インタラクティブ・ライブ(Interactive Live)とは、インターネット黎明期にミュージシャン平沢進が支援者の協力を得て考案し、1994年から開始した「ストーリー仕立ての観客参加型」マルチメディア・コンサート[1]。デジタルコンテンツグランプリ2001にて最高賞である経済産業大臣賞、並びにエンターテイメント部門最優秀賞を受賞[2][3]。
考案理由
1980年代の終わり頃からデジタル技術が著しく発達し(この時期にはまだ個人へのインターネットサービスプロバイダは無い)、90年初頭よりミュージシャンが「個人」でできる範囲も広がり始め、インターネットの普及を予見した平沢は、新たなパフォーマンスの形態としての利用を考えていた[4]。
平沢曰く、「当時音楽制作から流通に至るまでのプロセスにおける最後の部分、つまり「情報発信」とダウンロードを含めた「流通」の部分が、インターネットによって完全に網羅されると思ったんです。」、「当時のP-MODELのような、デジタルで音楽を形にしていくアーティストにとって、「ライブをやることの必然性」というのが実はあまりないんですよ。もちろん、打ち込まれた音源を大勢の人の前で鳴らし、それに合わせて生身の人間がパフォーマンスをすることには意義があると思います。ですが、それとはまったく違う形で、デジタル系のアーティストが「ライブをやることの必然性」を探りたかったんです。それと、せっかく手中に収めたインターネットというメディアを、自分の音楽のなかにどう取り込んでいくか? というある種の実験の意味もありました。」、「たとえばレコーディングスタジオでの作業がパソコン1台でできるようになり、それまで資本がなければ動かせなかったメディアや流通機構を自分の手中に収めることができる。そういった感触を得ることができたため、インターネットを早い段階から積極的に取り入れることにしました。」とインタビュー内で語っている[4]。
1998年のオールナイトニッポン内でやるに至る切っ掛けを質問され、「音楽をコンピューターでやるようになってきた昨今。演奏も楽器からコンピューターで演奏するようになってきました。お客さんはライブを観る時に楽器を演奏する姿を観て喜び、楽しみ、そこにインタラクティブ(対話)が生まれるんです。しかし、コンピューターで演奏する姿は全然肉体的じゃないわけで、つまりコンピューターでそのようなショーにする為には、コンピューターそのもののメディア的な性格を最大限に引き出す事が、ライブに望む意味ではないかと考えたんです。」と答えている[5]。
パフォーマンス形式
オーディエンス(観客)はロールプレイングゲーム(RPG)のように、そのステージ上に設置された巨大スクリーンに投影される文字情報や映像によって表現されるストーリーの分岐を、声などのレスポンスにより選択していく[1]。通常ミュージシャンの行うライブでは、ミュージシャンが事前に設定した曲目を順に披露していくが、物語の進行の鍵を握るのはオーディエンスであり、オーディエンスのリアクションによって、物語も、演奏される楽曲も変わっていく[6]。物語にはいくつかの分岐点(ホット・ポイント)に加え、「グッドエンド」や「バッドエンド」等、数種類の結末が用意されており、観客は「グッドエンド」へ向けての選択をしていくく[6]。1998年からは演者と観客の双方向性を重視したパフォーマンスとなっている[6]。インターネットを通じて現地の様子を生配信し、併せて特設サイトに提示された課題を解くことで、会場に足を運ばなかったリスナーも在宅オーディエンスとしてライブの進行に影響を及ぼせるという仕組みも導入された[6]。在宅のコンピューターからライブ観客(在宅オーディエンスと呼ばれる)として参加可能となっており、リアル(現地参加)と仮想空間(ネット参加)の双方が同時にこれらの分岐決定に参加できるようになっており[6][7]、ライブストーリーの展開は、会場に仕掛けられた様々なインターフェースによって観客の行動をライブの進行に反映させることで変化する仕組みになっている[6]。これらのストーリーの準備には約1年程準備が必要となり、分岐で演奏楽曲が変化されるため、ライブ二つ分の準備作業が必要となっている[5]。
