葛西 敬之(かさい よしゆき、1940年10月20日[2] - 2022年5月25日[3])は、日本の実業家。東海旅客鉄道株式会社(JR東海)代表取締役社長・代表取締役会長・代表取締役名誉会長、取締役名誉会長を歴任した。他に、学校法人海陽学園理事長[4]を務めた。兵庫県出身の東京都育ち[5]。
人物
東京都立西高等学校を経て東京大学文科1類に入学し、1963年に東京大学法学部を卒業して日本国有鉄道(国鉄。日本国有鉄道法を根拠とする公社)に入社した。国鉄からウィスコンシン大学マディソン校に派遣され、1969年に経済学修士(M.S. in Economics)を取得した[6]。
静岡鉄道管理局(現・JR東海静岡支社)総務部長、仙台鉄道管理局(現・JR東日本東北本部)総務部長を務めたのち、国鉄本社で経営計画室主幹、職員局次長を歴任した。労働組合対策に力を注いだ。国鉄分割民営化にあたっては、松田昌士(後にJR東日本社長)や井手正敬(後にJR西日本社長)と共に「国鉄改革3人組」と称された。
日本国有鉄道が1987年(昭和62年)に分割民営化されたことにより、1987年4月1日に、日本国有鉄道から、1987年4月1日に発足した東海旅客鉄道株式会社(JR東海。商法または会社法を根拠とする株式会社)に(転籍)し、JR東海取締役総合企画本部長に就任。
※ 本節においては、以下、「商法または会社法を根拠とする、株式会社の機関」[注釈 1]を太字とする。
1990年にJR東海代表取締役副社長に昇格し、2018年までの28年に渡って、JR東海代表取締役を務めた。
1995年にJR東海代表取締役社長、2004年にJR東海代表取締役会長。
2014年にJR東海代表取締役名誉会長[7]。「JR東海は、3名の代表取締役(名誉会長・会長・社長)によるトロイカ体制へ移行した」とマスメディアに報じられた[8][9]。
2018年に、1990年から28年にわたって務めたJR東海代表取締役を退き、JR東海取締役名誉会長。
2020年に、JR東海が発足した1987年から33年にわたって務めたJR東海取締役を退き、JR東海名誉会長[10]。JR東海における「会社法を根拠とする、株式会社の機関」を全て退いたことにより、JR東海の経営の第一線から退いた。
2022年5月25日、間質性肺炎により死去、81歳没[3]。松田昌士の死去から2年後のことであった。これにより国鉄改革3人組の存命者は井手正敬のみとなった。
来歴
- 東京都立西高等学校卒業[11]。
- 1963年:東京大学法学部を卒業し[12]、日本国有鉄道に入社[12]。
- 1987年4月1日:東日本旅客鉄道株式会社(JR東海)取締役総合企画本部長[2]。
- 1988年:JR東海 常務取締役総合企画本部長[2]。
- 1990年:JR東海 代表取締役副社長[2]。
- 1995年:JR東海 代表取締役社長[2]。
- 2000年6月:在名古屋フィンランド名誉領事( - 2021年1月)[14]。
- 2004年:JR東海 代表取締役会長[2]。
- 2006年
- 2011年
- 政府の東京電力に関する経営・財務調査委員会委員。
- 原子力損害賠償支援機構運営委員会委員。
- 内閣府宇宙政策委員会委員長。
- 2013年12月:正論大賞受賞[15]。
- 2014年4月:JR東海 代表取締役名誉会長[2]。旭日大綬章を受章[16]。
- 2017年1月:一般社団法人ジャパンフォワード推進機構[17]理事[18]。
- 2018年4月:JR東海の代表取締役を退き、JR東海取締役名誉会長。
- 2020年6月:JR東海の取締役を退き、JR東海名誉会長。以後はJR東海の経営の第一線から退いた。
- 2022年5月25日:間質性肺炎により死去[3]。
その他、東京大学、皇学館大学、名城大学などの客員教授や特別招聘教授を務め、産経新聞の「正論」[13]、読売新聞にコラムを連載するなど様々な分野で活動していた。財界を代表する「親米保守」の論客であった。トヨタ自動車、東海旅客鉄道、中部電力の共同出資による全寮制男子校海陽学園の理事長も務めていた。
発言
- 新幹線遅延における発言
2000年9月11日およびその翌日にかけての東海豪雨で、JR東海は東海道新幹線の無理な運転続行を強行したため、のぞみ20号(博多発東京行)が22時間21分遅れで終点の東京駅に到着するという、開業以来最悪の遅延を記録した。そのほかにも東京ー米原駅の間で70本近い列車が団子状態でストップし、全面的に不通となった。
最終的に5万人を超える乗客が車内に取り残され、一夜を明かす事態となったことについて、JR東海はもっと早く運転を見合わせするべきだったという批判に晒された。葛西はその数日後に開かれた社長定例会見で、「あれは未曾有の大災害が原因で、正常で適切な運行だった」と発言し、会社として大きな批判を浴び、後の会見で「多くの乗客にご迷惑をおかけしました」と謝罪した[19]。
- 中国への新幹線技術移転に反対する発言
川崎重工業が海外への積極的なビジネスチャンスを求めて、当時の川重大庭浩会長、大橋忠晴社長、のちに同川重社長となる長谷川聰らと組み、中華人民共和国(中国)への新幹線車輌(E2系)技術を提供したのが、井手正敬や葛西と共に「国鉄改革3人組」の一人に挙げられるJR東日本の松田昌士会長だった。
