カンピロバクター(Campylobacter)は、グラム陰性でらせん状に湾曲した形態を示す細菌の一属の総称である。一般的には1982年に食中毒菌として指定された Campylobacter jejuni と Campylobacter coli を指すなどカンピロバクター症の原因菌として呼ばれることが多い。
カンピロバクター | ||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||
Campylobacter Sebald and Véron 1963 | ||||||||||||||||||
種 | ||||||||||||||||||
学名はギリシア語で「曲がった」を意味する形容詞καμπύλοςと、ラテン語で「細菌」を意味するbacterを合成したもので、「曲がった細菌」という意味を持つ。
菌体は、長さ0.5 - 5µm、幅0.2 - 0.8µm程度の桿状であるが、全体がらせん状に1 - 2回ねじれた(らせん菌)であり、顕微鏡下ではS字状、またはカモメ状(seagull)に観察される。芽胞を形成せず、菌体の一端または両端に一本の極鞭毛を持ち、運動性がある。微好気性または嫌気性で、酸素濃度 3 - 15% 及び 30 - 37℃の条件で増殖する。菌種によっては二酸化炭素や水素ガスを発育に必要とするものがあるが、至適条件は菌種により異なる。乾燥には弱い。
生態
カンピロバクター属菌は一般に動物の腸管、生殖器、口腔などに常在する、獣医師の間では家畜類の流産菌として約100年前から知られていた[1]。2007年現在、カンピロバクター属は17菌種 6亜種 3生物型を確認している[2]。一部 C. jejuni , C. coliはヒトの食中毒の原因となる。増殖に際し、炭素源としてアミノ酸や有機酸を利用し炭水化物は利用しない。また、硝酸塩を還元する[1]。
近年、世界的にキノロン系およびテトラサイクリン系薬剤に対する耐性獲得が報告されている。1993年 - 1994年の調査によれば耐性頻度は15% [3][4]。特に、薬剤投与歴のないヒトの下痢患者から耐性菌が分離されており、家畜由来の耐性菌であると考えられている[1]。
カンピロバクター属菌
- C. coli、C. concisus、C. curvus、C. fetus(タイプ種)、C. gracilis、C. helveticus、C. hominis、C. hyointestinalis、C. insulaenigrae、C. jejuni、C. lanienae、C. lari、C. mucosalis、C. rectus、C. showae、C. sputorum、C. upsaliensis
代表的菌種
- カンピロバクター・ジェジュニ (Campylobacter jejuni)
- 長さ0.5 - 5µm、幅0.2 - 0.4µm
- カンピロバクター・コリと共に、ヒトに胃腸炎症状を主とするカンピロバクター症を引き起こす。ヒトに感染するカンピロバクターの大半がこれである。続発的にギラン・バレー症候群を起こすことがある。
- 家畜、野鳥、野生動物、ヒトを宿主とする。
- カンピロバクター・コリ (Campylobacter coli)
- カンピロバクター・ジェジュニと同様の症状を引き起こす。ジェジュニと同じく、ヒトに感染して症状を引き起こすが、患者の糞便から検出されるのはまれである。
- 家畜、野鳥、サル、ヒトを宿主とする。
- カンピロバクター・フェタス (Campylobacter fetus)
- ヒトに感染すると、敗血症や心内膜炎、関節炎や髄膜炎を引き起こす。
- ウシ、ヒツジ、カメ、ヒトを宿主とする。
- Campylobacter sputorum
- ウシ、ヒトを宿主とする。
脚注・参考文献
- 吉田眞一、柳雄介、吉開泰信編『戸田新細菌学』改訂33版(南山堂、2007年)(ISBN 9784525160135)