ハスカップ(和名:クロミノウグイスカグラ〔黒実鶯神楽〕、学名:Lonicera caerulea var. emphyllocalyx)は、スイカズラ科スイカズラ属の落葉低木。
分類について
一般にハスカップとされる植物として、クロミノウグイスカグラのほか、その母種とされる高山性のケヨノミ(学名:Lonicera caerulea var. edulis)がある[1][2][3]。このほか、近縁でクロミノウグイスカグラ同様ケヨノミを母種とするマルバヨノミ(学名:Lonicera caerulea var. venulosa)を含める場合がある[4][5]。ただし、これらは後述するように変異も多く識別が困難であり[6]、分類する必要については見解が分かれている[6][3][4][5][注釈 1]。
以下、本項にて「ハスカップ」は特記ない限り、これらを含む青色の果実をつけるスイカズラ属、 Lonicera caerulea のうち、食用となる種全体を指すこととする。
特徴
樹高は1m前後[1][3]、排水のよいところでは1.5 - 2 m 前後になる[8]。枝は褐色で、古くなると表皮が剥離する[3]。葉は、長さ3-8cm、幅1.5-3.0cmの楕円形で対生する[3][6]。葉縁に鋸歯はなく全縁である。ケヨノミについては葉や若枝には毛が密生することがあり、クロミノウグイスカグラとの識別点とすることがあるが、クロミノウグイスカグラにおいても変異によりあるものとないものがある[1]。
5 - 7月頃、1年枝の脇芽に花柄を出し、漏斗円筒状で先端が5裂したクリーム色の花を、葉腋に2つずつ下向きにつける[8][3][7]。この2つの花は根元で子房が小苞の膜で覆われ合着している[7]。
果実は液果であり、前述のように合着して複合果となっているため一見すると花2つにつき1つが実るように見える[7]。開花から40 - 50日後に成熟して青黒色になり、果皮の表面にブルームを生じる[8][1]。大きさは野生種の場合12 - 15 mm 程度で、形状は個体により変異が多く、円形、長円形、円筒形、紡錘形、つりがね形、銚子形などがある[9]。食用となり、生食も可能であるが、一般に酸度が高いこと[2]、苦みのある場合があること[10]、やわらかく日持ち性が劣ることもあり[10]、加工品とされることが多い(後述)。その他、果実の色素を草木染めの染料として用いることもある[2]。
名称について
アイヌ語でこの植物の果実を指す呼び名、ハㇱカㇷ゚(haskap)に由来する。原義は「枝条・の上・にたくさん〔なる〕・もの」を意味する「ハㇱカオㇷ゚(has-ka-o-p)」とされている[11]。これが北海道に入植した和人によって、いつしか方言として取り入れられ定着したと考えられている[12][11]。
標準和名のクロミノウグイスカグラは、近縁のウグイスカグラにちなみ「黒い実のウグイスカグラ」という意である[7]。
学名の変種名 emphyllocalyx は「萼が葉状になる」という意である[7]。
日本における異名
アイヌ語ではエヌミタンネ(enumitanne)という呼び名もある[11]。これはハスカップのなかでも細長いタイプの果実に対しての呼称で、「頭・の粒・長い」を意味する「エヌミタンネ(e-numi-tanne)」が原義とされている[11]。この呼び名も北海道に入植した和人の方言に取り入れられ、エノミダニやゆのみのように呼ばれる[11][13]。このほか、やちぐみという呼び名も方言として存在する[9]。
英語圏での呼称
従来ハスカップが自生していなかったアメリカやカナダに園芸品種としてハスカップを含む Lonicera caerulea が導入されるにあたって、日本での通称であるハスカップ(Haskap[14][13])がそのまま用いられるケースのほか、ブルーハニーサックル(Blue Honeysuckle[13])、ハニーベリー(Honeyberry[13])といった呼称が用いられる。前者は「青いスイカズラ」の意で、ロシア語からの直訳とされている。一方後者は、アメリカオレゴン州の種苗会社がロシア産ハスカップの苗木を自社で販売する際に作った新語であるとされている[13]。
分布
厚い火山灰の土層に有機物が堆積し、極めて水はけがよく、2 - 3 m 内外の樹木の中で日あたりが良く、風当たりが少ない場所に自生する[8]。
