分離果

分離果（ぶんりか）（英: schizocarp, schizocarpic fruit）^[1][2][3]とは果実の1型であり、複数室をもつ1個の雌しべに由来し、これが複数の単位に縦に分かれる果実のことである。分かれる単位は、分果（ぶんか）（mericarp^{[注 1]}, coccus^{[注 2]}, fruitlet）^[1][2][3]とよばれる。分果が裂開して種子を放出するものはフウロソウやアオギリなどに、分果が裂開しないものはカエデ、ヤエムグラ、ホトケノザなどに見られる。またセリ科に見られる分離果は、2個の分果が果軸の頂端からぶらさがっており、特に双懸果（そうけんか）（cremocarp）^[1][2]ともよばれる。

イヌゴマ属（シソ科）の4個の分果からなる分離果

定義

果実は雌しべの子房（種子のもとである胚珠が含まれる部分）が発達したものであり、基本的に1個の雌しべが1個の果実となる。しかし一部の植物では、1個の雌しべ（子房）が複数の部分に縦に分かれて複数の果実となる（下図1a, b）。このような果実は分離果、分離する単位は分果とよばれる^{[1][2][5][6][7]}。分離果となる雌しべは複数の室に分かれており（心皮数よりも室数が多いこともある）、室ごとに分離する^[6]。分離果に似るが横に分かれる果実として、節果（オジギソウなど）や(節長果)（ダイコンなど）があり、広義の分離果に含めている例もある^[1]。

 

1a. ヤワゲフウロ（フウロソウ科）の花: 雌しべは葯を落とした雄しべに囲まれ、柱頭は5分岐している。

 

1b. ヤワゲフウロの分離果

 

1c. コクサギ（ミカン科）の分離果: 複数個の分果に分かれる。

 

1d. サンショウ（ミカン科）の分離果: 裂開した分果と種子

 

1e. アオギリ（アオイ科）の裂開した分離果（縁に種子がついている）

分果が裂開する例（上図1b–e）と、裂開しない例（下図2）がある^[2][5][7]。前者は袋果や蒴果として扱われることもあり^[8]、また後者のみを分離果としていることもある^[1]。ふつう分果は1個の種子を含む^[1][2]。アオギリ（アオイ科）は花後に５個の分果に分かれるがすぐに裂開し、開いた果皮（心皮）の縁に複数の種子がついた状態で成熟する^[9][10]（上図1e）。

分果が裂開するものはフウロソウ科（上図1b, 下図3a）、コクサギ（上図1c, 下図3b）、サンショウ（上図1d）（ミカン科）、アオギリ（上図1e）（アオイ科）に、分果が裂開しないものはハマビシ科（下図2a）、カエデ属（下図3c）（ムクロジ科）、ニガキ科、ゼニアオイ、タチアオイ（下図2b）（アオイ科）、ヤエムグラ属（下図3e）（アカネ科）、ムラサキ科（下図2c）、シソ科（下図2d）、チドメグサ（ウコギ科）、セリ科（下図2e, 3d）などにみられる^{[1][2][5][8][注 3]}。

セリ科の分離果は2個の分果が果軸の頂端から下垂しており、特に双懸果ともよばれる^[1][2]（下図2e）。

 

2a. ハマビシ（ハマビシ科）の分離果

 

2b. タチアオイ（アオイ科）の分離果: 花柱部を除いたドーナツ状の部分が多数の分果に分かれる。

 

2c. オオルリソウ属（ムラサキ科）の分離果

 

2d. (タヌキジソ)（シソ科）の分離果: 萼に包まれている。

 

2e. シャク属（セリ科）の分離果（双懸果）

種子散布

分果が裂開するものでは、種子が散布単位となる。一方、分果が裂開しないものでは、種子を含む分果が散布される。

フウロソウ属（フウロソウ科）の分離果（蒴果ともされる^[8]）では、分果が花柱に沿って巻き上がり、種子をはじきとばす（自動散布）^{[8][11][12][13]}（下図3a）。コクサギ（ミカン科）の分離果（蒴果ともされる^[8]）では分果の外果皮が裂開し、内果皮がはじけて種子を自動散布する^[12][14]（下図3b）。

 

3a. フウロソウ属（フウロソウ科）の種子を射出した分離果

 

3b. コクサギ（ミカン科）の分果（白いものは内果皮）と種子

 

3c. セイヨウカジカエデ（ムクロジ科）の分離翼果

 

3d. ハナウド（セリ科）の分離果

 

3e. ヤエムグラ（アカネ科）の分離果表面には細かいカギ毛がある

カエデ属（ムクロジ科）やニワウルシ（ニガキ科）の果実は分離果であるが、分果には大きな翼があり、翼果としても扱われる^{[1][15][9][3]}（上図3c）。また翼果とされることはないが、セリ科のアシタバ、ハナウド、シラネセンキュウなどでは、個々の分果の縁辺が薄く翼状になっている^[15]（上図3d）。またアオギリ（アオイ科）の分離果では分果がすぐに裂開し、縁に種子をつけた状態で成熟する^[9][9]（上図1e）。これらの分果は、種子を含んだまま風によって散布される（風散布）^[15][16]。

ヤエムグラ（アカネ科）やオヤブジラミ（セリ科）の分果表面には細かいカギ毛が生えており（上図3e）、これによって動物に付着して散布される^[17][18]（付着散布）。

サンショウ属（ミカン科）の分果は、裂開して種子を露出するが、種子は落下せずその場に留まる（上図1d）。種子は光沢がある黒色で目立ち、表層が脂質に富むため鳥などに食べられ、糞と共に排出されて散布される^[19]（被食散布）。

ホトケノザやヒメオドリコソウ（シソ科）の分果にはエライオソームとよばれるアリが好む物質からなる塊がついており、アリによって散布される^[20]（アリ散布）。

脚注

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注釈

1. ^ シソ科の多くに見られる分果のように1/2心皮に由来する単位を、mericarp としている例もある^[3]。
2. ^ 複数形は cocci^[4]。
3. ^ ただしこれらの科の中には、分離果以外の果実を形成する種を含むものもある。

出典

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3. ^ ^{a b c d} Stuppy, W. (2004). Glossary of Seed and Fruit Morphological Terms. Seed Conservation Department, Royal Botanic Gardens, Kew, Wakehurst Place. pp. 1–24 
4. ^ “coccus”. WordSense Online Dictionary. 2022年5月6日閲覧。
5. ^ ^{a b c} 山崎敬 (編集), 本田正次 (監修), ed (1984). “1. 果実”. 現代生物学大系 7a2 高等植物A2. 中山書店. pp. 101–110. ISBN (978-4521121710) 
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18. ^ 小林正明 (2007). “子房下位の果皮がマジックテープになる”. 花からたねへ 種子散布を科学する. 全国農村教育協会. pp. 179–181. ISBN (978-4881371251) 
19. ^ 多田多恵子 (2010). “カラスザンショウ”. 身近な草木の実とタネハンドブック. 文一総合出版. p. 112. ISBN (978-4829910757) 
20. ^ 多田多恵子 (2010). “ホトケノザ”. 身近な草木の実とタネハンドブック. 文一総合出版. p. 164. ISBN (978-4829910757) 

関連項目

外部リンク

 

ウィキメディア・コモンズには、分離果に関連するカテゴリがあります。

• Spjut, R.W.. “A Systematic Treatment of Fruit Types”. The World Botanical Associates Web Page. 2022年6月11日閲覧。
• Armstrong, W.P.. “Fruit Terminology Part 3”. Wayne's Word. 2022年7月2日閲覧。