南海8300系電車(なんかい8300けいでんしゃ)は、南海電気鉄道の一般車両(通勤形電車)。
南海8300系電車 | |
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南海本線の普通で運用する8300系2次車 (2017年7月26日 粉浜駅) | |
基本情報 | |
製造所 | 近畿車輛 |
製造年 | 2015年 - |
製造数 | 116両(2023年3月現在) |
主要諸元 | |
編成 | 2・4両編成 |
軌間 | 1,067(狭軌) mm |
電気方式 | 直流1,500V (架空電車線方式) |
最高運転速度 | 本線・空港線:110 km/h 高野線:100 km/h |
設計最高速度 | 120 km/h |
起動加速度 | 2.5 km/h/s |
減速度(常用) | 3.7 km/h/s |
減速度(非常) | 4.0 km/h/s |
編成定員 | 588名(4両編成) 282名(2両編成) |
車両定員 | 先頭車141名 中間車153名 |
全長 | 先頭車20,765mm 中間車20,665 mm |
全幅 | 2,830 mm |
全高 | 先頭車4,140mm 中間車4,050 mm |
車体 | ステンレス (前頭部のみ普通鋼) |
主電動機 | 全閉内扇式かご型誘導電動機 東洋電機製造製 TDK-6315-A |
主電動機出力 | 190 kW |
駆動方式 | TD平行カルダン駆動方式 |
歯車比 | 85:14 (6.07) |
編成出力 | 760 kW(2両編成) 1,520 kW(4両編成) |
制御方式 | IGBT素子VVVFインバータ制御 (6次車からSiCハイブリッドモジュール素子採用) |
制御装置 | 日立製作所製 VFI-HR1421D(5次車まで) VFI-HR1421L(6次車から) |
制動装置 | 回生制動併用電気指令式ブレーキ 全電気ブレーキ |
保安装置 | (南海型ATS) |
概要
本系列は、老朽化が進んでいる7000系・7100系と6000系の置き換え、ならびに近年増加する空港線を始めとしたインバウンド需要に対応する旅客案内設備の充実化を目的に導入され、2015年10月8日から南海線で営業運転を開始し[1]、2019年11月22日からは、高野線での営業運転も開始した[2]。
主電動機は国内で初めて狭軌用の全閉内扇式かご型誘導電動機[3]を本格採用し、車内外への騒音低減を図っている。また、高野線の6次車では南海初のハイブリッドSiC素子を用いたVVVFインバーターを採用し、省エネ性能をより高めている。
これまで南海の車両は旧帝國車輛工業以来取引を続けてきたJ-TREC(旧・東急車輛製造)製が大半を占めていたが、本系列は1973年(昭和48年)の7100系2次車以来となる近畿車輛に発注された。
車両概説
車体
車体はステンレス製であるが、近畿車輛製のため従来の南海のステンレス車系列とは若干異なる箇所がある。基本的な意匠は8000系に準じているが、車体側面の雨どいを屋根に内蔵させてすっきりとした外観にしている。先頭部分はFRP製であったものを鋼製に改めたほか、正面の貫通扉と、乗降ドア部分にあった青とオレンジの帯が本形式では省略されている。車体側面には本車両の中央の戸袋部分に接合線があり、それを隠すために灰色の大型フィルムが戸袋部分に貼り付けされている。なお、2次車以降(8306F以降および2両編成)ではフィルムが省略されている。
側面比較
(左:2次車 右:1次車)
塗装は青と橙色の帯を纏った南海の標準塗装を採用しているが、従来とは異なり扉部分(前面貫通扉、乗務員室扉、客用扉)の帯が省略された姿となっている。また、帯は塗装ではなくカラーフィルムを使用しており、青色の部分を濃くして紺色に近い色調となっている。これは以前1000系に貼り付けたカラーフィルム帯の退色が激しかったことから、その対策として色合いが濃いものに変更された。
内装
車内の座席は質感の異なる2種類のクッション材を組み合わせた、従来より大きなドット柄で明るく暖かみのあるデザインとしている。また、袖仕切りの内側もシートに合わせた色調としている。
