シュヴァーベンジュラにある洞窟群と氷河期の芸術(シュヴァーベンジュラにあるどうくつぐんとひょうがきのげいじゅつ)は、南ドイツの6つの洞窟を対象とするUNESCOの世界遺産リスト登録物件である。それらの洞窟は、最終氷期に含まれる約43000年前から33000年前の人類がシェルターに使っていた場所であり、シュヴァーベンジュラ山脈の(ローネタール)とアッハタールという2つの谷にある。洞窟群の中では、女性をかたどった小像、動物(ドウクツライオン、マンモス、鳥類、ウマ、ウシ科、魚類など)の彫像、楽器、個人的な装飾具などが発見されており、小立像のなかには、半人半獣をかたどったものもある[1]。オーリニャック文化に属するそれらの彫像は、明白に彫刻と認められるものとしては最古の部類に属する[2][3]。同様に、鳥の骨から作ったフルートも、楽器としては最古級と見なされている[4]。なお、登録名に「氷河期の芸術」とあるが、後述するように世界遺産の登録対象は洞窟そのものであり、出土品は含まない。
登録経緯
この物件は2015年1月15日に(世界遺産の暫定リスト)に記載され、2016年1月13日に世界遺産センターに正式に提出された[5]。それに対し、世界遺産委員会の諮問機関である国際記念物遺跡会議(ICOMOS) は「登録」を勧告し[6]、2017年の第41回世界遺産委員会でも勧告通りに登録された[7]。
登録名
世界遺産としての登録名はCaves and Ice Age Art in the Swabian JuraおよびGrottes et l’art de la période glaciaire dans le Jura souabeである。その日本語訳は、以下のように揺れがある。
- シュヴァーベン・ジュラにある洞窟群と氷河期の芸術 - 世界遺産検定事務局[8]
- シュヴァーベンジュラの洞窟群と氷河時代の芸術 - 『今がわかる時代がわかる世界地図』[9]
- ジュヴェービッシュ・ユラの洞窟群と氷河期の芸術 - 日本ユネスコ協会連盟[10]
- シュヴァーベンジュラ山脈の洞窟群と氷河期アート - 月刊文化財[11]、プレック研究所[3]
- シュヴェビッシェアルプの洞窟群と氷河時代の芸術 - なるほど知図帳・世界[12]
登録基準
この世界遺産は(世界遺産登録基準)のうち、以下の条件を満たし、登録された(以下の基準は世界遺産センター公表の登録基準からの翻訳、引用である)。
- (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
この基準は、「ヨーロッパに定住した最初の現生人類の文化」を伝えるものとしての傑出した価値が評価されたものである[7]。
推薦時には創造的才能に適用される基準 (1) も提案されており、ICOMOSは確かに出土品の芸術性を認めたが、洞窟そのものには適用できないとした[3](世界遺産は不動産しか登録できない)。
構成資産
世界遺産はアッハタール(Ach Valley, ID1527-001)とローネタール(Lone Valley, ID1527-002)という2つの渓谷を対象としている。登録範囲は前者が 271.7 ha (緩衝地帯 766.8 ha)、後者が 190.4 ha (緩衝地帯 391.9 ha)である[13]。
画像 | 名称 | 所在地 | 概要 | 出土品 | 主な出土品の画像 |
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additional pictures | ボクシュタイン洞窟 (Bocksteinhöhle) | Lone Valley | 大型のハンドアックス (Bocksteinmesserとして知られる) | ||
additional pictures | (ガイセンクレステルレ) | Ach Valley | (オランス)(両手を掲げた姿勢)象牙製の半人半獣像 | additional pictures | |
additional pictures | (ホーレ・フェルス) | Ach Valley | マンモスの牙製のホーレ・フェルスのヴィーナス、シロエリハゲワシの骨製のフルート | additional pictures | |
additional pictures | (ホーレンシュタイン=シュターデル) | Lone Valley | 50 m (160 ft)の長く狭い洞窟。入り口は幅8 m、高さ4 m。 | マンモスの牙製のライオンマン | additional pictures |
additional pictures | (ジルゲンシュタイン洞窟) | Ach Valley | 洞窟の総延長は42 m (138 ft)で、高さは最高で10mある。 最奥部は天井に天然の穴が開いているので明るい。 | 約5,000点におよぶ燧石製の尖頭器や石錐などの石器 | |
additional pictures | (フォーゲルヘルト洞窟) | Lone Valley | マンモスの牙製の動物像や、イノシシの牙製のヴィーナス小像 | additional pictures |
保護
構成資産の近くで風力発電の開発計画があったが、ICOMOSは不許可とするよう勧告していた。地元であるバーデン=ビュルテンベルク州は、勧告通り、建設計画を認めないと決定した[3]。
脚注
- ^ “Caves and Ice Age Art in the Swabian Jura”. UNESCO. 2017年7月18日閲覧。
- ^ 河合 2009, p. 93
- ^ a b c d プレック研究所 2018, pp. 286–287
- ^ 河合 2009, p. 95
- ^ ICOMOS 2017, p. 183
- ^ ICOMOS 2017, p. 190
- ^ a b World Heritage Centre 2017, pp. 228–229
- ^ 世界遺産検定事務局『くわしく学ぶ世界遺産300』第3版、2019年、p.9
- ^ 『今がわかる時代がわかる世界地図 2018年版』成美堂出版、2018年、p.142
- ^ 日本ユネスコ協会連盟 2018, p. 24
- ^ 鈴木地平 「第41回世界遺産委員会の概要」『月刊文化財』第651号、2017年、p.35
- ^ 『なるほど知図帳 世界2018』昭文社、2017年、p.109
- ^ Caves and Ice Age Art in the Swabian Jura – Multiple Locations(世界遺産センター、2019年9月12日)