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Z (軍隊符号)

Z（ラテン文字）は、2022年ロシアのウクライナ侵攻に参加したロシア連邦軍の軍用車両に記されたいくつかの符号の一つであり、自軍と敵軍を区別することを目的に記されていると推測されている[1]。

「Z」符号
「Z」符号 (四角内)
「V」符号
「O」符号
2022年ロシアのウクライナ侵攻中にロシアの軍用車両に記された4つの符号

タカ派のシンボルとして、「Z」はロシア連邦政府によってプロパガンダツールとして[8]、またロシアの民間人によって侵略への支援の印として使用されてきた。一方、チェコ政府は「Z」符号を卐に相当するものとして分類しており[9]、カザフスタンとキルギスは「Z」符号を車両に公に掲示することを禁止している[10][11][12]。

符号

ウクライナ軍によると、2022年ロシアのウクライナ侵攻の際に、ロシア連邦軍は次のような意味で符号を使用した[13]。

意味

 
統一ロシア青年隊を含むハバロフスクの住民達による「Z」の人文字

「Z」そのものが具体的に何を意味しているのかについては不明瞭である。意味は上記のウクライナ軍の説明の通りであったとしても、「なぜ東部軍管区からの部隊にZの文字を用いるのか」「なぜキリル文字に存在しないZをわざわざ使うのか」という疑問は残っている。ただし、キリル文字には”Z”に相当するアルファベット(З)がある。

ロシア国防省は、写真・動画共有SNSのInstagramにおける同省の公式アカウントにおいて、様々な単語の一部として「Z」を配置する画像を投稿したという。例えば「за победу」（za pobedu）の頭文字「з」（ラテン文字のzに相当するキリル文字）とするもの[14][15][16]で、「за」は「～のために」、「победу」は「勝利」の意であるため、「за победу」は「勝利のために」というスローガンである。他にも「за мир」（za mir 「平和のために」）とした画像や、「за правду」（za pravdu 「真実のために」）とした画像、さらには英単語「demilitarization」（非軍事化）「denazification」（非ナチ化）の一部とした画像も投稿したという[17][18]。

2022年4月18日、国営放送であるロシア1のニュース番組でロシア連邦軍による戦勝記念日のリハーサルについて報じた際、ニュースキャスターがなぜ「Z」という文字が使われているのかについて言及した[19]。「Z」とは数字の7を2つ、うち1つを逆さまにして重ねたものである[19]。つまり「77回目の戦勝記念日」を意味する「Z」であり、それが「ウクライナからドンバスを取り戻す」というスローガンを表すとともにウクライナ侵攻の象徴になったとしている[19]。

いずれにしてもその意味の曖昧さにもかかわらず、”Z”という文字単独で侵略行為そのもの、侵略支持そして愛国心を表すタカ派のシンボルとして使用されている[20][21]。また宣伝などで”З”で表記される部分をあえて”Z”に書き換えて表記、すなわち例えば上述の「За победу」が「Zа победу」とする例も見られる。


 
T-72 B3Mに記された「Z」
 
BM-21に記された「Z」
KamAZ-43114に記された「Z」
 
BMD-4Mに記された「V」
 
Mi-8AMTShに記された「V」
 
MT-LBに記された「O」
2022年ウクライナ侵攻の際に符号が施された軍用車両

反応

ウイルソン・センターのカミル・ガリエフは、2022年3月7日、「ほんの数日前に発明された符号は、新しいロシアのイデオロギーと国民的アイデンティティの象徴になった」と述べた[22]。

また、ドイツのニーダーザクセン州とバイエルン州は、3月26日にウクライナに侵攻したロシア軍がシンボルマークとして使っている「Ｚ」符号について公の場で表示することを非合法化し、違反した場合は禁固刑や罰金刑になる場合がある[23]。ドイツ国内では刑法の適用対象になる可能性があり[24]、駐米ドイツ大使館もツイッターで広報を行なっている[25]。

「Z」を社名・商品・作品に用いている企業・団体も対応に追われている。社名ロゴに「Z」を用いているスイスの保険会社チューリッヒはソーシャルメディア上での同社ロゴ使用中止をグループ会社に指示[26]。サムスン電子は(折りたたみ式スマートフォン)（英語版）「Samsung Galaxy Z Fold 3」と「Samsung Galaxy Z Flip 3」のバルト三国向け商品名をそれぞれ「Samsung Galaxy Fold 3」と「Samsung Galaxy Flip 3」の「Z」を削除したものに変更[27]。「Z」をトレードマークとして用いるキャラクター「怪傑ゾロ」の版権を所有・管理するアメリカのZorro Productionsはゾロと彼のトレードマーク「Z」が、正義の追求と迫害された人々の擁護を表すことを示すとともに、ウラジーミル・プーチンの戦争を非難し、ウクライナの人々や正義を求める人々との連帯を表明した[28]。ブリザード・エンターテイメントは同社開発のコンピュータゲーム「オーバーウォッチ」に登場するロシア出身キャラクター「ザリヤ」のスキンに描かれていた「Z」の文字を削除した[29]。ロゴマークに「Z」を用いていた日本の格安航空会社ZIPAIR Tokyoは、乗客からの不安の声を受け、6月より「Z」のロゴマークの使用を取り止めることを発表した[30][31]。

