岸田秀

岸田 秀（きしだ しゅう　1933年12月25日-）は、日本の心理学者・精神分析学者・エッセイスト。和光大学名誉教授。

主著に『ものぐさ精神分析』(1977年)。翻訳書も多数著している。妻は、文化人類学者の船曳建夫の実姉。

『ものぐさ精神分析』が話題になり、思想界を担う存在に。「人間は本能の壊れた動物である」とし、独自の唯幻論を提言する。

経歴

香川県善通寺町（現・善通寺市）に生まれる^[1]。1946年、香川県尋常中学校（旧制）に入学。1948年、学制改革により同中学校は香川県立丸亀高等学校となる。中学、高校時代は友人と新体詩をつくることに熱中する^[2]。1952年3月、丸亀高校を卒業^[3]。1956年3月、早稲田大学第一文学部心理学科を卒業。1959年、同大学大学院(修士課程)修了。その後、ストラスブール大学大学院留学。岸田の弁によれば、同大学院を「卒業」したと思っていたが博士号取得の有無を確認していないという。

1972年、和光大学助教授に就任。1976年、同大学教授に就任。

雑誌『現代思想』『ユリイカ』によって思想界にデビュー。1977年に上梓した『ものぐさ精神分析』はベストセラーとなり話題となる。柄谷行人も岸田の理論に注目することとなる。岸田の理論を信奉した伊丹十三は1981年に岸田をメインにすえた思想雑誌『モノンクル』（朝日出版社）を創刊した。1980年代に到来する「ニュー・アカデミズム」の先駆と言われた。

1997年1月30日に「新しい歴史教科書をつくる会」が設立されると^[4][5]、同年6月までに賛同者に加わった^[6]。

2004年に和光大学を定年退職した^[7]。現在、学者・研究者としてどの学会にも属していない。

著作

単著

• 『ものぐさ精神分析』（青土社、1977年）
• 『二番煎じ ものぐさ精神分析』（青土社、1979年）
• 『出がらし ものぐさ精神分析』（青土社、1980年）
  • 再編『ものぐさ精神分析』（中公文庫（正・続）、改版1996年）
• 『希望の原理』（週刊本：朝日出版社、1985年）
• 『不惑の雑考』（文藝春秋、1986年）のち文庫
• 『嫉妬の時代』 （飛鳥新社、1987年） のち文春文庫
• 『ふき寄せ雑文集』（文藝春秋、1989年）のち文庫
• 『フロイドを読む』（青土社、1991年）のち河出文庫
• 『ものぐさ箸やすめ』（文藝春秋、1993年）のち文庫
• 『幻想の未来 唯幻論序説』（青土社、1993年）のち河出文庫、講談社学術文庫
• 『母親幻想』（新書館、1995年、改訂版1998年）
• 『心はなぜ苦しむのか』（毎日新聞社、1996年）のち朝日文庫
• 『二十世紀を精神分析する』（文藝春秋、1996年）のち文庫
• 『官僚病の起源』（新書館、1997年）のち「歴史を精神分析する」中公文庫
• 『「日本人の不安」を精神分析する 唯幻論で読み解く現代』（大和書房、1998年）
• 『性的唯幻論序説』（文春新書、1999年、増訂版・文春文庫、2008年）
• 『幻想に生きる親子たち』（文藝春秋、2000年）のち文庫
• 『日本がアメリカを赦す日』（毎日新聞社、2001年）のち文春文庫
  • A Place for Apology: War, Guilt, and US-Japan Relations (trans by Yukiko Tanaka). Hamilton Books, 2004. (ISBN 0761828494)
• 『古希の雑考』（文藝春秋、2004年）のち文庫
• 『唯幻論物語』（文春新書、2005年）
• 『嘘だらけのヨーロッパ製世界史』（新書館、2007年）のち「史的唯幻論で読む世界史」講談社学術文庫
• 『「哀しみ」という感情』（新書館、2008年）
• 『唯幻論大全 岸田精神分析40年の集大成』（飛鳥新社、2013年）
• 『絞り出し ものぐさ精神分析』（青土社、2014年）
• 『唯幻論始末記』（(いそっぷ社)、2019年）、著者曰く「人生最後の本」