本系列は増備が進む上で幾度と内装の仕様変更が行われている。 2016年以降に南海本線向けに導入された2両編成(2次車 - 5次車)では、多客時にスーツケースなどによる通路の通り抜けが困難となる事態が問題視されたことを受け、袖仕切りの形状を改良、座席定員を減らし客用ドア横にラゲッジスペースが設けられている。
2019年に高野線へ導入された6次車からは、9000系のリニューアル企画「マイトレイン」に準じた色のグレー調バケットシート、青色の吊り革が採用されている。さらに、2022年に導入された8次車からはドア部分や化粧板、床部分に「マイトレイン」に準じたデザインの木目調を採用している[4]。
客用ドアは8000系のステンレス無塗装タイプから化粧板付のものに再び戻され、黄色の警戒色が印刷されている。窓ガラスは南海で初めて複層ガラスが採用された。ドアチャイムは従来からの物を踏襲している。また、ドア開閉に連動して赤色に点滅する開閉予告灯とドアチャイムも引き続き採用された。ラインデリアは再び連続調となっている。
車内照明は、レシップ製のLED照明(直管型タイプ)を採用。照明数を8000系より増加させて(1両あたり16本⇒24本)照度アップを図っている。また照明器具は各ソケットを連続調としてデザイン性を高めている。
車内(1次車4両編成)
車内(2次車2両編成)
フリースペース(2次車2両編成)
車内(6次車)
南海高野線8300系8次車
旅客案内装置
当形式では前述のインバウンド需要に対応するため、従来の旅客案内設備の見直しが実施されている。客用ドア上部には、南海の通勤型電車としては初となるLCD式車内案内表示装置が千鳥配置され、多言語(日本語、英語、中国語、韓国語)による情報案内が行われる。ソフトは三菱電機が開発したIPコア、セサミクロを使用しており、多彩なアニメーション表示が可能となっている。なお広告ディスプレイについては設置スペースを設けているが、現在は準備工事の段階となっている。
LCD式旅客案内装置(南海線)
LCD装置と路線図(高野線)
運用
南海本線
2015年6月下旬から7月下旬にかけて1次車(8301F - 8305F)が近畿車輛から出場し、単独での試運転や1000系2両編成と連結した試運転が実施された。様々な試運転を終え、2015年10月8日に8301Fと8302Fが[5]、同年11月に8303Fと8305Fが、12月1日に8304Fがそれぞれ南海線での営業運転を開始した。これらと入れ替わる形で、7000系は同年10月3日に実施された引退記念イベントをもって営業運転を終了した。
2016年度には2次車の2両編成(クハ8700 - モハ8350)が登場し[6][7]、8701Fと8702Fが9月12日より営業運転を開始した[8]。3次車(8306F・8707F)以降は、老朽化した7100系の置き換えに移行する形で増備が進められており、2019年12月現在は4両編成11本、2両編成12本が在籍する。
8000系と同様に12000系を併結した、特急「サザン」自由席車両の運用に入ることも前提としており[9]、2020年12月18日からは特急「サザン」での運行を開始している。
また、2021年からは制御装置のVVVF化が完了した9000系リニューアル車との併結運転が可能となり、9000系4両の和歌山市側に8300系2両を繋げた6両編成の運転も行われている。
2022年6月現在は7100系と同様の編成パターンを組んでおり、4両から8両まで幅広い運用に充当されている。
特急「サザン」(12000系と併結)
空港急行(9000系更新車と併結)
高野線