 
ウィキメディア・コモンズには、2022 Russian invasion vehicle markingsに関連するカテゴリがあります。

関連項目

参考文献

[脚注の使い方]
  1. ^ Schogol, Jeff (2022年2月24日). “Here’s what those mysterious white ‘Z’ markings on Russian military equipment may mean”. Task & Purpose. 2022年3月8日閲覧。
  2. ^ “How 'Z' Fits Into the History of Russian Propaganda Efforts” (英語). Time (2022年3月9日). 2022年3月11日閲覧。
  3. ^ “How the letter ‘Z’ became a powerful Russian propaganda tool”. Global News (2022年3月8日). 2022年3月11日閲覧。
  4. ^ “The meaning of 'Z': Putin's propaganda campaign to garner support for Russia's brutal invasion” (英語). The New Arab (2022年3月8日). 2022年3月11日閲覧。
  5. ^ “What do Russians see and hear about the war in Ukraine?”. CBS News (2022年3月10日). 2022年3月11日閲覧。
  6. ^ “The Nazi-inspired symbol used by Russia in war against Ukraine finds way to downtown Murmansk” (英語). (The Barents Observer)（ノルウェー語版） (2022年3月7日). 2022年3月8日閲覧。
  7. ^ “World War ‘Z’: What’s the meaning behind Russian propaganda symbol?” (英語). The Independent (2022年3月8日). 2022年3月8日閲覧。
  8. ^ [2][3][4][5][6][7]
  9. ^ “Písmeno “Z” chce policie posuzovat jako svastiku” [The police want to judge the letter "Z" as a swastika] (チェコ語). (Neovlivní.cz)（チェコ語版） (2022年3月8日). 2022年3月10日閲覧。
  10. ^ “Amazon sells clothes with Russian military Z symbol” (英語). The Times (2022年3月8日). 2022年3月10日閲覧。
  11. ^ “Автомобили с буквой Z замечены в Уральске и Шымкенте” [Cars with the letter Z seen in Uralsk and Shymkent] (ロシア語). (Tengrinews.kz)（カザフ語版） (2022年3月5日). 2022年3月7日閲覧。
  12. ^ “Авто с наклейкой Z: водителя оштрафовали в Нур-Султане” [Car with Z sticker: driver fined in Nur-Sultan] (ロシア語). (Tengrinews.kz)（カザフ語版） (2022年3月1日). 2022年3月7日閲覧。
  13. ^ “Українські військові показали, як ворог маркує свою техніку” [The Ukrainian military showed how the enemy marks its equipment] (ウクライナ語). (Zaxid.net)（ウクライナ語版） (2022年3月1日). 2022年3月7日閲覧。
  14. ^ “” [The Ministry of Defense of the Russian Federation revealed the meaning of Latin letters on Russian military equipment] (ロシア語). (Novaya Gazeta) (2022年3月3日). 2022年3月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月7日閲覧。
  15. ^ “”. (NDTV) (2022年3月7日). 2022年3月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月7日閲覧。
  16. ^ “” (英語). Fortune (2022年3月7日). 2022年3月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月7日閲覧。
  17. ^ “” (英語). (i) (2022年3月8日). 2022年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月8日閲覧。
  18. ^ “” (英語). The Scotsman (2022年3月8日). 2022年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月8日閲覧。
  19. ^ a b c “ついに明かされたロシア軍「Z」の真の意味”. ニューズウィーク日本版. (2022年4月20日). https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/04/z-5.php 2022年4月21日閲覧。 
  20. ^ “How the Letter Z Became a Pro-War Symbol in Russia” (英語). New York (2022年3月8日). 2022年3月8日閲覧。
  21. ^ “What do we know about the Russian pro-war Z symbol?” (英語). Euronews (2022年3月8日). 2022年3月8日閲覧。
  22. ^ “A Russian gymnast wore a ‘Z’ when standing by a Ukrainian champ. In Russia, it symbolizes support for the invasion.”. The Washington Post (2022年3月7日). 2022年3月7日閲覧。
  23. ^ “ロシア軍象徴「Ｚ」表示を禁止 ドイツの２州、違反なら禁錮刑も：時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2022年3月29日閲覧。
  24. ^ “Displaying 'Z' symbol could be criminal act in Germany, ministry says”. REUTERS. (2022年3月28日). https://www.reuters.com/world/europe/displaying-z-symbol-could-be-criminal-act-germany-ministry-says-2022-03-28/ 
  25. ^ German Embassy [@GermanyinUSA]. "2022年3月29日午前6時13分（日本時間）のツイート" (ツイート). Twitterより2022年4月3日閲覧。
  26. ^ “チューリッヒ「Z」ロゴ取りやめ ロシア連想で「炎上」防止”. 一般社団法人共同通信社 (2022年3月17日). 2022年4月9日閲覧。
  27. ^ Ivan (2022年3月29日). “Samsung drops the Z from the Galaxy Z Fold3 and Z Flip3 in Baltic countries”. GSMArena.com. 2022年4月9日閲覧。
  28. ^ “ZORRO'S STATEMENT ON UKRAINE”. Zorro Productions (2022年3月22日). 2022年4月9日閲覧。
  29. ^ Yuki Kurosawa (2022年4月7日). “『オーバーウォッチ』ザリアのスキンから「Z」の字が消える。ロシアによるウクライナ侵攻支持のシンボルとの誤認を避けたか”. AUTOMATON. 株式会社アクティブゲーミングメディア. 2022年4月9日閲覧。
  30. ^ “ＪＡＬ系ＬＣＣのジップエア、尾翼の「Ｚ」消すデザインに変更”. ロイター. (2022年6月15日). https://jp.reuters.com/article/zipair-idJPKBN2NW0JS 2022年6月23日閲覧。 
  31. ^ “ジップエア、尾翼のＺマーク隠します…「ウクライナ侵攻と関連あるのか」との声”. 読売新聞 (2022年6月15日). 2022年6月23日閲覧。
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