日本では、北海道を中心に、本州でも中部以北の高山に自生し[10][12][3]、北海道では檜山・留萌を除く各地に自生が確認されるが、光条件などで他植物との競合に弱いと考えられ、連続的な分布となっていない[10]。ケヨノミが大雪山などの高山帯、クロミノウグイスカグラが釧路湿原などの平地の湿原に自生するが、両者が混在する地域もある[1][10]。特に胆振地方の勇払原野を中心とした地域は、かつて自生数が著しく多かったことで知られるが[注釈 2]、後年の開発により急速に自生地は縮小した(後述)[16]。
本州以南では岩手県の早池峰山[3]、栃木県の戦場ヶ原[17]など、標高の高い地域に自生が見られる。
世界的には、シベリア東部、モンゴル、中国東北部、朝鮮半島北部、サハリン(樺太)、千島列島、カムチャツカ半島などに分布する[2][3]。
果実の成分
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 233 kJ (56 kcal) |
12.8 g | |
食物繊維 | 2.1 g |
0.6 g | |
0.7 g | |
ビタミン | |
ビタミンA相当量 | (1%) 11 µg(1%) 130 µg |
チアミン (B1) | (2%) 0.02 mg |
ナイアシン (B3) | (3%) 0.5 mg |
パントテン酸 (B5) | (6%) 0.29 mg |
ビタミンB6 | (3%) 0.04 mg |
葉酸 (B9) | (2%) 7 µg |
ビタミンC | (53%) 44 mg |
ビタミンE | (9%) 1.4 mg |
ミネラル | |
(カリウム) | (4%) 190 mg |
(カルシウム) | (4%) 38 mg |
(マグネシウム) | (3%) 11 mg |
(リン) | (4%) 25 mg |
(鉄分) | (5%) 0.6 mg |
(亜鉛) | (1%) 0.1 mg |
(銅) | (3%) 0.06 mg |
他の成分 | |
水分 | 85.5 g |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 出典: 「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」[18] |
他の果実類に比して、カルシウム、鉄、ビタミンC、α-トコフェロール、食物繊維の含有が多い[19]。詳細は別表の通り。
このほか、果実の苦味の成分として、生薬として利用されるロガニンを含むが[1]、果実より葉に著しく多く分布している[20]。果実にはキナ酸も多く含まれている[21]。
育て方
栽培する場合、前述するように風当たりが少なく、水はけのよい土壌を好むため、結実・収量を確保するためにはそれらを考慮した土壌改良や対策が必要である[8]。
栽植については、浅根性であるため浅めに植え、実生苗のように素直に伸びた苗では若干密植し、受胎が大きい場合はやや広めに植えるとよいとされる[8]。後述の栽培品種「ゆうふつ」の場合、樹勢が強いため、株間をやや広めの列間2.5 m ×株間1.2 - 1.5 mで栽植するとよいとされる[10]。また、浅根性であることや、土壌の乾燥・雑草との競合に弱いことを踏まえ、管理に気を配る必要がある[10]。
また、本来自家不和合性が高い植物であるため、比較的結実しやすい形質を持つようになった栽培品種であっても、収量を確保する場合には受粉樹として他品種株を混植させると良いとされる[10]。
主な病害虫
灰色かび病、うどんこ病、枝枯れ症、菌核病など5種の病害と、ニンジンアブラムシ、ハマキムシ類、ナミハダニ、カタカイガラムシの一種、毛虫類、ナガチャコガネなど45種の害虫の発生が確認されている[10]。
日本国内における利用の歴史
アイヌによる利用
北海道では和人入植以前から、果実がアイヌによって生食されていた[11][22][10]。
伝承とその真偽
ハスカップの紹介で、しばしば「アイヌの不老長寿の妙薬」のように紹介されることがあるが[15][12]、これは後述の菓子会社三星が、自社商品の「よいとまけ」を東京の三越日本橋本店で販売する際に、ハスカップに馴染みのない人々に説明・宣伝するために創作したものであることを後に明かしている[12][23]。
