ジェフリー・エドワード・エプスタイン（Jeffrey Edward Epstein、1953年1月20日 - 2019年8月10日）は、アメリカ合衆国の実業家、投資家。児童買春で有罪判決後に自殺したと報道されたが、法医学者マイケル・バーデンは、他殺されたことを示す証拠があると発表している[1][2]。
概要
生い立ち
エプスタインは1953年にニューヨーク市ブルックリン区でポーリーン（1918年–2004年）[3]とシーモア（1916年–1991年）[4]のユダヤ人の両親の下に生まれた[5]。親族の一部をホロコーストで失っている[6]。エプスタインは5歳の時にはピアノを弾いていた[7]。
1969年の16歳の時に、ラファイエット高等学校を2学年飛び級して卒業した[8]。1971年9月にニューヨーク大学のクーラント数理科学研究所に入学するが、1974年6月に中退している[8]。
成人後
ドルトン・スクールで教師をしていた20代の頃に金融業界のつてを得て[9]ベアー・スターンズに入行した[10]。その後、独立、ヘッジファンドの経営を通じて財を成し、富豪と呼ばれる立場となった。
だがその後、児童買春の罪で有罪判決を受けた。この児童買春はギレーヌ・マクスウェルが仲介していたと関係者は主張している[11]。エプスタインの誕生日には、フランスから3人の12歳の少女が彼の下に連れ込まれ、猥褻な行為をされた後、ヨーロッパに帰国した[12]。アメリカ領ヴァージン諸島の検察によって提起された訴訟によると、エプスタインは11歳の少女を人身売買していた[13]。
交友関係にイギリス王室のアンドルー王子など著名人が多数存在し、エプスタイン逮捕後には、彼らにも疑念の目が向けられている[14]。ビル・クリントンやドナルド・トランプとも親交を持っていた[11]ほか、クリントンは自家用機で若い女性とともに何度もエプスタインの別荘に出入りしている。
アリ・ベン＝メナシェは、エプスタインはイスラエル諜報特務庁の工作員だったと主張している[15]。スティーヴン・ホッフェンバーグは、エプスタインはポンジ・スキーム事件の主犯格であり、会社から1700万ドルを横領するも訴追されずに逃亡したと述べている[16]。
トランスヒューマニズムや生命科学に強い関心を抱いており、「何者かに観察されているという感情を持つ粒子」の発見にも投資すると述べていた[17]。有罪判決を受けた後もMITメディアラボなどに寄付をしていたことが判明し、当時所長であった伊藤穰一が辞任した。また、この寄付はマサチューセッツ工科大学理事長のL・ラファエル・ライフも当時から関知していたことが判明した[18]。
訴訟
フロリダ州での裁判
フロリダ州パームビーチの邸宅で少女らに金を払い、性的な行為をしたとして2006年に起訴され、2008年に禁錮18ヵ月という判決が言い渡されている。この際の検事は、後にアメリカ合衆国労働長官となるアレクサンダー・アコスタであり、児童買春1件の罪を認めて性犯罪者として登録する見返りに減刑、連邦レベルでの起訴を免れるとする司法取引が行われていた。エプスタインは日中に刑務所から外出して普通に働き、夜に刑務所に戻ることが認められ[19]、収監から13ヵ月で出所した[20]。後に、アコスタが行った司法取引が非難の対象とされ、2019年7月に労働長官の職を辞している[21]。
民事事件
ジェーン・ドウ対エプスタインとトランプ事件（2016年）
2016年4月に、エプスタインを相手取り、カリフォルニア州の女性が連邦裁判所に告訴した。内容は、1994年にマンハッタンのエプスタインの邸宅で行われたパーティー中に、当時13歳だった彼女がエプスタインから性的暴行を受けたというものだった。この訴訟は、連邦法の下で有効な申し立てとならなかったため、2016年5月に連邦裁判所判事によって棄却された。
原告は2016年アメリカ合衆国大統領選挙の6日前にロサンゼルスで記者会見を行う予定だったが、脅迫を受けたことを理由に急遽その予定をキャンセルした。トランプの弁護士は原告の主張を全面否定し、エプスタインはコメントを控えた[22][23][24][25][26]。
第2の刑事事件
2019年7月6日、パリから自家用機で帰国した際、ニュージャージー州のテターボロ空港で逮捕。容疑は、2002年から2005年までの間、マンハッタン、ニューヨーク、パームビーチの自宅で14歳を含む未成年の少女数十人を性的に搾取した疑い[28]。
十数人のFBI捜査員が、エプスタインが居住するハーバート・N・ストラウス・ハウスの家宅捜索を行った。その中から、性的人身売買の証拠と、「何百、あるいは何千枚もの性的に際立った全裸と半裸の女性の写真」が見つかった。写真の一部は未成年の女性であることが確認された。施錠された金庫の中に、「Young [名前] + [名前]」「Misc nudes 1」「Girl pics nude」などのラベルが付いたCDが見つかった[29]。また、金庫には70,000ドルの現金、48個のダイヤモンド[30]、エプスタインの写真ではあるが違う名前が記載されている、サウジアラビアなどのパスポートも見つかった[31]。
同年7月8日、エプスタインはニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の法廷で無罪を主張したが、担当検事はインタビューでニューヨーク州南部地区の判断はフロリダ州での司法取引に影響されないと述べている[32]。
私生活
