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公営住宅

公営住宅(こうえいじゅうたく)は、公的機関が直接供給・管理している住宅[2]。なお、所有関係を問わず建設や維持管理に公的助成を受け、低家賃で供給するものは社会住宅という[3]イギリスアメリカには公営住宅制度があるが、フランスドイツでは住宅の供給は経済活動とされ行政機関が直接行うものではないとされており、地方自治体による公営住宅は歴史的に存在しない(社会住宅制度は存在する)[2]

横浜ドリームハイツ
神奈川県横浜市戸塚区
横浜ドリームランドの跡地に建設された。横浜市が運営する市ドリームハイツと、神奈川県住宅供給公社が運営する県ドリームハイツが隣接する。この建物は市ドリームハイツ。
高崎市営中居住宅
群馬県高崎市中居町)[1]
愛知県営戸田北住宅
愛知県名古屋市中川区戸田明正
市営住宅の看板
名古屋市営中あじま
(愛知県名古屋市北区

日本の公営住宅

日本では、公営住宅法昭和26年法律193号)によって定められている。地方自治体の中には「都民住宅[4]」「市民住宅[5]」などの名で中堅所得者層を対象とした賃貸住宅を運営しているものもあるが、これらは公営住宅とは別のものである。

歴史

日本では、大正中期から昭和初期にかけて公営住宅に関する実験的な取り組みが行われるようになった[6]

1922年(大正11年)9月21日からは大阪府住宅改造博覧会が開催された。

1923年(大正12年)に発生した関東大震災を受け、たとえば現在の港区立芝小学校などにバラックが建てられ[7]、翌1924年(大正13年)には震災義捐金で財団法人同潤会が設立されると、仮設住宅に続き鉄筋コンクリート造アパート・同潤会アパートの建設が始まり、合計16カ所に完成した[8]。同潤会は1941年(昭和16年)の太平洋戦争勃発に伴い、主に軍需産業の労働者への住宅供給を行う住宅営団へと発展的に解消した[9]

1927年(昭和2年)には(不良住宅地区改良法)が施行され、住宅地区改良事業が進められ改良住宅が建設された。これは戦後の1960年(昭和35年)5月17日に制定された住宅地区改良法に引き継がれた。

1945年(昭和20年)に終戦を迎えた後、主要都市は空襲により住宅の絶対数が不足しており、主要な戦災都市に越冬のための(簡易住宅)30万戸を国庫補助により建設することが決定された[10]1949年(昭和24年)頃になると資材不足は緩和し、応急的な住宅政策から恒久的な住宅政策へと移った[11]1950年(昭和25年)には住宅金融公庫が発足した。

1951年(昭和26年)6月4日には公営住宅法が制定[12]、同年7月1日に施行された[12]。同法に基づき、公営住宅の整備が本格的に始まった[13]。深刻な住宅不足を解決すべく、戦後復興の一環として国民に住宅を大量供給する目的で開始された[13]。当初の公営住宅の入居者は低所得者層ではなく、家賃支払能力のある所得階層を対象としており[13]、公営住宅にはセーフティーネットとしての機能は持たされていなかった[13]

その後、1955年(昭和30年)に日本住宅公団(現:都市再生機構)が設立。高度経済成長によって増加したサラリーマン世帯を主とする勤労者階層に対する住宅供給は公団住宅が担うこととなり、公営住宅は低所得者層への社会福祉の一環[12]として位置づけられるようになっていった。

平成初期の1990年代半ば以降は、住宅関連に対する政府による公的支援は大幅に削減された。住宅政策・都市計画を専門とする(平山洋介)によれば、これにより「住宅と住宅ローンの大半」が市場に委ねられることとなった[14]2005年(平成17年)には公営住宅の戸数が減少に転じた[14]。平山はまた、諸外国と比較した場合の日本の住宅政策の特殊性として、公的賃貸住宅がわずかであることと、公的家賃補助が制度として存在していないことを指摘している。

