ガガイモ(蘿藦、鏡芋、芄蘭)はキョウチクトウ科(クロンキスト体系ではガガイモ科)のつる性多年草。ガガイモの学名は牧野 (1940) などで Metaplexis japonica と紹介されてきたが、Khanum et al. (2016) でMetaplexis属など[注 1]は(イケマ属)(Cynanchum)に統合するのが妥当とする学説が出され、ガガイモに関しては同論文480頁で提案された Cynanchum rostellatum という新学名がキュー植物園からも認められている[1]。
名称
古名をカガミまたはカガミグサという。夏の季語。いずれの名も語源には諸説あり、イモというのは根ではなくて実の形によるともいう。高橋 (2003) は割れた実の内側が鏡のように光るのでカガミイモ(鏡芋、輝美芋)の名がつき、これが訛ってガガイモとなったとしている。
平安初期の『本草和名』で中国語名の蘿藦がガガイモを表す漢字表記としてあてられ、やがて蘿藦の表記が用いられるようになった。
日本神話では、スクナビコナの神が天之蘿摩船(あまのかがみのふね)に乗ってきたといい、これはガガイモの実を2つに割った小さな舟のこと。
特徴
日本の北海道・本州・四国・九州のほか[2]、朝鮮半島、中国の東アジア一帯に分布する[2][3]。各地の山野に自生し[2]、日当たりのよいの草原や道端などに見られる[3]。日当たりと排水がよく、肥えた土地を好む性質がある[2]。
つる性の多年草で、長い地下茎があり、白い線状で長く伸びると、その先に茎を出す[2]。地下茎はちぎれても、地下茎の一部分から容易に繁殖することできる[2]。つるは右巻き(Z巻き)である。葉は対生し、やや長い心臓形で全縁[2]、葉脈が目立ち、葉身の表面は濃い緑色、裏面は白緑色をしている[3]。葉や茎を切ると白い乳液が出る[2]。
夏に、葉腋から長い花柄を出した先に集散花序がつき、淡紫色から白色の花が10数個ほど咲く[2][3]。花冠は5深裂して星型に反り返り、花冠の内側に毛が密生する[2][3]。果実は大型の紡錘形の袋果で、長さは8 - 10センチメートル (cm) [3]、表面にイボがあり、熟すと割れてボート形になり、中から白い毛の生えた種子が出る[2]。
ヘクソカズラに姿がやや似ており、比べると数は少ないが、横に伸びた根から芽を出して旺盛に繁殖するため、一度生えると雑草化する。
白毛のついた種子がみえる袋果。長さ10cm、径3cm。
袋果が割れ、中の種子が風によって散布される。
利用
かつては種子の毛を綿の代用や朱肉に用いた[4][5]。種子は漢方で蘿摩子(らまし)と呼んで強壮薬に用いることもある。若芽などはゆでて食べられる(多量に食べると有害ともいう)。
生薬
種子と葉は生薬になり、初秋に実を採って天日乾燥して種子を取り出し、葉は夏に採取して陰干しして調製される[2]。乾燥させた種子は蘿摩子(らまし)と称されていて、(強精)、止血に、また葉は解毒、腫れ物に薬効があるとして用いられる[2]。民間療法では、強精目的に羅摩子の乾燥粉末1日量2 - 3グラムを1日2回服用する用法が知られる[2]。切り傷の止血には種子の白毛をつけるとよいとされ[2][3]、腫れ物には葉の粉末をクチナシの粉末(サンシシ末)と一緒に酢で練り合わせて、湿布する方法が知られている[2]。
諸言語における呼称
日本では以下のような方言名が見られる。
- イガイモ: 志摩国[6]
- イモ: 山口県(大島郡)[6]
- カガイモ: 山口県(都濃郡、吉敷郡、大津郡)[6]
- ガカイモ: 山口県(美祢郡)[6]
- カガミ: 熊本県玉名郡[6]
- カガライモ: 山口県大島郡[6]
- カガラビ: 加賀国[6]
- ガガラビ: 加賀国[6]
- カゴイモ: 山口県豊浦郡[6]
- ガンガラビ: 新潟県中蒲原郡[6]
- クサパンヤ[注 2]: 江戸[6]
- クサワタ[注 3]: 静岡県賀茂郡[6]
- ゴアミ: 長野県北安曇郡[6]
