ソフトロック(soft rock)は、ロック・ミュージックの音楽ジャンルのひとつ。 日本における認識と、海外における認識に相違があるので注意が必要である。この記事では、主に日本におけるソフトロックの解釈について記述する。
概要
1960年代中盤から1970年代前半の英米の、煌びやかなコーラスや、カート・ベッチャー、ゲイリー・アッシャーらのプロデューサーの趣味が反映したサウンドが特徴の、ソフトなポップス、ポップ・ロックを指す。代表的なアーティストとしては、「アソシエイション」「ロジャー・ニコルズ」「ハーパース・ビザール」等が挙げられる。主に米国西海岸、特に「カリフォルニア」のグループが該当するが、米国の他の地域のグループも少数だが存在する[注 1]。幾つかの英国グループもこのジャンルに分けられることもあるが、基本的に「アメリカン・ミュージックの一種」と考えられることの方が多い[注 2]。楽曲的には「高度なコーラスワーク」や「ドゥーワップの影響を受けたスキャット」、「ドリーミーな曲調」や「サイケデリック要素」、「ストリングス、ブラス、ハープシコード等のオーケストラ楽器の多用」等が重要な要素だと言える。場合によっては「サイケデリック・ロック」や「サイケデリック・ポップ」、「バブルガム・ポップ」に分類されるものもしばしば存在する。また、シングル一枚程度で活動を終了する様なグループや、リアルタイムの発売当初には全く売れなかったグループも多かったことから「ガレージ・ロック」[注 3]として扱われることもある。また、イギリスではゾンビーズ、、、ビージーズ、エルトン・ジョンらがソフトロック・ミュージシャンとして扱われる傾向にあるが、これらのミュージシャンは厳密に言うと、日本でいうところのソフトロックとして扱うべきではないものがほとんどである。
1980年代半ばから、特に渋谷に存在する一部の輸入レコード店[注 4]を中心にこういった音楽を紹介する流れが生まれた。それらを聴いて影響を受けたミュージシャンが渋谷系と呼ばれ、影響下にある作品を発表。また、ミニコミ誌[注 5]を中心とした各音楽誌並びにレコード会社、各CDショップや一般の輸入レコード店もこのジャンルに注視し、雑誌上や店舗での特集やCDでの再発を進めたことによって、このジャンルの人気が上がり、またこの「ソフトロック」という言葉も定着した。
なお、この「ソフトロック」人気は、日本先行であり、日本発の世界初CD化や日本のみでのCD発売、日本の業者による非CD化音源の海賊盤[注 6]の例も多い。
海外で「Soft Rock」というとほぼ全く違う音楽を指す言葉になる。例えば百科事典英語版では、柔らかくて聞き心地が良い音楽と定義し、アダルト・コンテンポラリー的な取り上げ方をされている。また、イージー・リスニングやMOR (middle of the road)〈中道、ロックとポップスとの中間という意〉と呼ばれているジャンルの内、一部のアーティストを指しているとの見解もある。その後、ソフト・ロックはアルバムを中心に大人向けの音楽を作るAORや、アダルト・コンテンポラリーへと変化していったというのが、百科事典英語版の見解のようである。結果的に「スティーリー・ダン」や「ドゥービー・ブラザーズ」[注 7]、「クリストファー・クロス」辺りの一般的にAORとされる音楽や、「シャカタク」[注 8]等のフュージョンやイージー・リスニングの類、「ジャクソン・ブラウン」[注 9]等のシンガー・ソングライター等々が英語版Wikipediaで「ソフトロック」だということにされている。そして重要なことは、これらの音楽は一般的に日本では「ソフトロック」とは呼ばれないということである。日本で「ソフトロック」と呼ばれるものは欧米では近年「サンシャイン・ポップ」と呼ばれるようになっている。また、欧米でいうところの「ソフトロック」のジャンル解釈は、日本国内では使用されていないので注意が必要である。
主なアーティスト
一部ソフトロックと言える曲、アルバムが存在するグループ
他ジャンルとしてデビュー、若しくは割合としてソフトロックと呼べない作品の方が多い、少数のみソフトロックの曲を発表しているアーティスト。
- ザ・ビーチ・ボーイズ(ブライアン・ウィルソン) (The Beach Boys)[4][注 10]
- ボー・ブラメルズ (The Beau Brummels)[5][注 11]
- ブレッド (Bread)[6][注 12]
- ザ・バーズ (The Byrds)[注 13]
- フィフス・ディメンション (The Fifth Dimension)[5][注 14]
- ハーマンズ・ハーミッツ (Herman's Hermits)[5][注 15]
- ホリーズ[7][注 16]
- (ポール・レヴィアーとレイダーズ) (Paul Revere & the Raiders)[5][注 17]
- (Tommy James and the Shondells)[8][注 18]
- トミー・ロウ (Tommy Roe)[9][注 19]
- ゾンビーズ (The Zombies)[4][注 20]
純粋なソフトロックアーティスト
- (アンダース&ポンシア) (Anders & Poncia)[5]
