火鍋(ひなべ、拼音: [1]、フゥオグゥオ、英: hot pot)とは、中華風の味付け・料理法・具材を特徴とする鍋料理のこと。
中国大陸に限らず、香港・マカオ・台湾・シンガポール・マレーシアなどの華人社会でも食される。その他、日本やアメリカ合衆国など世界各地の中華街・火鍋専門店・中華料理屋においてもよく提供されている。
名称と定義
中国語の火鍋という言葉は、本来「鍋の下に明火をつけ、食材を鍋の中のスープで煮ながら食べる」ことを指したが、現代の中国人は世の中の鍋料理を全て「火鍋」という漢字表記で指す。
歴史
古代の中国
「中国の鍋料理」は、中国の殷王朝または周王朝の頃は既にあった。その頃の王が「鼎」という礼儀用の器を食用の鍋として使い、猛火で鍋の中のスープを煮た。この形式が中国の鍋料理、つまり火鍋の始まりである。鍋料理は利便性が高いため、漢王朝の時は軍隊の戦闘糧食とされ、また旅行食として食べられていた。また漢の頃のヒナベは「火鍋」という表記ではなく、「焦斗」と書いていた[2][3]。
中国の鍋料理が「火鍋」という漢字表記に統一されたのは800年後の唐王朝の時であった。唐国の貴族たちは鍋料理を好んでおり、スープの暖かさと冬の寒さの相性がよかったため、「鍋」の前に「火」の文字を付け、「火鍋」と名付けた。間も無く中華貴族の定番料理として発達した。しかし、今のように庶民用の日常食としては中国全土に浸透しておらず、安価で手頃な火鍋は中国北部の遊牧民の地域にしか存在しなかった。
時は更に400年ほど下り、同じ北方遊牧民のモンゴル族は元王朝の支配層になり、この影響下で火鍋はようやく中国全土の庶民にも普及した。元が亡び、漢民族が支配した明王朝の時代に入りると、モンゴル族の羊肉火鍋は漢民族の口に合わせるため改造され、具材・スープ・タレ・食器等も中華風の味に変貌し、現代の中国で食べられる様々な火鍋は殆どこの明の時代に完成したという[4][3]。清王朝の乾隆帝の時に入り、火鍋は再び優雅な貴族食として生まれ変わった。視覚的には大きくて目立つことから、火鍋は清国の満州人の宴席料理「満漢全席」の中のクライマックスの役割を担当する料理として発展し、定着していった。
現代の中国
現代の中国の火鍋の起源は重慶市の「麻辣火鍋」と内モンゴル自治区の「涮羊肉」、二つのルーツに分かれている。
基本的には、辛い赤スープは重慶発祥、辛くない白スープは内モンゴル発祥と言われている。牛・豚・鶏・家鴨・肉団子・もつと大量の野菜を火鍋のスープに投入し、タレをつけて食べるが一般的である。野菜に関しては中華風にするのであればチンゲンサイ・白菜・もやし・シュンギク・マコモダケ等が一般的だが、他の好きな野菜も自由自在に採り入れられる。
重慶の火鍋(麻辣火鍋・鴛鴦火鍋)
重慶の鍋料理の中で、麻辣味をベースにしたスープはとても有名で、このスープを使う火鍋は麻辣火鍋(マーラーフオグオ)と呼ぶ。
本来はこれしかなく、1980年代から辛口が苦手な人のために辛くないスープを加えた鴛鴦火鍋(ユアンヤンフオグオ)が開発された。鴛鴦火鍋の特徴は、仕切った金属製の丸鍋の中に太極図の陰陽に見立てられた仕切りである。片方に紅湯(ホンタン)と呼ばれる唐辛子・山椒・花椒で調味した麻辣スープを入れ、もう片方に白湯(バイタン)と呼ばれる塩味の豚骨スープを入れる。好みの食材を好みのスープに入れ、煮て食べる。
麻辣火鍋は中華圏の各地に広く浸透され、あまり辛くない香港式火鍋・台湾式火鍋など有名な変種が存在し、中国式と香港式・台湾式の火鍋にバリエーションを見ることができる[5]。また、中国の「火鍋系」以外の、他国の鍋料理でもこの鴛鴦火鍋の形式を真似することが多く、味の違う2種類のスープを一気に提供するという利点から普及していると考えられている。
内モンゴルの火鍋(涮羊肉)
涮羊肉(中国語:涮羊肉、拼音: )の歴史は古く、元王朝の時代に辿り着き、日本のしゃぶしゃぶのルーツという説もあるが、ハッキリとは分かっていない[6]。日本のしゃぶしゃぶは発祥地である内モンゴルではなく、既に北京で改造した北京風の涮羊肉をモデルにし、北京から日本の京都へ伝来したという[6]。鴛鴦火鍋のように骨のスープを使っているが、豚骨ではなく、山羊・羊の骨を使っている。2010年代以前、中国の涮羊肉の専門店は麻辣火鍋の専門店と比べると余りにも少なかったが、2010年代以降中国のいたる都市で涮羊肉のブームが成形し、急速に中国全土で広まっていた。
広東の火鍋(打甂爐)
なお、広東省や香港は火鍋の発祥地では無いが、独自に打甂爐(広東語 ダーピンロウ)という鍋料理があり、火鍋から進化を遂げたものと言われている。日本語の常用漢字に転換すると、「打辺炉」と書く。
マレーシアでは、スチームボート(steam boat、マレーシア語 Stimbot、スティムボッ)という広東の打辺炉のルーツを持つ鍋料理が存在しており、欧米人や日本人などの観光客にも人気がある。
種類
火鍋は中国全土に見られ、その種類は多く、使用される食材や味付けも様々である。代表的なものに次の火鍋がある。
中国では、発熱剤とセットになった一人用インスタント火鍋も開発・販売されている[7]。外食産業では回転寿司のシステムを応用した「回転火鍋」と呼ばれる業態も存在し、中国などで人気を博しているほか、日本にも上陸している[8]。
重慶の麻辣火鍋。煮ることも焼くことも可能。
北京の涮羊肉。しゃぶしゃぶの原型とされる羊肉の火鍋。
中国雲南省の火鍋、大量な野菜や肉が特徴。
香港の家鴨の血の火鍋、そして各種の具材。
台湾風の鴛鴦火鍋、赤のスープの辛さを抑えていて、中国版と比べると圧倒的に辛くない。
台湾式の(沙茶)味の牛肉火鍋。
参考資料・脚注
- ^ 火锅の意味 - 中国語辞書 - Weblio日中中日辞典
- ^ - ウェイバックマシン(2008年6月1日アーカイブ分)
- ^ a b ウォーカーグルメ
- ^ 『甘粛特産風味指南』 1985年(中国語)
- 「足見"火鍋"在唐代已經很流行了。涮羊肉明代称"生嚢羊"。十七世紀清官御膳房称"羊肉片火鍋" 。」 - ^ - ウェイバックマシン(2010年4月13日アーカイブ分)
- ^ a b 『「火鍋」とは?』 モラタメ.net ハウス食品株式会社
- ^ 【中国&アジア商売見聞録】「おひとり様」火鍋ヒット『日経MJ』2018年3月9日(トレンド面)
- ^ 「回転ずし」ならぬ「回転火鍋」とはいったい何だ? - 日刊スポーツ・2018年12月28日