村岡 嗣政（むらおか つぐまさ、1972年〈昭和47年〉12月7日 - ）は、日本の政治家、自治・総務官僚。山口県知事（公選第19・20・21代）。
概要
山口県宇部市生まれ。宇部市立西岐波小学校、宇部市立西岐波中学校を経て山口県立宇部高等学校に進学[1]。高校時代、プリンスに憧れてバンドを組み、2年生のときに生徒会長を務めた[2]。1996年3月、東京大学経済学部卒業。同年4月、自治省（現:総務省）に入省[3]。自治省、総務省での本省勤務の他、北海道庁や高知県庁、広島市役所への出向も経験する。2012年4月より総務省自治財政局財政課財政企画官を務めた。
2014年1月14日、山口県知事の山本繁太郎が健康上の理由により辞職（同年3月15日に死去）[4]。
翌1月15日付で村岡は総務省を退職[5]。1月20日、山口県庁で記者会見を開き、山本の辞職に伴う山口県知事選挙に出馬する意向を正式に表明した。出馬会見では、山本県政を継承する方針を示した[5]。選挙戦では自民・公明両党及び連合山口の推薦を受け、生活の党の推薦を受けた元衆議院議員の高邑勉に大差をつけて圧勝し、初当選を果たした[6][7]。2月25日に山口県庁に初登庁し、正式に山口県知事に就任した[8]。
2018年2月の知事選で共産党・社民党推薦の新人を破り、再選[10][11]。
2022年2月の知事選で共産党推薦、社民党支持の新人を破り3選[12]。
政策・人物
- 育鵬社の教科書を採用
- 「新教育基本法の趣旨を最もふまえた教科書は育鵬社であると私は確信している」と公言する安倍晋三首相[13]は2015年1月27日、教育再生首長会議のメンバーと面会した際、「教育委員会制度改革で、首長の役割が一層重要になる」と強調した[14][15]。さらに同年4月、文部科学省は、事前の教員らによる選考会議の順位付けについて「拘束力があるかのような取り扱いはしないこと」との通知を、自治体教育委員会に通知した[16]。安倍のお膝元である山口県では政府の意向を忠実に受け入れた。同年8月20日、山口県教育委員会は、県立中学校2校で翌年度から4年間使用する歴史と公民教科書に育鵬社版教科書を採択した。選定では、県立の高森みどり中学校と下関中等教育学校が作成した研究調査報告書が判断材料の一つとされた。2校は育鵬社以外の採択を想定していたが、県教委は委員6人中4人が推薦した同社版を選んだ[17][18]。メディアは「首長の意をくんだ教育委員による強行」「教育委員の任命権は首長にある。教育現場の意見が軽んじられ、政治家の影響が強まるのは問題」と報じた[16][19]。
- 2020年夏、他社版に切り替える動きが全国で相次ぐも[20][21]、山口県教委は同年9月1日、県立中学校で翌年から4年間使う歴史と公民の教科書について、育鵬社版を引き続き採択したと発表した[22]。
- 感染症対策
- 2020年5月20日、新型コロナウイルス対策の財源に充てるため、自身の6月期末手当（317万9,850円）を全額カットすると発表した[23]。
- 政治資金問題
- 2021年10月31日に行われた自民党山口県連の政治資金パーティーに来賓で出席。副知事の小松一彦は課長級以上の幹部に会費1万円を払うよう依頼し、案内状が県職員の自宅に届いた。関係者によれば、近年は150人程度の「県庁枠」があったとされる。村岡は知事選に際し、告示日の前日の2022年1月19日、推薦料として自民党から200万円を受け取った。また、自民党山口県連から100万円の寄付を受けた。専門家は当該政治資金パーティー収益の一部が繰り越されて選挙資金になっているとして、村岡の政治責任を指摘した[24]。
- 安倍晋三の県民葬
