淀ちゃん(よどちゃん)は、2023年1月9日に大阪湾の淀川河口で発見され、4日後の13日に死亡が確認されたマッコウクジラである[3][4]。死骸は大阪港湾局により紀伊水道へ運ばれ、海底に沈められた[5]。
経緯
2023年1月9日午前、クジラが淀川の河口に迷い込んでいるのを、トラック運転手が見つけ、第五管区海上保安本部に通報した[6]。体長は当初約8メートルと推定されていたが[7]、実際には体長14.69メートル、体重38トンほどのオスのマッコウクジラであった[4]。複数の専門家によれば、大阪湾に生きたままのクジラが侵入するのは非常に珍しいことだという[8][9]。「淀ちゃん」「よどちゃん[10]」との愛称が付けられ、その姿を見に来る人が相次いだ[11]。迷い込んだ当初は、同じ場所に留まってはいるものの、潮を吹いたりする様子だったが、11日の夕方以降は動作が確認できないようになっていた[12]。そして13日午前に、大阪市役所の職員と海遊館の専門家がクジラを調査し、死亡を確認した[12][7]。
死骸の処理
クジラの死骸は放置すると、体内でガスが発生し爆発する恐れがあり、また周囲に悪臭が放たれるといった環境への影響も考えられる[10]。そこで、以下のような死骸の処理方法が検討されている[3][11]。
- 焼却(今回のような大きな個体では困難[3])
- 土中への埋設
- 海洋投棄
このほか、骨格標本として活用する方法もある[3]。その場合は、死骸を埋設して肉が分解されるのを待ち、骨のみを取り出す[3]。しかし、今回は引き取りの申し出がなかったといい[4]、大阪市が海に沈めることを決定した[13]。大阪市長の松井一郎は、この決定について「海から来たので、海に返してあげたい」と述べた[13]。
死後、死骸は東に流されており、17日時点で淀川の岸に漂着していた[13]。18日、死骸は作業船に乗せられ、体内に溜まっていたガスを抜く作業が行われた[4][13]。ガス抜きの後には学術調査も行われ、歯や皮膚、胃の中のイカの(くちばし)などが採取された[14][15]。この時、遺骸の切開箇所は腐敗ガスの充満する腹部のみに限定するよう大阪港湾局から依頼があったという[7]。そして19日、別の船に曳航される形で淀川河口付近から出港し、紀伊水道に沈められた[5][16]。死骸に約30トンの重しを付け、作業船の船底を開いて海に落とすという方法が取られた[5]。大阪港湾局によると、淀ちゃんの死骸処分までに要した費用は合計8019万円だった[17]。
1月20日、大阪市立自然史博物館は淀ちゃんの標本化について大阪市博物館機構を介して大阪市の関係部局に申請していた旨を明かし、遺骸を巡っての経緯を発表した[18]。後日、松井は引き取り希望が無かったという先述の説明を撤回し、同館から骨格標本作成の申し出があったことを明かした。博物館に対応しなかった根拠として、松井は標本作成の工程や手段が博物館側から開示されなかったことを挙げた[19]。大阪市の担当部署はクジラの腐敗が進行していること、および博物館側の申し出が埋設処分という条件に依存していたことを根拠とし、標本作成の意向を松井に伝達しなかったという[20]。
死因と死骸のその後
2023年1月時点での遺骸の調査には国立科学博物館も参加していた。同館の(田島木綿子)によれば、死因は不明ながら、大型船舶との衝突やサメによる捕食といった外傷は認められなかった。加えて田島は、成獣のマッコウクジラが餌の深追いや海流の影響で河口付近まで迷い込むことの蓋然性を低く評価し、何らかの原因で方向感覚を失った可能性があるとした[21]。同年2月22日に同館は研究結果を発表しており、淀ちゃんの死亡時の年齢は歯の成長層から46歳と推定された。マッコウクジラの寿命は約70年であり、死因として老衰は棄却された。大阪湾に進入した理由の断定には至っていない[22]。
海底に沈降した淀ちゃんの遺骸には、今後鯨骨生物群集が形成されると予想される。その後、骨格は長期の時間スケールを経て分解を受け、最後には砂となって海へ還るとされる[7]。
脚注