2000年初頭まではAMIGAコンピュータを使って行われていたが、当時はコンピューターのスペックの問題が多く、些細なミスで上手く動かなくなることがあった[8]。1998年のインタラクティブ・ライブではエラーが発生し、40分程度ライブが中断してしまったことがあった[8]。これらのリスクについては、「オーディエンスのその場の反応や判断、リアルタイムのインターネットからのアクセスでストーリーが分岐・展開するからこそインタラクティヴなわけで、演出だけを取り繕って決められたストーリーが展開するのでは、意味が全くない。そのために背負うリスクは確かに大きいのだけれど、どのようなストーリーに展開していくか、本番では我々もスタッフももの凄い緊張感と達成感が得られるんです。」としていた[8]。AMIGA仕様時代のライブの運用方法については、1994年10月に当時のファンクラブ(平沢バイパス)限定発売のVHSライブビデオ「making of tokyo paranesian」にて平沢自身が詳しく解説している[9]。
サポートとしてゲストミュージシャンを呼ぶ事が多く。過去には戸川純やP-MODELの元メンバーも参加している[10][11][12]。
映像販売
平沢が自社ケイオスユニオン並びに自社レーベル「TESLAKITE」設立後の「INTERACTIVE LIVE SHOW 2000 賢者のプロペラ」からのライブDVDは公式サイトにて購入可能である[13]。
1996年開催の「架空のソプラノ INTERACTIVE LIVE SHOW SIREN」もDVD販売されていたが、現在は再販の目途が立っていない状態である[14]。
音源販売
2021年11月27日、1996年に東京・ホテルメルパルク東京 メルパルクホールで行ったインタラクティブライブショー「SIREN - 架空のソプラノ」のライブ音源が各音楽配信サービスで配信販売、サブスクリプション配信が開始された[15]。
受賞
2000年に行われた「インタラクティブ・ライブ・ショウ 2000 賢者のプロペラ」が平成14年度、デジタルコンテンツグランプリ2001において「作品表彰の部」の最高賞である経済産業大臣賞、並びにエンターテイメント部門最優秀賞を受賞している[3][2]。
公演
年 | 回 | タイトル | 会場 | サポートメンバー |
---|---|---|---|---|
1994年 | 1 | AURORA TOUR 1994 INTERACTIVE LIVE オーロラ伝説 | 全3公演 | 戸川純:Cho、"マザー・オブ・ナバホ"役 |
2 | TOKYOパラネシアン | 全3公演 | TAKA:Key、"電気ッTAKA"役 上領亘:アルゴリズム 高橋BOB:Ba、"IOラスタ"役 | |
3 | I3 DAYS '94「Adios Jay」 | 全1公演 12月13日 LIQUIDROOM | 上領亘:アルゴリズム | |
1995年 | 4 | INTERACTIVE LIVE SHOW SIM CITY TOUR | 全3公演 9月1日 スカラエスパシオ 9月4日 大阪郵便貯金会館 9月6日 渋谷公会堂 | Miss-N:Cho |
1996年 | 5 | INTERACTIVE LIVE SHOW Vol.5 SIREN | 全3公演 | Miss-N:Cho Miss-Aeh:Cho |
1998年 | 6 | INTERACTIVE LIVE SHOW "WORLD CELL" | 福間創:System | |
2000年 | 7 | INTERACTIVE LIVE SHOW 2000 賢者のプロペラ | 全4公演 | MIRAI:System、"スペース・ナッカドー"役 小西健司:System、"アイアン・ナッカドー"役 |
2003年 | 8 | Interactive Live Show 2003 LIMBO-54 | 全4公演 | (ソロ) |
2006年 | 9 | INTERACTIVE LIVE SHOW 2006 「LIVE 白虎野」 | 全3公演 | |
2009年 | 10 | INTERACTIVE LIVE SHOW 2009 「点呼する惑星」 | 全3公演 4月16日 江戸川区総合文化センター 4月17日 江戸川区総合文化センター 4月18日 江戸川区総合文化センター | A-sai:パフォーマンス、"Naangfaa 1"役 Fiat:パフォーマンス、"Naangfaa 2"役 Rang:パフォーマンス、"Astro-Hue!"役 |
