藤白神社(ふじしろじんじゃ)は、和歌山県海南市にある神社。九十九王子のなかでも別格とされた(五体王子)のひとつ藤代王子の旧址で、「藤代神社」「藤白権現」「藤白若一王子権現」などとも呼ばれた。藤白鈴木氏が代々神職を務め、鈴木姓の発祥の地とされる鈴木屋敷がある。
藤白神社 | |
---|---|
所在地 | 和歌山県海南市藤白466 |
位置 | 北緯34度8分39.511秒 東経135度12分33.811秒 / 北緯34.14430861度 東経135.20939194度座標: 北緯34度8分39.511秒 東経135度12分33.811秒 / 北緯34.14430861度 東経135.20939194度 |
主祭神 | 饒速日命 |
社格等 | 県社 |
創建 | 景行天皇5年 |
本殿の様式 | 流造 |
別名 | 藤白若一王子権現 藤代王子 藤白権現 |
札所等 | 神仏霊場巡拝の道第7番(和歌山第7番) |
例祭 | 10月15日 |
主な神事 | 馬角神事、七夕祭 |
地図 | 藤白神社 藤白神社 (和歌山県) |
祭神
由緒
創建年代については不詳であるが、景行天皇の代の創建とされる。また、社殿は斉明天皇の牟婁の湯行幸の際に建立されたと伝わる[1]。当神社の主祭神、饒速日命を祖神とする穂積氏の嫡流・藤白鈴木氏が社家として代々神職を務めた。
中世熊野御幸の盛期には、九十九王子の中でも特に格式の高い五体王子のひとつとして崇敬され、熊野詣の途上における要所であった。吉田経房の参詣記(『吉記』所収)承安4年(1174年)9月25日条に「於藤代王子行里神楽」、藤原経光の参詣記(『(民経記)』所収)承元4年(1210年)4月25日条にも参拝の折には馴子舞や藤代王子におかれていた巫女による里神楽が行われたと記され[2]、後鳥羽院参詣記(『明月記』所収)建仁元年(1201年)10月9日条に「御経供養」「白拍子」といった文字が見えるなど、歌会・里神楽・相撲などの奉納が行われるのが通例であった[3]。境内東通用口から西へ抜けてゆく道はかつての熊野参詣道で、北側にある正面参道は近世の熊野街道の道筋につながっている[2]。
後鳥羽院の建仁元年(1201年)の熊野詣の際には藤白の次の宿泊地であった湯浅で歌会が催され、その歌会で詠まれた歌が藤白王子に献納されている。このときの後鳥羽院らの詠歌が(熊野懐紙)として3通が残されており[3]、陽明文庫などに所蔵されている[4]。
1400年(応永7年)付の禅林寺文書に「藤白王子免」として3町3反の記載があり、大野郷で最大の神田を有していた[3]。しかし、戦国時代の兵乱で社殿や神領を失ったが、慶長6年(1601年)に浅野幸長から藤白村に6石の寄進があった(『続紀伊風土記』[4])。さらに、同年および寛文6年(1666年)に社殿の造営が行われた[4]。江戸時代後期に紀州藩が編纂した地誌『紀伊続風土記』は藤白若一王子権現社として記載し、境内東西二八間・南北三〇間、本社三扉、庁、御供所、鐘楼、石鳥居、末社三社などがあり[3]、和歌山雲蓋院末の寺院が別当をつとめた[4]と記している。
明治以降には村社に列格され、次いで昭和初期に郷社、1939年(昭和14年)には県社に列された。1909年(明治42年)には(祓戸王子)を合祀した[4]。
境内
藤白王子権現本堂
境内にある藤白王子権現本堂は藤代王子を顕彰するもので、祭神の本地仏3体が祀られている。これらの仏像はもともと藤代王子の神宮寺であった中道寺に祀られていたものであったが、豊臣秀吉の紀州征伐に際して危害が及んだ際に縁の寺院に避難させていたものを江戸時代に復したものである。明治の神仏分離の際の破棄を免れ今日に伝わっている[5]。
仏像はいずれも平安末期の作で、主要な像に以下のものがある[5]。
- 木造熊野三所権現本地仏坐像 - 県指定文化財(美術工芸品、2005年〈平成17年〉5月31日指定)[6]
- 木造十一面観音立像 - 藤白若一王子の本地仏。県指定文化財(美術工芸品、2005年〈平成17年〉5月31日指定)[6]。
- 毘沙門天および不動明王三尊 - 熊野の入り口の守護
鈴木屋敷
熊野三党の一族で、藤白神社の神官を務めた「藤白鈴木氏」の屋敷跡。全国の鈴木氏の総本家とされ、邸内の庭園は平安時代の曲水泉の様式として評価されているが、建屋の朽崩がすすんでいた[1][7]。そのため、2021年(令和3年)より復元工事がすすめられ[7]、2023年(令和5年)3月に完了[8]。同年4月1日から一般公開されている[9]。
楠の巨木
拝殿
楠神社
南方熊楠は、藤白王寺の境内にあるこの社から「熊」・「楠」の字を授けてもらった。また、兄妹の名前に見える「藤」の文字も子どもが生まれると、この社から授けてもらい神の加護によって無事成長することを祈って命名した。これは楠の木に対する信仰に由来する。藤白王子が周辺二十四か村の産土神であり、楠木神社から名を授かる風習のあったことは『紀伊国名所図会』にもみえる[10]。
