ウィキブックスに位相空間論 関連の解説書・教科書があります。
数学 における位相空間 (いそうくうかん、英語 : topological space )とは、集合 X に(位相 )(topology )と呼ばれる構造を付け加えたもので、この構造はX 上に収束性の概念を定義するのに必要十分 なものである[注 1] 。
位相空間の諸性質を研究する数学の分野を位相空間論 と呼ぶ。
概要 位相空間は、前述のように集合 に「位相」という構造を付け加えたもので、この構造により、例えば以下の概念が定義可能となる
部分集合の内部、外部、境界 点の近傍 収束性[注 1] 開集合、閉集合、閉包 実はこれらの概念はいわば「同値」で、これらの概念のうちいずれか一つを定式化すれば、残りの概念はそこから定義できる事が知られている。したがって集合上の位相構造は、これらのうちいずれか1つを定式化する事により定義できる。そこで学部レベルの多くの教科書では、数学的に扱いやすい開集合の概念をもとに位相構造を定義するものが多い。
その他にも
といった概念も位相構造を用いて定義できる。
上述した概念はいずれも元々距離空間 のような幾何学 的な対象に対して定義されたものだが、距離が定義されていなくても位相構造さえ定義できれば定式化できる。これにより、位相空間の概念は、幾何学はもちろん解析学 や代数学 でも応用されており、位相空間論はこうした数学の諸分野の研究の基礎を与える。位相空間の概念の利点の一つは、解析学や代数学などの研究対象に幾何学的な直観を与えることにある。
このような観点からみたとき、位相空間論の目標の一つは、ユークリッド空間など幾何学の対象に対して成り立つ諸性質を解析学などにも一般化することにある。従って学部レベルで学ぶ位相空間論の性質の多くは、ユークリッド空間などの幾何学的な対象では自明に成り立つ(例えば各種分離公理や可算公理)。
位相空間論ではこうした幾何学的な性質をいかに一般の空間へと拡張するかが問われるので、位相空間の概念自身は非常に弱く、かつ抽象的に定義される。しかしその分個別の用途では必要な性質が満たされないこともあり、例えば位相空間上では収束の一意性は保証されない。そこで必要に応じて、位相空間にプラスアルファの性質を付け加えたものが研究対象になることも多い。前述した収束の一意性は、位相空間に「ハウスドルフ性 」という性質を加えると成立する。学部レベルの位相空間論の目標の一つは、こうしたプラスアルファの性質の代表的なものを学ぶ事にある。
距離空間
( R 2 , d p ) {\displaystyle (\mathbb {R} ^{2},d_{p})} の原点の1-近傍を
p =2 (上の図)、
p =1 (中央の図)、
p =∞ (下の図)に対して図示したもの。これらはそれぞれ
ユークリッド距離 、
マンハッタン距離 、
チェビシェフ距離 と呼ばれる。
位相空間と距離空間 位相空間となる代表的な空間としては、ユークリッド空間 をはじめとした距離空間 がある。距離空間は必ず位相空間になるが、逆は必ずしも正しくない。すなわち、距離構造 は位相的構造よりも遥かに多くの情報を持った強い概念であり、距離空間としては異なっても位相空間としては同一の空間になることもある。
例えばp ≧1 を固定して実数空間 R n {\displaystyle \mathbb {R} ^{n}} 上にℓp 距離
d p ( x , y ) = ( x 1 − y 1 ) p + ⋯ ( x n − y n ) p p {\displaystyle d_{p}(x,y)={\sqrt[{p}]{(x_{1}-y_{1})^{p}+\cdots (x_{n}-y_{n})^{p}}}} を入れた距離空間 ( R n , d p ) {\displaystyle (\mathbb {R} ^{n},d_{p})} を考えてみると、ε-N論法 やε-δ論法 による極限の議論で用いる(ε-近傍 )はp に依存して異なるにもかかわらず、収束の有無や収束先の点はp によらず一致する。
より一般に、ユークリッド空間をゴム膜のように連続変形した ものは、元のユークリッド空間とは距離空間としては異なるが、位相空間としては同一であり、収束するか否かという性質も互いに保たれて不変である。
以上のように、連続性や収束性といった概念を考えたり、連続変形を対象とした研究を行ったりするときには、距離空間の概念は柔軟性に欠けるところがあり、位相空間というより弱い概念を考える積極的動機の一つとなる。
他にも例えば多様体 を定義する際には複数の距離空間(ユークリッド空間の開集合)を連続写像で「張り合わせる」(商空間 )が、張り合わせに際して元の空間の距離構造を壊してしまうので、元の空間を距離空間とみなすより、位相空間とみなす方が自然である。