また、アイヌに伝わるハスカップの伝承であるとして、1979年(昭和54年)に苫小牧民報紙上で次の話が紹介された[12]。
昔、アイヌの若者が小さい舟にのって漁をしていた。舟出した頃は天気がよかったが一天にわかに曇り海は荒れるにあれた。一生懸命に陸に向かってこいだが遂に力がつきていつの間にか若者は眠ってしまった。そして一夜がすぎて目を覚ましたら天候も回復し若者の舟は川の入り江に流れついていた。ところが腹が空いて思うようにうごけない。やっとの思いで川沿いにのぼったところ、見たことのない黒い実のなっている木を発見した。若者は夢中になって口の中にほうりこんだ。毒なのか、味がどうとかはわからなかったであろう。そのうちに次第に元気になり、浜に出て妻子の待っているコタン(引用注:村のこと)に帰ることができた。そして若者は勇払の浜に神の木があると話をし、神の食べものとして毎年神社にまつったという。 — 中内 武五郎、「ハスカップ物語 中」(1979.7.13 苫小牧民報)
これについて、安田千夏は前後して静内(現:新ひだか町)で採録されたハスカップと無関係な海難伝承との類似性や、神社にまつるなど和人文化の影響がある点を指摘し、「アイヌによって語られたものであったとしても、昭和50年代まで語り継がれていた本来の海難伝承から派生したアレンジ」であり、「栄養分析の結果とアイヌの伝承があたかも一致したかのような『よくできた話』がいつのまにか流布して行った、というのが真相なのでは」と分析している[12]。
和人入植後の利用・採集
明治期以降、前述のようにハスカップが多く自生する勇払原野を中心とする地域にも和人が入植し、アイヌから和人にも食べる文化が伝わったと考えられている[12]。
このため、勇払原野を中心とした地域では、かつてハスカップの実がなる季節に一斗缶や牛乳缶を背負って原野に野生のハスカップを摘みに行く文化があった。例えば1947年(昭和22年)頃の苫小牧市立沼ノ端小学校では「ハスカップ休暇」として、ハスカップの最盛期の7月に3日間休校し、児童をハスカップの摘み取りに行かせたほどであった[16]。摘んだハスカップは前述のように日持ちしないため、家庭で塩漬け、砂糖漬け、焼酎漬けなどの保存食とし、特に塩漬けは梅干し・梅漬けの代用品として用いられた[16]。また、摘んだハスカップは市場にも出荷された[16]。こうした経緯もあり勇払原野を中心とした地域において、下記に示すようにハスカップは生活に深くかかわる特別な存在であった[9][14][24]。
作物はなかなか育たず、ハスカップを口に入れながら開墾した。 — 開拓で現在の苫小牧市弁天地区に入植した女性の証言
厚真町豊沢の原野の一角にヤチグミ(引用注:ハスカップ)の採れる高台がありました。(中略)集落の人たちは田植えを終えると、この高台に集まります。ヤチグミの木は高さが人の背丈ほどなので、田植えで腰を曲げ通しだったのを伸ばすのにちょうどよいのです。(中略)開拓以来このヤチグミは珍重され、塩漬けにされて冬も食卓に乗りました。また、砂糖と焼酎で漬け、ハスカップ酒にして飲むと体にもよいといわれていました。田植えが終ったあとのヤチグミ採りは集落の人たちの楽しみのひとつでもありました。 — 「田植えの後のヤチグミ(ハスカップ)採り」、『日本一のハスカップの町 厚真町』より
青森県出身の祖母が、戦後何もなかったときに自生していたハスカップを近所の人たちと摘みに行って、孫である私に食べさせてくれたことが記憶にあります。樽前山神社のお祭りの宵宮で、白い砂糖をたっぷりとかけて食べることが何よりの楽しみでぜいたくでした。ほろ苦く甘酸っぱく素朴な野原のにおいがして、赤ひげさんのようになりながら口いっぱいにほおばった思い出が蘇ります。果物が育たない苫小牧では、ハスカップはまさに市民の宝だったのです。 — 大西 育子、「第4回環境コモンズフォーラム ハスカップ新時代に向けて~勇払原野の風土と資源を持続的に共有するためのイニシアチブ~」での発言
昭和30年代に入ると、菓子会社の三星が自社の菓子原料として、採集したハスカップを買い取る動きが生じたこともあり(後述)[15]、ハスカップ摘みは小遣い稼ぎを目的として、主婦や老人・小学生の間で急激に増えた。時期になると自生地を通過する苫小牧市営バス路線にはハスカップの採集を目的に、乗る人々の行列ができるほどであった[16]。
