][4]。通称として、英語名に由来するエルムも使われている。
名前と分類
漢字表記は春楡、これは春に花が咲くことからとされる。もっとも、ニレ属の花は世界中で3種類の例外を除いて春に花を咲かせる[注 1]。英名はJapanese elm, 中国名は春楡、日本楡、基変種は黒楡などと呼ばれる。一般にニレと呼ばれるのは、このハルニレのことである[4]。
ニレ属は身近で関心が高く、また地域差も大きいためか、非常にシノニム(学名の異名)が多い種類が多い。本種も同じで、学名は長らくUlmus japonicaとされてきた。種小名japonicaは「日本の」の意味である。
分布
中国東北部から陝西省、安徽省にかけてと朝鮮半島、および日本に分布[4]。日本では北海道、本州、四国、九州など各地に産するが[4]、特に北方で多い。これに対し、アキニレは南方系で西日本に分布する。
基変種のUlmus davidana var. davidanaはこの分布域中の特に西部にあたる河北省から陝西省にかけて分布し、残りはvar. japonicaとされる。
形態
落葉広葉樹の高木で[4]、樹高は30 - 35メートル[4]、直径は1メートルに達し、日本産のニレ属(Ulmus)樹木としては最大である。樹形は下枝が少なく比較的太い位置から幹を分岐させ、同科のケヤキ(Zelkova serrata、ニレ科ケヤキ属)によく似る[5][6]。
樹皮は灰色っぽい褐色、ケヤキやアキニレ(U. parvifolia)の樹皮が平滑なのに対し、本種は縦に深く裂ける。枝は左右にジグザグに伸び(仮軸分枝)、若枝には軟毛が生える。
葉は表面に微毛が生え、ザラザラした触り心地、葉縁には明確な二重鋸歯を持ち[4]、葉脈は1本の明確な主脈から側脈が左右に分岐する(羽状脈)。オヒョウに比べると葉柄も長く目立つ。
開花時期は4 - 5月[4]。葉に先立って黄緑色の小さな花を密につける[4]。果実は五角形に近い、大陸産の基変種は果実に毛を持つのに対し、本種は無毛だという。
生態
北海道ではハリギリやカエデなどと混生することが多いという[6]。山地に自生するが、植栽も多い[4]。
ハルニレの種子の寿命は短い。散布直後はほぼすべて発芽するものの、1年保存したものは発芽しないという[7]。このため土壌中に埋土種子を大量に蓄えたシードバンクを形成することはないと見られている。
利用
材は木目がハッキリしており、器具に用いられる[4]。樹皮の繊維から縄を作る。樹皮を叩いて潰したものを楡麺と言い、瓦の接着剤になる。根からも接着剤が採れる。欧米で蔓延して現地のニレ類に多大な被害を与えているニレ立枯病に対しては、アキニレほどではないが抵抗性を示す。このため、欧米では現地産ニレに代わって本種を植栽したり、現地産の感受性ニレ類と交配させて抵抗性の雑種を生み出す際の親として、本種を利用することもある。
アイヌはハルニレをチキサニ(われら擦る木)と呼び、ハルニレ材を摩擦させる発火法で火を起こしていた。アイヌの伝承によれば、天地創造の折、地上に最初に生えた木はハルニレであり、そのハルニレにカンナカムイ(雷神)が恋をして(落雷)起った炎から、アイヌの英雄神・オキクルミが生まれたという。
脚注
注釈
出典
- ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ulmus davidiana Planch. var. japonica (Rehder) Nakai”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年8月29日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ulmus propinqua Koidz.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年8月29日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ulmus japonica (Rehder) Sarg.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年8月29日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 202.
- ^ 北村四郎・村田源(1980)原色日本植物図鑑 木本編2. 保育社. 大阪
- ^ a b 宮部金吾・工藤祐舜・原田忠助(1988)普及版北海道主要樹木図譜. 北海道大学図書刊行会.札幌.
- ^ 水井憲雄 (1993) 林床に5年間埋めた広葉樹種子の発芽力(会員研究発表論文). 日本林学会北海道支部論文集41, p.187-189. doi:10.24494/jfshb.41.0_187
参考文献
関連項目
外部リンク
- やますそものがたり:ハルニレ