かつて、高野線での運行は千代田工場への定期検査入出場時に限られていた。2017年度末、南海が発表した中期経営計画の一環として、高野線の6000系72両全車を2023年度までに順次新造車に代替する計画が公表され[10][11][12]、高野線向けとなる8300系の新製導入が決定した。その第1陣として、制御機器や内装をマイナーチェンジした6次車[13](8312F、8313F)が2019年11月22日より高野線で営業運転を開始した[2]。また、同年11月30日からは泉北高速鉄道線への乗り入れが、12月2日からは6両(8314F、8713F)、2020年1月16日からは4両(8315F)の営業運転がそれぞれ開始された。以降も増備が続けられており、2020年12月22日に竣工した8317Fと8715Fは、車両メーカーである近畿車輛が創業100周年を迎えた後に初めて出場した編成であることから、甲種輸送時(徳庵 - 吹田貨物ターミナル駅間)に記念のヘッドマークを掲出し走行した[14]。
1000系の転出を目的とし、2021年9月には南海本線で運転されていた8712Fが、2022年3月には8310Fと8711Fがそれぞれ高野線へと転属した。2022年6月現在は、4両編成9本と2両編成7本が在籍している。
高野線では各駅停車から快速急行まで、幅広い運用に充当されている。また、1000系50番台(1051F)と4両編成を組成した8両編成での運用も行われている。
高野線で運用に就く6次車(8313F)
編成
4両編成19本・2両編成17本の計110両が在籍する。そのうち、南海本線(羽倉崎検車区)所属車両は60両、高野線(千代田検車区)所属車両は50両となっている(いずれも2022年6月時点)。
なお、6200系50番台以降の新形式車については、系列のなかでの電動車・制御車・付随車等の付番を以前の「xxx1形」標準(例外あり)から「xxx0形」標準へ変更している[15][16]。
また、2両編成は従来の7100系・1000系とは異なり和歌山市・橋本側が電動車となった。パンタグラフも同様で、1000系とは逆となる和歌山市・橋本側に合計2箇所設けている。
編成表
4両編成
形式 | ← 難波 関西空港・和歌山市・橋本・和泉中央 → | 次車区分 | 製造年 | 所属 | |||
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> モハ8300 (Mc1) | サハ8600 (T1) | サハ8650 (T2) | < モハ8400 (Mc2) | ||||
機器類 | CONT, SIV | CP | SIV | CONT, CP | |||
車両番号 | 8301 | 8601 | 8651 | 8401 | 1次車 (側面フィルム有) | 2015年 | 南海本線 |
8302 | 8602 | 8652 | 8402 | ||||
8303 | 8603 | 8653 | 8403 | ||||
8304 | 8604 | 8654 | 8404 | ||||
8305 | 8605 | 8655 | 8405 | ||||
8306 | 8606 | 8656 | 8406 | 3次車 | 2017年 | ||
8307 | 8607 | 8657 | 8407 | ||||
8308 | 8608 | 8658 | 8408 | 4次車 | 2018年 | ||
8309 | 8609 | 8659 | 8409 | ||||
8310 | 8610 | 8660 | 8410 | 5次車 | 2019年 | 高野線 | |
8311 | 8611 | 8661 | 8411 | 南海本線 | |||
8312 | 8612 | 8662 | 8412 | 6次車 (座席変更) | 高野線 | ||
8313 | 8613 | 8663 | 8413 | ||||
8314 | 8614 | 8664 | 8414 | ||||
8315 | 8615 | 8665 | 8415 | ||||
8316 | 8616 | 8666 | 8416 | 7次車 | 2020年 | ||
8317 | 8617 | 8667 | 8417 | ||||
8318 | 8618 | 8668 | 8418 | 8次車 (内装変更) | 2022年 | ||
8319 | 8619 | 8669 | 8419 | ||||
備考 | 弱冷車 | 8両編成 4号車の場合 女性専用車 |
2両編成
形式 | ← 難波/ 関西空港・和歌山市・橋本・和泉中央 → | 次車区分 | 製造年 | 所属 | |
