『さらば青春の光』(さらばせいしゅんのひかり、原題:Quadrophenia[2])は、1979年のイギリス映画である。 イギリスのロックバンド、ザ・フーによるアルバム「Quadroqhenia」の曲をバックに、1960年代初期、イギリスのユース・カルチャーの2大勢力であったモッズとロッカーズの生態や対立を軸として、ある熱狂的なモッズ青年とその仲間たちとの青春の光と影、また現実世界と理想(モッズワールド)とのギャップによる苦悩などを乗り越え成長して行く姿を描いた作品である。[3]。
さらば青春の光 | |
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Quadrophenia | |
監督 | (フランク・ロッダム) |
脚本 | デイヴ・ハンフリーズ マーティン・スティルマン フランク・ロッダム ピート・タウンゼント |
原作 | ザ・フー『四重人格』 |
製作 | ロイ・ベアード ビル・カービシュリー |
製作総指揮 | ピート・タウンゼント ロジャー・ダルトリー ジョン・エントウィッスル キース・ムーン |
出演者 | (フィル・ダニエルズ) (レスリー・アッシュ) (トーヤ・ウィルコックス) (フィリップ・デイヴィス) (マーク・ウィンゲット) スティング レイモンド・ウィンストン |
音楽 | ジョン・エントウィッスル |
撮影 | ブライアン・テュファーノ |
編集 | ショーン・バートン マイク・テイラー |
製作会社 | ザ・フー・フィルム |
配給 | ユニバーサル・ピクチャーズ 松竹富士 |
公開 | 1979年9月14日(トロント国際映画祭) 1979年11月2日 (1979年)11月17日 |
上映時間 | 120分[1] |
製作国 | イギリス |
言語 | 英語 |
概要
イギリスのロック・バンドのザ・フーが1973年に発表したアルバム『四重人格』(原題は同じくQuadrophenia)を原作とした。
モッズおよびロッカーズのファッションや乗り物(タイトスーツ、M51 (モッズコート)、ウインドシールドが装備され多数のミラーとライトで飾られたベスパやランブレッタなどのスクーター、ロッカーズのカフェレーサー)、音楽、ドラッグなどの1960年代文化が詳細に再現されている[3]。
公開40周年となる2019年にデジタルリマスター版が公開された[3]。
作家のピーター・メドウズが映画にインスピレーションを得た小説「To Be Someone」を原作とする続編映画の製作が発表されている[4]。
ストーリー
1964年。広告会社の郵便室係、ジミー・クーパーは、週末ともなればモッズ仲間とともに、乱交パーティー、改造スクーターでの暴走、アンフェタミン(覚醒剤)の乱用、そして、敵対するロッカーズたちとのケンカに明け暮れていた。敵対するロッカーズには、ジミーの近所に住む幼なじみのケヴィンがおり、対立が激化する中にあってもふたりは友情を保っていた。しかし、ある夜にモッズ仲間の通称「スパイダー」がロッカーズたちの襲撃に遭い、重傷を負ってしまう。モッズたちはその報復としてロッカーズを襲撃するのだが、それはケヴィンだったのだ。その場にいたジミーは「そいつは違う!」と叫びながら、猛スピードでひとりその場から走り去る。
やがて、ジミーたちのドラッグ中毒は深刻な状態となって薬局での窃盗や、職場の無断欠勤を起こすようになるが、そんなことは意に介さないジミーとその仲間たちはバンク・ホリデーに海沿いの町・ブライトンでのモッズの集会へ向かう。 そこには各地から集結したモッズに加え、ロッカーズも集結していた。 モッズたちは「We are Mods ! We are Mods ! 」とモッズであることに心酔し叫びながら行進を始めるが、スパイダーが自分を襲撃したロッカーズを見つけ「あいつだ!」と叫ぶや、その場にいたモッズ全員で一気にロッカーズたちに襲いかかり、とうとうモッズvsロッカーズの最大の乱闘騒ぎ、暴動騒ぎへと発展する。それは警察が出動するほどの事態となり、若者たちが次々と逮捕される。そんな中、ジミーは想いを寄せている女性・ステフとともに路地裏へ逃げ込み、騒ぎの興奮冷めやらぬふたりはそこで交じり合い愛し合うも、ジミーも警察に見つかり逮捕されてしまう。