三星によると、当時は毎年8 - 10トンのハスカップを勇払原野の野生株からの採集で賄っていたという[15]。
商業的な加工品の製造
ハスカップの商業的な加工・販売も古くからおこなわれている。その始まりは1933年(昭和8年)に苫小牧市沼ノ端駅前の商店「近藤待合」の近藤武雄が、周辺に自生するハスカップを利用できないか、と考案・販売した、「ハスカップ羊羹」と「ハスカップ最中」とされている[16][24]。このうち「ハスカップ羊羹」は1936年(昭和11年)9月に陸軍特別大演習のため来道した昭和天皇に献上され、のちに宮内省から表彰されている[16]。また、1943年(昭和18年)には、ジャムやジュースの製造も開始されたが、太平洋戦争が激しさを増し砂糖の配給が途切れたことで、同年中あるいは翌年ごろ製造が中止されている[16]。
戦後に入ると、1953年(昭和28年)に苫小牧市の菓子会社小林三星堂(現:三星、以下「三星」と表記)がロールカステラの表面にハスカップのジャムを塗った「よいとまけ」を考案した[16]。「よいとまけ」はその後当地を代表する銘菓となり、ハスカップの知名度向上に貢献したが[24]、一方で前述のように販売促進にあたってアイヌ伝承の創造も行われた[12]。
今日ではその他、ジャム、ジュース、ソース、ワイン、リキュール、酢などに加工されているほか[2][16]、菓子メーカー各社により、ハスカップ風味のグミ、ガム、キャラメル、チョコレート、アイスクリ-ム、ケーキ等が製造・販売されている[2]。2018年(平成30年)現在では、ハスカップの出荷量88.3トンのうち、約4割に当たる35.9トンが加工向けとなっている[25]。
野生種の採集から栽培へ
入植した和人にもハスカップが身近な存在となると、趣味の園芸の一環として、庭への移植、あるいは挿し木による増殖も行われるようになっていたが[9]、栽培の始まりとしては1953年(昭和28年)に勇払川上流から自生株を移植したのが最初とされている[10]。また、千歳市でも1960年代には篤農家が栽培を始めていたとされる[13]。
栽培が本格化する契機となったのは勇払原野をはじめとする自生地域の開発により自生域が大幅に縮小したこと[2][15]、および国の減反政策に伴う新たな水田転換作物への需要である。
1970年(昭和45年)に第3期北海道総合開発計画が閣議決定され、それに基づく苫小牧東部大規模工業基地開発基本計画により勇払原野の自生地は開発対象となった[13]。これに対し苫小牧市では市民団体からハスカップ保護の要望が寄せられ、苫小牧市では1973年(昭和48年)3月に「ハスカップ移植協議会」を設立した。また、開発を手掛ける第三セクター苫小牧東部開発(当時)では、同年から1980年(昭和55年)にかけ自生地からのハスカップの搬出・移植を手掛け、約37,000本が道内各地の個人・団体に引き取られた[13][16]。また、前述の菓子会社三星でも野生株からの調達が困難となり、1975年(昭和50年)ごろから美唄市の北海道立林業試験場(現:北海道立総合研究機構〔道総研〕森林研究本部林業試験場 以下、道林試)の協力を得て、勇払原野の野生種から苗木を作り、1977年(昭和52年)に美唄市内で栽培を始めることとなった[10][15]。
千歳市においても1978年(昭和48年)ごろから千歳市農業協同組合(現:道央農業協同組合)が、減反政策に伴う水田転換作物としてハスカップの栽培を奨励し、千歳空港・航空自衛隊千歳基地・陸上自衛隊北海道大演習場周辺から株を移植しての栽培が始まった[13][16][注釈 3]。このほか、1982年(昭和57年)頃には厚真町でも栽培が始まっている[14]。
以降、ハスカップは稀少価値があり単価の高い作物[注釈 4]であったことから、水稲からの転換作物として道央・道北・道東に栽培が広がり[10]、初期の1980年(昭和55年)の時点で栽培面積は13 haであったが[16]、1990年(平成2年)には167 ha に達した[2]。
