サワラ(椹[3]、学名: Chamaecyparis pisifera)は、ヒノキ科ヒノキ属の1種。日本特産の針葉樹である[4]。
分布
日本固有種で、本州の岩手県早池峰山から、九州の長崎県島原半島にかけての山地に自生する[4]。日本海側の地域には分布しない[4]。谷筋の湿ったところで生育し、生長が早い[3]。九州ではサワラのことを形態的によく似ている「アスナロ」とよぶことがある[3]。
形態
常緑針葉樹の高木[3]。樹高は30 - 40メートル (m) 、胸高直径は100センチメートル (cm) になることもある[4]。主幹形であり外見はヒノキ(C. obtusa)によく似るが、枝はヒノキほど茂らず、枝と枝の間隔が広くなるため、遠くからでも幹がよく目立つ。葉は十字対生し、葉の付き方をみるとヒノキよりも隙間が多い[4]。葉の形状もヒノキの葉の先端は丸く葉裏の白い気孔腺がY字なのに対し、サワラの葉は先端が尖っていて葉裏の白い気孔腺がX字である[4]。また、アスナロの気孔腺は広いので区別できる[3]。
花期は春(4月)[3]。果期は秋(9 - 10月)[3]。球形の果実は直径6ミリメートル (mm) ほどで、ヒノキの果実よりも小さい[3]。
品種
- C. pisifera サワラ
- ver. pisifera
- f. crassa アツカワサワラ
- 'Boulevard' ボールバード
- 'Filifera' ヒヨクヒバ、イトヒバ
- 'Filifera Aurea' オウゴンヒヨクヒバ、オウゴンワイセイスイリュウヒバ
- 'Plumosa Aurea' オウゴンシノブヒバ、ニッコウヒバ、ホタルヒバ
- 'Plumosa' シノブヒバ
- 'Squarrosa' ヒムロ - 檜榁、ヒムロ杉とも。
- ver. pisifera
著名な個体
日本国内最大のサワラは、福島県いわき市にある国の天然記念物「沢尻の大ヒノキ(サワラ)樹高29 m、幹周10 m、推定樹齢800年」である。天然記念物としての指定名称からもサワラとヒノキが似ていることが分かる[6]。
ヒノキとの関係
ヒノキ科ヒノキ属。日本を代表する林業用樹種であるヒノキ(C. obtusa)とは同属であり、形態的にもよく似ている。ヒノキは山の中腹部より上の乾いた土地に生えるが、サワラは谷筋の湿ったところで育つ[3]。
遺伝的にもヒノキに近く、両者間では繁殖能力のある雑種を作る。この雑種についてはDNA解析などの結果、雄親を本種、雌親をヒノキとするものが良く知られていたが、逆の組み合わせもあることが報告された[7]。ヒノキ以外に、天然分布が重ならないローソンヒノキ(Chamaecyparis lawsonia)とも交雑し、充実種子(中身が詰まっており、発芽できると思われる種子)を得られるという報告もある。ただし、この種子を発芽試験に供した結果、雑種実生は葉緑体に異常があり多くは発芽直後に枯死してしまった[8]。
利用
ヒノキよりも軽く軟らかいため柱以外の建築材や、器具材に利用される[4][3]。サワラの語源もヒノキよりもさわらか(軽軟)であることに由来する[4]。ヒノキよりも水湿に強く、桶やたらいなどの材によく用いられる[4]。特に米びつなど味覚に関係あるものは、材の香りが強すぎるヒノキよりも、サワラが多い[3]。木曽五木の1つである。殺菌作用があるため、松茸など食品の下の敷物としても使われる。
庭園に植えられるヒヨクヒバやヒムロなどの園芸種はサワラの変種である[4]。
脚注
- ^ Farjon, A. (2013). Chamaecyparis pisifera. The IUCN Red List of Threatened Species 2013: e.T42213A2962099. doi:10.2305/IUCN.UK.2013-1.RLTS.T42213A2962099.en. Downloaded on 20 June 2021.
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Chamaecyparis pisifera (Siebold et Zucc.) Endl.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月20日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k 田中潔 2011, p. 37.
- ^ a b c d e f g h i j “サワラ”. 東京農工大学. 2020年2月22日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ 樹々山坊 日本の巨木
- ^ 楢崎康二・渡邉敦史・冨田啓治・佐々木義則・白石進, (1995), ヒノキとサワラの種間雑種および園芸品種のDNA分析, 日本林學會誌 78(2), 157-161.
- ^ 山本千秋. 1981. ローソンヒノキと他のヒノキ属数種との種間交雑の可能性. 日本林學會誌 63(9), 311-319