エールフランス66便エンジン爆発事故（エールフランス66びんエンジンばくはつじこ）は、2017年9月30日にパリのシャルル・ド・ゴール空港を発ってロサンゼルス国際空港に向かっていた国際定期旅客便エールフランス66便（AF066、エアバスA380-861）のエンジンが飛行中に爆発し緊急着陸した事故である。
| 2011年にパリ＝シャルル・ド・ゴール空港で撮影された事故機 | |
| インシデントの概要 | |
|---|---|
| 日付 | 2017年9月30日 |
| 概要 | エンジンの爆発（調査中） |
| 現場 | グリーンランド パーミュートから南東150キロ地点 |
| 乗客数 | 497 |
| 乗員数 | 24 |
| 負傷者数 | 0 |
| 死者数 | 0 |
| 生存者数 | 521 (全員) |
| 機種 | エアバス A380-861 |
| 運用者 | エールフランス |
| 機体記号 | F-HPJE |
| 出発地 | パリ＝シャルル・ド・ゴール空港 |
| 目的地 | ロサンゼルス国際空港 |
エアバス A380の飛行中にエンジンが爆発したという点で2010年に起きたカンタス航空32便の事故と類似しているが、32便のエンジンはロールス・ロイス トレント970であった。
事故機
事故機のエアバスA380-861 (登録番号: F-HPJE) は、2011年5月17日にエールフランスに納入された[1][2]。爆発したエンジンは、製造後3,527サイクル運転されていた[3]。
緊急着陸まで
66便はパリを離陸してロサンゼルスに向かってグリーンランド上空を飛行していたが、グリーンランドのパーミュートから南東150キロメートル地点で突如、第4エンジン (一番右端のエンジン）が爆発[4]、ファンハブとインテークが吹き飛んだ。66便はUTC 15時42分（現地時間12時42分）にカナダの(グースベイ空港)に緊急着陸した[5][4][6]。エンジン・アライアンス GP7000の爆発原因は現時点では不明とされている[7]。エールフランスは、「4基のエンジンのうち1基が深刻な損傷を受けた」と発表した[6]。
497人の乗客と24人の乗員には怪我はなかった[6][7]。グースベイ空港は軍民共用で、66便の500人以上もの乗員・乗客に対応できる設備もなかったため、乗客は代替機が到着するまでA380から降りることはできなかった。代替機は1機で対応可能な自社機はなく自社777-300ERとチャーター機737で対応し翌10月1日朝に到着し、ウィニペグに着陸した後にロサンゼルスに向かった[8]。
破損したエンジンの写真やビデオは、乗客などがソーシャルメディアに投稿したほか、緊急着陸の様子をとらえた動画も撮影された[9][10][11][12]。
事故調査
エールフランスは、エンジン故障の原因を特定するためフランス航空事故調査局（BEA）、エアバス、エールフランスが調査にあたると発表した[6]。(カナダ運輸安全委員会)（CTSB）はカナダで発生した航空事故を調査する責任を有するが[13]、故障そのものはグリーンランド上空で発生したことから、(デンマーク事故調査委員会)が調査を統括することになった[14]。
2017年10月3日、デンマーク航空当局は調査をBEAに委任した。デンマーク、アメリカ、カナダの調査官が調査に参加した。エアバス、エールフランスとエンジン・アライアンス（ゼネラル・エレクトリックとプラット・アンド・ホイットニーの合弁会社）の責任者もグースベイに向かった。最初の調査では、飛行中にエンジンのファンハブが外れ、空気吸入口がそれに引きずられて壊れたことが分かった[15]。6日後には事故機のエンジンの破片がグリーンランドで回収された[16]。
BEAは「機体の破片、特にファンハブの断片が見つかるかどうかが調査の鍵となる」として合成開口レーダーを搭載したダッソー ファルコン 20を投入して捜索にあたったが、2019年5月になってようやく発見した[17][18]。
事故後
10月12日、連邦航空局（FAA）は、エンジン・アライアンスGP7270、GP7272、GP7277に対して緊急耐空性改善通報（EAD）を発行した。EADでは、エンジンの運用サイクル数に応じて、2-8週間のタイムスケールでファンハブを目視検査することが勧告された[3]。さらに2018年6月にはGP7200のファンハブに対して渦電流探傷試験を行って、ファンブレードを取り付けるスロットにクラックが生じていないか確認することを勧告する耐空性改善通報を発行した[1]。
一方、事故機の修理にあたって、エールフランスは重量とバランスの観点から破損したエンジンをそのまま残し、残る3発のエンジンで飛行させてヨーロッパに戻す計画を発表したが、実施されなかった[19]。こういった特殊な運用を行うには特別な手順が必要であり、乗員によるリハーサルを行わなければならないからである[19]。結局、破損したエンジンを交換し、4発とも稼働させてパリまで飛行させることになった[19]。交換用エンジンがグースベイ空港に送られ、破損したエンジンは取り外した上でゼネラル・エレクトリックによる検査のため11月23-25日にかけてイギリスのイースト・ミッドランズ空港に運ばれた[19][20]。
その後、事故機は2017年12月6日にエールフランス371V便としてグースベイ空港からシャルル・ド・ゴール空港へ回送された[21]。
脚注
- ^ a b “ASN Aircraft accident Airbus A380-861 F-HPJE southern Greenland”. aviation-safety.net. 2017年11月26日閲覧。
- ^ “The Airbus A380 Fleet Cabin and Operations Part I: Korean Air, Lufthansa And Air France”. AviationReportGlobal.com (2011年6月15日). 2017年10月7日閲覧。