2003年に公営施設(都道府県市区町村営)の業務を民間に委託する「公設民営」改革の一環による、指定管理者制度が法律化されたことにより、主に都道府県営か、政令指定都市中核市特別区営の公営住宅を中心に、指定管理者による民間委託が実施されている事例も増えている[15]

名称

殆どの名称が「~住宅」または「~団地」という名称だが、東京都営住宅や広島市営住宅は「~アパート[* 1]名古屋市営住宅は「~荘」という名称である。

問題点

また、阪神・淡路大震災東日本大震災以後の大規模震災発生後、築40年以上経過したものに関しては、建て替え、ないしは耐震補強工事を進めつつ、バリアフリー推進の流れから、エレベータースロープの設置が進められているが、エレベーターに関しては、建築基準法により基準として高さ31 m以上の建物はエレベーターの設置が必須[16]とされ、それ以下は原則的にその設置義務がないことなどから、エレベーター自体が設置されていない住宅も多いため、近年は従来からの住宅に外付けする形で、1階層につき2部屋(実際は中間階に設置するため、2階層・4部屋)を1つで共有する階段室型、または片廊下増設型[17]のどちらかで設置する計画が進んでいる。

階段室型の場合は、階段がそのまま残るため、車いす用スロープの設置工事をしない限り、車いすでの直接移動が困難ではあるが、既存の階段の踊り場の壁を撤去し、工事期間中も既存の住居で住み続けながら外付け工事をすることができる[17]。一方片廊下増設型の場合はバリアフリーの点では優れているが、一時的に住居を閉鎖し、他の部屋・住居への仮住まいをしなければならないなどのデメリットも多い[17]

またコストパフォーマンスという点では、設置費用・メンテナンス費用・数十年後の改修に伴う撤去費用などを総合的に踏まえて考えた際、長崎県が5階建て・1棟につき30室・20年間使用[* 2]を想定して試算したところ、階段室型が約4800万円であるのに対し、片廊下増設型になると、工事費に加え、対象住居の仮住まい費用などが掛かるなどの問題点もあり、約7600万円とかかってしまうため、前者が低コストでの工事がしやすい[17]が、自治体の財政負担が大きく、入居者に対する共益費の負担が増加することなどもあり、山形県などのように設置予定めどがついていない例もある[18]

公営住宅の家賃滞納も多く、全国の公営住宅における1か月以上の家賃滞納は2015年度末時点約21万世帯にものぼる[19]。家賃滞納者の滞納事情や生活状況の把握や、福祉的な支援を必要とする家賃滞納者に対する住宅部局と福祉部局との連携した対応が不十分であることが指摘されている[19]

ギャラリー

応募方法

[20]

  1. 応募は、家族向けの場合は夫婦を主体とした家族である、18歳以上の世帯主(高校生を除く)の者が対象で、1世帯につき1件に限る。
  2. 応募のさいに、資格審査に必要とされる書類(税の滞納がないことを証明する納税証明書、所得証明、住民票、印鑑証明書、戸籍謄本など)の提出は不要であるが、審査基準に満たない場合は失格となる。
  3. ドメスティックバイオレンスの被害者を除く、夫婦の別居目的での応募は無効となる。
  4. 入居時の住宅使用料は募集住宅一覧の掲載使用料額に基づく。
  5. 入居後は居住者が共同使用する部分に関しては、住宅使用料とは別に共益費を負担してもらう。
  6. 浴室の設置されていない住居(浴槽・給湯器など)は、入居者の自己負担で設置する。
  7. 持ち家を保有している者の応募は無効となるが、資格審査日までに申請者本人、または同居人親族以外に持ち家を売却の予定される場合には応募をすることができる場合がある。
  8. 通常は資格審査合格後の入居申込後に補修や空き部屋のあっせんを行うため、数ヶ月程度であるが、部屋の補修や空き状況によっては1年以上かかることもある。
  9. 抽せんは公開抽せんとなっているが、2020年以降は新型コロナウイルスの感染防止策として、非公開抽せんとなっている。抽せん結果は書面にて通知される。
  10. 当せん者は応募者、同居者、連帯保証人が暴力団員、暴力団構成員であるか否かの確認のため、都道府県警本部または、所轄の警察署に照会される。
  11. 外国籍の場合は、在留資格が1年以上残っていることに加え、在留カードまたは外国人登録証を保有していることが必要である。
募集期間は原則として、一定期間に区切って募集する「総合募集」で、応募者多数の場合抽選となる[21]が、「総合募集」で定数割れが発生した物件[* 3]に関しては先着順で入居できる「随時募集」の物件がある[22]。なお随時募集物件では、単身資格要件(下述)のない60歳未満でも原則10年以内の期限付きで入居できる物件もある。

