高杉 一郎(たかすぎ いちろう、1908年7月17日 - 2008年1月9日)は、日本の評論家・小説家・翻訳家・エスペランティスト。和光大学名誉教授。本名は小川 五郎(おがわ ごろう)で、大学教授としてはこの名前で教えた。
来歴・人物
静岡県生まれ。東京文理科大学教育学科中退。 1933年より改造社に勤務、雑誌『文藝』編集主任ののち、1942年東京文理科大学英文科卒業。1944年徴兵され、ハルピンで敗戦を迎え、シベリア抑留を体験。 1949年復員[1]。帰国後書いた抑留体験記『極光のかげに』『人間』(1950年8-12月)が第24回芥川龍之介賞候補にあがり、ベストセラーとなる。
1950年静岡大学教育学部講師、1957年同文理学部助教授、1965年教授、1967 - 1972年評議員、1972年定年退官。 同年常葉女子短期大学教授。1973年和光大学教授。1989年退職[2]。
1980年、古田拡らとの共著『源氏物語の英訳の研究』で毎日出版文化賞受賞。
2008年、99歳で死去。没する直前にETV特集のインタビューに出演し、改造社編集者時代を長女の介添で語っている。 没後に、太田哲男著『若き高杉一郎 改造社の時代』(未來社)が出版された。
人物
- ロシアの詩人・ワシリー・エロシェンコのエスペラントからの翻訳や紹介、アグネス・スメドレーの英語からの翻訳や紹介、フィリッパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』などの英語およびロシア語の児童文学の翻訳でも有名である。
- 長女はロシア文学者で大阪外国語大学教授を務めた田中泰子、次女はロシア文学者(佐野朝子)。三女は文教大学教授で、絵本研究家中川素子。義妹(妻の妹)の大森寿恵子は宮本顕治夫人。
- 孫の(田中友子)(翻訳家)は、日中戦争さなかの次のようなエピソードを記している。1930年 代末期、 関東軍の大佐だった妻順子の兄から満州への移住を打診される。迷った高杉は「家族ぐるみの付き合いをしていた」作家の宮本百合子に相談をした。「そして、結局、義理の兄に断りの電話を入れることになる」。百合子はこの時の高杉夫妻をモデルにして短編『杉垣』を執筆していると[3]。
著書
- 『極光のかげに』(目黒書店) 1950、のち新潮文庫 1951、のち(冨山房百科文庫) 1977、のち岩波文庫 1991
- 『盲目の詩人エロシェンコ』(新潮社) 1956
- 『英米児童文学』(編著、(中教出版)) 1977
- 『中国の緑の星 長谷川テル反戦の生涯』(朝日選書) 1980
- 『ザメンホフの家族たち あるエスペランティストの精神史』((田畑書店)) 1981
- 『夜明け前の歌 盲目詩人エロシェンコの生涯』(岩波書店) 1982
- 『大地の娘 アグネス・スメドレーの生涯』(岩波書店) 1988
- 『スターリン体験』(岩波書店、同時代ライブラリー) 1990、のち改題『わたしのスターリン体験』(改訂版)(岩波現代文庫)2008
- 『シベリアに眠る日本人』(岩波書店、同時代ライブラリー) 1992
- 『征きて還りし兵の記憶』(岩波書店) 1996、のち岩波現代文庫 2002
- 『ひとすじのみどりの小径 エロシェンコを訪ねる旅』((リベーロイ社)) 1997
- 『あたたかい人』(太田哲男編、みすず書房) 2009 - 遺文集
翻訳
- 『町からきた少女』(ヴォロンコーワ、岩波少年文庫) 1956
- 『ガンジー伝』(J・イートン、岩波少年文庫) 1957
- 『中国の歌ごえ』(アグネス・スメドレー、みすず書房、現代史大系) 1957、のちちくま文庫上・下 1994
- 『エロシェンコ全集』全3巻(ヴァスィリー・エロシェンコ、みすず書房) 1959
- 『ピーター・パン』(ジェイムズ・マシュー・バリ、 講談社、少年少女世界文学全集) 1960、のち講談社文庫、のち講談社青い鳥文庫 2010
- 『せむしの小うま』((エールショーフ)、 講談社、少年少女世界文学全集) 1962
- 『ある革命家の思い出』(クロポトキン、平凡社、世界教養全集) 1962、のち岩波文庫上・下 1979、のち平凡社ライブラリー上・下 2011
- 『ギリシア神話』(R・グレーヴス、紀伊国屋書店) 1962、のち新装版 1998
- 『権力とたたかう良心』(ツヴァイク、みすず書房、ツヴァイク全集) 1963
- 『まほうの馬』(アレクセイ・トルストイ,M・ブラートフ、田中泰子共訳、岩波書店) 1964
- 『アルタイ物語』(ヴォロンコーワ、講談社) 1965
- 『中国は抵抗する 八路軍従軍記』(アグネス・スメドレー、岩波書店) 1965
- 『オズの魔法使い』(ライマン・フランク・バウム、河出書房、少年少女世界の文学) 1967
- 『極北の犬トヨン』((ニコライ・カラーシニコフ)、学習研究社) 1968、のち徳間書店
- 『キャンディいそいでお帰り』(マインダート・ディヤング、講談社) 1969
- 『信号』(ガルシン、講談社、世界の名作図書館) 1969
- 『しあわせをもってくるあひる』(マインダート=ディヤング、講談社) 1969
- 『ホメーロスのイーリアス物語』((バーバラ・L・ピカード)、岩波書店) 1970、のち岩波少年文庫 2013
- 『ふしぎの国のアリス』(ルイス・キャロル、講談社、こどもの世界文学) 1972、のち講談社文庫、のち講談社青い鳥文庫 2008
- 『ホメーロスのオデュッセイア物語』(バーバラ・L・ピカード、岩波書店) 1972、のち岩波少年文庫 上・下 2014
- 『エロシェンコ作品集』1 - 2 (エロシェンコ、みすず書房) 1974
- 『トーム=ソーヤの冒険』(マーク・トウェーン、学習研究社) 1975、のち講談社文庫 1990
- 『少年鼓手』(リオン・ガーフィールド、福音館書店) 1976
- 『子どもの本の歴史 英語圏の児童文学』((ジョン・ロウ・タウンゼンド)、岩波書店) 1982
- 『ジャングルの少年』(チボール・セケリ、福音館書店) 1983
- 『ロシア文学の理想と現実』上・下(ピョートル・クロポトキン、岩波文庫) 1984 - 1985
フィリパ・ピアス
- 『トムは真夜中の庭で』(フィリッパ・ピアス、岩波書店) 1967、のち岩波少年文庫、のち新装版 2000
- 『ペットねずみ大さわぎ』(フィリパ・ピアス、岩波書店) 1984
- 『幽霊を見た10の話』(フィリパ・ピアス、岩波書店) 1984
- 『サティン入江のなぞ』(フィリパ・ピアス、岩波書店) 1986
- 『ライオンが学校へやってきた』(フィリパ・ピアス、岩波書店) 1989
- 『こわがってるのはだれ?』(フィリパ・ピアス、岩波書店) 1992