ベラドンナ(別剌敦那[1]、羅: belladonna、学名: Atropa bella-donna)は、ナス科オオカミナスビ属の草本。和名はオオカミナスビ、オオハシリドコロ、セイヨウハシリドコロ。
概要
ベラドンナは西欧で自生する多年草で、最近では北アフリカおよび西アジア、北アメリカの地域で帰化している。自生している場所は山間の日陰などで、湿気が多く、石灰質の肥えた土壌の場所で群生しているのを見ることができる。早春に葉に包まれた新芽を出し、全長は 40cm から 50cm 程度、最高で 5m ほどにもなる。花期は夏ぐらいまでで、くすんだ紫色の花を咲かせる。この花が過ぎた後に緑色の実をつけ、1cm ほどに膨らんで、黒色に熟していく。この実は甘いといわれるが、猛毒を含んでいるため絶対に食してはいけない。
名前は、イタリア語で「美しい女性」を意味する bella donna の読みそのままで、古くには女性が瞳孔を拡大させるための散瞳剤として、この実の抽出物を使用したことに由来する。
栽培する際に注意すべき点は、日光に非常に弱いので日よけをする必要があること、栽培地によってはノミハムシの一種である Longitarsus waterhousei(日本には分布せず)の食害に遭いやすいため、定期的に農薬を散布する必要があることである。また、種子からの発芽は発芽抑制物質の存在のために容易ではないことも考慮しなければならない。
毒性
全草に毒を含むが、根茎と根が特に毒性が強い。また、葉の表面にも油が浮いており、これに触れるとかぶれ(ひどい場合は潰瘍)がおきる。主な毒の成分はトロパンアルカロイドで、摂取し中毒を起こすと、嘔吐や散瞳、異常興奮を起こし、最悪の場合には死に至る。これは、ハシリドコロ属のハシリドコロなどと同様の症状である。ベラドンナのトロパンアルカロイドの成分は、ヒヨスチアミンやアトロピン(l-ヒヨスチアミン )、他にノルヒヨスチアミン、スコポラミン等が含まれる。これらの物質は副交感神経を麻痺させるため、先述のような症状が起こる。また、鳥類と鹿、ウサギなどの多くの動物はベラドンナを食べても中毒を起こさない。(犬猫は中毒を起こす)ベラドンナを食べた動物を人間が食べて死に至ってしまう場合がある。
薬用
用法・用量を守って使用すれば有用であり、成分の強い根茎と根はベラドンナコン(ベラドンナ根)という薬品として日本薬局方にも収められている。ベラドンナコンに含まれるアトロピンは硫酸アトロピンの原料になり、ベラドンナコンの成分を水またはエタノールに浸出させたものはベラドンナエキスと呼ばれる。また、ベラドンナ総アルカロイド成分は鼻みずを抑える効果があることから多くの市販鼻炎薬[5][6][7][8]に含まれることがあるため、まれに全身に発熱を伴う発疹などの薬疹症状を呈することがある[9]。
参考書籍
- 原色牧野和漢薬草大図鑑 旧版監修:三橋博 編修:和田浩志・寺林進・近藤健児 出版:北隆館 (ISBN 483260810X)
出典
- ベラドンナ 国立健康・栄養研究所 情報センター 健康食品情報研究室
脚注
- ^ 新村出編 「ベラドンナ」『広辞苑』第6版、岩波書店、2008年。
- ^ Linnaeus, Carolus (1753) (ラテン語). Species Plantarum. Holmia[Stockholm]: Laurentius Salvius. p. 181
- ^ 香港衛生署衛生防護センター、ベラドンナ(atropa belladonna)による食中毒疑い事例が発生した旨公表 食品安全委員会
- ^ ベラドンナ - 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所)
- ^ アスゲン製薬株式会社:鼻炎薬
- ^ ベラドンナ総アルカロイド 大正健康ナビ
- ^ 鼻炎用薬ヒストミン鼻炎カプセルLP 小林薬品工業
- ^ スカイナー鼻炎N エーザイ
- ^ 市販薬に含まれるベラドンナ総アルカロイドによる薬疹の1例 日本皮膚科学会雑誌 Vol.125 (2015) No.1 p.97-100
関連項目
外部リンク
- 都立薬用植物園の妖精達 ハシリドコロ
- 麗婦人と呼ばれる毒草「ベラドンナ」日本新薬株式会社 ハーブの館