応用分野 位相空間の概念の代表的な応用分野に位相幾何学 がある。これは曲面をはじめとした幾何学的な空間(主に有限次元の多様体 や単体的複体 )の位相空間としての性質を探る分野である。前述のようにゴム膜のように連続変形しても位相空間としての構造は変わらないので、球面 と(楕球 )は同じ空間であるが、トーラス は球面 とは異なる位相空間である事が知られている。位相幾何学では、位相空間としての構造に着目して空間を分類したり、分類に必要な不変量 (位相不変量)を定義したりする。
位相空間の概念は代数学や解析学でも有益である。例えば無限次元ベクトル空間 を扱う関数解析学 の理論を見通しよく展開するにはベクトル空間に位相を入れて位相空間の一般論を用いることが必須であるし(位相線型空間 )、代数幾何学 で用いられるザリスキ位相 は、通常、距離から定めることのできないような位相である。
また、位相空間としての構造はその上で定義された様々な概念の制約条件として登場することがある。例えばリーマン面上の有理型関数のなす空間の次元は、リーマン面の位相構造によって制限を受ける(リーマン・ロッホの定理 )。また三次元以上の二つの閉じた双曲多様体が距離空間として同型である必要十分条件は、位相空間として同型な事である(モストウの剛性定理)。
定義 位相空間にはいくつかの同値な定義があるが、本項ではまず、開集合を使った定義を述べる。
開集合を使った特徴づけ 位相空間を定式化する為に必要となる「開集合」という概念は、直観的には位相空間の「縁を含まない」、「開いた」部分集合である。
ただし上ではわかりやすさを優先して「縁を含まない」、「開いた」という言葉を使ったが、これらの言葉を厳密に定義しようとすると位相空間の概念が必要になるので、これらを使って開集合を定義するのは循環論法になってしまう。また、ここでいう「縁」(=境界)は通常の直観と乖離している場合もあり、例えば実数直線上の有理数の集合の境界は実数全体である。
そこで位相空間の定義では、「縁を含まない」とか「開いた」といった概念に頼ることなく、非常に抽象的な方法で開集合の概念を定式化する。
位相空間を定式化するのに必要なのは、どれが開集合であるのかを弁別するために開集合全体の集合 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} を指定する事と、 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} が定められた性質を満たすことだけである。
位相空間の厳密な定義は下記のとおりである。
集合{1,2,3}における、開集合の公理を満たす部分集合の族や満たさない族の例。上二段の例はそれぞれ開集合の公理を満たしているが、最下段の例は、左側は{2}と{3}の和集合である{2,3}が入っていないため、右側は{1,2}と{2,3}の共通部分である{2}が入っていないため、どちらも開集合の公理を満たしていない。
定義 (開集合系による位相空間の定義) ― X を集合とし、 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} をX のべき集合 P ( X ) {\displaystyle {\mathfrak {P}}(X)} の部分集合とする。
O {\displaystyle {\mathcal {O}}} が以下の性質を満たすとき、組 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} を X を台集合とし O {\displaystyle {\mathcal {O}}} を開集合系 とする位相空間 と呼び、 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} の元を X の開集合 と呼ぶ。
∅ , X ∈ O {\displaystyle \emptyset ,\,X\in {\mathcal {O}}} ∀ O 1 , ∀ O 2 ∈ O : O 1 ∩ O 2 ∈ O {\displaystyle \forall O_{1},\forall O_{2}\in {\mathcal {O}}~:~O_{1}\cap O_{2}\in {\mathcal {O}}} ∀ { O λ } λ ∈ Λ ⊂ O : ⋃ λ ∈ Λ O λ ∈ O {\displaystyle \forall \{O_{\lambda }\}_{\lambda \in \Lambda }\subset {\mathcal {O}}~:~\bigcup _{\lambda \in \Lambda }O_{\lambda }\in {\mathcal {O}}} 上述の定義に登場する3つの条件の意味するところは下記のとおりである:
