『大毘盧遮那成仏神変加持経』(だいびるしゃなじょうぶつじんべんかじきょう)、略して『大毘盧遮那経』(だいびるしゃなきょう)、あるいは『大日経』(だいにちきょう)は、大乗仏教における密教経典である。成立時期には諸説あるが、7世紀の中頃が穏当な説である[1]。7世紀半の前後約30年間という栂尾祥雲1933年発表の説が一般に承認されている[2]。
概要
インドから唐にやってきた善無畏(Śubhakarasiṃha、637-735)と唐の学僧たちによって725年に漢訳された。また、812年にはシーレーンドラボーディ(Śīlendrabodhi)とペルツェク(dPal brTsegs)によってチベット語に翻訳された。しかし、サンスクリット原本は未だ発見されていない。チベット訳に記されているサンスクリット名は、Mahāvairocana-abhisaṃbodhi-vikurvita-adhiṣṭhāna-vaipulyasūtra-indrarāja nāma dharmaparyāya(『大毘盧遮那成仏神変加持という方等経の大王と名付くる法門』)である。
内容
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漢訳『大日経』は、全7巻36品であるが、この内最初の第6巻31品が中核で、第7巻5品は供養儀軌で善無畏が別に入手した梵本を訳して付加したものと見られている[3]。
内容は、真言宗のいわゆる(事相と教相)に相当する2つの部分から成り立つが、前者である(胎蔵曼荼羅)(の原形)の作法や真言、密教の儀式を説く事相の部分が非常に多い。また、この部分の記述は具体的であるが、師匠からの直接の伝法がなければ、真実は理解できないとされている[4]。
教相に相当するのは「入真言門住心品」だけといってよく、ここで密教の理論的根拠が説かれている[5]。構成は、毘盧遮那如来と金剛手(秘密派の主たるもの)の対話によって真言門を説き明かしていくという、初期大乗経典のスタイルを踏襲している。
日本語訳・注釈書
- 權田雷斧譯 『國譯大毗盧遮那成佛神變加持經』(國譯大藏經 經部10巻 解題・原文は國民文庫刊行会、1917年。原文は弘教藏より収録、復刻版 第一書房、1974年) (ISBN 9784804202518) 。国会図書館デジタルコレクションに1935年第4版の影印が収録されている。(解題:83-95コマ、訓読:96-228コマ、原文:357-404コマ)
- 神林隆淨譯 『大毘盧遮那成佛神變加持經』(國譯一切經 印度撰述部 密教部1 大東出版社、1931年。改訂版(宮坂宥勝校訂)、1988年) (ISBN 4500000127)
- 河口慧海譯 『蔵文和譯 大日経』(西蔵経典出版所、1934年)
- 改訂版 『蔵文和訳 大日経 河口慧海著作選集 第8巻』(日高彪編・校訂)、慧文社 2012年)(ISBN 978-4-86330-055-2)
- 宮坂宥勝訳注 『密教経典』(「仏教経典選8」筑摩書房、1986年/講談社学術文庫、2011年)。抄訳版
- 他に理趣経・大日経疏・理趣釈を収録
- 頼富本宏訳 『大乗仏典 中国・日本篇8 中国密教』(中央公論社、1988年) (ISBN 978-4124026283) 。抄版・現代語訳のみ
- 福田亮成校註 『大日経 新国訳大蔵経 インド撰述部 密教部1』(大蔵出版、1998年) (ISBN 4-8043-8015-9) 。現代語での完訳版。
脚注
注釈
- ^ 「さとる者」の意。
- ^ 磧砂蔵[8]・嘉興蔵(径山蔵・万暦蔵[9])・清蔵(中国語版)[10]および大正蔵では「悲」と作る箇所を、『大日本校訂縮刷大蔵経』(縮蔵)[11]等の流布本では「大悲」に作る。また注釈書に引用された当該箇所では、仁和寺本を底本にしたとする大正蔵の『大日経疏』[12]では「悲為根」となっているが、安達泰盛(1231-1285年)による高野山刊本(1277-1279年に刊行)では「大悲為根」となっている[13]。卍続蔵経に収録された台密系の『大日経義釈』も引用箇所を「大悲為根」とする[14]。
- ^ 蔵訳はリタン版、デルゲ版、北京版、プタク写本いずれも「rtsa ba ni snying rje chen po'o」とあり、漢訳流布本における「大悲」(snying rje chen po)と同じである。ブッダグヒヤの『大日経広釈 (Bhāṣya)』(デルゲ版)に於ける当該箇所の引用では「snying rje ni rtsa ba'o」とあり、大正蔵と同じく「悲」(snying rje)である。
- ^ 原文は『大日本校訂縮刷大蔵経』(縮蔵)に依った[11]。
出典
- ^ 金岡秀友、「大日経」 - 日本大百科全書(ニッポニカ)、小学館。
- ^ 山本匠一郎「『大日経』の資料と研究史概観」2012年 『現代密教』23号, p.73-102 pdf p.88
- ^ 山本匠一郎「『大日経』の資料と研究史概観」p.78
- ^ 小林靖典「『大日経』の講伝について」2015年現代密教26号, p.15-31pdfp.15-16
- ^ 宮坂宥勝『空海曼荼羅』1992年 法藏館 (ISBN 4-8318-8058-2)。 p.67
- ^ 一切智者の智。 渡辺章悟『般若経の意図するもの』東洋思想文化 = Eastern philosophy and culture 5 122(1)-99(24), 2018-03 pdfp.116
- ^ 訓読は權田雷斧譯『國譯大毗盧遮那成佛神變加持經』。
- ^ 磧砂藏分冊目錄 - 【觀世心編輯】
- ^ 東京大学総合図書館所蔵 万暦版大蔵経(嘉興蔵)アーカイブ・大毘盧遮那成佛神變加持經 巻1 p.5 。
- ^ 乾隆大藏經:1738年完成、清蔵、龍蔵とも。第48冊 第526部 大乘單譯經 大毘盧遮那成佛神變加持經 七卷 影印pdf、p.162 上段。
- ^ a b 国会図書館デジタルコレクション『昭和再訂 大日本校訂大蔵経』・秘密部・閏1 (縮刷大蔵経刊行会による復刻版)1937年・14コマ右・10行目 。
- ^ 『大正新脩大蔵経勘同目録』p.466、505コマ中314コマ目。
- ^ 『大毘盧遮那成佛經疏』(建治3-弘安2 [1277-1279])第一巻 54-55コマに「菩提心為因大悲為根方便為究竟」とある。国会図書館デジタルコレクション。
- ^ X23n0438_001 大日經義釋 第1卷 (CBETA 漢文大藏經)
参考文献
関連項目
外部リンク
- 大毘盧遮那成佛神變加持經(CBETA版)
- 大毘盧遮那成佛神變加持經(SAT版)
- 河口慧海・訳『蔵文和訳大日経』 - 国立国会図書館デジタルコレクション