南海10000系電車(なんかい10000けいでんしゃ)は、南海電気鉄道が1985年(昭和60年)から1992年(平成4年)にかけて製造した特急形電車である。
南海10000系電車 | |
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南海10000系 (今宮戎駅 2018年7月) | |
基本情報 | |
運用者 | 南海電気鉄道 |
製造所 | 東急車輛製造 |
製造年 | (先頭車)1985年 - 1989年 (中間車)1992年 |
製造数 | 28両 |
運用開始 | 1985年11月1日 |
投入先 | 南海本線・和歌山港線 |
主要諸元 | |
編成 | 4両編成 |
軌間 | 1,067 mm |
電気方式 | 直流1500 V架空電車線式 |
最高運転速度 | 110 km/h |
設計最高速度 | 120 km/h |
起動加速度 | 2.5 km/h/s |
減速度(常用) | 3.7 km/h/s |
減速度(非常) | 4.0 km/h/s |
車体 | 普通鋼 |
台車 | S形ミンデン式ダイレクトマウント空気ばね台車 住友金属工業製FS-528形・FS-028形 |
主電動機 | 直流直巻電動機 MB-3072-B 375V |
主電動機出力 | 145 kW × 4 |
駆動方式 | WNドライブ |
歯車比 | 83:18 (4.61) |
編成出力 | 1,160 kW |
制御方式 | 超多段式バーニア(抵抗制御) |
制御装置 | VMC-HTB-20AN |
制動装置 | 電磁直通空気ブレーキ (発電ブレーキ併用、応荷重装置付) 直通予備ブレーキ |
保安装置 | (南海型ATS) |
概要
南海本線でそれまで運行されていた特急「四国号」に代わる特急「サザン」の運行開始に合わせ、専用車として製造された。
1985年から1989年(平成元年)にかけて2両編成10本(20両)が製造されたが[1]、1992年(平成4年)に中間車が8両製造されるとともに先頭車6両の中間車化改造が実施され、4両編成7本(28両)に組み替えられた。
登場の経緯
南海本線では旧1000系による一部指定席の特急「四国号」が運行されていた。しかし、1000系は車体が製造後25年前後経過し老朽化が進み、また指定席車も座席は転換クロスシート・ロングシートであったため、1983年(昭和58年)に高野線の特急「こうや」に投入された全席リクライニングシートの30000系に比べると車内設備が見劣りするようになっていた。
1000系は1973年(昭和48年)の昇圧時に、機器を7000系・7100系と同一のものに交換されていた。このため自由席車には7000系・7100系を使用し、指定席車には1000系の機器を流用することで7000系・7100系との併結運転を可能としつつ30000系と同等の車内設備を持つ指定席専用車を使用し、「四国号」に代わる新たな一部指定席の特急列車を運行することとなった。これにより必要となる指定席専用車として製造されたのが本形式である。
構造
車体
普通鋼製の20 m車体である。7000系・7100系と、あるいは10000系同士の併結運転を行うため、先頭車の前面は貫通形で、前面窓は大型曲面ガラスを使用している。
先頭車は運転台後方と連結面側車端部の両端2か所に出入台を設けており、側面に2か所の折戸を設置しているが、中間車は出入台が1か所のみに設けられており側面1扉である。中間車化改造された車両は運転台とともに出入台も1か所が撤去されている。側面窓は1985 -1989年に製造された車両は30000系と同形で、1992年に製造された中間車は11000系と同じ連続窓風である。
車体塗装は当初オーシャングリーン■にダークグリーン■の帯で、30000系の色違いといえるものであった。また、従来欧風書体であった車両番号表記は、30000系を踏襲したゴシック体となった。南海本線用車両では初めてである。
関西国際空港開港を控えての新CI戦略に伴い、1992年の中間車新造にあわせてカラーデザインが変更され、メタリックシルバー■塗装にブルー■とオレンジ■の帯を配したものとなった。なお、通勤車(自由席車)はグレー塗装とされた。
機器
主電動機・制御装置・ブレーキなどの機器類は1000系から流用しており、(抵抗制御)・電磁直通空気ブレーキである。7000系・7100系と同一品であり両系列との併結運転が可能であるが、10000系とほぼ同時期に造られた9000系とは併結運転できない(幌枠の形状も異なる)。
台車は1000系から流用せず、空気ばね台車のFS-528(電動車)/FS-028(制御車・付随車)を新製している。また、歯車比は将来、最高速度を120 km/hへ引き上げることを考慮して、85:16 (5.31) から83:18 (4.61) に変更されている[2]。
車内設備
