2012年ロンドンオリンピックの陸上競技・男子100m(2012ねんロンドンオリンピックのりくじょうきょうぎ だんし100メートル)は8月4日から5日にかけてイギリス・ロンドンのオリンピック・スタジアムで開催された[1]。本競技は予備予選、予選、1組8人×3組で争われる準決勝、準決勝を通過した8人の出場による決勝の4段階から構成された[2]。
ロンドンオリンピックに至るまで、前回2008年北京オリンピックで 世界記録を樹立したウサイン・ボルトがスター選手であった[3]。北京オリンピックでは勝利の後のパフォーマンスでも注目された[4]。ボルトに対する賞賛はより真剣な競技姿勢で臨んだ第12回世界陸上(ドイツ・ベルリン)まで続いた[5]。しかし、次の第13回世界陸上(韓国・大邱)ではフライングによりボルトは失格となり、ともに練習してきたヨハン・ブレークが優勝した。そして2012年のジャマイカのオリンピック選考会でもブレークはボルトに勝利した[6]。
準決勝第1組に出場したジャスティン・ガトリンは準決勝の最速記録である9秒82で通過し、かつての記録保持者であるアサファ・パウエルを下した。さらにパウエルは9秒91をマークしたチュランディ・マルティナにも敗れて9秒94で3位となり、記録により決勝進出を決めた。同組を走ったスワイボウ・サネーは前日に続いてガンビアの国内記録を更新する10秒18を記録した。第2組には前回覇者で世界記録保持者のウサイン・ボルトが9秒87で軽く通過、ライアン・ベイリーが9秒96で2位となった。第3組では9秒85でヨハン・ブレークが9秒90のタイソン・ゲイを交わした。この結果、9秒94のパウエルと10秒02で北京オリンピック銀メダリストのリチャード・トンプソがタイムにより決勝進出を決めた[7]。
期待された決勝では躓きながらもパウエルが少し飛び出てその後ガトリン、ゲイが出てきて50mを過ぎたところでボルトが他の競技者全員を抜き去り、100mで金メダルを獲得した。ブレークもガトリンを破り、ガトリンはゴールラインでゲイをかわした。
ボルトはカール・ルイス以来史上2人目の2連覇を9秒63をマークして成し遂げ、自身が北京オリンピックでマークしたオリンピック記録を更新した。 また、ボルトにとって2番目に良い記録となった。ボルトのジャマイカのチームメイトであるブレークは9秒75で銀メダル、かつての世界記録保持者でオリンピック覇者のガトリンが9秒79で銅メダルを獲得した。このレースでは、史上初めて3位までが9秒80以内にゴールし、初めて5位までが9秒90以内にゴール、初めて4位までが全員100mの優勝経験を持っており、8人中7人が10秒以内に走り切るという数々の記録を達成した。60mまでは順調だったが、そこで負傷したパウエルは唯一10秒を切れず、11秒99であった。繰り返しになるが、パウエルを除き100m決勝の記録としては史上最速であった[8]。
記録 ロンドンオリンピック開幕までの世界記録は以下の通りであった。
WR 世界記録 | AR エリア記録 | CR 選手権記録 | GR 大会記録 | NR 国家記録 | OR オリンピック記録 | PB 自己ベスト | SB シーズンベスト | WL 世界最高(当該シーズン中)
本大会において、以下の記録が更新された。
日 | 種別 | 選手 | 記録 | 備考 |
---|
8月5日 | 決勝 | ウサイン・ボルト (JAM) | 9秒63 | OR |
競技日程 ※時刻はすべて英国夏時間()
日 | 時 | |
---|
2012年8月4日土曜日 | 10:00 12:30 | 予備予選 予選 |
2012年8月5日日曜日 | 19:45 21:50 | 準決勝 決勝 |
競技結果 予備予選
予備予選通過基準:各組上位2着(Q)及び記録上位2名(q)[9]
WR 世界記録 | AR エリア記録 | CR 選手権記録 | GR 大会記録 | NR 国家記録 | OR オリンピック記録 | PB 自己ベスト | SB シーズンベスト | WL 世界最高(当該シーズン中)
1組
順位 | 選手 | 国籍 | 反応時間 | 記録 | 備考 |
---|
1 | Artur Bruno Rojas | ボリビア | 0.162 | 10.62 | Q |
2 | Devilert Arsene Kimbembe | コンゴ共和国 | 0.143 | 10.68 | Q, SB |
3 | ホルダー・ダ・シルバ | ギニアビサウ | 0.168 | 10.69 | q, SB |
4 | Joseph Andy Lui | トンガ | 0.184 | 11.17 | |
5 | Mohan Khan | バングラデシュ | 0.149 | 11.25 | PB |
6 | Kilakone Siphonexay | ラオス | 0.174 | 11.30 | |
7 | Christopher Lima da Costa | サントメ・プリンシペ | 0.195 | 11.56 | PB |
| 風 +0.9 m/s |
2組
3組
順位 | 選手 | 国籍 | 反応時間 | 記録 | 備考 |
---|
1 | Béranger Aymard Bosse | 中央アフリカ | 0.162 | 10.55 | Q |
2 | Yeo Foo Ee Gary | シンガポール | 0.159 | 10.57 | Q, PB |
3 | Azneem Ahmed | モルディブ | 0.153 | 10.79 | q, NR |
4 | J'maal Alexander | イギリス領ヴァージン諸島 | 0.163 | 10.92 | |
5 | John Howard | ミクロネシア連邦 | 0.203 | 11.05 | |