文化財
交通機関
脚注
- ^ a b 長谷川[2007: 70]
- ^ a b 「角川日本地名大辞典」編纂委員会[1985: 918]
- ^ a b c d 平凡社[1997: 706]
- ^ a b c d e f 「角川日本地名大辞典」編纂委員会[1985: 919]
- ^ a b 長谷川[2007: 72]
- ^ a b 和歌山県教育委員会. “県指定文化財・有形文化財・美術工芸品”. 2009年4月7日閲覧。
- ^ a b “和歌山:<海南で上棟式>鈴木屋敷 完成へ前進”. 読売新聞オンライン. 読売新聞社 (2022年5月15日). 2022年6月26日閲覧。
- ^ “鈴木姓のルーツとされる「鈴木屋敷」、和歌山に復元…鈴木さん親睦団体や「スズキ」も寄付金”. 読売新聞オンライン. 読売新聞社 (2023年3月30日). 2023年3月30日閲覧。
- ^ “鈴木屋敷を復元 姓の発祥地で式典”. 和歌山新報 (2023年4月3日). 2023年4月3日閲覧。
- ^ 飯倉照平著 『南方熊楠 -梟のごとく黙座しおる- 』 《ミネルヴァ日本評伝選》 ミネルヴァ書房 2006年 3ページ
- ^ 和歌山県教育委員会. “県指定文化財・記念物”. 2009年4月7日閲覧。
- ^ 和歌山県教育委員会. “県指定文化財・有形文化財・建造物”. 2009年4月7日閲覧。
- ^ 和歌山県教育委員会. “県指定文化財・民俗文化財”. 2009年4月7日閲覧。
文献
- 「角川日本地名大辞典」編纂委員会編、1985、『和歌山県』、角川書店(角川日本地名大辞典30) (ISBN 404001300X)
- 西 律、1987、『熊野古道みちしるべ - 熊野九十九王子現状踏査録』、荒尾成文堂(みなもと選書1)
- 長谷川 靖高、2007、『熊野王子巡拝ガイドブック』、新風書房 (ISBN 9784882696292)
- 平凡社、1997、『大和・紀伊寺院神社大事典』、平凡社 (ISBN 4582134025)
関連項目
- 九十九王子 (海南市)
- 鈴木屋敷
- 六義園 - 藤白坂を模して造られた「藤代峠」という名の築山がある庭園。
外部リンク
- 藤白神社
- 藤白神社 わかやま観光情報
- 藤白の獅子舞 - 和歌山県インターネット放送局(YouTube)
九十九王子一覧 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
(城南宮) | (八軒家船着場) | 窪津王子 | 坂口王子 | 郡戸王子 | 上野王子 | 阿倍王子 | 津守王子 | 境王子 | 大鳥居王子 |
篠田王子 | 平松王子 | 井ノ口王子 | (池田王子) | (麻生川王子) | (近木王子) | (鞍持王子) | (鶴原王子) | (佐野王子) | (籾井(樫井)王子) |
(厩戸王子) | (信達一ノ瀬王子) | (長岡王子) | (地蔵堂王子) | (馬目王子) | (中山王子) | (山口王子) | (川辺王子) | (中村王子) | (吐前王子) |
(川端王子) | (和佐王子) | (平緒王子) | (奈久知王子) | (松坂王子) | (松代王子) | (菩提房王子) | 藤代王子 | 藤白塔下王子 | (橘本王子) |
所坂王子 | (一壷王子) | (蕪坂王子) | (山口王子) | (糸我王子) | (逆川王子) | (久米崎王子) | (井関(津兼)王子) | (河瀬王子) | (馬留王子) |
(沓掛王子) | (馬留王子) | (内ノ畑王子) | (高家王子) | (善童子王子) | (愛徳山王子) | (九海士王子) | (岩内王子) | (塩屋王子) | 上野王子 |
(津井王子) | (斑鳩王子) | 切目王子 | (切目中山王子) | (岩代王子) | (千里王子) | (三鍋王子) | (芳養王子) | (出立王子) | (秋津王子) |
(万呂王子) | (三栖王子) | (八上王子) | 稲葉根王子 | (一ノ瀬王子) | (鮎川王子) | 滝尻王子 | (不寝王子) | (大門王子) | (十丈王子) |
(大坂本王子) | 近露王子 | (比曽原王子) | 継桜王子 | (中ノ河王子) | (小広王子) | (熊瀬川王子) | (岩神王子) | (湯川王子) | (猪鼻王子) |
発心門王子 | (水呑王子) | (伏拝王子) | (祓戸王子) | (本宮大社) | 湯ノ峯王子 | (速玉大社) | 浜王子 | 佐野王子 | 浜の宮王子 |
市野々王子 | 多富気王子 | (那智大社) | (■Template) |