- アソシエイション (The Association)[5][10][11]
- バート・バカラック (Burt Bacharach)[5]
- バッキンガムズ (The Buckinghams)[5]
- カート・ベッチャー (Curt Boecher)[12]
- カウシルズ(The Cowsills)
- クリッターズ (The Critters)[5][4]
- サークル (The Cyrkle)[5]
- (デイヴ・ペル・シンガーズ) (Dave Pell Singers)[5]
- (エターニティーズ・チルドレン) (Eternity's Children)[4]
- (ユーフォリア) (Euphoria)[4]
- (フライング・マシーン) (The Flying Machine)[4]
- (ファウンデーションズ) (The Foundations)[5]
- (ザ・フォー・キング・カズンズ) (Four King Cousins)[5]
- フリー・デザイン (The Free Design)[5]
- ゲイリー・アッシャー
- ゴールドブライアーズ (The Goldebriars)[5]
- マーゴ・ガーヤン (Margo Guryan)[5]
- (ハーモニー・グラス) (Harmony Grass)[4]
- ハーパース・ビザール (Harpers Bizarre)[5][4]
- (イノセンス) (Innocence)[5]
- (ジミー・ワイズナー・サウンド) (The Jimmy Wisner Sound)[13]
- フランシス・レイ (Francis Lai)[14]
- (リズ・ダモンとオリエント・エクスプレス) (Liz Damon's Orient Express)[4]
- (ラヴ・ジェネレーション) (The Love Generation)[4]
- ミレニウム (The Millennium)[4][5]
- ネオン・フィルハーモニック (The Neon Philharmonic)
- (ニュー・コロニー・シックス) (New Colony Six)[15]
- ロジャー・ニコルズ (Roger Nichols)[5][16][17]
- ニルヴァーナ(UK)
- (オルフェウス) (Orpheus)[4]
- (パレード) (The Parade)[5][4]
- ヴァン・ダイク・パークス (Van Dyke Parks)[5]
- (Peter & Gordon)[5]
- サジタリウス (The Sagittarius)[5][4]
- ソルト・ウォーター・タフィー (The Salt Water Taffy)
- ザ・シーカーズ (The Seekers)
- (Spanky and Our Gang)[5]
- (スティーム) (Steam)[5]
- (ウェンディ&ボニー) (Wendy and Bonnie)[5]
- ポール・ウィリアムス (Paul Williams)[18]
- イエロー・バルーン (The Yellow Balloon)[4]
主な楽曲
脚注
注釈
- ^ 比較的ニューヨーク州のバンドが多い。
- ^ 厳密に「米国のみ」と限定する場合の方が多い。
- ^ ガレージロック系コンピレーションにしばしばこのジャンルの楽曲が取り上げられている。
- ^ 「パイド・パイパー・ハウス」が有名。
- ^ 「ポプシクル」「Vanda」等が挙げられる。
- ^ 有名な物として、「ザ・サークル」のB級ソフトポルノ映画「The Mynx」のサントラ作品がある。現在は正規品が普通に流通しているが、90年代初頭頃では海賊盤CDしか無かった。
- ^ トム・ジョンストンがいた70年代前半まではアメリカン・ロック、マイケル・マクドナルドが加入し、70年代後半には都会的なAORのバンドに音楽性を変更した
- ^ トゥナイトのテーマだった「ナイトバ-ズ」で有名。
- ^ 音楽性はフォーク・ロックなどが主体。社会活動や政治運動にも熱心な人物
- ^ 一般的にはサーフミュージックのグループ。
- ^ 基本的にはガレージロックのグループ。
- ^ フォークロックのグループ。
- ^ フォークロック、サイケデリック・ロック、カントリーロックのグループ。『名うてのバード兄弟』のみ「ソフトロックの名盤」とされている。
- ^ 基本的には黒人コーラスグループ、ソウルミュージック。
- ^ ビートバンド、リバプールサウンドのグループ。
- ^ ソフトロックと呼べるアルバムは三枚のみ、『フォー・サーテン・ビコーズ』『エヴォリューション』『バタフライ』、それ以外は基本的に「ビート・バンド」である。
- ^ 基本的にはガレージロックのグループ。
- ^ ガレージロック、若しくはガレージサイケ。
- ^ 60年代初頭から活動しているポップ・シンガー、一枚カート・ベッチャープロデュースのソフトロック名盤がある。
- ^ 元々はビートバンド。
出典
- ^ Soft Rock Music Overview - オールミュージック. 2022年5月19日閲覧。
- ^ Stanley 2013, p. 179.