- 2022年7月14日、岸田文雄首相は記者会見で、同年の秋に安倍晋三の国葬を行う考えを明らかにした[25]。これを受けて翌15日、村岡は記者団の取材に応じ、安倍の県民葬を実施する考えを示した。あわせて「多くの県民から哀悼の意が寄せられている。最も深く追悼の意を表する形として、県民葬を執り行いたい」と趣旨も説明した[26]。8月3日、妻の昭恵は山口県庁を訪れ、村岡と面会。昭恵の了承が得られたため、同日、下関市にある県国際総合センター「海峡メッセ下関」で県民葬を10月15日に行う方針を改めて述べた[27]。
- 同年9月20日開会の県議会定例会に、県民葬にかかる予算案を提出する予定。実施費用として数千万円が見込まれている[28]。
- センチュリー購入をめぐる住民訴訟
- 2020年、山口県はそれまで公用車としてトヨタ・センチュリーを3台保有していたが、2台を下取りに出し、同年4月、貴賓車として新車のセンチュリー1台を2090万円で購入した。2021年4月、元県職員の70代の男性は、極めて高価な車種である一方で利用機会が限られ、レンタルなど他の手段で対応が可能だったとして、「違法な公金支出で県財政に損害を与えた」と住民訴訟を起こした[29][30]。
- 2022年11月2日、山口地方裁判所の山口格之裁判長は、センチュリーの購入は知事の裁量権を逸脱した違法行為で、村岡が止めなかったことは指揮監督上の義務に違反した過失が認められるとして、県（村岡知事）に対して、購入代金2090万円などの損害賠償を村岡個人に全額請求するよう命じた[29][30]。2023年5月10日、広島高等裁判所（西井和徒裁判長）は、車種選定や購入は「相応の合理性を認めることができ、違法とは言えない」として一審判決を取り消し、元県職員側の請求を棄却した[31][32]。元県職員の男性は判決を不服として上告した[33]。
脚注
- ^ 山口県/秘書課/プロフィール・知事
- ^ “村岡知事研究 ＜中＞ 上京、官僚 立身の足跡 バンド青年「俺、東大行く」”. 中国新聞. (2020年4月2日) 2020年6月10日閲覧。
- ^ 知事プロフィール 山口県知事全国知事会
- ^ “山本知事の辞職同意＝山口県議会”. 時事ドットコム. (2014年1月14日). オリジナルの2014年1月14日時点におけるアーカイブ。
- ^ a b “県知事選、村岡嗣政氏が出馬会見「活力のある地域を」”. 山口新聞. (2014年1月21日) 2015年12月20日閲覧。
- ^ “山口知事選 新顔・村岡氏が当選”. 朝日新聞. (2014年2月24日) 2014年2月24日閲覧。
- ^ “山口県知事に村岡氏が初当選、自公推薦”. 日本経済新聞. (2014年2月23日) 2015年12月20日閲覧。
- ^ “村岡・山口県知事が初登庁「産業戦略本部長に自ら就任」”. 日本経済新聞. (2014年2月26日) 2015年12月20日閲覧。
- ^ “安倍首相地元の山口県知事、再選出馬へ 自民党に入党、同党推薦か”. 産経新聞 (2017年7月27日). 2017年7月29日閲覧。
- ^ “山口県知事に村岡氏再選 一騎打ちの新人に大差”. 西日本新聞. (2018年2月5日) 2022年2月3日閲覧。
- ^ “山口県知事に村岡氏再選”. ロイター. (2018年2月4日) 2022年2月3日閲覧。
- ^ “山口知事に村岡氏3選 経済再生や人口減対策に課題”. 日本経済新聞. (2018年2月7日) 2022年2月11日閲覧。
- ^ 俵義文『戦後教科書運動史』平凡社〈平凡社新書〉、2020年12月17日、294-295頁。