6 | クリスメケ・ワラシ(Chris Walasi) | ソロモン諸島 | 0.164 | 11.42 | |
7 | Elama Fa’atonu | アメリカ領サモア | 0.170 | 11.48 | PB |
| 風 +1.7 m/s |
4組
順位 | 選手 | 国籍 | 反応時間 | 記録 | 備考 |
---|
1 | Gérard Kobéané | ブルキナファソ | 0.194 | 10.42 | Q, SB |
2 | Fabrice Coiffic | モーリシャス | 0.149 | 10.62 | Q |
3 | Courtney Carl Williams | セントビンセント・グレナディーン | 0.164 | 10.80 | PB |
4 | Rachid Chouhal | マルタ | 0.160 | 10.83 | SB |
5 | Tilak Ram Tharu | ネパール | 0.156 | 10.85 | PB |
6 | Masoud Azizi | アフガニスタン | 0.167 | 11.19 | |
7 | Nooa Takooa | キリバス | 0.155 | 11.53 | PB |
8 | Patrick Tuara | クック諸島 | 0.165 | 11.72 | |
| 風 +0.5 m/s |
予選
予選通過基準:各組上位3着(Q)及び記録上位3名(q)[10]
WR 世界記録 | AR エリア記録 | CR 選手権記録 | GR 大会記録 | NR 国家記録 | OR オリンピック記録 | PB 自己ベスト | SB シーズンベスト | WL 世界最高(当該シーズン中)
| DNF 途中棄権 | DNS 棄権
1組
2組
3組
4組
5組
順位 | レーン | 選手 | 国籍 | 反応時間 | 記録 | 備考 | 予選通過 |
---|
1 | 6 | アサファ・パウエル | ジャマイカ | 0.166 | 10.04 | | Q |
2 | 3 | Adam Gemili | イギリス | 0.156 | 10.11 | | Q |
3 | 5 | チュランディ・マルティナ | オランダ | 0.168 | 10.20 | | Q |
4 | 8 | レザ・ガセミ | イラン | 0.148 | 10.31 | | |
5 | 4 | オビナ・メトゥ(Obinna Metu) | ナイジェリア | 0.153 | 10.35 | | |
6 | 7 | ラモン・ギテンス | バルバドス | 0.162 | 10.35 | | |
7 | 1 | Paul Williams | グレナダ | 0.168 | 10.65 | | |
8 | 2 | Devilert Arsene Kimbembe | コンゴ共和国 | 0.157 | 10.94 | | |
| 風 0.0 m/s |
6組
7組
準決勝
準決勝通過基準:各組上位2着(Q)及び記録上位2名(q)[11]
WR 世界記録 | AR エリア記録 | CR 選手権記録 | GR 大会記録 | NR 国家記録 | OR オリンピック記録 | PB 自己ベスト | SB シーズンベスト | WL 世界最高(当該シーズン中)
| DNS 棄権
1組
順位 | レーン | 選手 | 国籍 | 反応時間 | 記録 | 備考 | 予選通過 |
---|
1 | 7 | ジャスティン・ガトリン | アメリカ合衆国 | 0.187 | 9.82 | | Q |
2 | 2 | チュランディ・マルティナ | オランダ | 0.148 | 9.91 | NR | Q |
3 | 4 | アサファ・パウエル | ジャマイカ | 0.155 | 9.94 | | q |
4 | 8 | キーストン・ブレドマン | トリニダード・トバゴ | 0.175 | 10.04 | | |
5 | 6 | ベン=ユスフ・メイテ | コートジボワール | 0.163 | 10.13 | | |
6 | 5 | ジミー・ビコ | フランス | 0.203 | 10.16 | | |
7 | 9 | ジェームズ・ダサオル | イギリス | 0.174 | 10.18 | | |
8 | 3 | スワイボウ・サネー | ガンビア | 0.175 | 10.18 | NR | |
| 風 +0.7 m/s |
2組
順位 | レーン | 選手 | 国籍 | 反応時間 | 記録 | 備考 | 予選通過 |
---|
1 | 4 | ウサイン・ボルト | ジャマイカ | 0.180 | 9.87 | | Q |
2 | 6 | ライアン・ベリー | アメリカ合衆国 | 0.155 | 9.96 | | Q |
3 | 8 | リチャード・トンプソン | トリニダード・トバゴ | 0.158 | 10.02 | | q |
4 | 5 | ドウェイン・チェンバース | イギリス | 0.154 | 10.05 | | |
5 | 9 | Gerald Phiri | ザンビア | 0.165 | 10.11 | SB | |
6 | 7 | ダニエル・ベイリー | アンティグア・バーブーダ | 0.142 | 10.16 | | |
7 | 2 | アントワーヌ・アダムス | セントクリストファー・ネイビス | 0.159 | 10.27 | | |
8 | 3 | 蘇炳添 | 中国 | 0.157 | 10.28 | | |
| 風 +1.0 m/s |
3組
順位 | レーン | 選手 | 国籍 | 反応時間 | 記録 | 備考 | 予選通過 |
---|
1 | 6 | ヨハン・ブレーク | ジャマイカ | 0.176 | 9.85 | | Q |