護送車の中でジミーは、モッズのカリスマ的存在であり、憧れの存在であるエース・フェイスと知り合った。裁判で、ジミーは50ポンドの罰金を科せられる。一方エースは、75ポンドの罰金をその場で小切手で払うことを申し出て治安判事をコケにし、それを見、傍聴に来ていたモッズ仲間たちが歓声を上げた。
釈放され帰宅したジミーは、息子の部屋でドラッグを見つけた母親から家に入ることを拒否され、そのまま追い出される。さらに、たび重なる無断欠勤と乱闘への関与疑いのために上司と口論になり、衝動的に仕事をやめてしまう。
ある夜、仲間の集まるパブに現れたジミーは、退職金をすべてはたき、ドラッグを購入する。そこでステフとのことを冷やかしたモッズ仲間のデイブを殴り飛ばす。その時のステフの態度を見たジミーは、ステフがデイブの彼女になったことを悟る。翌朝、ジミーは街で会ったステフに「ブライトンでのことはただの遊びよ。本気にしないで」と冷たく告げられる。そんなジミーは街中をあてもなくランブレッタで彷徨っているうちに、郵便車との衝突事故を起こし、自身は無傷であったものの、愛車のランブレッタは大破してしまう。
失意と傷心のジミーは鉄道で再びブライトンへと向かい、乱闘が起きた海岸や、ステフとともに逃げた路地を訪れた。彷徨いの果て、ジミーは街角にエースの銀色のベスパが停められているのを見つける。そこはホテルで、エースが平凡なベルボーイとして働いていた。そんなエースの姿を目撃し落胆したジミーはエースのベスパを盗んでビーチー岬へと向かい、岬をベスパで駆け回る。そして、ジミーは少しの間、キラキラと美しく光る水面を見つめ何かに思いと考えを巡らせた後、崖に向かって一気に走り出す。ベスパもろとも投身自殺するのかと思いきやベスパだけを落とし破壊し、青春の光(モッズ)との決別を告げるのだった…
キャスト
※括弧内は日本語吹替[5]
- ジェイムズ・マイケル・クーパー(ジミー) - (フィル・ダニエルズ)(立花慎之介)
- ステフ - (レスリー・アッシュ)(永宝千晶)
- チャーキー - (フィリップ・デイヴィス)(烏丸祐一): ジミーのモッズ仲間
- デイブ - (マーク・ウィンゲット)(神奈延年): ジミーのモッズ仲間
- エース・フェイス - スティング(岡井カツノリ)
- ケヴィン・ヘリオット - レイモンド・ウィンストン: ロッカーズ。ジミーの子供時代の友人
- ピーター・フェントン(ピート) - (ギャリー・クーパー): ステフのボーイフレンド
- スパイダー - (ゲイリー・シェイル): ジミーのモッズ仲間
- モンキー - (トーヤ・ウィルコックス): ジミーのモッズ仲間
- フェルディ - (トレヴァー・レアード): ジミーのモッズ仲間
- ケニー - アンディ・セイス
- ジミーの母 - (ケイト・ウィリアムズ)
- ジミーの父 - (マイケル・エルフィック)
- イヴォンヌ - キム・ネイヴ: ジミーの姉
- ミスター・フルフォード - (ベンジャミン・ウィットロウ): ジミーの上司
- ダニー - (ダニエル・ピーコック)
- 機関職員 - (ジェレミー・チャイルド)
- 治安判事 - (ジョン・フィリップス)
- 映写技師 - ティモシー・スポール
- 映写技師アシスタント - (パトリック・マレー)
- 仕立て屋 - オリヴィエ・ピエール
- カフェ店主 - (ジョージ・イネス)
- ハリー・ノース - (ジョン・ビンドン): ギャングスター
- クラブのバーテンダー - (P・H・モリアーティ)
- ミスター・カール - (ヒュー・ロイド)
- ジョニー・フェイギン - (ジョン・アルトマン)
- ロッカーの青年1 - (ギャリー・ホールトン)
- ロッカーの青年2 - (ジェシー・バードサル)
- ドラッグ売人 - (ジュリアン・ファース)
- パーティー主催者 - (サイモン・ギプス=ケント)
- ケン・ジョーンズ - ミッキー・ロイス
- ニッキー - (ファズ)
サウンドトラック
1979年10月、サウンドトラック・アルバム『Quadrophenia』がポリドール・レコードから発売された。