入居条件

以下は大阪市の市営住宅の例を抜粋して記する。次の各号のすべてに該当する者が入居できる。[20]

  1. 公営住宅の所在地に居住(住民票登記)している者。但し、元々は都道府県が運営していた公営住宅が所在地の市区町村に土地所有者が移管した場合は、場所によりこれまでその所在地の市区町村以外の都道府県民が申し込めた過去の経緯を踏まえ、同一都道府県の他市区町村在住者用の入居枠を設けている場合がある[23]
  2. 現在の同居人、ないしは同居しようとする親族(内縁・婚約者も含む=以下同文)、ないしは同性愛者などで、自治体のファミリーシップ制度に基づいたパートナーがいる者(高齢者、身体・精神障がい者や生活保護受給者など、一定の要件を満たす者は単身でも住居可能な場合もある)
  3. 入居者全員の収入合計が国、ないしは自治体の定める基準範囲内、かつ使用料の支払い能力がある者
  4. 住宅困窮者
  5. 申請者、または同居人、並びに同居しようとする親族、ないしは同性愛者などで自治体のファミリーシップ制度に基づいたパートナーが、公営住宅に係る住宅使用料未納、ないしは駐車場使用料、公営住宅や共同施設などに係る損害賠償金の支払いがある方でないこと
  6. 申請者、または同居人、並びに同居しようとする親族、ないしは同性愛者などで自治体のファミリーシップ制度に基づいたパートナーが、自治体からの明け渡し請求(ただし家賃滞納による立ち退きなどを除く)を受けて、公営受託を明け渡し、かつその明け渡し日の翌日を起算日として5年を経過していない方でないこと
  7. 申請者、または同居人、並びに同居しようとする親族、ないしは同性愛者などで自治体のファミリーシップ制度に基づいたパートナーが、暴力団関係者(暴力団員による不当な行為の防止に関する法律「平成3年法律第77号・第2条・第6号」に基づく)や(暴力団を離脱してから5年が経過しない者も含む)でないこと
  8. なお、車いす常用者向けの特別設計住宅居住予定者は、上記とは別の申請資格が必要となる場合もあるので要問合せ。
また「事故住宅物件」(前住居者が住居内で人身事故刑事事件などによる死傷事件が起きたり、事件性のない孤立死などにより発見が遅れた物件などのこと)と表記される物件もあるが、入居までには補改修を行うため、一般の新築・空家などの住宅とは特に変わりがない。但し、事故の原因などの詳細については募集する自治体では回答できないとしている。

単身資格要件

以下の各号のどれか1つに該当し、かつ共通申し込み資格のすべての条件を満たしている者(これを福祉世帯[24]ともいう)。但し、「親子近居向け」、ないしは「車いす常用者世帯向け」とされる物件に申し込みをされる場合は、それらの要件を満たすことも必要である。[25]

