トナカイ(アイヌ語: tunakkay、学名: Rangifer tarandus)は、哺乳綱鯨偶蹄目シカ科(シカ)トナカイ属の1種である。本種のみでトナカイ属を形成する。別名、馴鹿(じゅんろく)。英語では reindeer という。北アメリカ大陸で生息する個体は、カリブー (Caribou) と呼ばれる。
分布
自然分布は北極圏周辺であり、アメリカ合衆国(アラスカ州)、カナダ、デンマーク領グリーンランド、ノルウェー(スヴァールバル諸島を含む)、フィンランド、ロシア[2]。
半家畜化された動物であるため人為的な分布も多い。主な移入分布域は、サウスジョージア・サウスサンドウィッチ諸島、ケルゲレン諸島、プリビロフ諸島、(セントマシュー島)、アイスランドなど[2]。
亜種
- Rangifer tarandus tarandus (Linnaeus, 1758)
- Rangifer tarandus caribou (Gmelin, 1788)
- Rangifer tarandus fennicus (Lonnberg, 1909)
- Rangifer tarandus granti (J.A.Allen, 1902)
- Rangifer tarandus groenlandicus (Linnaeus, 1767)
- Rangifer tarandus pearyi (J.A.Allen, 1902)
- Rangifer tarandus platyrhynchus (Vrolik, 1829)
名称
和名であるトナカイはアイヌ語での呼称「トゥナカイ」(tunakay) または「トゥナㇵカイ」(tunaxkay) に由来する[3]。アイヌ語のトゥナカイも北方民族の言語からの外来語だと考えられている。アイヌ語研究者の中川裕の考察として、アイヌもニヴフもトナカイは飼わず、樺太に住むウィルタがトナカイを飼うが、言葉自体はニヴフ語からの借用語とする[4]。
「カリブー (Caribou)」はフランス語(より詳細には(カナダフランス語))の名で、これはさらにミクマク語の「ハリプ (qalipu)」に由来する。
英語は「カリブー」のほか「レインディア (reindeer)」と呼ばれる。「レイン」は古ノルド語の hreinn に由来し(「手綱 (rein)」ではない)、これはさらにインドヨーロッパ祖語で「角のある獣」を意味する *kroinos に由来する。
漢語では「馴鹿」(じゅんろく)と書き、「馴(人に馴れた、すなわち、家畜化可能な)鹿」を意味する。朝鮮語と中国語、ベトナム語では、これに由来する。
ロシア語では、「北のシカ」を意味する северный олень(シェーヴェルヌィ・アリェーニ)という。
アルタイ系ツングース人の言葉では「オロン (oron)」「オロ (oro)」「オヨン (ojon)」「オロン・ブク (oron buku)」「ホラ (hora)」「ホラナ (horana)」等と呼ばれている。
特徴
形態
体長120 – 220 cm。肩高90 – 150 cm。体重60 – 300 kg。時速80 kmで走る。
シカ科で唯一、雌雄共に角がある。これは後述するように、角の用途が繁殖期におけるオスの抗争だけでなく、雪を掘ってエサを得る役割もあるためである(そのためメスは、子どものエサを確保しなくてはいけない冬季に角が生える)。オスの角の方がメスよりも大きい。オスは春に角が生え秋から冬にかけて抜け落ち、メスは冬に角が生え春から夏にかけて角が抜け落ちる。
寒冷な環境から身を守るぶ厚い体毛をもつ。毛の内部に空洞があり保温性に優れている。オスは繁殖期になると咽頭部の毛が長く伸長する。蹄は大きく接地面が大きいため体重が分散され、雪の上でも沈むことなく歩くことに適応している。
季節によって目の色が変わり、普段は黄色い目だが、極夜になる冬は、少ない光を効率よく取り込むために深い青色の目になる。
鼻の色は黒、もしくは白い毛が混じったもので、下記の歌にあるような赤い鼻をした個体はいない。また、発光生物のように鼻自体が光ることもない。
生態
ツンドラ地帯に生息する。群れを形成し、季節によって大規模な移動を行う。天敵としてはオオカミ、オオヤマネコ、クズリ、ヒグマ等が挙げられる。
食性は草食性の強い雑食性で夏は草や葉、時にレミングや虫等の小動物を食べ、冬は角や蹄で雪を掻き分けて下に生えた地衣類(いわゆる苔)等を食べる。 シベリアに住むハンティ人は魚を給餌している。この様子を観察した日本の文化人類学者は、トナカイが魚を食べる理由を蛋白質や塩分の補給になるためと推測している[5][6]。
4月から6月にかけて1回に1匹の幼体を出産する。
人間との関係
古代ローマのユリウス・カエサルがガリアに遠征した時に著した『ガリア戦記』に、トナカイまたはヘラジカと考えられる動物の記載がある。