エプスタインはビル・クリントン、ジョージ・ステファノプロス、ドナルド・トランプ[33]、ケイティ・クーリック、ウディ・アレン[34]、ハーヴェイ・ワインスタイン[35]などの著名人とパーティーで同席した。彼が交流関係を持つ者にはビル・ゲイツ[36][37]、ルパート・マードック、マイケル・ブルームバーグ、リチャード・ブランソン、マイケル・ジャクソン、アレック・ボールドウィン、ケネディ家、ロックフェラー家、ロスチャイルド家[38]、イスラエル首相エフード・バラック、イギリス首相トニー・ブレア、サウジアラビアの王太子ムハンマド・ビン・サルマーンが含まれていた[39][40][41]。
エプスタインは「ロリータ・エクスプレス」と呼ばれるプライベートジェット機のボーイング727を所有し、来客と共に年間600時間飛行していた[42][43]。
過去に交際相手が存在したが、エプスタインの死後に逮捕、起訴された。容疑は、エプスタインが所有していた居住地（ニューヨーク州アッパー・イースト・サイドの邸宅、フロリダ州パームビーチの邸宅、ニューメキシコ州サンタフェの農場）などに少女を誘い込んだ罪となっている[44]。
ビル・ゲイツはエプスタインとの関係により、元妻のメリンダ・ゲイツと2021年5月3日に離婚した[37][36]。
死去
2019年8月10日、再審の申し立てで逮捕・勾留されていたニューヨーク州の拘置所内で首を吊って自殺したと発表された[45]。しかし、エプスタインの遺族や弁護団は、この自殺という判断に異を唱えている。ジェフリーの弟のマーク・エプスタインから鑑定を依頼された法医学者マイケル・バーデンは、2019年10月30日、他殺されたことを示す証拠があると発表している[1]。
関連項目
- リトル・セント・ジェームズ島 - エプスタインが所有する島[46]
- グレート・セント・ジェームズ島
- バージニア・ロバーツ・ジュフリー
- ジャン＝リュック・ブルネル
脚注
- ^ a b “エプスタイン被告は「他殺」 遺族が依頼した法医学者が主張”. AFPBB News. (2019年10月31日) 2019年11月1日閲覧。
- ^ “Jeffrey Epstein dies by suicide in Manhattan jail (英語)”. ABC (2019年8月10日). 2019年8月10日閲覧。
- ^ Dantus, Larry (2019年7月6日). “Pauline Epstein (Stolofsky)”. Gen. 2019年8月12日閲覧。
- ^ Volscho, Thomas (2019年7月13日). “Jeffrey Epstein Dodged Questions About Sex With His Dalton Prep-School Students”. The Daily Beast 2019年8月12日閲覧。
- ^ “Billionaire sex offender Jeffrey Epstein charged with sex trafficking”. The Jerusalem Post (2019年7月7日). 2019年8月12日閲覧。
- ^ Feldman, Ari (2019年7月15日). “What We Know About Jeffrey Epstein's Childhood”. The Forward 2019年12月8日閲覧。
- ^ Ward, Vicky (2011年6月27日). “The Talented Mr. Epstein”. Vanity Fair. New York City: Condé Nast. 2019年12月8日閲覧。
- ^ a b Thomas Jr., Landon (28 October 2002). "Jeffrey Epstein: International Moneyman of Mystery". ニューヨーク・マガジン. 2019年12月8日閲覧。
- ^ “未成年買春で逮捕された米大富豪の「性愛島」と「友達リスト」 トランプ、クリントンに英王子まで”. 文春オンライン (2019年7月30日). 2019年8月13日閲覧。
- ^ Metcalf, Tom; Melby, Caleb; Alexander, Sophie (2019年7月8日). “Mystery Around Jeffrey Epstein's Fortune and How He Made It” 2019年12月17日閲覧。
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- ^ “Book Claims Epstein Was Israeli Spy Who Blackmailed Politicians”. Newsmax (2019年12月5日). 2019年12月8日閲覧。
- ^ “Jeffrey Epstein cheated socialite friends, threatened to kill enemies: ‘Filthy Rich’ author”. New York Post (2020年5月30日). 2020年5月31日閲覧。
- ^ “【アメリカを読む】少女虐待の米富豪 ユニークな教師から転身 生命科学に「異様な関心」”. 産経新聞 (2019年7月13日). 2019年7月13日閲覧。
- ^ “少女虐待容疑の米富豪のMIT寄付、理事長が容認 大学ぐるみで匿名化”. フランス通信社 (2019年9月13日). 2019年9月15日閲覧。
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