  1. 募集期間最終日で満60歳以上である
  2. 身体障がい者手帳1-4級を所持している者
  3. 精神障がい者手帳を所持している者、またはそれと同等程度の障がいを有すると認められた者
  4. 療育手帳を所持している者、または同等程度の障がいを有すると認められた者
  5. 戦傷疾病者手帳を所持し、その障がいの程度が特別項症から第6項症までと第1款症である者
  6. 原子爆弾被爆者に対する擁護に関する法律第11条・第1項の規定に基づき、厚生労働大臣により認定を受けた原爆被害者
  7. 生活保護受給者(中国残留孤児などの支援給付を受けている者も含む)
  8. 日本国外からの引揚者であることを証明する厚生労働省・社会・援護局長発行の永住帰国証明書の交付を受け、日本に引き上げた日から起算して5年未満の者
  9. ハンセン病療養所入所者(1996年3月31日までに厚生労働大臣が定める施設に入所していた者)
  10. ドメスティックバイオレンスの被害者
  11. ひとり親世帯 申し込み時点のいずれかに当たり、また募集締め切り日の時点で18歳未満の扶養している家族を指す[24]
    1. 死別・離婚、ないしは婚姻によらず母・または父となった者
    2. 離婚者で、現に婚姻していない者
    3. 婚姻によらずに母・または父になった18歳以上で、婚姻していない者
  12. 警察への行方不明の捜索願を届け出ており、配偶者の生死が1年以上不明である者
  13. 住民票の登記上1年以上配偶者と離れている(遺棄されている)者
  14. 配偶者の暴力などにより婚姻関係が事実上破綻し、母子世帯に準じる世帯にある状況の者(ただし、この場合は都道府県・政令指定都市・東京都の特別区の地域保健福祉課などでひとり親家庭・ないしはそれに準じる世帯として証明を受けることが条件)
  15. その他に配偶者が国外への赴任などにより扶養を受けられない者や、配偶者が精神・身体障がいにより労働能力を喪失している者、配偶者が1年以上法令により拘束(刑事事件の逮捕による懲役刑=死刑・禁固などの服役)を受け、長期にわたり扶養が受けられない者
    ※ただし、18歳未満の児童・生徒がおり、年収103万円以上は扶養者とはならない

障害者等の家賃減免制度

地方自治体によっては、障害者等に対し家賃の特別減免制度を設けているところもある。例えば東京都の場合、精神障害者保健福祉手帳1級及び2級を持っている精神障害者に対し都営住宅の特別減免制度がある[26]

その他注意点

[20]

  1. 現在公営住宅に入居しており、住宅の狭小などの困窮理由で、新たに応募を行い当せんされた場合の部屋の斡旋は原則として、現居住住宅の使用料の完納・返還を義務付けることを条件とする。
  2. 介助犬盲導犬聴導犬などの補助犬を除き、ペットとしてのイヌネコなどの飼育は禁止となっている
  3. 応募者、同居者が暴力団員、暴力団構成員(暴力団を離脱してから5年が経過しない者も含む) である場合や、住民税国民健康保険料(税)滞納者の応募は無効となる。
  4. 入居時は、家賃の3か月分相当を敷金として納付する。退去時にこの敷金は現状の回復に要する費用分を控除(差し引き)したうえで残額のある場合は返還する。また畳・ふすま・クロスなどの経年劣化の費用は使用料に含まれないため、別途居住者で負担してもらう。
  5. 資格審査のさいに連帯保証人として、1名または2名必要とし、同一都道府県内、同一市町村内に居住または勤務する、高校生を除く18歳以上の親族で日本国籍を有する者(破産者で復権を得ない者、被保佐人を含む成年被後見人、暴力団員、暴力団構成員、外国籍ではない者)が必要となり、連帯保証人を選任できる者がいない場合は資格審査で失格となる。
  6. 自治体によっては無職無収入の人や所得が仕送りや児童扶養手当のみの人は応募や入居資格の対象外となっているところがある。
  7. 応募者、同居者が外国籍の場合は、資格審査のさいに入居者全員の在留カードまたは外国人登録証が必要となる。
  8. 入居や同居資格をいつわって、不正な手段で入居や同居をした場合は、使用許可の取り消しに加え、詐欺罪として懲役の処分を受ける。
  9. 公営住宅は家賃の安い賃貸住宅ではなく、公営住宅法により、自治会への入会と住宅の保管義務があり、団地内の清掃や草刈り、軽微な修繕などは入居者が責任を持って行う義務が定められている。
  10. 公営住宅は借主が死亡した場合は民間賃貸とは違い、相続人に継承することはできず、自治体が定める一定の猶予期間内に住居から退去しなければならない。