空集合 と全体集合は開集合である。 2つの開集合の共通部分 は開集合である。(よって有限個の開集合の共通部分は開集合となるが、無限個の共通部分は開集合とは限らない ) 任意の個数(有限でも無限でもよい )の開集合の和集合 は開集合である。 本節では、これらの性質を天下り的に与えるにとどめ、後の章で距離空間で具体的な位相に関し、この定義について論ずる。
開集合系 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} を一つ定める事で、集合 X が位相空間になるので、 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} をX 上の位相(構造) と呼ぶ。
紛れがなければ開集合系 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} を省略し、X の事を位相空間 と呼ぶ。
また位相空間X の元を点 と呼ぶ。
なお、集合算に関する空積 および空和 はそれぞれ全体集合 と空集合 になるので、 O ≠ ∅ {\displaystyle {\mathcal {O}}\neq \emptyset } を仮定しておけば、上述の定義における条件1を課さなくてもよい。
閉集合を使った特徴づけ 開集合のX における補集合 の事を閉集合 と呼び、閉集合全体の集合
F = { F ⊂ X ∣ F c ∈ O } {\displaystyle {\mathcal {F}}=\{F\subset X\mid F^{c}\in {\mathcal {O}}\}} の事を位相空間X の閉集合系 と呼ぶ。
開集合が直観的には「縁を含まない」、「開いた」集合だったのに対し、閉集合は直観的には「縁を含んだ」、「閉じた」集合である。 本項ではこれまで、開集合系を使って位相空間を定義し、開集合の補集合として閉集合を定義したが、閉集合系 F {\displaystyle {\mathcal {F}}} を使って下記のように位相空間を定義する事もできる。この場合、開集合は閉集合の補集合として定義する。
定義 (閉集合系による位相空間の定義) ― X を集合とし、 F {\displaystyle {\mathcal {F}}} をX のべき集合 P ( X ) {\displaystyle {\mathfrak {P}}(X)} の部分集合とする。
F {\displaystyle {\mathcal {F}}} が以下の性質を満たすとき、組 ( X , F ) {\displaystyle (X,{\mathcal {F}})} を X を台集合とし F {\displaystyle {\mathcal {F}}} を閉集合系 とする位相空間 と呼び、 F {\displaystyle {\mathcal {F}}} の元を X の閉集合 と呼ぶ。
∅ , X ∈ F {\displaystyle \emptyset ,X\in {\mathcal {F}}} ∀ F 1 , ∀ F 2 ∈ F : F 1 ∪ F 2 ∈ F {\displaystyle \forall F_{1},\forall F_{2}\in {\mathcal {F}}~~:~~F_{1}\cup F_{2}\in {\mathcal {F}}} ∀ { F λ } λ ∈ Λ ⊂ F : ⋂ λ ∈ Λ F λ ∈ F {\displaystyle \forall \{F_{\lambda }\}_{\lambda \in \Lambda }\subset {\mathcal {F}}~~:~~\bigcap _{\lambda \in \Lambda }F_{\lambda }\in {\mathcal {F}}} 閉集合系による位相空間の定義における3つの条件は、開集合系による位相空間の定義における3つの条件にド・モルガンの法則 を適用することにより得られる。
なお、X の開集合でも閉集合でもあるような部分集合は X の開かつ閉集合 と呼ばれる(定義から明らかに ∅ {\displaystyle \emptyset } および X は必ず開かつ閉である)。X には、開でも閉でもないような部分集合が存在しうる。
その他の特徴づけ
距離空間の位相構造 すでに述べたように位相空間の概念を定義する主な動機の一つは、距離空間上で定義される諸概念をより一般の空間でも定義する事である。この意味において距離空間は最も基本的な位相空間の例であるので、本節では距離構造が位相構造を定める事を見る:
定理・定義 (距離から定まる位相) ― (X ,d ) を距離空間 とし、実数 ε > 0 と x ∈ X に対し、x のε -近傍(ε -neighborhood) B ε ( x ) {\displaystyle B_{\varepsilon }(x)} を