- ゴアメ: 長野県北安曇郡[6]
- コアンベ: 長野県北安曇郡[6]
- コーガミ: 仙台[6]
- ゴーガミ: 仙台[6]
- コーガメ: 駿河国[6]
- ゴーガメ: 駿河国[6]
- コーガモ: 遠江国[6]
- ゴガチョ: 秋田県仙北郡[6]
- ゴガッチョー: 秋田県[6]
- コガネ: 木曾[6]
- ゴガベッチョ: 秋田県(平鹿郡、由利郡)[6]
- コガミ: 木曾、宮城県(仙台、登米郡)、長野県更級郡[6]
- ゴガミ[注 2]: 仙台[6]
- ゴガミズル: 仙台[6]
- コガメショ: 秋田県由利郡[6]
- コカライ: 出羽国米沢[6]
- コガラビ: 出羽国[6]
- ゴガラビ: 出羽国[6]
- コガラミ: 山形県庄内[6]
- ゴガラミ: 山形県(新庄市、酒田市)[6]
- コンガラ: 長野県(下水内郡)[6]
- ゴンガラ: 長野県(下水内郡)[6]
- ショーカイモ: 山口県美祢郡[6]
- ショーガイモ: 山口県美祢郡[6]
- チガイモ: 出羽国[6]
- ナガイモ: 山口県(熊毛郡、玖珂郡、都濃郡)[6]
- ハンシャ: 伊予国[6]
- ハンジャ: 伊予国[6]
- ハンヤ: 佐渡[6]
- パンヤ: 木曾、三重県(宇治山田市、伊勢)、三宅島[6]
- ヤマイモ: 山口県(玖珂郡、厚狭郡、豊浦郡、美祢郡、阿武郡)[6]
- ラマソー: 江戸、京都[6]
脚注
注釈
- ^ ちなみに Metaplexis 以外にイケマ属に統合された属は Adelostemma、Glossonema、Graphistemma、Holostemma、Metalepis、Odontanthera、Pentarrhinum、Raphistemma、Seshagiria、Sichuania である。
- ^ a b 牧野 (1940) もガガイモの別名として挙げている。
- ^ 高橋 (2003) はガガイモの別名として「草綿」を掲載している。
出典
参考文献
日本語:
- 牧野, 富太郎『牧野日本植物圖鑑』北隆館、1940年、204頁 。
- 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、33頁。ISBN (4-416-49618-4)。
- 八坂書房 編『日本植物方言集成』八坂書房、2001年、125-6頁。ISBN (4-89694-470-4)。
- 高橋, 勝雄『山溪名前図鑑 野草の名前 夏』山と溪谷社、2003年、84頁。ISBN (978-4-635-07015-7)。
- 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著『花と葉で見わける野草』小学館、2010年4月10日、93頁。ISBN (978-4-09-208303-5)。
英語:
- Govaerts, R., Goyder, D., Leeuwenberg, A. (2019). World Checklist of Apocynaceae. Facilitated by the Royal Botanic Gardens, Kew. Published on the Internet; https://wcsp.science.kew.org/namedetail.do?name_id=520433 Retrieved 7 October 2021
関連文献
英語:
- Khanum, Rizwana; Surveswaran, Siddharthan; Meve, Ulrich; Liede-Schumann, Sigrid (2016). “Cynanchum (Apocynaceae: Asclepiadoideae): A pantropical Asclepiadoid genus revisited”. Taxon 65 (3): 467-486. doi:10.12705/653.3.