- ^ 『東京新聞』2015年6月26日付朝刊、特報2面、27頁、「こちら特報部 育鵬社教科書めぐる攻防（下）」。
- ^ 『東京新聞』2015年1月28日付朝刊、6面、「首相の一日 27日」。
- ^ a b 榊原崇仁「育鵬社教科書 シェア微増 4→6％ 旗振り役『躍進』 市民団体『現場無視』」 『東京新聞』2015年9月8日付朝刊、特報1面、24頁。
- ^ “育鵬社教科書を2校側想定せず 山口県教委、認識示す”. 中国新聞. (2015年10月1日) 2022年6月23日閲覧。
- ^ “山口県教育委員会が育鵬社版歴史・公民教科書を採択したことに抗議し、採択のやり直しを求める” (PDF). 自由法曹団ホームぺージ. 2022年6月23日閲覧。
- ^ 大久保昂「育鵬社教科書：シェア増6％ 『つくる会』元幹部編集、歴史・公民 採択、強まる『現場より首長』」 『毎日新聞』2015年9月4日付大阪朝刊、総合面、25頁。
- ^ 國枝すみれ (2020年9月22日). “安倍氏が支援した育鵬社教科書の採択が激減した理由 菅首相は…”. 毎日新聞 2022年6月23日閲覧。
- ^ 宮崎亮 (2020年10月11日). “歴史・公民、育鵬社版が激減 中学教科書、前回採択の半数以上が他社版に切り替え”. 朝日新聞 2022年6月23日閲覧。
- ^ “9月7日付、山口県教育委員会に対する「育鵬社版歴史・公民教科書を採択したことに抗議する」を発表しました”. 自由法曹団ホームぺージ (2020年9月7日). 2022年6月23日閲覧。
- ^ “新型コロナ 知事が期末手当を返上 ３１７万９８５０円 「県民と厳しさ共有」 ／山口”. 毎日新聞. (2020年5月21日) 2020年6月10日閲覧。
- ^ “山口県知事、自民県連から100万円寄付 副知事パーティー券購入依頼巡り「政治的責任」指摘も”. 中国新聞. (2022年4月1日) 2022年6月23日閲覧。
- ^ 「首相「国葬」を表明 「警備体制に問題あった」」『産経ニュース』産業経済新聞社、2022年7月14日。2022年7月23日閲覧。
- ^ “安倍氏の県民葬実施へ 山口県”. 時事ドットコムニュース (2022年7月15日). 2022年8月30日閲覧。
- ^ 前田健汰 (2022年8月3日). “安倍元首相の山口県民葬、10月15日の方向”. 朝日新聞. 2022年8月30日閲覧。
- ^ “安倍氏の県民葬１０月実施へ 山口、地元・下関で開催”. 産経新聞 (2022年8月2日). 2022年8月30日閲覧。
- ^ a b 太田原奈都乃 (2022年11月2日). “2090万円のセンチュリー購入は「違法」 山口県知事に請求命じる”. 朝日新聞. 2022年11月2日閲覧。
- ^ a b “「山口県のセンチュリー購入は不当」山口地裁が判決、村岡知事「正直驚いている」”. TBS NEWS DIG. TBSテレビ (2022年11月2日). 2022年11月2日閲覧。
- ^ “貴賓車購入、原告逆転敗訴 山口・センチュリー訴訟、広島高裁”. 産経新聞. (2023年5月10日) 2023年5月11日閲覧。
- ^ “貴賓車にセンチュリー認める 山口県が逆転勝訴―広島高裁”. 時事通信. (2023年5月10日) 2023年5月11日閲覧。
- ^ “貴賓車にセンチュリー購入 逆転敗訴の住民が上告「納得できず」”. 産経新聞. (2023年5月22日) 2023年5月22日閲覧。
外部リンク
- 村岡つぐまさ公式ウェブサイト
- 村岡嗣政 (tsugumasa.muraoka) - Facebook
- おいでませ知事室へ - 山口県政策企画課