2013年 | 11 | INTERACTIVE LIVE SHOW 2013 「ノモノスとイミューム」 | 全3公演 1月24日 渋谷公会堂 1月25日 渋谷公会堂 1月26日 渋谷公会堂 | 折茂昌美:Vo、ナレーション、"サンミア"役 野田隼平:"Amputeeガーベラ"役 PEVO1号:折茂のエスコート |
2015年 | 12 | INTERACTIVE LIVE SHOW 2015 「WORLD CELL 2015」 | 全3公演 11月27日 (TOKYO DOME CITY HALL) 11月28日 TOKYO DOME CITY HALL 11月29日 TOKYO DOME CITY HALL | PEVO1号:Gt、Laser Harp、村正 折茂昌美:"火事場のサリー"役(声のみ) Rang:"Astro-Hue!"役(映像のみ) |
2022年 | 13 | INTERACTIVE LIVE SHOW 2022 「ZCON」 | 全3公演 | オリモマサミ:"シトリン"役 ナカムラルビイ:"ルビイ"役 会人SSHO 、会人TAZZ、在宅オーディエンス:"天候技師"役 会場オーディエンス:"改訂評議会員"役 |
参考文献
- 奇才・平沢が提唱する“真”のインタラクティヴ(2000年11月29日)
- インターネットのパイオニア、核P-MODEL・平沢進インタビュー (2018年12月17日)
- 平沢進が提示した「思考のためのライブ」。『INTERACTIVE LIVE SHOW 2022「ZCON」』濃密ライブレポート(2022年3月30日)
脚注
- ^ a b “インタラクティブ・ライブとは|Susumu Hirasawa Interactive Live WORLD CELL 2015”. susumuhirasawa.com. 2021年11月21日閲覧。
- ^ a b “デジタルコンテンツグランプリ2001』グランプリ決定のお知らせ”. ssl.jp-benas.co.jp. 2019年5月6日閲覧。
- ^ a b “プロフィール| 平沢進 | 日本コロムビアオフィシャルサイト”. 日本コロムビア公式サイト. 2021年10月3日閲覧。
- ^ a b “インターネットのパイオニア、核P-MODEL・平沢進インタビュー | CINRA”. www.cinra.net. 2021年11月21日閲覧。
- ^ a b オールナイトニッポン(1998) 特別ゲスト・平沢進
- ^ a b c d e f “観客のリアクションによって演奏される楽曲が変わる! オーディエンス参加型ライブ「インタラクティブ・ライブ」をあなたは知っているか?”. ロケットニュース24 (2015年12月17日). 2021年11月21日閲覧。
- ^ “奇才・平沢が提唱する“真”のインタラクティヴ【パート1】”. BARKS. 2021年11月21日閲覧。
- ^ a b c “奇才・平沢が提唱する“真”のインタラクティヴ【パート2】”. BARKS. 2021年11月21日閲覧。
- ^ “平沢進ディスコグラフィー・making of tokyo paranesian|平沢進 Susumu Hirasawa (P-MODEL) Official site”. susumuhirasawa.com. 2021年11月21日閲覧。
- ^ AURORA TOUR 1994 INTERACTIVE LIVE オーロラ伝説
- ^ INTERACTIVE LIVE SHOW "WORLD CELL"
- ^ INTERACTIVE LIVE SHOW 2000 賢者のプロペラ
- ^ “DVD : TESLAKITE ONLINE SHOP : SUSUMU HIRASAWA / P-MODEL CD,GOODS,MP3”. shop.teslakite.com. 2022年4月9日閲覧。
- ^ “SIREN - 架空のソプラノ / 平沢進 [CHTE-0041 - 5,238円 : TESLAKITE ONLINE SHOP : SUSUMU HIRASAWA / P-MODEL CD,GOODS,MP3]”. shop.teslakite.com. 2022年4月9日閲覧。
- ^ Inc, Natasha. “平沢進、1996年のインタラクティブショー「SIREN - 架空のソプラノ」の音源を初配信”. 音楽ナタリー. 2021年11月27日閲覧。