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聖凡人伝

聖凡人伝』(せいぼんじんでん)は、松本零士が『男おいどん』とほぼ同時期の、1971年8月19日号から1973年11月15日号にかけて『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社)で全115回にわたって連載した[1]日本漫画作品。

聖凡人伝
ジャンル 青年漫画
漫画
作者 松本零士
出版社 日本文芸社
掲載誌 漫画ゴラク
レーベル 小学館文庫
発表号 1971年 8月19日号 - 1973年11月15日号
巻数 全6巻(小学館文庫
全4巻(朝日ソノラマ
全9巻(奇想天外社
全10巻(奇想天外文庫)
全1巻(日本文芸社
全9巻(eBookJapan・電子書籍)
話数 全115話
(テンプレート) - (ノート)
プロジェクト 漫画
ポータル (漫画)

概要

元祖大四畳半大物語』に端を発す、いわゆる四畳半ものの路線である[2]首吊り自殺の名所のようになっていることから“首吊り荘”と呼ばれる古びたアパートに暮らす無職男・出戻 始と、隣のマンションの美人管理人・早名礼子[注 1]を中心に、日々の騒動を軽妙な語り口で描く。

同じ四畳半下宿漫画の『男おいどん』が『少年マガジン』連載だったのに対し、大人の男性向け雑誌『漫画ゴラク』で連載された本作は、性描写が頻発する。作者は本作を「続いて続いて果てしがない物語」と書き、「この話には別にこれといった結末はないのです」と結んで[注 2]、2年間に及んだ連載をオチもないまま通常回のように終わらせている。

あらすじ

好きだった女性が嫁に行ってヤケになった出戻 始は、自殺場所を探して崖のある海辺へやってきた。そこで若い女性と、一組のカップルに出会う。自殺を考えている出戻に、死ぬのを思いとどまるよう話す3人。朽ちた貸しバンガローで4人は酒を飲み楽しく一夜を過ごすが、出戻が翌朝目を覚ますと、3人は崖から投身自殺を遂げていた。3通の遺書が現場に残され、死ぬに死ねなくなった出戻は東京に引き返すが、一週間も無断欠勤していた会社はクビになる。やがて隣のマンション管理人の早名礼子が、近隣と日照問題で揉めて自分の部屋に居づらいという理由でアパートに出入りするようになり、隣の部屋ではセックスコンサルタントの小久保が騒がしくセックスに明け暮れて、出戻の無職の日常は騒々しくなる。

登場人物

出戻 始(でもどり はじめ)
本作の主人公で、無職、独身の成人男性。アパート荘という名のおんぼろアパート2階にある四畳半部屋に住み、いつも酒を飲んでいるチビでボサボサ頭の男。隣のマンション管理人・早名さんに惚れているが、収入の大きな差で自分は釣り合いが取れないと考えている。肉食系と程遠いとぼけた外見だが、女性から迫られれば拒まず(行為)に及ぶほか、出戻と寝たゲスト女性が「三回したんです。正常位やオーラルセックスや……女上位」と話しているように[3]、やる時は徹底的にやる派。17歳の家出娘や、スケバンの姉を持つセーラー服の少女など、明らかな未成年とのセックスも幾度か体験[4][5]した。早名さんから好意を持たれていて、頻繁に彼女の方からセックスに及んでいる。性交の前の早名さんが「背や足が短くても長いところもあるから」と言っているように[6]、背丈はチビでも性器はそれなりに大きく立派らしい。首にロープがかかった状態で宙吊りになったり、海と川とで溺れて死にかけたが、3度とも早名さんの人工呼吸で蘇生した[注 3]
早名礼子(はやな れいこ)
首吊り荘(アパート荘)に隣接する大マンションの若い女性管理人で、登場人物たちから“早名さん”と呼ばれている。連載第15回目の『大マンションの女主人』から登場。胸元がV字に開いた黒のロングドレスを着用し、頻繁に首吊り荘に入り浸っている。マンションの他に複数の会社を持っていて、どんどんお金が増えるという。腹違いの姉妹や[7]、昔の恋人[注 4]が入れ替わり登場するが、いずれも人間的に難ありの曲者揃い。時折、無職の出戻に仕事を斡旋するように、面倒見の良い所がある。
性に関するハードルが非常に低く、全裸になることも、自分の裸を他人に見られることも問題視しない上に、男に何度犯されても意に介する様子がない。親しい異性は勿論のこと、過去にちょっと関りがあった程度の古い知り合いでも簡単にセックスをするほか、会社の面接に赴く出戻に、毎度合格祈願と称した“おまじない”を施す[注 5][注 6]。松本作品に登場する黒衣の美女には珍しく、下痢を経験している[8]
小久保
出戻の隣の部屋に入居して、セックスコンサルタント なる商売を始める腹の出た中年男[注 7]。連載第19回目の『大コンサルタント小久保のおっさん』から登場。「ワシはやる」の決め台詞で生徒の女性と行為に励む。時折、EDになって元気がなくなるが、早名さんが慰めては回復させている。出戻ほどではないが、早名さんとのセックスはそれなりに重ねており[3][9][10]、セックスまで許されない時でも、フェラチオをしてもらって気分良くなっている[11]。でたらめな生き方に見えても、自分のせいで出戻の就職が失敗した時には、申し訳なく思うほどの良心は持っている。暴力団の組長と戦時中の戦友で、暴力団事務所で輪姦されている早名さんを救ったこともある[12]
大家のおばさん
連載第1回目から登場している、“首吊り荘”ことアパート荘の管理人。パーマのかかったモジャモジャ頭に太くて濃い眉毛と眼鏡がトレードマーク。連日のようにアパートに誰かが侵入しては首吊り自殺をして縁起が悪いため、出戻には家賃を無料にした上で住んでもらっている。アパートの門札も連載後半には首吊り荘に変わっている。玄関入ってすぐ正面の部屋に住んでいて、出戻たちの酒盛り宴会によく混ざって飲んでいる気の良いおばさん。最終回まで本名は出ない。
おでん屋の男
『スカウト大作戦』の回から登場する、マンション入り口前におでんの屋台を出している男。「酒 おでん」と書かれた暖簾を屋台に吊るしていて、出戻や早名の溜まり場になっている。連載が進むと台詞や出番も増え、屋台を引いてマンションの中まで入ってきたり、出戻に一晩屋台を貸し切りにしてやるなど気前の良いところも見せた。実家は2階建ての立派な一戸建てで、裸になって酌をしてくれる美しい妻がいる[13]。大家のおばさん、小久保さんと並んで最終回までレギュラーとなるが、最後まで本名は出ない。
野田由美子(のだ ゆみこ)
早名礼子が登場する以前の初期ヒロイン[注 8]。寝ぼけると夜泣きする癖があり、その人騒がせのためにどこにも居場所がない。初登場時は金髪のロングヘアだが、途中から黒髪のセミロングに変わった。出戻が酒を飲んでいると、そこに混ざって飲み始めては裸になるなど開放的な性格。恋人の男が首を吊った翌日、後を追うように首吊り自殺を遂げるという、初期レギュラーとしては呆気ない退場となった。

