外国為替先物取引(がいこくかわせさきものとりひき、英: foreign exchange futures)や通貨先物取引(つうかさきものとりひき、英: currency futures)[1]とは、外国為替の先物取引。外国為替取引を将来の決められた日(清算日)に事前に決めた為替レートで為替予約ができる。その予約を取引所(市場)で行う物を外国為替先物取引といい、2者間の相対取引で行う物を外国為替先渡取引(英: foreign exchange forward contract)や通貨先渡取引(英: currency forward contract)[2]という。外国為替先渡取引は、銀行と顧客の間などで行う。外国為替先物取引の方は、取引所で扱うため、清算日が決められているほか、取引単位も決まっている。それに対して、外国為替先渡取引は相対取引なので、2者が合意すれば自由に決められる。
外国為替先物取引は証拠金取引の先物取引である。よって、レバレッジをかけられるほか、売りポジションから始めることもできる。類似の物として、外国為替証拠金取引があるが、これは為替予約ではなく、現在の為替レートで取引するスポット取引である。
外国為替先物は「清算日まで通貨Aを借り、通貨Aから通貨Bに両替し、清算日まで通貨Bを貸し出す」と等価な金融商品。清算日に通貨Aを支払い通貨Bが手に入るので、通貨Bの為替予約となっている。
直先スプレッド
外国為替証拠金取引は現物の為替取引と同じ直物為替相場(spot exchange rate)で取引されるが、先物為替相場(futures exchange rate)や先渡為替相場(forward exchange rate)は直物為替相場に直先スプレッドを加算したレートで取引される。
先物為替相場や先渡為替相場 = 直物為替相場 + 直先スプレッド[3]
直先スプレッドは清算日までの2つの通貨の金利差で決まる。外国為替証拠金取引はポジションを持った後、2つの金利差に基づいてスワップポイントが発生するが、清算日までのスワップポイントの分を上乗せした為替レートが先物為替や先渡為替の為替レートになる。
株価指数先物取引の場合、先物価格 = 現物価格 - 配当分 + 金利分 となる。これは、現物と先物の裁定取引を行った際に利益が出ないという制約条件(無裁定価格理論)から生じる。同じように、外国為替先物取引も、シカゴ・マーカンタイル取引所で扱われている対ドルの場合は、先物相場 = 直物相場 - 当該通貨の金利分 + 米ドルの金利分 となる。
リスクヘッジ利用
外国為替証拠金取引も証拠金取引であるため、為替変動のリスク回避として利用できるが、ポジションを持った後に発生するスワップポイントに不確実性があり、この部分の不確実性も回避できるのが先物為替や先渡為替である。なお、金利の不確実性だけを回避する物として金利先物取引がある。また、通貨Aの借り入れを行い、通貨Aから通貨Bに両替し、通貨Bが必要になる日まで通貨Bの国債で運用すると、為替相場変動と金利変動の両リスクを回避でき、外国為替先物と等価になる。表にまとめると以下のようになる。
為替変動リスク回避 | 金利変動リスク回避 | |
---|---|---|
外国為替証拠金取引 | ○ | × |
金利先物取引 | × | ○ |
外国為替先物取引 | ○ | ○ |
借り入れ→両替→国債運用 | ○ | ○ |
銘柄
外国為替先物取引はシカゴ・マーカンタイル取引所などで扱われている[4]。限月は基本的には3・6・9・12月だが、一部は毎月設定されているものの、3・6・9・12月に出来高は集中している。下記は一例で主要な通貨は一通り扱われている。全て米ドル相手との外国為替である。日本には外国為替先物の取引所が存在しない。
銘柄 | 取引単位 | 呼値の単位 | 取引所 |
---|---|---|---|
Japanese Yen Futures[5] | 1,250万円 | 0.0000005 | CME |
Euro FX Futures[6] | 125,000ユーロ | 0.00005 | |
British Pound Futures[7] | 62,500ポンド | 0.0001 | |
Swiss Franc Futures[8] | 125,000スイス・フラン | 0.00005 | |
Australian Dollar Futures[9] | 10万オーストラリア・ドル | 0.00005 |
全て現物決済による証拠金取引。立会時間は18:00~翌17:00(東部標準時)。
International Monetary Market
1971年12月にシカゴ・マーカンタイル取引所は国際金融市場 (International Monetary Market, IMM) という部署を作り、1972年5月16日より外国為替先物の取り扱いを開始した[10][11]。ブレトン・ウッズ体制が終了し、1971年12月のスミソニアン協定により為替相場が変化するようになり、1973年より固定相場制から変動相場制に移行した時代である。IMM という部署は1986年に廃止されたが[12]、その歴史的経緯から、現在でも、シカゴ・マーカンタイル取引所の外国為替先物は日本ではIMM通貨先物とも呼ばれる。また、清算日が、3・6・9・12月の第3水曜日のため、この日をIMMデート(IMM date)[13]と呼ぶ。
また、シカゴ・マーカンタイル取引所に上場している外国為替先物のポジション(建て玉)の残高を日本ではIMMポジションとも呼ぶ。米国商品先物取引委員会 (CFTC) は、毎週火曜日の取引終了後の建て玉数を集計して金曜日15時30分 (東部標準時) に公表している[14]。その中のシカゴ筋ポジションと呼ばれる大口投資家(Reportable Positions)の非商業(Non-Commercial)つまり投機筋の建て玉の変化が注目される[15][16]。
オプション取引
外国為替オプション取引(がいこくかわせオプションとりひき、英: foreign exchange options)や通貨オプション(英: currency options)は、外国為替のオプション取引。オプションを買うことにより、オプション料を対価に為替レートに対して保険をかけることができて、所定のレート以上に値上がりまたは値下がりした時に発生する損失を回避できる[17]。オプションの売りは投機筋およびマーケットメーカー用。
シカゴ・マーカンタイル取引所などが、外国為替のオプション取引の市場を提供している[18]。店頭デリバティブ取引として提供している金融機関もある。金融機関によっては、オプションの買いのみを提供していて、オプションの売りは提供していない場合もある。
参照
- ^ 通貨先物取引 | みずほ証券 ファイナンス用語集
- ^ 先渡取引 基礎ファイナンス 山嵜輝 法政大学大学院経営学研究科講義資料
- ^ 先渡為替相場 | みずほ証券 ファイナンス用語集
- ^ FX Futures and Options - CME Group
- ^ Japanese Yen Futures Contract Specs - CME Group
- ^ Euro FX Futures Contract Specs - CME Group
- ^ British Pound Futures Contract Specs - CME Group
- ^ Swiss Franc Futures Contract Specs - CME Group
- ^ Australian Dollar Futures Contract Specs - CME Group
- ^ Evolution Of The International Monetary Market - Leo Melamed
- ^ Timeline of CME Achievements
- ^ History of FX at CME Group
- ^ 通貨オプション取引便覧 - CME Group
- ^ Commitments of Traders | CFTC
- ^ 「シカゴ筋ポジション」為替相場情報 FOREX WATCHER
- ^ 「IMMポジション」外為どっとコム
- ^ 3-5 オプション取引活用の例 ─ 3 オプション取引 ─ やさしいデリバティブ|知るぽると
- ^ Welcome to CME FX Options on Futures