しかし、川重側の契約の杜撰さもあって、中国側に国家ぐるみで新幹線車輌技術を盗まれ米国やアジア諸国への売り込みを許したばかりでなく、契約の拡大解釈ないし詭弁の類いで米国などへ国際特許出願までも許してしまったとされている。この松田昌士に対して、終始一貫して中国への新幹線技術移転に反対する発言をしていた葛西とは、好対照をなしていたと評されている[20][21][22]。
政治観
- 2010年9月の国家公安委員会の会議において、「極端な『民族主義・排外主義的主張』に基づき、『外国人参政権反対』などと訴える市民運動が各地で展開され、反対勢力とのトラブル事案もみられることから、各都道府県警察で諸対策を実施している」旨が報告された。葛西はこの種の運動について、「こうしたグループは『国家』の意義・役割を軽視するマスコミに国民の(知る権利)が抑圧されてきた中で、インターネットを利用して『声なき声』を取り上げた象徴的なものだ」、「暴力的でもなければ『極端な民族主義・排外主義』でもない」、つまり「右翼団体」ではなく右派系市民グループだ、との見解を示した。また、左翼運動については「左翼についても、これまでのそれぞれのセクトというような形ではなくて、散発的にゲリラ的な者がインターネットを通じて活動するような世の中になる恐れがあり、既にテロリストの組織がそういうふうになっている傾向がある。その意味で、日本は今いろいろな意味で転換期にあると思う」と述べた[23]。
スキャンダル
エピソード
著書
脚注
注釈
出典
- ^ (PDF)(プレスリリース)東海旅客鉄道株式会社、2022年5月27日。 オリジナルの2022年5月27日時点におけるアーカイブ2022年5月27日閲覧。 。
- ^ a b c d e f g p.42
- ^ a b c 葛西敬之・JR東海名誉会長が死去、81歳 国鉄民営化、改革3人組朝日新聞 2022年5月27日
- ^ “メッセージ”. 学校法人海陽学園 海陽中等教育学校. 2020年6月23日閲覧。
- ^ “葛西敬之(2)家族 父に俳句や和歌教わる 負けず嫌いな一面、母譲り”. 日本経済新聞. (2015年10月2日)2017年6月13日閲覧。
- ^ “Governor Abbott Meets With Central Japan Railway Company In Nagoya, Japan”. テキサス州知事公式サイト (2019年9月25日). 2023年4月22日閲覧。
- ^ “「代表取締役名誉会長」は何する人ぞ?”. 東洋経済新報社 (2013年12月26日). 2016年1月7日閲覧。
- ^ “JR東海社長に柘植副社長 葛西氏は名誉会長に”. 日本経済新聞. (2013年12月16日) 2016年1月7日閲覧。
- ^ “代表権3人、トロイカ体制 JR東海、リニア・海外展開にらむ”. 産経新聞. (2013年12月17日) 2016年1月7日閲覧。
- ^ “JR東海 葛西敬之名誉会長が取締役退任 国鉄改革「3人組」の一人”. 毎日新聞. 2020年5月15日閲覧。
- ^ “葛西敬之(6)東大入学 安保闘争学内で討論会 「何の効果もない」参加やめる”. 日本経済新聞. (2015年10月6日)2017年6月13日閲覧。
- ^ a b c 「【時代のリーダー】葛西敬之・JR東海副社長」『日経ビジネス』2009年3月10日
- ^ a b c “【第29回 正論大賞】 (1) ≪大賞≫JR東海会長・葛西敬之氏 (3/3)”. 産経ニュース (産経新聞). (2013年12月10日) 2015年10月5日閲覧。
- ^ 名古屋フィンランド名誉領事、葛西氏から柘植氏へ交代 | 駐日フィンランド大使館
- ^ “正論大賞 葛西敬之氏 新風賞に吉崎達彦氏”. 産経WEST (産経新聞). (2013年12月9日) 2015年10月5日閲覧。
- ^ “春の叙勲4104人 旭日大綬章に葛西氏ら”. 日本経済新聞. (2014年4月29日) 2015年10月5日閲覧。
- ^ 産経新聞英語版ウェブサイト「JAPAN Forward」運営元。
- ^ About JAPAN-Forward
- ^ “”. JR東海労働組合. 2018年5月12日閲覧。
- ^ “計算高い川崎重工が「対米新幹線計画」に便乗 2010年6月号 BUSINESS[ビジネス・インサイド]”. FACTA (2010年6月). 2020年8月8日閲覧。
- ^ “中国、日本の新幹線技術を国際特許出願…なぜ川崎重工は技術を流出させたのか”. ビジネスジャーナル編集部. エキサイトニュース (2013年6月28日). 2020年8月8日閲覧。
- ^ “中国をつけ上がらせた親中派の財界人&経済人列伝【3】 JR東日本&川崎重工「中国の新幹線はJRの技術の盗用」”. ビジネスジャーナル編集部. ビジネスジャーナル (2012年10月9日). 2020年8月8日閲覧。
- ^ “国家公安委員会定例会議(平成22年9月2日)”. 国家公安委員会. 2014年8月16日閲覧。
- ^ a b “JR東海「葛西敬之名誉会長」の研究”. ZAITEN (財界展望新社). (2017年4月)
- ^ 葛西敬之『明日のリーダーのために』文藝春秋〈文春新書〉、2010年4月、58-59頁。ISBN (978-4166607488)。
新聞記事
外部リンク
- 21世紀に求められるリーダーとは? -トップリーダーと学ぶワークショップ