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改正刑法草案(かいせいけいほうそうあん)とは、1974年(昭和49年)5月29日に法務省法制審議会総会で決定された刑法改正の草案である。
概略
刑法(明治40年4月24日法律第45号)は、犯罪に関する総則規定および犯罪の個別的要件やこれに対する刑罰を定める基本的法律である。制定以来、随時条文の改正や削除は行われていたものの、時代の変遷や社会情勢の変化に伴い、現行の刑法が想定していない問題も出現した。また、当時の刑法の条文は片仮名書き文語体の歴史的仮名遣のままで、法律の専門家以外には読解することも困難な状態となっていた。
そこで、法務大臣の諮問機関である法制審議会は、罪刑法定主義の明文化や先端的な争点に関する規定(原因において自由な行為、共謀共同正犯など)の新設、保安処分の規定や現代的な犯罪類型を定め、全文を平仮名口語体の現代仮名遣いとするなど、刑法の全面的な改正となる、全369条からなる改正刑法草案を決定した。
一般的な立法過程と異なり、法律案として閣議決定されることも国会に提出されることもなかったが、市販の六法全書等には、総則の部分が参考資料として掲載されている。
批判
改正刑法草案は、刑法制定から70年を経て累積していた問題を一気に片付けるため、それまで慎重に扱われてきた事柄や学説・裁判例において大きく意見が対立している争点についても、大胆に方針転換、明文化する規定も多く含まれた。このため、刑法学者や日本刑法学会、日本弁護士連合会や各種の人権団体などから、犯罪となる行為の範囲が広くなりすぎ、社会活動を萎縮させることや、内容が国家主義的であることなど、多くの批判を受けた。特に、保安処分を新設すると定めたことに関しては、責任主義の観点から大きな問題があるとして、強い批判を受けることとなった。
内容
改正刑法草案(昭和49年5月29日法制審議会決定):抜粋
第一編 総則
主題 | 法文 | 現行法・判例 |
---|---|---|
罪刑法定主義 |
| 罪刑法定主義に関する規定としては、憲法31条がある。 |
事後法の禁止 |
| 事後法の禁止に関する規定としては、憲法39条がある。 |
少年事犯 |
| 「少年に関して定める法律」には、少年法がある。 |
不真正不作為犯 |
| 判例には不真正不作為犯の成立を認めたと解されるものがある。 |
原因において自由な行為 |
| 判例には原因において自由な行為によって犯罪の成立を認めたと解されるものがある。 |
結果的加重犯 |
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不能犯 |
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正犯、共謀共同正犯 |
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行刑方針 |
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科刑の一般基準 |
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(常習累犯) |
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不定期刑 |
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没収 |
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仮釈放 |
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保護観察 |
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追徴の時効 |
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保安処分 |
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滞納留置及び 保安処分の期間 |
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第二編 各則
主題 | 条文 | 現行法・判例 |
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国交に関する罪 |
| 私戦予備及び陰謀の罪は現行刑法にある。 |
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職務に関する罪 |
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公共の健康に関する罪 |
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風俗を害する罪 |
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傷害及び暴行の罪 |
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秘密を侵す罪 |
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恐喝の罪 |
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盗品等に関する罪 |
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損壊の罪 |
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その後
その後の刑法改正において、1995年(平成7年)に条文の平易化(口語化)を目的とする刑法の改正が行われた。また、批判の強かった保安処分を念頭においたと思われる心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律が制定されたり、法定刑の変更等で、改正刑法草案の相当程度が法律化されている。