座席は全席フリーストップ式(好みの角度で固定可能)リクライニングシートとなっている。1985年に製造された車両はセンターアームレスト(中肘掛)がなくテーブルも窓側にしかないが、カップホルダが設置されている。1992年に製造された車両は11000系と同じ座席で、センターアームレストやインアームテーブル(肘掛内蔵テーブル)が装備されている。また跳ね上げ式のフットレストもある。
モハ10101形には車椅子スペースおよびサービスコーナーを設置している。過去には「サザン」での車内販売が朝ラッシュ時のみ行われていた。
2両固定編成で運用開始された当初は1000系と同様に便所・洗面所はなかったが、4両編成化で組み込まれたサハ10801形では洋式男女共用・男子用・女子用トイレと洗面所を設置している。
乗務員室内の車内放送装置には、編成別放送機能があり、マイク端子箱上の放送切り替えレバーにより、座席指定車向け・自由席車向けの放送をそれぞれ行うことができる。車内設備や乗降ドアの位置・開き方、携帯電話の使用ルールなどの違いに対応している。
編成・形式
当初は難波方先頭車が制御電動車のモハ10001形、和歌山方先頭車が制御車のクハ10901形の2両固定編成であったが、1992年に中間電動車のモハ10101形と付随車のサハ10801形を組み込み、難波方からモハ10001形(4号車) - サハ10801形(3号車) - モハ10101形(2号車) - クハ10901形(1号車)の4両固定編成となった。モハ10101形・サハ10801形は新製車 (10007F - 10010F) とモハ10001形・クハ10901形からの改造車 (10004F - 10006F) がある。このため、1992年に中間車化改造を受けた10001F - 10003Fは編成としては抹消された(よってモハ10101 - 10103番車と、サハ10801 - 10803番車は存在しない)。
現在は難波寄りに一般車両を4両繋げて運行するため、モハ10001形は営業運転で先頭に立つことがない。
編成表
- 2両固定編成時代
← 難波 和歌山市 → | ||||
形式 | モハ10001 (Mc) | クハ10901 (Tc) | 竣工日[3] | 備考 |
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車両番号 | 10001 | 10901 | 1985年10月1日 | 1992年中間車改造 |
10002 | 10902 | 1985年10月1日 | ||
10003 | 10903 | 1985年10月1日 | ||
10004 | 10904 | 1985年10月1日 | ||
10005 | 10905 | 1986年10月21日 | ||
10006 | 10906 | 1987年3月10日 | ||
10007 | 10907 | 1987年3月10日 | ||
10008 | 10908 | 1989年1月30日 | ||
10009 | 10909 | 1989年1月30日 | ||
10010 | 10910 | 1989年1月30日 |
- 4両固定編成化後
← 難波 和歌山市 → | ||||||
形式 | モハ10001 (Mc) | サハ10801 (T) | モハ10101 (M) | クハ10901 (Tc) | 中間車の竣工(改造)日[3] | 廃車 |
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車両番号 | 10004 | 10804 (10901) | 10104 (10001) | 10904 | (1992年9月4日) | |
10005 | 10805 (10902) | 10105 (10002) | 10905 | (1992年7月3日) | 2013年5月7日 | |
10006 | 10806 (10903) | 10106 (10003) | 10906 | (1992年7月3日) | 2012年12月25日 | |
10007 | 10807 | 10107 | 10907 | 1992年3月23日 | ||
10008 | 10808 | 10108 | 10908 | 1992年3月23日 | ||
10009 | 10809 | 10109 | 10909 | 1992年3月23日 | ||
10010 | 10810 | 10110 | 10910 | 1992年3月23日 |
- 括弧内は旧番号。
車体装飾
- 2014年10月5日からは、みさき公園におけるイベント「スーパー戦隊フェスティバルin みさき公園」の開催記念として、10004Fの和歌山方先頭車(10904)に「烈車戦隊トッキュウジャー」をデザインしたラッピングが施され、2015年1月7日まで運行された[4][5]。
- 2015年4月29日からは、10009F全車に「妖怪ウォッチ」のキャラクターをデザインしたラッピングが施され、6月28日まで運行された[6]。外装の他に、座席ヘッドカバーを特別デザインに変更するなど内装にも反映されている。