一方で、生産面積の拡大は需給バランスの崩壊を招き、取引単価は暴落した[注釈 5][16]。これに加え、水田から転作した圃場を中心に、根部を害虫のナガチャコガネに食べられる被害が広まった。これに有効な対策がなかったことから生産者の意欲減退につながり、生産量は徐々に減少した[2]。加えて1993年(平成5年)の大冷害を受けた政府の減反緩和策により、ハスカップに転作した圃場を再び水田として復旧する事例が増えたこともあって、1994年(平成6年)の栽培面積は 108ha にまで減少した[2]。
その後1998年(平成10年)頃などにもブームが起き、飽きられてまた価格が下がるといった事象が繰り返され[14]、2003年(平成15年)には栽培面積が全盛期の半分以下の 60haまで縮小した[2]。その後は需要拡大もあって栽培面積は回復し[16]、2018年(平成30年)産の国内におけるハスカップは、生産面積109.2 ha、収穫量107.7トンに回復している[25]。このうち同年時点で生産面積が最大なのは厚真町で、栽培面積は33 ha に達し従事する農家は100戸を超える[9]。
日本国内における栽培品種の誕生
当初の栽培は、前述のように野生株を畑に移植した株、またはそれらの挿し木による増殖株、それらの交雑実生株により行われていたが[10][14]、株ごとの変異により、果実の大きさや色付き、苦み、果莢付着など品質のばらつきがあった[10]。このために農家の間では「当り外れのある作物[14]」という認識が強かった。また、野生種は酸味が強く、生食に適さないとする向きもあった[10]。このため品質の均一化、良食味、輸送に適した硬さのある果実を目指して、研究機関や農園により選抜が行われ、栽培品種が誕生している。以下に国内でこれまでに「クロミノウグイスカグラ」として種苗登録された4品種を中心に記述する。
ゆうふつ
北海道立中央農業試験場(現:道総研中央農業試験場 以下、中央農試)が開発した、国内初の登録品種[10]。
中央農試には、1967年(昭和42年)に苫小牧市沼ノ端のハスカップ自生地から採取・保存した株、およびその実生株60系統があり、1978年(昭和53年)から調査が行われてきた[10]。
1984年(昭和59年)に本格的な品種改良が開始され、1986年(昭和61年)には収量の高い3系統(HC1~3)、比較系統とする13系統(在来1号~13号)を選抜し、これらは各地で試験栽培が開始された[10]。結果、選抜系統HC1が他と比較して「果実が大きく、安定して多収を示す」など適応性が高いことが示され、1990年(平成2年)3月に北海道優良品種に採用、1992年(平成4年)1月16日に「ゆうふつ」と命名の上種苗登録(種苗登録 第3033号)された[10][26]。
自家結実率は試験では4年平均28%、最高で39%(一般に数%以下)と比較的高く、自然受粉による結実も良好である[10]。このため収量も従来比で約1.5 - 2倍と非常に高くなった[9]。加工用と位置付けられており[10]、糖度自体は比較系統と同等とされたが、酸含有量が低く、完熟果であれば十分生食可能とされた[10]。
あつまみらい・ゆうしげ
厚真町のハスカップ栽培農家「ハスカップファーム山口農園」で選抜された株から登録された、国内2番目・3番目の登録品種[14]。厚真町内のみで増殖・栽培が許可されている地域限定品種であり[27][14]、現在、厚真町の90軒近くの農家が栽培を行っている[28][29]。
もともと稲作中心の兼業農家であった山口家では、山口美紀子がその両親とともに1978年(昭和53年)から勇払原野から野生種のハスカップ株、約1千本を畑に移植した[29][27][30]。
美紀子は自分が畑に移植したハスカップ株の果実を2人の息子に味見させ、苦みや酸味の強い果実がなる株を淘汰していくことで[27]、約30年の歳月をかけ糖度が高く、かつ大粒な果実のなる、優良な系統の株を30株まで絞り込んだ[29]。
その後、厚真町で2002年(平成14年)頃からハスカップの優良系統の調査が始まり、最終的に山口農園から果実の大きさ、食味の良さなどの点が最も優秀と思われる2種が選ばれ、2008年(平成20年)6月5日に、美紀子の息子である善紀が、2つをそれぞれ「あつまみらい」「ゆうしげ」として種苗登録を出願し、翌2009年(平成21年)12月21日に種苗登録された(それぞれ、種苗登録 第18718号・第18719号)[14][31][32]。
