確率論 における期待値 (きたいち、英 : expected value )は確率変数を含む関数の実現値に確率 の重みをつけた(加重平均 )である[1] 。確率分布 に対して定義する場合は「平均」と呼ばれることが多い。
確率変数 X ∼ P X {\displaystyle X\sim P_{X}} を引数にとる関数 g ( X ) {\displaystyle g(X)} の X {\displaystyle X} に関する期待値 E P X [ g ( X ) ] {\displaystyle E_{P_{X}}[g(X)]} は次で定義される[1] :
E P X [ g ( X ) ] = ∑ x P X ( x ) g ( x ) = ∫ P X ( x ) g ( x ) d x {\displaystyle E_{P_{X}}[g(X)]=\sum _{x}P_{X}(x)g(x)=\int P_{X}(x)g(x)dx} 例えば、賭博 において、期待値を受け取れる賞金の「見込み」の金額とすることがある。ただし、期待値を取る確率変数値の確率が最大とは限らず、確率変数値が期待値を取るわけでもない。しかし、独立同分布 であれば、(標本平均 )は期待値に収束することが知られている(大数の法則 )。
期待値が意味をもつのは、根元事象 の確率がある程度均等な場合である。確率が非常に極端な値をとる根元事象がある場合は、期待値の概念にはなじまない。例えば、「保険」や「宝くじ」では高額の保険金や当選金が得られる確率はとても小さいので期待値は負の値になるが、そのことをもって、保険に入ることや宝くじの購入が単なる損失であると判断するのは、適当ではない [独自研究? ] 。
定義 離散型確率変数 確率空間 (Ω, F , P ) において、確率変数 X が高々可算 個 x 1 , x 2 , … を取るとき(離散型確率変数 )、X の期待値は
E [ X ] = ∑ i = 1 ∞ x i P ( X = x i ) {\displaystyle E[X]=\textstyle \sum \limits _{i=1}^{\infty }x_{i}P(X=x_{i})} で定義される。
連続型確率変数 確率空間 ( Ω , F , P ) {\displaystyle (\Omega ,{\mathcal {F}},P)} において、確率変数 X が実数などの連続値を取る(非可算無限)であるとき(連続型確率変数 )、可積分な確率変数 X の期待値は
E [ X ] = ∫ Ω X ( ω ) d P ( ω ) {\displaystyle E[X]=\int _{\Omega }X(\omega )\,dP(\omega )} で定義される。ただし確率変数 X が可積分 であるとは、
∫ Ω | X ( ω ) | d P ( ω ) < ∞ {\displaystyle \int _{\Omega }|X(\omega )|\,dP(\omega )<\infty } を満たすことであり、この積分 は抽象的なルベーグ積分 である。
事象 A ∈ F {\displaystyle A\in {\mathcal {F}}} に対して、
E [ X : A ] = E [ 1 A X ] = ∫ A X ( ω ) d P ( ω ) {\displaystyle E[X:A]=E[1_{A}X]=\int _{A}X(\omega )\,dP(\omega )} と書いて期待値をとる範囲を A に制限する。ここで 1A は指示関数 である。
日本産業規格 日本産業規格 (JIS) では、値 xi が出現する確率 を pi = Pr{X = xi } とする離散確率分布 に対する期待値と、確率密度関数 f (x ) を持つ連続確率分布 の期待値を定義している。多数回の測定を行い測定値の平均を求めると、期待値に近い値になる。関数 g (X ) の期待値 E [g (X )] も同様に定義している。また、条件付き分布の期待値を条件付き期待値 、X ,Y の同時分布 に関し、条件 Y = y の下での X の条件付き期待値が y の関数になること、確率変数 X の期待値を X の母平均ということを紹介している[2] 。
性質 期待値は総和 や積分 によって定義されるので、総和や積分のもつ性質をすべて持っている。以下、X , Y を確率変数 、a , b をスカラーとする。