- ^ a b “AD#2107-21-51”. Federal Aviation Administration (2017年10月12日). 2017年10月13日閲覧。
- ^ a b “Information du 5 octobre 2017” [Information from 5 October 2017] (フランス語) (2017年10月5日). 2018年2月19日閲覧。
- ^ Park, Madison; Ostrower, Jon. “Air France superjumbo engine failure forces emergency landing in Canada”. CNN 2017年10月7日閲覧。
- ^ a b c d “Information About Flight Af066 Paris Los Angeles on 30 September 2017”. Air France. 2017年10月1日閲覧。
- ^ a b “Engine breaks up on Air France A380, forcing emergency landing in Canada”. The Guardian. 2017年10月1日閲覧。
- ^ “Wheels up: Air France passengers depart Goose Bay on two flights after hours on tarmac”. CBC. 2017年10月7日閲覧。
- ^ Marley, Remy [@theamadoor] (2017年9月30日). "Engine failure halfway over the Atlantic Ocean #airfrance #airfrance66 #AF66 #birdstrike possibly" (ツイート) (英語). Twitterより2017年10月1日閲覧。
- ^ McNeely, Daniel [@DanMcneely] (2017年9月30日). "I think the engine has seen better days" (ツイート) (英語). Twitterより2017年10月1日閲覧。[]
- ^ Soboroff, Jacob [@jacobsoboroff] (2017年9月30日). "Just got this pic from friend aboard the Air France CDG to LAX flight that suffered engine failure & landed safely in Canada. Terrifying" (ツイート) (英語). Twitterより2017年10月1日閲覧。
- ^ Barker, Jacob [@JacobBarkerCBC] (2017年9月30日). "Just received this video from Kate Heath of Air France emergency landing in Goose Bay" (ツイート) (英語). Twitterより2017年10月1日閲覧。
- ^ “TSB investigating after Air France plane forced to land in N.L.”. CTV News (2017年10月1日). 2017年10月7日閲覧。
- ^ “Agencies dither over who leads A380 engine explosion probe”. Reuters. 2017年10月2日閲覧。
- ^ “Incident: France A388 over Greenland on Sep 30th 2017, fan and engine inlet separated”. avherald.com. 2017年10月7日閲覧。
- ^ “Debris recovered in Greenland from Air France plane forced to land in Labrador: Snowy conditions in Greenland are hampering the recovery effort”. Canadian Press. CBC News. (2017年10月9日) 2017年10月15日閲覧。
- ^ David Kaminski-Morrow. “High-tech radar hunts for missing A380 fan debris 10 May 2019”. Flightglobal
- ^ “October 2017 - June 2018 Searches Phase I & II”. Accident to the Airbus A380 registered F-HPJE and operated by Air France on 30/09/2017 en route over Greenland. BEA (2019年5月). 2019年5月13日閲覧。
- ^ a b c d “Air France Flight AF66 Suffers Engine Failure over Greenland – Flightradar24 Blog”. blog.flightradar24.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ Hepher, Tim (2017年10月10日). “Damaged A380 to be flown to France to investigate engine blast”. Reuters. 2017年10月11日閲覧。
- ^ Flightradar24. “Flightradar24.com - Live flight tracker!” (英語). Flightradar24. 2017年12月7日閲覧。