2 | 4 | タイソン・ゲイ | アメリカ合衆国 | 0.151 | 9.90 | | Q |
3 | 7 | Adam Gemili | イギリス | 0.158 | 10.06 | | |
4 | 8 | デリック・アトキンス | バハマ | 0.164 | 10.08 | SB | |
5 | 9 | ジャスティン・ワーナー | カナダ | 0.135 | 10.09 | PB | |
6 | 5 | 山縣亮太 | 日本 | 0.158 | 10.10 | | |
7 | 3 | ロンデル・ソリーリョ | トリニダード・トバゴ | 0.140 | 10.31 | | |
N/A | 2 | ケマー・ハイマン | ケイマン諸島 | N/A | N/A | DNS | |
| 風 +1.7 m/s |
決勝
WR 世界記録 | AR エリア記録 | CR 選手権記録 | GR 大会記録 | NR 国家記録 | OR オリンピック記録 | PB 自己ベスト | SB シーズンベスト | WL 世界最高(当該シーズン中)
順位 | レーン | 選手 | 国籍 | 反応時間 | 記録 | 備考 | 予選通過 |
---|
1 | 7 | ウサイン・ボルト | ジャマイカ | 0.165 | 9.63 | OR |
2 | 5 | ヨハン・ブレーク | ジャマイカ | 0.179 | 9.75 | =PB |
3 | 6 | ジャスティン・ガトリン | アメリカ合衆国 | 0.178 | 9.79 | PB |
4 | 4 | タイソン・ゲイ | アメリカ合衆国 | 0.145 | 9.80 | SB |
5 | 8 | ライアン・ベリー | アメリカ合衆国 | 0.176 | 9.88 | =PB |
6 | 9 | チュランディ・マルティナ | オランダ | 0.139 | 9.94 | |
7 | 2 | リチャード・トンプソン | トリニダード・トバゴ | 0.160 | 9.98 | |
8 | 3 | アサファ・パウエル | ジャマイカ | 0.155 | 11.99 | |
| 風 +1.5 m/s |
事件 決勝において1人の男が、選手が「用意」(set)の姿勢をとっている最中にペットボトルを投げ込んだ[12]。ペットボトルはブレークのすぐ後ろに落ちたが、競技はそのまま続行された[13]。男は、決勝を観戦していた柔道女子70kg級の銅メダリストエディス・ボッシュに取り押さえられ、逮捕された[14]。ボッシュによると男はボルトに対して侮辱する言葉を発し、その時ボルトは気付かなかったが、「暴力には賛成できないし、それを聞いて残念に思う」とコメントした[12]。
脚注 - ^ “Athletics at the 2012 Summer Olympics”. Official site of the London 2012 Olympic and Paralympic Games. 2012年8月9日閲覧。
- ^ “100m competition format”. London 2012 Organising Committee. 2012年6月12日閲覧。
- ^ “Usain Bolt, Yohan Blake Aim To Win 100 Meters, Add To Jamaica's Olympic Gold Tally”. Huffingtonpost.com (1962年8月5日). 2012年8月7日閲覧。
- ^ “Usain Bolt wins men's 100m Olympic final in 9.63 seconds to seal legacy”. Telegraph (2011年5月31日). 2012年8月7日閲覧。
- ^ Clarey, Christopher (2009年8月21日). “Usain Bolt - The New York Times”. Topics.nytimes.com. 2012年8月7日閲覧。
- ^ “2012 Olympics Games - Yohan Blake beats Usain Bolt in 100 meters at Jamaican trials - ESPN”. Espn.go.com (2012年6月30日). 2012年8月7日閲覧。
- ^ “陸上ロンドン五輪 男子100m - テキスト速報”. Yahoo!Japan. 2012年8月9日閲覧。
- ^ “0 Toplists 100 m - o”. iaaf.org. 2012年8月7日閲覧。
- ^ “Men's 100m - Preliminaries”. London 2012 Organising Committee. 2012年8月3日閲覧。
- ^ “Men's 100m - Round 1”. London 2012 Organising Committee. 2012年8月3日閲覧。
- ^ “Men's 100m - Semifinals”. London 2012 Organising Committee. 2012年8月4日閲覧。
- ^ a b “ボルトにボトル投げた男逮捕、五輪100m決勝スタート時に”. Thomson Reuters (2012年8月6日). 2012年8月9日閲覧。
- ^ “100m決勝 ペットボトル投げ入れる”. 日本放送協会 (2012年8月6日). 2012年8月9日閲覧。
- ^ Ward, Victoria (2012年8月5日). “Spectator arrested after bottle thrown at 100m final”. The Telegraph. 2012年8月6日閲覧。
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