ピタゴラス数(英: Pythagorean triple)とは、a2 + b2 = c2 を満たす3つの自然数の組 (a, b, c) のことである。これはピタゴラスの定理に由来しており、直角三角形の3辺の長さでいずれも整数であるのはピタゴラス数に限られる。3辺のうちある2辺が整数でも残りの辺が整数になるとは限らずその場合無理数となってしまうことから、ピタゴラス数のリストは興味の対象となる。
最小のピタゴラス数は (3, 4, 5) である。
(a, b, c) がピタゴラス数ならば
- (2a, 2b, 2c), (3a, 3b, 3c), …
も明らかにピタゴラス数となる。そのため、ピタゴラス数のリスト化には (a, b, c) の最大公約数が 1 であるもののみを列挙する。これを原始ピタゴラス数(英: primitive Pythagorean triple)という。
ピタゴラス数はディオファントス方程式 a2 + b2 = c2 の整数解であるため、ピタゴラス数は非線形ディオファントス方程式の最も古い既知の解の一つである。
歴史
ピタゴラス数は古くから知られている。最も古い既知の記録は、紀元前1800年頃のバビロニアの粘土板であるプリンプトン322からのもので、六十進法で書かれている。1900年の初期にエドガージェームズバンクスによって発見され、1922年に(ジョージアーサープリンプトン)に10ドルで売却された[1]。
リスト
原始ピタゴラス数 (a, b, c) を、a < b < c とし、c の小さい順に並べると、c < 300 までは次の通りである:
(3, 4, 5) | (5, 12, 13) | (8, 15, 17) | (7, 24, 25) |
(20, 21, 29) | (12, 35,37) | (9, 40, 41) | (28, 45, 53) |
(11, 60, 61) | (16, 63, 65) | (33, 56, 65) | (48, 55, 73) |
(13, 84, 85) | (36, 77, 85) | (39, 80, 89) | (65, 72, 97) |
(20, 99, 101) | (60, 91, 109) | (15, 112, 113) | (44, 117, 125) |
(88, 105, 137) | (17, 144, 145) | (24, 143, 145) | (51, 140, 149) |
(85, 132, 157) | (119, 120, 169) | (52, 165, 173) | (19, 180, 181) |
(57, 176, 185) | (104, 153, 185) | (95, 168, 193) | (28, 195, 197) |
(84, 187, 205) | (133, 156, 205) | (21、220, 221) | (140, 171, 221) |
(60, 221, 229) | (105, 208, 233) | (120, 209, 241) | (32, 255, 257) |
(23, 264, 265) | (96, 247, 265) | (69, 260, 269) | (115, 252, 277) |
(160, 231, 281) | (161, 240, 289) | (68, 285, 293) |
原始ピタゴラス数の性質
- a または b は 4 の倍数
- a または b は 3 の倍数
- a または b または c は 5 の倍数
原始ピタゴラス数の生成式
原始ピタゴラス数 (a, b, c) (a2 + b2 = c2) は
- (a, b, c) = (m2 − n2, 2mn, m2 + n2) または (2mn, m2 − n2, m2 + n2)
の形になる。ここで、m, n は自然数で、
を満たす。これはユークリッドの式[2]と呼ばれる。
故に、ピタゴラス数 (a, b, c) は下の式で表される:
証明
3段構成で証明される。
- a と b は偶奇が異なる
- a が偶数とすると、c + b/2, c − b/2 は平方数
- (a, b, c) = (m2 − n2, 2mn, m2 + n2) または (2mn, m2 − n2, m2 + n2)
1. (a, b, c) は原始的であるから、a と b の少なくとも1つは奇数である。
a も b も奇数であると仮定すると、
これは c2 ≡ 0, 1 (mod 4) に矛盾。
故に、a と b は偶奇が異なる。
2. a が偶数、b が奇数の場合について証明する(他の場合は a, b を入れ替えればよい)。
a =: 2a'(a' は整数)とおく。
ここで c + b と c − b は偶奇が一致するから、(ともに奇数だとすると上の等式を満たさないため)
- c + b = 2u, c − b = 2v(u, v は自然数)
とおくことができる。
ここで c = u + v, b = u − v は互いに素であるから、u, v は互いに素であることが導ける。さらに u + v, u − v は偶奇が一致するから u − v は奇数である。
逆に、u, v は互いに素で u − v が奇数ならば、c = u + v, b = u − v は互いに素であることも導ける。
u, v は互いに素だから、u = m2, v = n2(m, n は互いに素な自然数)とおくことができる。
このとき c + b = 2m2, c − b = 2n2
u > v より m > n
u − v = (m + n)(m − n) は奇数より m − n は奇数。
3. 2.より c = m2 + n2, b = m2 − n2
- ∴ a = 2mn ■
脚注
外部リンク
- 『ピタゴラス数の求め方とその証明』 - 高校数学の美しい物語
- 『原始ピタゴラス数の木』 - 高校数学の美しい物語