アンチ・ミステリーは、狭義には三大奇書を、広義には推理小説上の「推理小説でありながら推理小説であることを拒む」という一ジャンルを指す。この項目では主に広義でのアンチ・ミステリーについて詳述する。
概要
もともとアンチ・ミステリーとは齋藤愼爾と埴谷雄高により三大奇書の呼称として考案された言葉である。
『黒死館殺人事件』は本筋と含蓄の主客転倒、『ドグラ・マグラ』はその大胆な構成と幻想小説らしさ、『虚無への供物』は文中に推理小説自身を否定する記述が含まれることから、いずれも「ミステリーらしくなさ」を含んではいたが、当初は「推理小説でありながら推理小説であることを拒む」というジャンルを指し示すものではなく、三大奇書に科せられた別名であった。
しかしいつ頃からか、三大奇書を意識したものなのか否か、三大奇書に含まれる独特のエッセンスを発展させた推理小説がいくつも発表されるようになった。そして「アンチ・ミステリー」は推理小説上の一ジャンルを指す言葉になった。
アンチ・ミステリーはその性質上、メタ小説的部分を合わせ持ち、しばしば愚作やアンフェアになりかねない。
アンチ・ミステリーの代表作は、中井英夫著の『虚無への供物』である、と一般的には言われる。しかし前述の通り推理小説自身を否定する記述を含んではいるが、本筋自身は普通の推理小説となんら変わらないものであるため、アンチ・ミステリーであることに気づかれない事も多い。これは同種のアンチ・ミステリー作品には、同じく見られる性質である。