- 2015年6月には、南海電鉄が創業130周年を迎え、7000系が同年9月末までに運行を終了することを記念して、10004Fが製造当時のオーシャングリーンにダークグリーンの帯の旧塗装に変更され、同じく緑のツートンカラーの旧塗装に変更された7000系と連結して、創業130周年記念のヘッドマークを掲出した「なつかしの緑色」の特急サザンとして2016年3月まで運用された[7]。
- 2019年12月23日からは、10004F全車に同年1月から「和歌山市ふるさと観光大使」に就任したHYDEとコラボレートした「HYDE サザン」を運行開始した[8][9]。
「烈車戦隊トッキュウジャー」ラッピング
(2014年12月13日 天下茶屋駅にて)「妖怪ウォッチ」ラッピング
(2015年6月24日 萩ノ茶屋駅にて)創業130周年と7000系の運行終了を記念して、旧塗装に復元された編成
(2015年7月4日 萩ノ茶屋駅にて)HYDEサザン
(2019年12月29日 天下茶屋駅にて)
運用
南海本線の特急「サザン」にのみ使用される。基本的に4両編成で、全列車が7100系との併結運転である。2015年9月までは7000系との併結運転も行っていた。運用開始時から2009年10月3日までは10000系同士の併結運転による全車指定席の「サザン」も運行されていた。なお、空港線には一切乗り入れない。また高野線への入線は、千代田工場への出入場の場合以外はない。
また、和歌山で行われるみなと祭りでは、急行列車として運転されたことがある。急行として運転される際には、急行幕は入っていないため「-急行-(春木停車の急行)」で運転される。2002年(平成14年)4月28日には水軒駅廃止前のイベントで臨時列車として和歌山港線水軒駅まで乗り入れたこともある。
さらに10005Fが引退する事が発表され、これに伴うイベント列車として先頭車両2両の編成で加太線に入線することが発表された。加太線への入線はこれが初めてである[10]。
置き換え
本系列は製造から20 - 25年以上が経過し、車体更新が行われておらず、走行機器も旧1000系の流用品であり老朽化が進んでいることから、2011年秋より導入される新型車両の12000系に順次置き換えられる事となった[11]。
2012年12月25日付で10006Fが廃車・解体された[12]。また2013年4月にはホームページ上で10005Fの4両が引退する事が発表され[10]、その4両も同年5月7日付で廃車・解体された[13]。残りの編成については、サザン向け12000系の増備や、自由席車で使用される7100系の代替がストップしていることもあり、2022年現在も今後の処遇に関する公式発表はない。
保存
みさき公園(2020年3月31日閉園)内にある、2014年9月27日にオープンした「わくわく電車らんど」にて、10005Fの和歌山方先頭車(10905)のカットボディが保存されている[14]。現在は、施設を含め閉鎖されたため非公開となっている。
脚注
- ^ 藤井信夫『車両発達史シリーズ 6 南海電気鉄道 下巻』関西鉄道研究会、1998年12月、110頁。
- ^ 飯島巌、藤井信夫、井上広和 『復刻版私鉄の車両23 南海電気鉄道』9ページ
- ^ a b 「南海電気鉄道 車両履歴表」『鉄道ピクトリアル』2008年8月臨時増刊号 南海電気鉄道、電気車研究会、2008年、286頁。
- ^ (PDF)『「烈車戦隊トッキュウジャー」をデザインした特急サザンを運行』(プレスリリース)南海電気鉄道、2014年9月18日 。
- ^ 南海10000系に「烈車戦隊トッキュウジャー」ラッピング railf.jp(交友社) 2014年10月6日
- ^ (PDF)『「特急サザン 妖怪ウォッチ号」を運行します』(プレスリリース)南海電気鉄道、2015年4月7日 。
- ^ (PDF)『【南海】創業130周年&さようなら7000系記念企画 「懐かしの緑色」の特急サザンを運行します』(プレスリリース)南海電気鉄道、2015年5月11日 。
- ^ 『「HYDE サザン」 12月23日(月) 運行開始!』(プレスリリース)南海電気鉄道、2019年12月24日 。
- ^ 南海で「HYDEサザン」の運転開始 railf.jp(交友社) 2019年12月24日
- ^ a b (PDF)『ありがとう「10005編成」特急サザンが加太線を初運行』(プレスリリース)南海電気鉄道、2013年4月5日 。
- ^ (PDF)『新型特急「サザン」12000系を導入します』(プレスリリース)南海電気鉄道、2011年1月17日 。
- ^ 「車両データバンク」、『鉄道ファン』2013年8月号特別付録、交友社、2013年。
- ^ 「車両データバンク」、『鉄道ファン』2014年8月号特別付録、交友社、2014年。
- ^ 【南海】みさき公園に「わくわく電車らんど」が開館 - 鉄道投稿情報局 鉄道ホビダス 2014年9月29日
参考文献
関連項目
外部リンク
- 南海電気鉄道公式サイト