カムチャツカ地方の先住民族であるコリャーク人 (Коряки) の名前は「トナカイとともにある」を意味する語から来ている。
家畜化と利用
スカンジナビア半島からユーラシア大陸北部を経てシベリアに至る地域では古くから家畜として飼育され、人々の生活に大きく関わってきた。人類が最も古く家畜化した動物の一つでもあり、乳用、食肉用[7]、毛皮用に加え、ソリを引く使役や荷役にも利用されてきた。トナカイは雪上でも走行可能なので、人間が直接乗ることもある。サンタクロースのソリを引く動物(『赤鼻のトナカイ』参照)としての認知度が最も高い。
角は骨角器として利用する他、粉末にして鹿茸(ろくじょう)という滋養強壮の薬として用いられることもある。乾燥させた靭帯から糸を作り、骨角器の針とともに用いて、毛皮を縫って衣服や長靴や手袋などを作る(裁縫の起源)。『朝鮮王朝実録』の15世紀末の記述として、日本の使者と同行した夷千島王遐叉を称する使者の進物の一つとして「馬角」とあり、トナカイの角という説があり、北方を通じて北海道から朝鮮半島へ輸出されていた可能性が示唆されている[8]。
保全状況評価
国際自然保護連合 (IUCN) は2015年の時点で、過去3世代 (約21〜27年)間で北極圏周辺における個体数が40%減少したとして、2016年版のレッドリストで危急種と評価した[1]。
VULNERABLE (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))
文化の中のトナカイ
サンタクロースのトナカイ
サンタクロースは、トナカイが曳(ひ)く橇に乗るとされる。(「サンタクロースのトナカイたち」参照)ただし、当初はトナカイの頭数は一定せず、名前もなかった。
1823年の『クリスマスのまえのばん』で以下の8頭とされた[10]のが有名になった。
- ダッシャー (Dasher)
- ダンサー (Dancer)
- プランサー (Prancer)
- ヴィクセン (Vixen)
- コメット (Comet)
- キューピッド (Cupid)
- ダンダー (Dunder)
- ブリクセム (Blixem)
この順序(作中で名が呼ばれた順)は「前から」であるとする説もあるが、作中ではそのような言及はない。「ダンダー」と「ブリクセム」はそれぞれドイツ語の「雷鳴」と「雷光」(Blitz) のもじりで、後の物語での名は安定しないが、ここに記した名は原典のものである。
さらに、1939年の『ルドルフ 赤鼻のトナカイ』(クリスマスソング『赤鼻のトナカイ』の原案)に登場するルドルフ (Rudolph) を先頭に加えた9頭とする説も知られている。
脚注
- ^ a b c IUCN. Red list. Rangifer tarandus
- ^ a b Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder. Mammal Species of the World, 3rd edition. Rangifer tarandus
- ^ “トナカイは何語?”. 知床自然センター. 2020年9月27日閲覧。
- ^ 中川裕『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』集英社新書、2019年。p.224.
- ^ 大石侑香「トナカイは魚がお好き◇ロシア少数民族ハンティの生活を調査しびっくり◇」『日本経済新聞』朝刊2018年12月6日(文化面)2018年12月11日閲覧。
- ^ 大石侑香 (2017年11月10日). “第八回: トナカイが魚を食べる!?”. 三省堂 ことばのコラム. シベリアの大地で暮らす人々に魅せられて―文化人類学のフィールドワークから―. 2018年12月6日閲覧。
- ^ 【大使館の一皿】フィンランドの暖かい食卓/トナカイやベリー 寒い冬越す自然の恵み『日本経済新聞』朝刊2019年3月31日 NIKKEI The STYLE(13面)。
- ^ 網野善彦『海と列島の中世』講談社学術文庫、2003年、p.256.
- ^ “幌延町トナカイ観光牧場設置条例”. 幌延町. 2020年9月27日閲覧。
- ^ 英語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります:A Visit from St. Nicholas
関連文献
関連項目
外部リンク
- ウィキメディア・コモンズには、Rangifer_tarandus (カテゴリ)に関するメディアがあります。
- ウィキスピーシーズには、トナカイに関する情報があります。
- 『(トナカイ)』 - コトバンク