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鵜堂 刃衛(うどう じんえ)は、和月伸宏の漫画作品『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』に登場する架空の人物。
人物
プロフィール
どの藩閥にも属さず、金で人斬りを請け負っていた浮浪(はぐれ)人斬り。主義や思想などは持たず、強い殺人欲のみで動く危険人物(神谷薫いわく魔物)であるが、ただの狂人ではなく独自の殺しの美学を持つなど知的な一面も覗かせている。当時存在しないはずの全身タイツ、白目と黒目が逆転した目付きと、「うふふ」「うふわははは」という独特の笑い方が特徴[2]。一人称は「俺」。
初めて幕末の京都に現れた時は新選組隊士であったが、人間を斬りたいという欲望から、不要な殺人も行っていた。そのため新選組から粛清されそうになるも、逆に返り討ちにして脱退。その後は維新志士として人を斬り続ける。明治に入ってからも、要人暗殺請負人「黒笠」として人斬りを続けていた。標的を暗殺する際は、まず斬奸状を送りつけ、あえて標的に厳重な警護をさせ、その中に単身で斬り込み任務を達成すると共に、己の欲望を満たしていた(また、アニメ版では殺害した暗殺対象者の中に女性や子供も含まれていた)。
キャラクターモデル
人物像は岡田以蔵。外見は『X-メン』のガンビットがモチーフ。また、白の着流しに黒笠という服装は、園田光慶『新撰組流血録 壬生狼』(原作:久保田千太郎)の芹沢鴨からきている。
完全版2巻における、キャラクターをリファインする企画「剣心再筆」では心の一方を使えるのは右目のみに変更。黒タイツだった部分は、不気味な文字が細かく書かれているという設定。上半身をベルトで拘束してのハンデ戦を好んだり、鍔・柄・ハバキを省いた剥き身の刀を手に刺して斬る感触を直接楽しむなど、狂気性が強調されている。剣心皆伝の「剣心再筆」では新選組時代が描かれており、1番隊隊士で沖田総司の部下。既に殺人狂の片鱗を見せ始めており、抜刀斎や河上彦斎らとの戦いを望んでいる。
なお、作者は「剣心再筆」における抜き身の刀を手に刺すという設定を気に入っており、実写映画版の打ち合わせで、これを使ってくれないかと提案したが、「痛々し過ぎる」と却下された。キネマ版や銀幕草紙変ではこの設定が反映されている。
来歴
剣心との対戦
刃衛から斬奸状を送り付けられた谷十三郎の警護を浦村署長から依頼された緋村剣心が、相楽左之助と共に谷邸で待つ中、刃衛と邂逅することになる。谷邸では左之助が刃衛の刀を折るも、折れた刀で刃衛が左之助の腕を貫いて重傷を負わせ、怒り出した剣心に一撃をくらい逃走。剣心が「伝説の人斬り抜刀斎」と知った刃衛はその後、河原で剣心と会話をしていた神谷薫を拉致し、剣心を激怒させた。これは、死合を望む刀衛の剣心を人斬り抜刀斎に覚醒させるための策略でもあり、結果、別の場所に呼び出した剣心と再戦することになる。
長年不殺をつらぬいてきた剣心と、人を斬り続けてきた刃衛との間には歴然たる実力差があり、初めのうちは剣心は刃衛に歯が立たなかった。刃衛は「今のお前は、(自分が)煙草を吸う間に殺せる」と、そのまま斬ることをせず、薫に心の一方を掛けることで剣心を怒らせ、抜刀斎に覚醒させた。その後、新選組を抜ける時以来15年ぶりに使うことになる心の一方影技・憑鬼の術を発動して闘うも、剣心の双龍閃によって右腕の筋を破壊され、剣客としては再起不能の状態に陥る。「薫を守るために自分は今一度人斬りに戻る」の台詞と共に止めを刺そうとする剣心に刃衛は喜んだが、薫が自力で心の一方を解いて剣心の名を叫んだことで剣心は我に返り、剣を納めてしまった。結局刃衛は「まだ後始末が残っている」と、自身に人斬りを依頼した維新政府の黒幕を特定されぬよう、自らの体を貫き、「不殺を貫こうと人斬りは人斬り」と剣心をなじり、絶命[3]。自分を殺した瞬間ですら「死」の感触を味わい愉悦に浸っていた。
