『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』(おとこはつらいよ とらじろうこころのたびじ)は、1989年8月5日に公開された日本映画。『男はつらいよ』シリーズの41作目。同時上映は『夢見通りの人々』。
概要
- ウィーンが舞台になったのは、ウィーン市長(ヘルムート・ツィルク)が招致したことによる[2]。ツィルク市長は1986年、訪日の際に飛行機機上で『男はつらいよ』シリーズの作品を観、ウィーン市民の気質や市郊外の風景が作品の世界と似ていると感じた[3]。
- 主な舞台がオーストリアのウィーンであるためか、同じくウィーンが舞台の名作映画『第三の男』や『会議は踊る』へのオマージュらしきシーンがある。
- 時代が平成に変わってからの初の作品である。
- 次作以降は12月公開のみとなり、シリーズ最後の8月公開作品となった。また本作以降、山田洋次監督映画が8月公開となったのは2021年の『キネマの神様』(2021年8月6日)まで32年間なかった[4]。
- 劇中で使用された「寅次郎の笑った顔のパスポート写真」は現在、寅さん記念館に保存されている。
- 満男は大学受験に失敗、代々木の予備校に通う予備校生になっている。
あらすじ
みちのくのローカル線の列車に揺られていた寅次郎は、突然の急ブレーキに座席から投げ出される。心身衰弱のサラリーマン・坂口(柄本明)が自殺しようと線路に横たわっていたのだ。すんでの所で一命を取り留めた坂口を前にした寅次郎は、持ち前の義侠心で優しく諭す。そのせいで、坂口は寅次郎を心底慕ってしまう。
坂口のかねてからの望みは、音楽の都オーストリア・ウィーンに行くことで、金はすべて坂口持ちでいいので、寅次郎に付いてきて欲しいという。寅次郎はウィーンを湯布院と聞き違え、二つ返事で了承してしまう。そんなわけで、坂口から連絡を受けた旅行代理店の人間が、寅次郎のパスポートを確認しに、くるまやにやって来る。くるまやの人たちは、行き先がウィーンだと分かって仰天し、帰郷した寅次郎に、ウィーン行きを断るよう説得する。しかし翌日、嬉々として寅次郎を迎えに来た坂口は、寅次郎が一緒に行かないと知るや、発作を起こす。そこで寅次郎が仕方なく成田までついて行くことにしたところ、とうとうそのままウィーンまで行ってしまう。
坂口がウィーンを訪れた事で精気を取り戻した一方で、寅次郎は、慣れない海外・通じない言語にいつもの調子が出せず、退屈極まりない時間を過ごす。しかし、街でツアーガイドの久美子(竹下景子)と偶然知り合い、そのよき相談役のマダム(淡路恵子)を紹介してもらって、日本人二人と接する環境になったことで、突如として寅次郎は復活する。坂口は舞踏会で知り合った現地女性とほのかな恋を楽しみ、寅次郎は久美子と日本の話に花を咲かせる。ドナウ川のほとりに佇んでいると、まるで江戸川のほとりに佇んでいるような錯覚に陥るほどで、寅次郎は故郷を想い、『大利根月夜』を口ずさむ。久美子は、寅次郎を「故郷の塊みたいな人」と話すうち、捨て去ったはずの郷愁が募っていく。久美子の現地男性の恋人・ヘルマンも、そんな久美子の気持ちを知っても、強く引き留めようとしない。
寅次郎は一緒に日本へ帰ることを勧め、マダムも寂しい気持ちを持ちながらも賛成し、久美子は寅次郎・坂口と共に帰国することに。しかし、いよいよ渡航手続きをしようという時、ヘルマンが意を決して久美子を引き止めにやってきて、二人は抱き合いキスをする。その瞬間、寅次郎は失恋し、ヘルマンに対して、久美子を幸せにするよう約束させ、帰国の途についたのであった。 「「おい青年・・お前久美子を泣かしたりしたら俺が承知しないからな!」ここんところは凄くカッコよかったよ寅さん・・そのあと・・行きがけに転ぶのはチョイ情けなかったけど・・おkさ!