「あつまみらい」と「ゆうしげ」とも、果実が2.5cm程と大粒で、糖度はリンゴやナシと同等の12度以上に達する。前者が酸味を併せ持つ一方、後者は酸味が少ない[29]。
みえ
苫小牧市の黒畑ミヱによって育成された品種で、2012年(平成24年)3月19日に登録された(種苗登録 第21661号)。果肉の甘みは「低」とされ酸味がやや多いが、果実が比較的硬く、日持ちする[33]。
その他
品種登録はなされていないが、このほかにも優良系統の選抜や増殖が行われている。千歳市農業協同組合(当時)では「ゆうふつ」の開発と同時期の1983年(昭和58年)から、優良系統を選抜し、組織培養により増殖した苗を栽培農家に配布している[19]。組織培養による増殖はこのほか、道林試でも行われている[13]。
関連する文化
市町村の花に制定している自治体
北海道苫小牧市が「市の木の花」として1986年(昭和61年)9月27日にハスカップの花を制定している[34]。
マスコットキャラクター
ハスカップの産地となっている市町村等において、ハスカップの意匠が取り入れられたマスコットキャラクターが登場している。詳細は各記事も参照。
花言葉
ハスカップの花言葉は「愛の契り」とされている[36]。これは前述のように2つの花から1つの果実が結実するように見えることによる[36]。
ハスカップの日
(日本記念日協会)により7月7日が「ハスカップの日」として登録されている[36]。
この記念日は、美唄市農業協同組合、とまこまい広域農業協同組合厚真町ハスカップ部会、ハスカップ協会、の3者連名で申請を行い、2021年(令和3年)4月30日に認定されたもので[37]、「『ハスカップ』の魅力をより多くの人に知ってもらい、味わってもらうのが目的[36]」とされた[36]。7月7日が選ばれた理由としては、ハスカップの収穫時期に重なること、前述の花言葉「愛の契り」に因んで「織姫と彦星のように離れた二人が出会える日」として新暦における七夕であること、が挙げられている[36]。
交通機関の愛称
道南バスが札幌市と苫小牧市を結ぶ高速バスに「高速ハスカップ号」の名称を用いている。
その他
苫小牧市の観光親善大使は2003年(平成15年)から廃止となった2021年(令和3年)まで名称が「ハスカップレディ」となっていた[38]。
日本国外における利用
ロシア連邦
ロシアではその耐寒性とビタミンCの豊富さに着目し、19世紀のロシア帝国末期から植物園や熱心な園芸家によって栽培が始められ[10]、ソ連時代の1950年代から、サンクトペテルブルクの連邦植物栽培研究所(バビロフ研究所)を中心に野生種の採集・育種が行われている[13]。
アメリカ合衆国・カナダ
もともと北アメリカにはハスカップの自生はないが、ロシア産・北海道産の苗木の輸入や営利栽培・家庭栽培のそれぞれに向けた新品種の育成が行われている[13]。
ハスカップの近縁種
脚注
注釈
- ^ これらの基準種にあたるヨーロッパヨノミ(学名:Lonicera caerulea L.)が、ヨーロッパに分布するが、この実は苦くて食べられない[7]。
- ^ 時折「勇払原野のみに自生する」といった紹介がなされるが[15]、これは商品をアピールするための方便である[12]。
- ^ 同時期に軍民共用だった千歳空港から民間機を分離するために新千歳空港の建設が始まり、群生地が破壊されることとなった。
- ^ 約3,000 - 4,000円 / kg[14][16]、1984年(昭和59年)時点で10 a あたり400本植えたと仮定して、収量が樹齢3 - 4年で16.0 - 20kg、樹齢10年以上の樹体で320.0 - 400.0 kg に達していることから[8]、単純計算で10aあたり6.4万 - 160万円の収入が得られたこととなる。
- ^ 1,000円 / kg程度と1/3 - 1/4程度まで抑制された[16]
出典
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関連項目
外部リンク
- 『(ハスカップ)』 - コトバンク
- とまチョップの苫小牧さんぽ > ハスカップってどんな植物? > もっと調べるためのお助けガイド 苫小牧市立中央図書館
生産者(50音順)
- とまこまい広域農業協同組合
- ハスカップ協会
- 美唄市農業協同組合