公営住宅からの暴力団員排除

2007年6月、国土交通省から各都道府県知事へ向けて「公営住宅における暴力団排除について」が発出され、暴力団排除に関する基本方針を一本化した[27]。これを受け、各都道府県や市区町村では住宅管理条例に暴力団排除を盛り込むとともに、所管の警察との連携強化を進め、公的な賃貸住宅からの暴力団排除を強く推進した[28]

2010年5月には、兵庫県尼崎市で低所得者を対象とした家賃減免制度を悪用し市営住宅の家賃の支払いを免れたとして、兵庫県警山口組系の暴力団組長を詐欺罪容疑で逮捕した[29]

英米の公営住宅

イギリス

イギリスには各地方に住宅部局があり公営住宅を供給・管理している[2]第一次世界大戦の勃発により労働者住宅の家賃が高騰し、1915年にはグラスゴー家賃ストライキが発生するなど住宅難が社会不安を生じさせていた[30]

1919年には住宅及び都市・農村計画法(アディソン法)が制定され、地方自治体が公共住宅を建設する場合の政府補助金の制度を創設した[30]

1930年には住居法(グリーンウッド法)が制定され、地方自治体がスラムを撤去する場合の補助制度や地方自治体の家賃割引の権限を定めた[31]

1949年には住居法が制定され、公的住宅供給の条件であった労働者階級という要件を撤廃し、すべての国民に公営住宅への入居権を認めた[32]

しかし、公営住宅に代わって(非営利民間組織)である住宅協会(housing association)が供給する社会住宅の数が伸びている[2]。住宅協会は特定の都市の一定地域のみを対象としていることが多く、住宅公庫に登録された団体が約2,300団体ある[2]。住宅協会の組織形態には、協会、会社、信託団体があり、慈善団体が母体のものから元公営住宅部局の職員が主体のものまで幅広い[2]。地方公共団体が供給、管理、運営、払い下げ、住宅協会への移管が進んでいる[33]。また、地方公共団体及びニュータウン開発公社により管理されている公的賃貸住宅の居住者への払い下げとハウジング・アソシエーションヘの移管が急速に進んでいる[34]。小規模世帯等の増加に対応し、住宅の供給を増やすことが必要とされ、賃貸住宅に対しても既存の住宅の改善を進めるために、民間の資金を導入して整備を行おうとしている[34]

カウンシル・フラット

英国の地方自治体によって建てられた低所得者向けのカウンシル・フラット(カウンシル・ハウス、カウンシル・エステート)は、割安な家賃で、低所得者、失業者シングルマザー生活保護対象者などが優先的に入居できる仕組みである[35]。もともとカウンシル・フラットは、1875年の公衆衛生法で定められた地方都市のスラム解体政策の一部であり、当初の目的は労働者階級の暮らしを向上させ、同時にスラムをなくすことで近隣の土地の価値を上げることだった[35]。その後、第二次世界大戦による住居の破壊、急激なインフレーション、兵士の復員による新婚世帯の増加などが原因で、深刻な住宅不足が起きる。これを受けた政府は1946年、住宅法を制定し公営住宅の建設を積極的に推進し、1951年までに英国全土で約90万戸のカウンシル・フラットが建設された[35]。やがて1960年代に入ると、再び都市部のスラム解体政策に重点が置かれるほか、核家族化に伴う若年層・高齢者用住宅の建設も開始し、住居の大量供給のためカウンシル・フラットの高層化も進んだ[35]

マーガレット・サッチャー首相率いる保守党政権が1980年の住宅法によって導入したのが、Right to Buyという制度で公営住宅の住人が現在居住する物件を市価より安い値段(約33~50%)で購入できる権利を与えるもので、この制度によって英国の持ち家率は飛躍的に上昇し、現在も改定されながら続いている[35]。これにより、公営住宅が次々と私有化・民営化され、順番待ちをする入居希望者は、膨大な数にのぼった[35]。その後1980年代にかけて建設され、それ以降カウンシル・フラットの建設は大幅に減少しているといわれている[35]