その後とらやに坂口がやってきた・・「寅さんのおかげで社会復帰出来ました・・これがウイーンで撮った写真です」とさくらたちに見せると・・おお!・・寅は・・やっぱりね~というものの少しがっかりなしぐさが見えましたね・・可哀想だけどこればかりはどうしょうもありませんでした・・。 その時を同じくして久美子からきれいな絵ハガキが届く・・彼女は今でもツアーガイドで忙しいという内容・・とらやの面々は安心したけどさくらの気持ちは・・でしたね・・。
寅はそのころ商売をしてました。ウイーン製のハンドバッグなんかたたき売りしてましたね・・ポンシューと・・。 「ウイーンはオーストリアの首都だよ、オーストラリアはカンガルーの国じゃ」・・「そういうことも昔はありました・・若い男が理屈を言うと女にもてない」・・女子たちが笑ってましたね・・。
キャスト
- 車寅次郎:渥美清
- 諏訪さくら:倍賞千恵子
- 車竜造(おいちゃん):下條正巳
- 車つね(おばちゃん):三崎千恵子
- 諏訪博:前田吟
- 社長(桂梅太郎):太宰久雄
- 源公:佐藤蛾次郎
- 諏訪満男:吉岡秀隆
- ポンシュウ:関敬六
- 馬場(旅行会社職員):イッセー尾形
- 部長:園田裕久
- 車掌:笹野高史 - 宮城県栗原電鉄の車掌。
- 福士:じん弘
- 印刷工・中村:笠井一彦
- 三平:北山雅康
- 巡査:武野功雄
- テキ屋:篠原靖治
- 兵馬の上役:(雁坂彰)
- 同:(田端宗寿)
- 同:入江正夫
- 女将:西川さくら
- ゆかり:(マキノ佐知代)
- 田中リカ
- 江戸屋:(石川るみ子)
- 志麻充子
- 芸者:(光映子)
- 宿の仲居:谷よしの
- ヘルマン:(マルティン・ロシュバーカー) - 久美子の恋人。
- テレーゼ:ヴィヴィアン・デュバル
- ウィーンの老婦人:マルタ・ダングル
- ヘルマンの母:ブリギッテ・アントニウス
- 坂口兵馬:柄本明 - 心身症のサラリーマン。
- マダム:淡路恵子
- 御前様:笠智衆
- 江上久美子:竹下景子 - 現地観光ガイド。
- 備後屋:(露木幸次)(ノンクレジット)
- 会社の社員:吉田剛(ノンクレジット)
- テキ屋の若い衆:出川哲朗(ノンクレジット)
- 遊覧船の男:(小形雄二)(ノンクレジット)
ロケ地
- 宮城県松島町(瑞巌寺)、栗原市(栗原電鉄)、大崎市(鳴子温泉)
- 東京都葛飾区(さくらの家)、渋谷区(代々木駅前)
- 静岡県沼津市氣多神社・啖呵売、内浦長浜・エンディングカット
- オーストリア・ウィーン
- ウィーン・シュベヒャート空港
- オーストリア ウィーン/シェーンブルーン宮殿、美術史博物館、聖シュラファン寺院、ホーフブルグ宮殿
- オーストリア ドナウ沿い/デュルンシュタイン、バイセンキュルヘン
- オランダ アムステルダム/久美子のガイド
- オランダ・アムステルダムアムステルダム・スキポール空港。
- オーストリア航空が全日本空輸・アエロフロート(当時はエアバスA310による運航のためモスクワ・シェレメチェボ国際空港でのテクニカルランディングを余儀なくされたため)との共同運航による成田-ウィーン線を開設したのはこの映画公開の1ヶ月前の1989年7月16日のことである。映画中及び撮影のためのウィーンへの旅程はKLMオランダ航空が使用された。乗り継ぎのスキポール国際空港で、寅さんが柴又に国際電話をかけるシーンが見受けられる。協賛としてKLMオランダ航空もクレジットされている。
佐藤利明『みんなの寅さん』、p.641及び映画公式HPより
挿入曲
使用されたクラシック音楽(判明した曲)
ウィーンにゆかりのある作曲家の曲が全編を通して使用される。
- ヨハン・シュトラウス2世作曲:『ウィーンの森の物語』作品325 ~ ヨーロッパ家具輸入の宣伝カーが流す(宮城県 登米市〜栗原市間の栗原電鉄を踏切を横断する)
- ヨハン・シュトラウス2世作曲:『美しく青きドナウ』作品314 ~ ヨーロッパ家具輸入の宣伝カーが流す
- ヨハン・シュトラウス2世作曲:『春の声』作品410 ~ 宣伝カーに寅さんと兵馬が乗車するシーン。
- ヨハン・シュトラウス2世作曲:『トリッチ・トラッチ・ポルカ』作品214 編曲 ~ 兵馬が柴又を訪れるシーン。
- 『ウィーンの森の物語』ツィターのソロ ~ 寅さんがウィーンのホテルに到着
- ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』K.525 から第1楽章 ~ 寅さんと兵馬が王宮庭園モーツァルトの像を訪れる。
- フランツ・シューベルト作曲:『4つの即興曲』作品90 D899 から第3曲 ~ ウィーンのカフェ。久美子が寅さんをマダム紹介する。
- 映画『第三の男』ハリーライムのテーマからツィターソロで3音がなる。マダムの家。マダムの夫の写真を映す。
- ヨーゼフ・シュトラウス作曲:『わが人生は愛と喜び』作品263 舞踏会シーン冒頭
- 『美しく青きドナウ』~ 舞踏会 兵馬とテレーゼが踊る。
- 『ウィーンの森の物語』~ 舞踏会のあと浜口兵馬が夜の街で口ずさむ。
- 映画『第三の男』ハリーライムのテーマからツィターソロで3音がなる。舞踏会あとの夜の街。
- ヨハン・シュトラウス2世作曲:『ウィーン気質』作品354 アコーディオン ~ 兵馬がテレーゼに再会し花を贈る。
- 『美しく青きドナウ』~久美子が寅さんとドナウ川沿いを散策する時久美子が口ずさむ。
- 藤田まさと作詞、 長津義司作曲:『大利根月夜』~同上、寅さんがドナウ川沿いで歌う。
- ヨハン・シュトラウス2世作曲:『皇帝円舞曲』作品437 ~ シェーンブルーン宮殿 兵馬と寅さんが写真を撮る。
- モーツァルト作曲:『ディヴェルティメント ニ長調 K.136 (125a) 』から第2楽章 ~ ヘルマンが弦楽四重奏でバイオリンパートを弾く。
- 『ウィーンの森の物語』~くるまやで寅さんがウィーンの思い出を語る。
スタッフ
記録
備考
参考文献
- 佐藤利明『みんなの寅さん』(アルファベータブックス、2019)