- ^ Viglione, Joe. “”. AllMusic. All Media Network. 2016年10月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月19日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o “『ソフト・ロックA to Z』セレクション!”. カケハシ・レコード (2020年3月14日). 2020年9月2日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa “ソフトロック”. K2レコード (2015年12月18日). 2020年9月3日閲覧。
- ^ a b c “米4人組ポップ・バンド、ブレッド(Bread)エレクトラ・レコーズ在籍時のアルバムを完全網羅した6枚組ボックス・セット”. タワーレコード (2017年9月13日). 2020年9月9日閲覧。
- ^ “BUTTERFLY (180G MONO/STEREO 2LP)”. ディスクユニオン. 2020年9月29日閲覧。
- ^ “HANKY P ANKY/IT’S ONLY LOV E/I THINK WE’RE A LONE N OW”. ディスクユニオン. 2020年9月9日閲覧。
- ^ “トミー・ロウ、カート・ベッチャーがプロデュースしたソフトロック名盤が待望の復刻”. 芽瑠璃堂. 2020年9月17日閲覧。
- ^ “ASSOCIATION / Never My Love / Windy”. チクロマーケット. 2020年9月2日閲覧。
- ^ 浩 (2014年1月30日). “[音故知新]アソシエイション 「アロング・カムズ・メアリー」”. 読売新聞・東京夕刊: p. 6. "「ソフトロックの雄」と呼ばれ、その後もヒットを飛ばしたが、70年代に入ると急に失速し、忘れられた存在となってしまう。" - ヨミダス歴史館にて閲覧
- ^ カート・ベッチャー 2022年10月27日閲覧
- ^ (いしうらまさゆき) (2017年9月14日). “[ソフトロック] The Jimmy Wisner Sound featuring Love Theme from “Romeo and Juliet”(Columbia CS9837 / 1969)”. 芽瑠璃堂. 2020年9月3日閲覧。
- ^ “”. TBSラジオ (2018年11月17日). 2020年9月3日閲覧。
- ^ (いしうらまさゆき) (2019年7月5日). “[ソフトロック] The New Colony Six / Revelations (Mercury / 1968)”. 芽瑠璃堂. 2020年9月3日閲覧。
- ^ “ソフトロック流行の立役者ロジャー・ニコルズ(in・short)”. アエラ: p. 87. (1995年10月23日). "ニコルズは、六〇年代からカーペンターズ「愛のプレリュード」やポール・アンカ「想い出よいつまでも」などを書き下ろした作曲家。当時のいわゆる「ソフトロック」流行の立役者となった。" - 聞蔵IIビジュアルにて閲覧
- ^ (いしうらまさゆき) (2018年10月10日). “[ソフトロック] Roger Nichols Treasury / Extra Tracks ( Victor / 2018 )”. 芽瑠璃堂. 2020年9月3日閲覧。
- ^ “P・ウィリアムス復活 16年ぶり「バック・トゥ・ラブ・アゲイン」”. 朝日新聞・夕刊: p. 15. (1997年1月23日). "近年再評価が進むソフトロックなどと呼ばれる七〇年代ポップスを生み出したソングライターのシンボルでもある。" - 聞蔵IIビジュアルにて閲覧
- ^ “コリン・ブランストーン from ゾンビーズ”. billboard LIVE TOKYO / 阪神コンテンツリンク. 2020年9月2日閲覧。