新たな公営住宅建設には政府からの資金援助が望めず、借入金にも厳しい制限があることから、自治体は従来とは異なる方法で公営住宅建設の費用を捻出する必要があった[35]。そこで、地方自治体は所管の住宅建設会社を設立し、民間の土地開発業者のように個人向け住宅を建設・販売し、その収入を公営住宅建設費に充てるというスタイルを編み出した[35]。英国の地方自治体の3分の1以上が独自の住宅建設会社を設立し、1980年の住宅法によって力を奪われていた地方自治体は、約40年ぶりに公営住宅を建設し始めた[35]

アメリカ

アメリカでは地方住宅庁(local housing authority)が公営住宅を供給・管理している[2]。家賃負担は応能家賃制度となっている。

アメリカでも公営住宅に代わって非営利民間組織であるCDC(community development corporation)が供給する社会住宅の数が伸びている[2]。アメリカには2000以上のCDCがあるが、組織の分類が困難なほど多様で、賃貸住宅が一般的だが、持ち家を中心に供給している組織もあり、商業開発や啓蒙活動等も行っている組織もある[2]

低所得者への住宅政策は1937年から始まり、不良住宅の解消と住宅費補助を二大目標として、自治体が建設する公営住宅の所要資金の元利を40年にわたって償還するというものであった[36]。公営住宅は、必ずしも対象を貧困層に限定してはいなかったが、民間住宅業者を圧迫しないという条件があって第2次世界大戦後家賃は市場家賃の80%に抑制され、スラム地区改良や都市再開発に伴う住宅取り壊しを補完するものとされたため、対象者は低所得者、人種的マイノリティに偏った[36]

1968年から、入居者の家賃負担を世帯収入の25%に限定するとした改正は、入居者の貧困世帯化を反映するものであると同時に、促進するものであった[36]。公営住宅は貧困世帯とマイノリテイのゲットー化をもたらすイメージが、公営住宅団地の造成を困難にした[36]。既存の公営住宅団地のなかには、ゴーストタウン化するものもあった[36]

1993年のアメリカの公営住宅132万戸とされていたが、既に新規供給は停止されており、取り壊しや払い下げにより公営住宅は減少している[2]

2018年7月31日に住宅都市開発省(HUD)は、公営住宅敷地内と建物から25フィート以内の喫煙を禁止した[37]。この喫煙禁止は、政府住宅機関の医療費や修繕費を一年間に153(ミリオンドル)(1億5300万ドル)節約できると推定されている[37]。屋内とビルの近くでの喫煙を排除することは、受動喫煙から人々を守る唯一の方法であるとし、また、住民や従業員を受動喫煙してしまうことから守ることに加えて、禁煙政策は、禁煙をしたい人と禁煙を試みている人の禁煙行動を促し健康な環境を作ることを目的としている[37]

独仏の社会住宅

ドイツ

ドイツではsozialer Wohnungbau(社会福祉的な住宅建設)と呼ばれるが、名前が長いのでSozialwohnung(社会福祉住宅)と呼ばれることが多い[38]。社会住宅が住宅政策に大きな役割を果たしており、低利の公的資金を投入して建設され、低利資金が未返済の状態で、借家人、家賃水準および居住面積が一定の条件を満たすものをいう[3]。ドイツでは公益住宅企業が社会住宅(社会賃貸住宅)の約3分の2を管理しており、残りは個人家主や民間企業が管理している[2]

1990年までは税制優遇を受けることのできる公益住宅企業が存在し、社会住宅の主たる担い手となっていたが、住宅の公益に関する法律が廃止されて、公益住宅企業の税制上の優遇策は廃止された[34]

2002年1月には、50年間にわたり住宅建設促進の基本法であった第2次住宅建設法が廃止され、代わって社会的居住空間促進法が制定された。新法では、住宅市場を活用し、自力では住宅の手当できない世帯(低所得者、多子世帯、高齢者等)に目的を特定して住宅政策を実施することとなった[34]