線形性 E [ a X + b Y ] = a E [ X ] + b E [ Y ] {\displaystyle E[aX+bY]=aE[X]+bE[Y]} 単調性 X ≤ Y ⇒ E [ X ] ≤ E [ Y ] {\displaystyle X\leq Y\Rightarrow E[X]\leq E[Y]} イェンセンの不等式 :凸関数 φ に対して、 φ ( E [ X ] ) ≤ E [ φ ( X ) ] {\displaystyle \varphi (E[X])\leq E[\varphi (X)]} チェビシェフの不等式 :(0, ∞) 上で定義された正値単調増加関数 φ と任意の正の数 ε に対して、 P ( | X | > ε ) ≤ E [ φ ( X ) ] φ ( ε ) {\displaystyle P(|X|>\varepsilon )\leq {\frac {E[\varphi (X)]}{\varphi (\varepsilon )}}} さらに、2つの可積分 な確率変数 X と Y が独立 の場合は、
E [ X Y ] = E [ X ] E [ Y ] {\displaystyle E[XY]=E[X]E[Y]} が成立する。
確率変数を含まない定数項を含むことができ、上記の性質と合わせて次の性質を持つ[3] :
E P X [ a + b g ( X ) ] = E P X [ a ] + b E P X [ g ( X ) ] = a + b E P X [ g ( X ) ] {\displaystyle E_{P_{X}}[a+b\ g(X)]=E_{P_{X}}[a]+b\ E_{P_{X}}[g(X)]=a+b\ E_{P_{X}}[g(X)]}
計算法 連続型確率変数の期待値はルベーグ積分で定義されているので、計算するときには積分の変数変換を行って確率変数の分布で積分するのが普通である。確率変数 X の分布 を PX とすると、任意の可測関数 f に対して
E [ f ( X ) ] = ∫ Ω f ( X ( ω ) ) d P ( ω ) = ∫ R f ( x ) P X ( d x ) {\displaystyle E[f(X)]=\int _{\Omega }f(X(\omega ))\,dP(\omega )=\int _{\mathbb {R} }f(x)\,P_{X}(dx)} となり、さらに PX が確率密度関数 p を持つときは
E [ f ( X ) ] = ∫ R f ( x ) p ( x ) d x {\displaystyle E[f(X)]=\int _{\mathbb {R} }f(x)p(x)\,dx} により、ルベーグ測度 で計算できるようになる。
例 サイコロの目の期待値 6 面体 のサイコロ を 1 回振る。ただし出る目の確率はすべて 1 / 6 とする。出る目 X の期待値は
E [ X ] = 1 × 1 6 + 2 × 1 6 + 3 × 1 6 + 4 × 1 6 + 5 × 1 6 + 6 × 1 6 = 21 6 = 3.5 {\displaystyle E[X]=1\times {\frac {1}{6}}+2\times {\frac {1}{6}}+3\times {\frac {1}{6}}+4\times {\frac {1}{6}}+5\times {\frac {1}{6}}+6\times {\frac {1}{6}}={\frac {21}{6}}=3.5} 賞金の期待値 次のようなゲームを考える。
100 円支払えば、6 面サイコロ 1 個を 1 回振ることができる。 サイコロの出た目に応じて次の金額 X 円がもらえる。 出た目 1 2 3 4 5 6 X 20 50 100 100 150 150
このとき、もらえる金額 X の期待値は
E [ X ] = 20 × 1 6 + 50 × 1 6 + 100 × 1 6 + 100 × 1 6 + 150 × 1 6 + 150 × 1 6 = 95 {\displaystyle E[X]=20\times {\frac {1}{6}}+50\times {\frac {1}{6}}+100\times {\frac {1}{6}}+100\times {\frac {1}{6}}+150\times {\frac {1}{6}}+150\times {\frac {1}{6}}=95} となり、参加費 100 円より少ない。このことから、このゲームは、試行回数を増やしていくと、平均としては1回あたり5円の損をし、回数を増やすほど損であるといえる(大数の法則 )。
脚注 ^ a b "確率変数 X,ある関数 g(·) とするとき,g(X) の期待 値は次のように定義される。 " Tanizaki. (2018). 第5章 統計学の基礎:復習 . 大阪大学 「計量経済基礎」. ^ JIS Z 8101-1 1999 統計−用語と記号−第1部:確率及び一般統計用語(日本規格協会 ) ^ "a + bX の期待値は,E(a + bX) = a + bE(X) ... となる。" Tanizaki. (2018). 第5章 統計学の基礎:復習 . 大阪大学 「計量経済基礎」.
参考文献
関連項目