地対艦ミサイル連隊(ちたいかんミサイルれんたい、Surface-to-Ship Missile Regiment:SSMR)は陸上自衛隊の地対艦ミサイルを主装備とする連隊編制の野戦特科部隊である。
概要
その名の通り地対艦ミサイルを主装備とし、日本に対する侵攻勢力の艦船の撃破を任務とする。陸上自衛隊の連隊としては唯一、連隊名に片仮名が用いられている。
日本は四方を海に囲まれているため、日本への侵攻勢力は上陸作戦を行う必要がある。陸上自衛隊においては、侵攻勢力の上陸阻止のために、浅海用地雷など独特の装備を開発・配備してきた。対艦ミサイルの発達に伴い、艦船攻撃手段として1988年からは88式地対艦誘導弾の取得・配備を開始した。この対艦ミサイルの運用部隊として、1992年から地対艦ミサイル連隊の編成が行われた。2020年(令和2年)4月時点で、地対艦ミサイル連隊は5個編成されており、そのうちの3個は北海道(第1特科団隷下)、残り2個は東北と九州に配備されている(東北方面特科隊・西部方面特科隊隷下)。第1特科団以外の隷下部隊については、当初方面隊直轄であったが、特科群との編合により誕生した方面特科隊隷下に配属されている。
連隊の編制は、連隊本部のほか4個射撃中隊を核としている[1]。連隊の本部管理中隊に捜索・標定レーダー装置6基とレーダー中継装置12基と指揮統制装置1基、各射撃中隊には指揮小隊に射撃統制装置が1基ずつ、射撃小隊に発射機と装填機が4基ずつとミサイルが24発が配備される[1]。
新編時は、高射特科群のように野整備部隊として直接支援隊を編制内に加えていたが後方支援体制の改編よりに方面後方支援隊隷下の特科直接支援中隊へと改編された。
なお、連隊が保有する車載式レーダーでは水平線の向こう側が死角となり索敵が不可能であり、遠洋の敵艦船に対しては、海自のP-3C哨戒機からの敵艦船に関する音声情報を基に、陸自側が手作業で目標情報をシステムに入力して誘導弾を発射することになっており、複数の敵艦船への迅速な対応という観点では課題を残していた。これを自動化して解消するために、平成26年度防衛予算で火力戦闘指揮統制システムと海上自衛隊指揮統制システムの連接が、また地対艦ミサイル連隊と海自・空自とのリンク機能に関する研究が認められた[2]。28年度予算では1式の購入予算が計上された[3]。
2001年から2011年にかけては6個連隊が編成されていたものの、同連隊は中期防衛力整備計画 (2005)以降における整理縮減の対象とされ、一時は段階的に3個連隊(4個射撃中隊×3)及び大隊規模2個(2ないし3個射撃中隊×2)程度にまで縮小される計画となっていた。
しかし、南西諸島海域への中国人民解放軍の進出を受けて、中期防衛力整備計画 (2011)では18両の地対艦誘導弾を取得予定とし、また装備も平成24年度から新型の12式地対艦誘導弾の取得を開始している。「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱について」、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」及び「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱について」においては、5個連隊を保持するとしている。
2018年12月18日に閣議決定・公開された中期防衛力整備計画 (2019)においては、新たに3個中隊[4]の新編が盛り込まれている。2023年3月までに、5個中隊編成された「独立地対艦ミサイル中隊」は、本土に駐屯する「ナンバー中隊」に対し原則、本隊と離れて駐屯する。2023年度末には南西諸島に展開する3-4個中隊を束ねる新連隊(第7地対艦ミサイル連隊(仮称))が勝連分屯地に編成される予定である[5][6][7][8]。
地対艦ミサイル連隊の一覧
第1地対艦ミサイル連隊から第4地対艦ミサイル連隊は88式地対艦誘導弾システムを装備、第5地対艦ミサイル連隊のみ12式地対艦誘導弾システムを装備している。
部隊名が太字となっているものは廃止された部隊
- 第1地対艦ミサイル連隊(北千歳駐屯地 :4個射撃中隊基幹)北部方面隊第1特科団:第125特科大隊を母体に1992年(平成4年)3月27日新編。
- 第2地対艦ミサイル連隊(美唄駐屯地:4個射撃中隊基幹)北部方面隊第1特科団:第126特科大隊を母体に1993年(平成5年)3月27日新編。
- 第3地対艦ミサイル連隊(上富良野駐屯地:5個射撃中隊基幹)北部方面隊第1特科団:第4特科群等の人員を母体に1994年(平成6年)3月27日新編。
- 第4地対艦ミサイル連隊(八戸駐屯地 :2個射撃中隊基幹)東北方面特科隊:1996年(平成8年)3月29日東北方面隊直轄新編。2010年(平成22年)3月25日東北方面特科隊隷下に編合。
- 第5地対艦ミサイル連隊(健軍駐屯地 :8個射撃中隊基幹)西部方面特科隊:1998年(平成10年)3月26日西部方面隊直轄新編。2003年(平成15年)3月27日西部方面特科隊隷下に編合。
- 第6地対艦ミサイル連隊(宇都宮駐屯地:4個射撃中隊基幹)東部方面隊直轄:2001年(平成13年)3月27日東部方面隊直轄新編。2011年(平成23年)4月21日に廃止。