この騒動は後に「黒笠事件」と呼ばれ、その元締め・黒幕は、元老院議官書記(渋海)であった。渋海はその後剣心の暗殺を請け負い、斎藤一を雇って暗殺しようとするが(斎藤の真の目的もあって)失敗。そして斎藤の背後に当時の内務卿大久保利通が存在することを知ってその弱味を握り、次期内務卿の座に就くことを目論むが、直後に斎藤によって惨殺された。
作者によると、連載を30回と予定していた当初、黒笠編を『るろうに剣心』の最終章とするつもりであり、刃衛は物語を締めくくる最後の敵となる予定であった。
アニメ版でも拉致された薫を助けるために一騎討ちを挑むというコンセプトは同じだが、剣心から話を聞いた弥彦・左之助の両名が薫の居場所を探し回るというものになっている(原作では剣心は誰にも話さず薫を救出に向かっている。アニメでも二人に薫の居場所までは告げずに立ち去った)。結末も原作とは異なっており、原作では薫から預かったリボンを返り血で汚してしまい剣心は怒られた上に、事情を知らない左之助から薫との朝帰りをからかわれてしまう。アニメ版では薫を助けた後、弥彦・左之助と合流し仲間たちに囲まれ、人斬りでは決して得られなかった安息に身を任せながら立ち去るというものになっている。
死後
『明日郎 前科アリ(異聞)』では、かつて刃衛と剣心が対決した東京郊外のとある森にある小さな社付近を明日郎が無限刃の隠し場所に選んでおり、「うふふ」と笑う刃衛らしき幽霊がそこに現れるとの噂が流れている。劇中では時折祠の近くに彼の霊らしきものが漂っており、祠付近で寝た阿爛は「幽霊を見た」と明日郎に語っている。
キネマ版
武田観柳の集めた刺客のうちの一人として登場。キネマ版における剣心の最後の敵となる。「再筆剣心」での設定を一部採用しており、幕末で抜刀斎(剣心)に付けられた両掌の刺し傷に、刀身のみの刀を刺しこんで二刀流で戦う。
剣心との交戦時には両腕を折られる深手を負わされたにもかかわらず「腕の関節が増えた」と称し、嬉々として剣を振るう。
執念はすさまじかったが原作ほどの強さはなく、剣心には歯が立たないまま敗れ去った。
実写映画版
武田観柳に雇われた刺客として登場する。観柳の地上げの計画の一環として神谷道場の信用を落とすため、「神谷活心流の人斬り抜刀斎」として辻斬りを繰り返し、犯行の証拠として血染めの斬奸状をその場に置いていた。観柳邸から逃走した高荷恵を追って警察の駐在所を襲撃し、多数の警察官を殺害する。その後、偶然傍を通りかかった薫から戦いを挑まれるが一蹴。その際に薫を助けに入った剣心と邂逅する。以後、人斬り抜刀斎としての剣心との戦いを望み、観柳邸に剣心らがやってきた隙をついて神谷道場を襲撃して薫を拉致し、勝負を挑む。
実写映画版における刃衛の刀は剣心が鳥羽・伏見の戦いで放棄していったものとなっている。また、原作と違い煙草は吸っていない他、特徴的な「うふふ」という笑いを浮かべることもない(ただし、剣心との戦闘シーンでそれらしき笑い方をする場面もあった)。
技
彼が使用する二階堂平法は実在した流派であり、「心の一方」もまた実在した技術である。(松山主水#二階堂平法と「心の一方」)を参照。
- 背車刀(はいしゃとう)
- 刀を背中のほうで持ち替え、相手の意表を突く形で場所から攻撃する刺突技。剣心の「読み」の上を行き、刺し傷を与えた。
- 心の一方(しんのいっぽう)
- 眼から気を発し、相手の眼に叩き込み金縛り状態にする瞬間催眠術。発動時の術者と等しい剣気を持てばかからない。左之助のようにある程度の剣気を持つ者の場合は術の威力が若干弱まり、身体が若干重くなる程度になる。強めにかければ薫のように肺が麻痺し呼吸ができず、最終的に死に至る。
- 影技・憑鬼の術(かげわざ・ひょうきのじゅつ)
- 刃に己の姿を映し、「我、最強なり」と暗示を掛けることで全ての潜在能力を解き放つ技。刃衛は、この技を使うのは新選組を抜ける時以来15年振りだと語っている。肉体にかなりの負荷が掛かるらしく、使用後は使用前より筋肉が萎縮してしまう。また顔つきや瞳の描き方も変化した。
- PSPゲーム版では、潜在能力を引き出した後に相手に斬撃を見舞う攻撃技となっている。
- 最大上下同斬(さいだいじょうげどうざん)
- 「キネマ版」での技。両腕を背中にまで反らせて、その反動で挟み込むように斬り付ける。飛天御剣流の速さに対抗するために体の反りによる重さを加えた技。