仏教における色(しき)はパーリ語のルーパ( 梵: रूप rūpa)に由来し、(1)一般に言う物質的存在のこと(五蘊の一要素)で、色法と同じ意味、(2)視覚の対象(十二処、十八界の一要素)、を表す言葉。
物質的存在としての「色」(五蘊の一要素)
五蘊(パンチャッカンダ)[2] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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いろ、形あるもの[3]。認識の対象となる物質的存在の総称[3]。一定の空間を占めて他の存在と相容れないが、絶えず変化し、やがて消滅するもの[3]。 仏教ではすべてが修行である、禅定を前提に考えられるため、存在はすべて物質的現象と見なされる。物質的現象であるから、諸行無常・諸法無我であり、縁起であるからこのような現象が生じている。
「色・受・想・行・識」の五蘊(ごうん)の一要素。漢訳で「色」と訳されたサンスクリット語のルーパ(rūpa)は、「色彩」とともに「形」という意味も含んでいるため、「いろ」「かたち」で表現される物質的存在という意味が、すべて「色」という漢語の中に集約されている[4]。最初は我々の肉体だけを指していたが、「変化して壊れゆくもの」「他物と同一空間を共有できないもの」「現象として顕現しているもの」などの意味をもち、現代の「物質」に近い概念となった[5]。なお、四大種によって造られた色のことを所造色という[6]。
視覚の対象としての「色」(十二処、十八界の一要素)
視覚(眼、眼識)の対象のこと。この色 のほか、声(聴覚)・香(嗅覚)・味(味覚)・触(触覚)・法(心によって考察される存在全般)を合わせて六境とし、それぞれを知覚する器官である眼・耳・鼻・舌・身・意の六根と合わせて十二処と呼ぶ。また、六根・六境の諸要素が複合的に作用し合って現象が成り立つ場としての眼識界・耳識界・鼻識界・舌識界・身識界・意識界の六識と合わせて十八界と呼ぶ[7]。
五蘊・十二処・十八界のそれぞれは、世界の構成要素の軸としてのカテゴリー(範疇)の区分の方法である(五蘊、十二処、十八界を合わせて三科と呼ぶ)。五蘊の「色」は、十二処・十八界の「眼、耳、鼻、舌、身、色、声、香、味、触」に対応する[8]。
『般若心経』においては、「無色声香味触法(色・声・香・味・触・法は無である)」等の箇所に用いられている。
また、顕色(けんじき。「いろ」の意)と形色(ぎょうしき。「かたち」の意)の2種に分たれ、さらに以下の20種に分たれる[9][10]。
顕色 | 形色 | |
---|---|---|
1 青 | ◯ | |
2 黄 | ◯ | |
3 赤 | ◯ | |
4 白 | ◯ | |
5 長 | ◯ | |
6 短 | ◯ | |
7 方 | ◯ | |
8 円 | ◯ | |
9 高(凸形) | ◯ | |
10 下(凹形) | ◯ | |
11 正(規則的な形) | ◯ | |
12 不正(不規則な形) | ◯ | |
13 雲 | ◯ | ◯ |
14 煙 | ◯ | ◯ |
15 塵 | ◯ | ◯ |
16 霧 | ◯ | ◯ |
17 影 | ◯ | ◯ |
18 光 | ◯ | ◯ |
19 明 | ◯ | ◯ |
20 闇 | ◯ | ◯ |
出典
参考文献
- 中村元他『岩波仏教辞典』岩波書店、1989年。ISBN (4-00-080072-8)。
- 頼富本宏 ; 今井浄圓 ; 那須真裕美『図解雑学 般若心経』ナツメ社、2003年。ISBN (4-8163-3544-7)。
- 横山紘一『唯識思想入門』第三文明社、1976年。ISBN (978-4-476-01066-4)。
- 櫻部建『倶舎論』大蔵出版、1981年。ISBN (978-4-8043-5441-5)。
- Hamilton, Sue (2001). Identity and Experience: The Constitution of the Human Being according to Early Buddhism. Oxford: Luzac Oriental. ISBN (1-898942-23-4).