国境離島警備隊（こっきょうりとうけいびたい）は、領海基線を有する離島に係る警備活動を実施するための沖縄県警察の部隊[1]。日本の国境警備隊の一種である。
概要
国境離島警備隊は、沖縄県警察の警備部に2020年（令和2年）4月、151人で発足し、尖閣諸島を含む離島への不法上陸を行う活動家や漁民に偽装した工作員への対応を想定している[2]。隊長は、警視正[3][4]。国境離島警備隊の経費は、全額国庫負担となっている[1]。所掌事務は、以下のとおり[5]。
- 国境離島に係る警備実施及び警戒警備に従事すること。
- 国境離島に係る警備訓練に関すること。
- 警察用航空機の運航及び整備に関すること（生活安全部地域課の所掌に属するものを除く）。
- 前3号に掲げるもののほか、国境離島警備に係る警備部内の他の所掌に属しないこと。
国境離島警備隊は、相手を制圧する専門訓練を受けた隊員、導入する大型ヘリコプターの操縦士などで構成され、沖縄本島に常駐する[4]。万一、漁民に偽装した武装集団が離島に不法に上陸した場合、自動小銃や防弾衣を装備した隊員がヘリコプターで現地に急行し、武装集団を摘発することを想定する[4]。福岡県警察にもEC225LP大型ヘリコプターが配備され、沖縄県警と共に隊員輸送などを担当する[4]。
背景
尖閣諸島を含む沖縄に対する施政権は、1972年（昭和47年）にアメリカ合衆国から日本に返還された（沖縄返還）。以来、日本は、尖閣諸島を「我が国固有の領土」として実効支配している。これに対して、中華人民共和国と中華民国は、それぞれ尖閣諸島の領有権を主張している。
仮に外国人が尖閣諸島への不法上陸を試みた場合、海上保安庁が海上で上陸阻止を図り、上陸した者は沖縄県警が逮捕することになっている[6]。また、外国軍による侵攻に対しては、内閣総理大臣が国会の承認を得て自衛隊に防衛出動を命令することになる。
しかし、侵入者が武装した民間人である場合（民間人を偽装している場合）、これまでの沖縄県警・海上保安庁の能力では対処が困難であり、自衛隊の防衛出動の要件も満たされない問題が指摘されていた[6][7]。平時とも有事ともつかない「グレーゾーン事態」である[4]。
防衛出動ができない場合でも、自衛隊による海上警備行動や治安出動という選択肢が残されており、また、過去には、自衛隊に新たな任務を付与する法整備（領域警備法）の提案もあった。しかし、防衛省は「平時に自衛隊が対処すれば中国海軍が介入する口実を与える」と慎重である[8]。
国境離島警備隊は、「グレーゾーン事態」に対処する能力を備えることにより、県警・海上保安庁の能力と自衛隊の任務との間にあった隙間を埋める役割を持つ。内閣官房によると、2021年11月には、五島列島津多羅島において、他国による沖縄県・尖閣諸島占拠を想定して第十一管区海上保安本部や自衛隊との共同訓練を行った[9]。
出典
- ^ a b 警察法施行令附則第30項
- ^ “沖縄県警、国境離島警備隊を新設、尖閣不法上陸に即応 自衛隊の連携に不安も”. 産経新聞. (2020年4月1日) 2020年11月12日閲覧。
- ^ “沖縄県警で国境離島警備隊が発足”. 日刊警察. (2020年4月30日) 2020年11月12日閲覧。
- ^ a b c d e “沖縄県警に国境離島警備隊: 尖閣対応、4月発足”. 日本経済新聞. (2020年3月27日) 2020年11月12日閲覧。
- ^ 沖縄県警察の組織に関する規則（昭和47年沖縄県公安委員会規則第2号）第38条
- ^ a b “元統幕学校副校長・川村純彦氏に聞く (上)”. J-CAST ニュース. (2014年8月1日) 2020年11月13日閲覧。
- ^ “グレー領域の警備の拡充を”. 日本経済新聞. (2018年5月19日) 2020年11月13日閲覧。
- ^ “日本の尖閣実効支配、覆す試み強める中国: 平時に自衛隊が対処すれば「介入の口実与える」”. 読売新聞オンライン. (2021年2月17日) 2021年2月17日閲覧。
- ^ 「共同訓練、沖縄・尖閣占拠を想定 自衛隊と海保、類似地形の島で」『共同通信』共同通信社、2021年12月26日。