選集

• 『岸田秀コレクション』（青土社、1992-1998年）、全19冊が刊（共著・訳書も含む）

共著・対談集

• （伊丹十三）『哺育器の中の大人 精神分析講義』（レクチャーブックス：朝日出版社 1978年）のち文春文庫、ちくま文庫
• （山本七平）『日本人と「日本病」について』（文藝春秋 1980年）のち文春文庫、文春学藝ライブラリー
• 『対談集 幻想を語る』（青土社 1981年）のち河出文庫（1・2）
• （八木誠一）『自我の行方』（春秋社 1982年 増補版1985年）
• （三枝充悳）『仏教と精神分析』（小学館 1982年、レグルス文庫 1997年）
• 『対談集 さらに幻想を語る』（青土社 1985年）
• （竹田青嗣）『岸田秀物語論批判』（作品社 1985年）
• （ケネス・D・バトラー）『黒船幻想 精神分析学から見た日米関係』（トレヴィル 1986年）のち河出文庫
• 『対談集 さらにまた幻想を語る』（青土社 1988年）
• （山崎哲）『浮遊する殺意 消費社会の家族と犯罪』（晩成書房 1990年）
• （竹田青嗣）『現代日本人の恋愛と欲望をめぐって』（ベストセラーズ 1992年）
• 『対談集 唯幻論論』（青土社 1992年）
• （町沢静夫）『自己分析と他者分析』（ベストセラーズ 1995年）のち「自分のこころをどう探るか」集英社文庫
• 『対談集 ものぐさ人間論』（青土社 1996年）
• 『対談集 ものぐさ日本論』（青土社 1996年）
• （金両基）『日韓いがみあいの精神分析』（中央公論社 1998年）のち中公文庫
• 『対談集 しゃべる唯幻論者』（青土社 1999年）
• （町沢静夫）『なぜ日本人はいつも不安なのか 寄る辺なき時代の精神分析』（PHP研究所 2000年）
• 『対談集 ものぐさ社会論』（青土社 2002年）
• 『対談集 ものぐさ性愛論』（青土社 2002年）
• （小滝透）『アメリカの正義病・イスラムの原理病 一神教の病理を読み解く』（春秋社 2002年）
• （三浦雅士）『一神教vs多神教』（新書館 2002年）のち朝日文庫
• （小滝透）『日本人はなぜかくも卑屈になったのか』（飛鳥新社 2003年）
• （小滝透）『生きる幻想・死ぬ幻想』（春秋社 2005年）
• （三浦雅士）『靖国問題の精神分析』（新書館 2005年）
• 『対談集 日本人はどこへゆく』（青土社 2005年）
• （原田純）『親の毒　親の呪縛』（大和書房 2006年）
• 『岸田秀最終講義 DVD本』（Id 2006年）。渡辺豊監督、鈴木晶解説
• 『官僚病から日本を救うために 岸田秀談話集』（新書館 2009年）
• （柳澤健）『日本史を精神分析する』（亜紀書房 2016年）