書誌情報

関連作品

  • 『出戻社員伝』:出戻始の兄・年郎が主人公の作品[16]。『週刊大衆』1974年1月3日号から3月28日号まで全13回連載[17]

脚注

注釈

  1. ^ 同作者が1976年に発表した漫画『恐竜荘物語』にも、マンションの女管理人・早名礼子という、本作ヒロインと同姓同名のキャラクターが登場する。
  2. ^ 最終回『永遠の大首吊り荘物語』の最後のページより。
  3. ^ 『ミタマを呼ぶ声』の回で首吊り騒動、『屋台破クーラー』の回と『廃水キャンプ場』の回で溺れた。
  4. ^ 昔の恋人といっても、毎回出てくる男は異なっている。
  5. ^ 出戻が酒を飲むと常に「私にも飲ませて」(あるいは「私も飲むわ」)と彼へのフェラチオを始めるように精液を飲むことに抵抗がない。
  6. ^ 作中で彼女が「飲む」と表現するものの大半は精液のこと。
  7. ^ 外見は『宇宙戦艦ヤマト』の佐渡酒造のキャラで後々有名になる、松本作品お馴染みのハゲ親父である。
  8. ^ 連載第5回目の『首吊り荘の夜泣き女』から『野田さんの夜泣きの絶えた夜』の回まで9エピソードほど、首吊り荘の入居者として短期出演していた。

出典

  1. ^ 吉本 2003, p. 372.
  2. ^ 笠原博『松本零士マンガの魅力』清山社、1979年4月15日発行、39頁
  3. ^ a b 『妻と妾と毒薬と』の回
  4. ^ 『17才とそのオヤジ』の回
  5. ^ 『セーラー服実験談』の回
  6. ^ 『路上SM大会』の回
  7. ^ 『哀愁の女強盗』の回
  8. ^ 『廃水キャンプ場』の回
  9. ^ 『雨のフルフルコース』の回
  10. ^ 『三億円ドリーム』の回
  11. ^ 『憂いの大コンサルタント』の回
  12. ^ 『イモと戦友』の回
  13. ^ 『涙雨 大マラソン大会』の回
  14. ^ a b 吉本 2003, p. 383.
  15. ^ a b c 吉本 2003, p. 384.
  16. ^ 吉本 2003, p. 35.
  17. ^ 吉本 2003, p. 373.

参考文献

  • 吉本健二『松本零士の宇宙』八幡書店、2003年11月25日。ISBN (4893503960)。 

関連項目

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