第一次世界大戦後、国は労働者用のアパートの建築に取り組み、ナチスの時代になるとさらにこれに拍車がかけられた[38]。第二次世界大戦後、「国は社会の広い層に住む場所を提供すべし。」と法律で定めたことがきっかけになり、国が公営住宅を建てた[38]。これが低所得層の大きな支えになっていたが、「ただでもらった公営住宅を管理するよりも、目先の利益に目が眩んで、低所得層の住居を投資家に売却してしまった。民間企業のノウハウを利用した方が効率のいい運営ができる。」と州政府はこれを正当化し、1988年公営住宅を州の管轄に移行した[38]。国は社会福祉住宅を16の州に払い下げたが、投資家が興味を示すのは利益のみで買い取った社会福祉住宅は大規模に改築されて、上層中間層から裕福層へのアパートと変わってしまった[38]

社会福祉住宅の代わりに、子供がいる家族や個人が収入不足のために適切な住居に住むことができない場合、州が補助金を出す制度としてWohngeld(家賃補助金)が実施された[38]。ドイツで就職して税金を納めていれば、需給資格が生まれる[38]。しかし、郊外から都市部にドイツ人が流れ込みを始めると住宅不足が生じ、家賃が上昇して、これまでは家賃補助金がなくても生活できた人が、補助金を申請するようになった[38]。都市部で払えるアパートを借りること自体が困難になり、家賃補助金も何の役にも立たなくなった[38]

市民の不満の高まり、州選挙での敗北が原因となって、地方自治体は2016年頃から公営住宅の建築に力を入れている[38]。しかし新しく建設される公営住宅よりも、公営住宅のステータスを失う住宅の方が多く、この状況が好転するのは早くても2020年頃になると予測される[38]

フランス

フランスには適正家賃住宅という社会住宅がある[3]。HLM(適正家賃住宅)組織が社会住宅の9割を管理しており、残りは国などから出資を受けた経済混合会社(SEM)が管理している[2]。HLM組織はフランス国内に900以上あり、HLM公社・建設整備公社、HLM株式会社、HLM建設協同組合がある[2]。APL(個別住宅援助)やALF(家族住宅手当)の受給者要件を満たさない者に対するALS(社会住宅手当)もあり、適正家賃住宅の居住者に対して所得、世帯構成、住宅の評価額、地域、家賃等に応じて支給される[3]

オイルショック以降、移民、低所得者などの社会的弱者が集中するようになり、住宅の劣化に加え、失業、バンダリズム、軽犯罪などの社会問題を抱えてきた。1977年以降、政府は、都市の困窮防止政策として、住宅団地の改修や建替え等の物理的対策を中心に、雇用・教育対策などの社会的対策についても取り組んできたが、根本的な解決には至らず、社会問題が深刻化し顕在化していくなか、一定の社会階層が限られた地区に集中することが、社会問題の要因の1つであるとの認識が一般化される[39]

1991年7月13日の都市基本法は、ソーシャルミックスの概念を初めて取り上げ、都市圏内で均衡ある社会住宅の配置を目的に、社会住宅の少ない市町村にその建設を促す取組みを定めた[39]2000年12月13日の都市の連帯と再生に関する法律は、それを強化するために、一定の都市圏に位置する一定規模以上の市町村に全住宅戸数のうち20%を社会住宅とすることを義務付けた[39]。このように、社会住宅の供給と同時にソーシャル・ミックスを達成することが、フランスの都市住宅政策の課題として求められていた。

2003年にボルロー法が制定され、主要目的の1つとして、困窮地区の居住と住環境を持続的に再生することが掲げられた[39]。その手段として、市街地改良全国プログラム(Programme National de Rénovation Urbaine=PNRU)が制定され、その実施主体として全国市街地改良機構(Agence Nationale pour la rénovation urbaine=ANRU)の創設が規定された[39]。これにより、2004年から、パリ都市圏を中心にフランス全国でPNRUが実施されている[39]

脚注

[脚注の使い方]