- ^ . 日刊スポーツ. (2023年1月13日). オリジナルの2023年1月17日時点におけるアーカイブ。 2023年1月21日閲覧。
- ^ . ABEMA TIMES. (2023年1月17日). オリジナルの2023年1月17日時点におけるアーカイブ。 2023年1月21日閲覧。
- ^ a b c d e . 日テレNEWS. (2023年1月13日). オリジナルの2023年1月19日時点におけるアーカイブ。2023年1月15日閲覧。
- ^ a b c d . 産経WEST. (2023年1月19日). オリジナルの2023年1月19日時点におけるアーカイブ。 2023年1月21日閲覧。
- ^ a b c . テレ朝NEWS. (2023年1月19日). オリジナルの2023年1月19日時点におけるアーカイブ。2023年1月21日閲覧。
- ^ . 読売新聞オンライン. (2023年1月10日). オリジナルの2023年1月15日時点におけるアーカイブ。 2023年1月15日閲覧。
- ^ a b c d “海に沈んだクジラの「淀ちゃん」 博物館が残念がる、骨格標本にできなかった理由 大阪市の処理作業ににじんだ「配慮」”. 共同通信 (2023年2月18日). 2023年2月23日閲覧。
- ^ 「」『TBS NEWS DIG』、2023年1月11日、p.1。2023年1月15日閲覧。オリジナルの2023年1月15日時点におけるアーカイブ。
- ^ . 毎日新聞. (2023年1月13日). オリジナルの2023年1月20日時点におけるアーカイブ。 2023年1月21日閲覧。
- ^ a b . 日テレNEWS. (2023年1月13日). オリジナルの2023年1月19日時点におけるアーカイブ。 2023年1月15日閲覧。
- ^ a b 「」『スポニチ』、2023年1月14日。2023年1月15日閲覧。オリジナルの2023年1月18日時点におけるアーカイブ。
- ^ a b . 読売新聞オンライン. (2023年1月13日). オリジナルの2023年1月17日時点におけるアーカイブ。2023年1月15日閲覧。
- ^ a b c d 「」『毎日新聞』、2023年1月17日。2023年1月21日閲覧。オリジナルの2023年1月19日時点におけるアーカイブ。
- ^ . TBS NEWS DIG. (2023年1月19日). オリジナルの2023年1月20日時点におけるアーカイブ。2023年1月21日閲覧。
- ^ . 朝日新聞デジタル. (2023年1月18日). オリジナルの2023年1月20日時点におけるアーカイブ。2023年1月21日閲覧。
- ^ . 読売新聞オンライン. (2023年1月19日). オリジナルの2023年1月20日時点におけるアーカイブ。2023年1月21日閲覧。
- ^ 大阪湾の迷いクジラ「淀ちゃん」 死骸の海洋投棄に8000万円 毎日新聞(2023年4月3日)2023年4月18日閲覧
- ^ “2023年1月のマッコウクジラのストランディングと標本化に関する経緯について”. 大阪市立自然史博物館 (2023年1月20日). 2023年1月29日閲覧。
- ^ “クジラ「骨格標本に」、採用せず 大阪市、自然史博物館から申し出”. 共同通信. (2023年1月24日)2023年1月29日閲覧。
- ^ “クジラのヨドちゃん『博物館が骨格標本化を希望していた』と判明...なぜ費用かかる「海底沈下」に? 市の担当者『要望は市長には話していない』”. 毎日放送 (2023年1月23日). 2021年1月29日閲覧。
- ^ 松田祐哉 (2023年2月13日). “迷いクジラ「淀ちゃん」深海のオアシスに...「死骸は2千年分の食べ物」、特殊な生態系形成”. 読売新聞オンライン2023年2月23日閲覧。
- ^ 高井里佳子 (2023年2月22日). “寿命でも、迷いクジラでも「なかった」 国立科学博物館が調査結果”. 朝日新聞デジタル2023年2月23日閲覧。
関連項目
外部リンク
- クジラ「淀ちゃん」で思い出す「タマちゃん」 20年前に現れた珍客のその後 - J-CASTニュース