---|---|---|---|---|---|
クハ8700 (Tc1) | < > モハ8350 (Mc3) | ||||
機器類 | SIV | CONT, CP | |||
車両番号 | 8701 | 8351 | 2次車 | 2016年 | 南海本線 |
8702 | 8352 | ||||
8703 | 8353 | ||||
8704 | 8354 | ||||
8705 | 8355 | ||||
8706 | 8356 | ||||
8707 | 8357 | 3次車 | 2017年 | ||
8708 | 8358 | ||||
8709 | 8359 | 4次車 | 2018年 | ||
8710 | 8360 | ||||
8711 | 8361 | 5次車 | 2019年 | 高野線 | |
8712 | 8362 | ||||
8713 | 8363 | 6次車 (座席変更) | |||
8714 | 8364 | 7次車 | 2020年 | ||
8715 | 8365 | ||||
8716 | 8366 | 8次車 (内装変更) | 2022年 | ||
8717 | 8367 |
凡例
- CONT:主制御器 (1C4M)
- SIV:補助電源装置(静止形インバータ)
- CP:空気圧縮機
「クハ870X」を名乗る形式は2代目。6200系50番台は8200系時代、両側の先頭車が「クハ8701形」を名乗っていた。
脚注
- ^ “南海電鉄、新型車両8300系公開! 近畿車輛が製作、今秋デビュー - 写真83枚”. マイナビニュース (2015年9月2日). 2015年11月1日閲覧。
- ^ a b “南海高野線で8300系が営業開始”. 鉄道ファン. railf.jp 鉄道ニュース (交友社). (2019年11月23日)
- ^ 東洋電機製のTDK6315-A型。定格出力190kW、定格回転数1,900rpm、端子電圧1,100V、定格周波数96Hz
- ^ http://www.nankai.co.jp/company/csr/voice/202110_03.html
- ^ “2015年10月8日 南海電鉄8300系が営業運転を開始”. 鉄道ファン. railf.jp 鉄道ニュース (交友社). (2015年10月14日)
- ^ “南海電鉄8300系2連4本が甲種輸送される”. 鉄道ファン. railf.jp 鉄道ニュース (交友社). (2016年7月21日)
- ^ “南海本線で8300系2次車が試運転”. 鉄道ファン. railf.jp 鉄道ニュース (交友社). (2016年9月3日)
- ^ “南海電鉄8300系2次車が営業運転を開始”. 鉄道ファン. railf.jp 鉄道ニュース (交友社). (2016年9月13日)
- ^ 「南海電気鉄道8300系」『鉄道ピクトリアル』第911号、電気車研究会、2015年12月、87頁。
- ^ 「南海グループ経営ビジョン2027」及び新中期経営計画「共創136計画」について (PDF) - 南海電鉄ニュースリリース 2018年2月28日
- ^ “南海、高野線に新車両投入 訪日客を取り込み”. 日本経済新聞 電子版. (2018年5月18日)
- ^ 「ニュース南海」『NATTS』2019年6月号、南海電気鉄道、2019年。
- ^ 高野線 新造車両導入, 南海電気鉄道
- ^ “創業100周年を迎えての初出場車両”. 近畿車輛. (2020年12月23日)
- ^ 「大手私鉄車両ファイル 車両配置表」、『鉄道ファン』2016年8月号特別付録、交友社、2016年。
- ^ 『鉄道ダイヤ情報』第366号、p44、交通新聞社、2014年10月号。
参考文献
- 「南海電気鉄道株式会社8300系車両用電機品 (PDF) 」 『東洋電機技報』第132号、東洋電機製造、2015年10月、25 - 27頁。
外部リンク
- 新型車両「8300系」を導入します (PDF) (南海電気鉄道公式ニュースリリース)
- 南海8300系登場。(ネコ・パブリッシング『鉄道ホビダス』編集長敬白アーカイブ 2015年9月14日)