ザ・フーの作品以外の挿入歌は以下のとおり。
- 「ナイト・トレイン」(ジェームズ・ブラウン)
- 「ルイ・ルイ」(ザ・キングスメン)
- 「グリーン・オニオン」()
- 「悲しき雨音」(ザ・カスケーズ)
- 「いかした彼」(シフォンズ)
- 「ビー・マイ・ベイビー」(ザ・ロネッツ)
- 「ハイ・ロン・ロン」(クリスタルズ)
1993年と2001年には、CDとして再びリリースされた。アルバムは、発売の1年前に亡くなったザ・フーの初代マネージャーであり、有名なモッズであったピーター・ミーデンに捧げられた。
制作
ザ・フーはデビュー当時、モッズに非常に人気があった。本作品ではそれを反映して、当時ロック/ポップ音楽専門番組として人気があったテレビ番組『レディ・ステディ・ゴー』で二枚目のシングル「エニウェイ・エニハウ・エニホエア」を演奏する姿をジミーが熱狂して観る場面の他、ジミーの部屋の壁に「Maximum R&B」のキャッチフレーズが書かれたザ・フーのポスターや写真が貼られていたり、ジミーがパーティーで三枚目のシングル「マイ・ジェネレーション」のレコードをかけたり、など、ザ・フーが様々な形で登場する。
本作制作中、ザ・フーのドラマーであるキース・ムーンが死去。監督のフランク・ロッダムは、映画の制作を中止する意向であったが、プロデューサーのロイ・ベアードとビル・カーヴィッシュリーが「一緒にまとめあげて」制作が続行された。
スタジオ内での撮影は作中の1シーンのみで、ほかのすべてのシーンはロケーション撮影で撮られた。
ラストシーンのロケ地であるビーチー岬は、実際に自殺の名所として知られ、これが映画の結末に影響を与えたと考えられている。スタントコーディネーターはスクーターがビーチー岬を走り去った後に空中を飛ぶ距離を控えめに考えていたため、ヘリから撮影していたロッダム監督は危うくスクーターと接触しそうになった。
60年代のロンドンミュージック界のDJかつダンサーであるジェフ・デクスターはクラブの場面でDJを演じ、クレジットされていないが、ダンス場とクラブのシーンでの500人のエキストラの振り付けを担当し、クローズアップされたスティング演じるエースのダンスの足の動きも振り付けた。
ザ・フーのギタリストで原作『四重人格』の全曲の作者であるピート・タウンゼントは後年、ジョン・ライドンにジミー・クーパー役を演じて欲しかった、と語っている。
脚注
- ^ “Quadrophenia (X)”. 全英映像等級審査機構 (1979年3月19日). 2016年10月15日閲覧。
- ^ “The Who Official Band Website – Roger Daltrey, Pete Townshend, John Entwistle, and Keith Moon | | Quadrophenia – Original Soundtrack”. Thewho.com. 2011年12月3日閲覧。
- ^ a b c 「さらば青春の光」デジタルリマスター版が40年ぶりに劇場公開(動画あり) - 映画ナタリー
- ^ 映画『さらば青春の新宿JAM』は、1980年代ノスタルジーを否定する! - シネマズ PLUS
- ^ “さらば青春の光[デジタルリマスター版]”. 2020年5月12日閲覧。
参考資料
- Ali Catterall and Simon Wells, Your Face Here: British Cult Movies Since The Sixties (Fourth Estate, 2001), ISBN (0-00-714554-3)
関連項目
- さらば青春の光 (お笑いコンビ) - メンバー2人が命名の相談に訪れた先輩芸人が、直前まで本作を鑑賞していた。
外部リンク
- Quadrophenia - IMDb(英語)
- Quadrophenia - オールムービー(英語)
- さらば青春の光 - allcinema
- Quadrophenia - Rotten Tomatoes(英語)
- Quadrophenia.net
- The Quadrophenia Collection at Littledean Jail