訳書

• アンリ・ワロン『子どもの思考の起源』（滝沢武久共訳 明治図書出版 1968年）
• ハリー・K・ウェルズ『精神分析の破綻-フロイドからフロムへ』（大月書店 1969年）
• ジャン・ピアジェ 『判断と推理の発達心理学』（滝沢共訳 国土社 1969年）
• ジークムント・フロイト、W・C・ブリット『ウッドロー・ウィルソン 心理学的研究』（紀伊國屋書店 1969年）
• ポーレット・カーン『子どもの兄弟関係』（明治図書出版 1969年）
• ジャン＝ポール・シャリエ『無意識と精神分析』（せりか書房 1970年、新版1976年）
• J・アルドワノ『現代教育論』（上下、滝沢・久米博共訳 東京大学出版会 1970年）
• スザンヌ・リラール『愛の思想 男と女の神話』（せりか書房 1970年）
• B・グランベルジェ、J・C＝スミルゲル『拒絶の世界 パリ五月革命の精神分析』（ぺりかん社 1970年）
• エドワード・グローヴァー『フロイトかユンクか』（せりか書房 1971年、新版1982年）
• ピアジェ『子どもの因果関係の認識』（明治図書出版 1971年）
• ブルーノ・ベッテルハイム『性の象徴的傷痕』（せりか書房 1971年）
• ピアジェ 『哲学の知恵と幻想』（滝沢共訳 みすず書房 1971年）
• ピアジェ、B・インヘルダー『記憶と知能』（久米共訳 国土社 1972年）
• カルヴィン・S・ホール、ヴァーノン・J・ノードバイ『ユング心理学入門』（清水弘文堂 1974年）
• ヘレーネ・ドイッチュ『自己との対決 エピローグ』（河出書房新社 1974年）
• G・ラットレー・テイラー『歴史におけるエロス』（河出書房新社 1974年）
• ピアジェ、インヘルダー『心像の発達心理学』（久米共訳　国土社 1975年）
• ミシェル・フーコー編 『ピェール・リビィエールの犯罪 狂気と理性』（久米共訳 河出書房新社 1975年）
• モートン・シャッツマン『魂の殺害者 教育における愛という名の迫害』（草思社 1975年、新版1994年）
• スタンレー・ミルグラム『服従の心理 アイヒマン実験』（河出書房新社 1975年）
• ディヴィド・バカン『ユダヤ神秘主義とフロイド』（久米、富田達彦共訳 紀伊國屋書店 1976年、新版2009年）
• ジャン＝ミシェル・パルミエ 『ラカン 象徴的なものと想像的なもの』（青土社 1977年）
• マックス・シュール『フロイト 生と死』（上下、安田一郎共訳 誠信書房 1978-79年）
• ジャック・バーンバウム『怒りの精神分析』（日本ブリタニカ 1980年）
• ロベール・アリエル、画：ミシェル・シメオン『フロイド 精神分析の冒険』（鈴木晶共訳 リブロポート 1981年）
• ドロシー・ディナースタイン『性幻想と不安』（寺沢みづほ共訳 河出書房新社 1984年）
• B・グランベルジェ、J・C・スミルゲル『「異議申し立て」の精神分析』（南想社 1985年）
• ポール・ローゼン『フロイトと後継者たち』（上下、高橋健次、富田達彦共訳 誠信書房 1987-88年）
• ピーター・トラクテンバーグ『カサノバ・コンプレックス 浮気心の研究』（飛鳥新社 1989年）
• ゲオルク・グロデック『エスの本 無意識の探究』（山下公子共訳 誠信書房 1991年、講談社学術文庫 2018年）
• ジョン・K・ノイズ『マゾヒズムの発明』（加藤健司共訳 青土社 2002年）
• アルベルト・フジモリ『アルベルト・フジモリ、テロと闘う』（中公新書ラクレ 2002年）
• 『大統領への道 アルベルト・フジモリ回想録』（中央公論新社 2003年）
• マイエール・コリンヌ、シモン・アンヌ『高校生からのフロイト漫画講座』（いそっぷ社 2014年）

脚注

1. ^ 『ものぐさ精神分析』中公文庫、404頁。
2. ^ 新体詩を共につくった友人は筆跡学研究者の森岡恒舟（本名：森岡博史）。このときのことは『ものぐさ精神分析』に収録された「詩人のなりそこね」に詳しい。
3. ^ 『絞り出し ものぐさ精神分析』青土社、2014年5月30日、239-240頁。
4. ^ 貝裕珍. “「新しい歴史教科書をつくる会」のExit, Voice, Loyalty” (PDF). 東京大学大学院総合文化研究科・教養学部. 2022年6月13日閲覧。
5. ^ 俵義文『戦後教科書運動史』平凡社〈平凡社新書〉、2020年12月17日、275-278頁。 
6. ^ 「同会賛同者名簿（一九九七年六月六日現在）」 『西尾幹二全集 第17巻』国書刊行会、2018年12月25日。
7. ^ 『絞り出し ものぐさ精神分析』前掲書、259頁。

関連項目

• 吉本隆明
• ニュー・アカデミズム
• 精神分析
• ジークムント・フロイト

外部リンク

• ものぐさ唯幻論 - 岸田秀公式ホームページ