黄河の大洪水（こうがのだいこうずい）とは、紀元前1920年頃に発生し、夏王朝が建国される切っ掛けとなったとされる伝説上の洪水のことである。
本文では、当時は洪水が頻発していた[注釈 1]が、この洪水が中国文明に多大な影響をもたらしたことから、他の洪水と区別するために「大」を用いる。また、これに関係する洪水があったのではないかという説によるものを「実際の」とするが、実在性が確かめられている訳ではない事に留意。
原因
伝説上の原因
水の神である共工が舜を攻めたことにより発生したとされる。これは、共工を信仰する羌族の言い換えであり、1000年にもわたる共工の中国文明[注釈 2]に対する悪事は、羌族による度重なる攻撃と同時に、頻発する洪水を意味していた[注釈 3]。伝説では共工が洪水の洪の字の由来になったとされる。
実際の原因
紀元前1920年頃の中国に起こった大地震[1]による地滑りで天然の土砂ダムが発生し、それが決壊したことによりもたらされたとされる。
結果
伝説上の結果
帝王[注釈 4]舜はこの土木工事に誰が適任かを家臣に問い、鯀をこの工事にあたらせた。しかし、9年経っても成果が出なかったため罷免し、鯀の子の禹にあたらせた。すると、洪水は収まり、治世もよくなったという。伝説では、鯀が水を防ぐこと一本で工事を行った[注釈 5]のに対して、禹が流水路を整備する方法[注釈 6]を用いたことに起因するとしており、この時期の治水技術の著しい発展を意味している。
実際の結果
黄河の水位は30m上昇[2]し、農耕地に甚大な被害をもたらした。これは当時の帝王舜らが治水に取り組む切っ掛けとなった上、治水の成功などの功で禅譲を受けた禹による中国初の世襲王朝の夏の建国の一因[注釈 7]ともなった。
出典
- 注釈
- ^ これは、古代帝王が度々治水に苦慮していたことや、治水技術があまり発展していなかったことから明らかになっている。
- ^ ここでは後世の王朝に正当とされた「中華」、つまり黄帝有熊氏などが治めた地域のことである。
- ^ 羌族は中国文明より西に位置しており、神話では黄河上流域を原因とする洪水と同一視された。
- ^ 本項目においては、王号を用いるべきではない（例：三皇五帝の1人である黄帝）が、皇帝号を用いることも不適切であるため、夏の禹を除いては一律に「帝王」と呼ぶこととする。
- ^ 高地から低地に土を移しつつ、堤防を強固にする「湮」と呼ばれる手法。
- ^ 「導」・「疏」と呼ばれる。
- ^ 禹が家臣に次の帝王に誰が適切かを家臣に問うた所、禹の子が推挙されたことが直接的原因である。