注釈

  1. ^ 例として東京都営住宅は白鬚東アパート、広島市営住宅は基町高層アパートなど。
  2. ^ 築40年の住宅の耐震補強などの改修を行い、さらに20年程度の寿命が増えて60年程度使用したものと見なして考える
  3. ^ その他、定期募集により応募倍率が低く、なおかつ入居予定者が申請時の失格、ないしは入居辞退により入居決定に至らなかった物件、事故物件で前入居者が死亡したことにより貸し付けを停止していた住宅も含む。但し、定期募集による同区分かそれに近い地域、またはそれらの建築年数や規模が同程度かそれに準じる、応募倍率の高い物件は除く。

出典

  1. ^ 中居(271)市営住宅 - 市営住宅一覧表 市営住宅のご案内、高崎市
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m 海老塚良吉「英米独仏における社会住宅の供給組織の動向」『都市住宅学』第1998巻第23号、都市住宅学会、1998年、104-107頁、doi:10.11531/uhs1993.1998.23_104、ISSN 1341-8157、NAID 130002589550、2022年2月23日閲覧 
  3. ^ a b c d 増井英紀. “欧州各国の住宅手当制度”. 2021年11月3日閲覧。
  4. ^ 都民住宅 東京都住宅供給公社
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参考文献

  • 荻田武、Lim, Bon『公営住宅・居住者運動の歴史と展望』三村浩史 (監修)、法律文化社、1989年。(全国書誌番号):(90012013)。 
  • 松本暢子「大規模都営住宅団地における居住者の世帯構成の変化に関する考察」『社会情報学研究』第19号、大妻女子大学、2010年、65-75頁、ISSN 13417843、NAID 110008426686、2021年1月31日閲覧 
  • “法律第百九十三号(昭二六・六・四)公営住宅法”. 衆議院. 2021年1月31日閲覧。
  • 平山洋介 (2021年10月8日). “コロナ後の都市・住宅政策 (下) 公的家賃補助の整備急げ”. 日本経済新聞. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD2274W0S1A920C2000000/ 2022年2月14日閲覧。 

関連文献

  • 谷聖美「自治体住宅政策の史的展開--神戸市の場合を中心に」『岡山大学法学会雑誌』第48巻第3-4号、岡山大学法学会、1999年3月、419-471頁、ISSN 03863050、NAID 110000130588。 
  • 大阪の集合住宅の歴史をひもとく
  • 宮内貴久「高度経済成長期における公営住宅の建設 : 福岡市営弥永団地を中心に (高度経済成長と地域社会の変化)」『国立歴史民俗博物館研究報告』第207巻、国立歴史民俗博物館、2018年2月、183-221頁、ISSN 0286-7400、NAID 120006595804。 
  • 河野正輝『住居の権利 : ひとり暮し裁判の証言から』3号、ドメス出版〈住宅政策研究〉、1981年。(全国書誌番号):(81029229)。 
  • 小沼正、仲村優一一番ヶ瀬康子阿部志郎、佐藤進、江口英一高島進、篭山京 ほか『社会福祉の課題と展望 : 実践と政策とのかかわり』川島書店、1982年。(全国書誌番号):(83018966)。 
  • 建設省住宅局『Q&A新しい公営住宅法』商事法務研究会、1996年。(全国書誌番号):(97046473)。 
  • 公営住宅制度研究会 (編)『地域住宅特別措置法・改正公営住宅法等の解説』ぎょうせい、2006年。(全国書誌番号):(21063164)。 
  • 住本靖、井浦義典、喜多功彦、松平健輔『逐条解説公営住宅法』ぎょうせい、2008年。(全国書誌番号):(21485685)。 
    • 第2次改訂版 (2018年03月20日発行)ISBN (9784324104576)
  • 松久三四彦、後藤巻則金山直樹水野謙池田雅則新堂明子、大島梨沙『社会の変容と民法の課題 : 瀬川信久先生・吉田克己先生古稀記念論文集』成文堂、2018年。(全国書誌番号):(23039985)。 

関連項目

外部リンク

  • 公営住宅について - 国土交通省住宅局住宅総合整備課
  • 公営住宅制度の概要について - - 国土交通省住宅局
  • 公営住宅法 - 衆議院
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