- 第7地対艦ミサイル連隊(仮称)(勝連分屯地:4個射撃中隊基幹)西部方面隊西部方面特科隊:2024年(令和6年)3月新編予定。
独立地対艦ミサイル中隊の一覧
300番台の称号を冠する独立中隊であるが、新編当初から第5地対艦ミサイル連隊または第3地対艦ミサイル連隊隷下に編合され、12式地対艦誘導弾システムを装備している。
地対艦ミサイル部隊の沿革
- 1992年(平成 4年)3月27日:第1地対艦ミサイル連隊が第1特科団隷下に北千歳駐屯地において編成完結。
- 1993年(平成 5年)
- 3月27日:第4特科群に第3地対艦ミサイル連隊準備隊を編成。
- 3月30日:第2地対艦ミサイル連隊が第1特科団隷下に美唄駐屯地において編成完結。
- 1994年(平成 6年)3月28日:第3地対艦ミサイル連隊(第3射撃中隊、第4射撃中隊欠)が第1特科団隷下に上富良野駐屯地において編成完結。
- 1995年(平成 7年)3月28日:第3地対艦ミサイル連隊第3射撃中隊、第4射撃中隊を新編。
- 1996年(平成 8年)3月29日:第4地対艦ミサイル連隊が東北方面隊直轄部隊として八戸駐屯地において編成完結。
- 1998年(平成10年)3月26日:第5地対艦ミサイル連隊が西部方面隊直轄部隊として健軍駐屯地において編成完結。
- 2000年(平成12年)3月28日
- 2001年(平成13年)3月27日:第6地対艦ミサイル連隊が東部方面隊直轄部隊として宇都宮駐屯地において編成完結。
- 2002年(平成14年)3月27日:東部方面隊の後方支援体制変換に伴い、第6地対艦ミサイル連隊直接支援隊を廃止し、整備部門を東部方面後方支援隊第301特科直接支援中隊へ移管。
- 2003年(平成15年)3月27日:第5地対艦ミサイル連隊を西部方面特科隊隷下に編合。西部方面隊の後方支援体制変換に伴い、第5地対艦ミサイル連隊直接支援隊廃止し、整備部門を西部方面後方支援隊第101特科直接支援隊直接支援中隊へ移管。
- 2006年(平成18年)3月27日:東北方面隊の後方支援体制変換に伴い、第4地対艦ミサイル連隊直接支援隊を廃止し、整備部門を東北方面後方支援隊第303特科直接支援中隊に移管。
- 2010年(平成22年)3月26日:第4地対艦ミサイル連隊を東北方面特科隊隷下に編合。整備支援部隊が東北方面後方支援隊第102特科直接支援隊直接支援中隊に改編。
- 2011年(平成23年)4月21日:第6地対艦ミサイル連隊(宇都宮駐屯地)が廃止。
- 2016年(平成27年)3月:第5地対艦ミサイル連隊に12式地対艦誘導弾が配備される。
- 2019年(平成31年)
- 3月25日:第4地対艦ミサイル連隊第4中隊(八戸駐屯地)を廃止(西部方面特科隊第5地対艦ミサイル連隊隷下の第301地対艦ミサイル中隊として改組)。
- 3月26日:第301地対艦ミサイル中隊(12式地対艦誘導弾装備)が第5地対艦ミサイル連隊隷下に奄美大島の瀬戸内分屯地で新編。
- 2020年(令和 2年)3月26日:第302地対艦ミサイル中隊(12式地対艦誘導弾装備)が第5地対艦ミサイル連隊隷下に宮古島駐屯地で新編。
- 2022年(令和 4年)
- 2023年(令和 5年)3月16日:
- 2024年(令和 6年)3月:勝連分屯地に、第7地対艦ミサイル連隊(仮称)を新編予定。指揮下に第301~第304地対艦ミサイル中隊を編入予定[7][5]。
脚注
- ^ a b PANZER 臨時増刊 陸上自衛隊の車輌と装備2012-2013 2013年1月号,アルゴノート社,P95-96
- ^ 我が国と防衛と予算 平成26年度予算の概要
- ^ 我が国の防衛と予算-平成28年度予算の概要
- ^ 瀬戸内及び宮古島、石垣島
- ^ a b . 琉球新報. (2021年9月1日). オリジナルの2021年9月1日時点におけるアーカイブ。2021年11月25日閲覧。
- ^ “沖縄本島、ミサイル部隊配備 23年度にも 南西諸島防衛、空白カバー”. 朝日新聞. (2021年9月2日)2021年11月25日閲覧。
- ^ a b “”. 沖縄タイムスYahoo news (2022年12月24日). 2023年3月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月1日閲覧。
- ^ “陸上自衛隊勝連分屯地への地対艦ミサイル配備に関する質問主意書答弁書”. 参議院. 2023年4月26日閲覧。
- ^ a b 陸上自衛隊 健軍駐屯地 [@kengungsvc_wa] (2023年3月17日). "【第5地対艦ミサイル連隊 隊旗授与式】" (ツイート). Twitterより2023年3月17日閲覧。
- ^ a b 陸上自衛隊 北千歳駐屯地 【公式】 [@kitachitose_STA] (2023年3月27日). "#第3地対艦ミサイル連隊 は、令和5年3月16日(木)に #上富良野駐屯地 において、#第305地対艦ミサイル中隊 の新編行事を行い、初代中隊長山崎3佐に対し、連隊長木全1佐から中隊旗が授与された。" (ツイート). Twitterより2023年3月28日閲覧。
- ^ . 東奥日報. オリジナルの2020年10月17日時点におけるアーカイブ。2020年10月17日閲覧。
- ^ “石垣駐屯地(仮称)の開設について”. 防衛省・陸上自衛隊. 2023年4月1日閲覧。