B ε ( x ) := { y ∈ X ∣ d ( x , y ) < ε } {\displaystyle B_{\varepsilon }(x):=\{y\in X\mid d(x,y)<\varepsilon \}} と定義するとき、
O d = { O ⊂ X ∣ ∀ x ∈ O ∃ ε > 0 : B ε ( x ) ⊂ O } {\displaystyle {\mathcal {O}}_{d}=\{O\subset X\mid \forall x\in O\exists \varepsilon >0~~:~~B_{\varepsilon }(x)\subset O\}} は開集合系の公理を満たす。 O d {\displaystyle {\mathcal {O}}_{d}} を距離 d により定まる X の開集合系 、もしくはd により定まる X の位相構造 といい、 ( X , O d ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}}_{d})} を(X ,d ) により定まる位相空間 という。
x のε -近傍の事を、ε -球 (ε -ball)、ε -開球 (ε -open ball)、あるいは単に開球 (open ball)ともいう。
上記のように定義した O d {\displaystyle {\mathcal {O}}_{d}} が位相の定義を満たす事を示すために、まず開集合を別の形で書き換える:
命題 (距離から定まる開集合の特徴づけ) ― 距離空間(X ,d ) が定める位相を O d {\displaystyle {\mathcal {O}}_{d}} とし、O をX の部分集合とする。このとき、以下の3条件は同値である:
O は O d {\displaystyle {\mathcal {O}}_{d}} の開集合である 任意のx ∈ O に対し、ある ε x > 0 {\displaystyle \varepsilon _{x}>0} が存在し、 O = ⋃ x ∈ O B ε x ( x ) {\displaystyle O=\bigcup _{x\in O}B_{\varepsilon _{x}}(x)} が成立する。 O は(有限または無限個の)開球の和集合として書ける。すなわち族 { B ε λ ( x λ ) } λ ∈ Λ ⊂ X {\displaystyle \{B_{\varepsilon _{\lambda }}(x_{\lambda })\}_{\lambda \in \Lambda }\subset X} が存在し、 O = ⋃ x λ ∈ Λ B ε λ ( x λ ) {\displaystyle O=\bigcup _{x_{\lambda }\in \Lambda }B_{\varepsilon _{\lambda }}(x_{\lambda })} が成立する。 証明(距離から定まる開集合の特徴づけ)
(1⇒2):任意の開集合O に対し、開集合の定義より開集合O の各点x に対し、 B ε x ( x ) ⊂ O {\displaystyle B_{\varepsilon _{x}}(x)\subset O} を満たす ε x > 0 {\displaystyle \varepsilon _{x}>0} が存在するので、
O = ⋃ x ∈ O B ε x ( x ) {\displaystyle O=\bigcup _{x\in O}B_{\varepsilon _{x}}(x)} と書ける。
(2⇒3):自明
(3⇒2): O = ⋃ x λ ∈ Λ B ε λ ( x λ ) {\displaystyle O=\bigcup _{x_{\lambda }\in \Lambda }B_{\varepsilon _{\lambda }}(x_{\lambda })} と書ければ、任意のx ∈ O に対し、 x ∈ O ⟺ ∃ x λ ∈ Λ : x ∈ B ε λ ( x λ ) {\displaystyle x\in O\iff \exists x_{\lambda }\in \Lambda ~:~x\in B_{\varepsilon _{\lambda }}(x_{\lambda })} なので、 δ x := ε λ − d ( x , x λ ) {\displaystyle \delta _{x}:=\varepsilon _{\lambda }-d(x,x_{\lambda })} とすれば、 δ x > 0 {\displaystyle \delta _{x}>0} であり、 B δ x ( x ) ⊂ B ε λ ( x λ ) ⊂ ⋃ x λ ∈ Λ B ε λ ( x λ ) = O {\displaystyle B_{\delta _{x}}(x)\subset B_{\varepsilon _{\lambda }}(x_{\lambda })\subset \bigcup _{x_{\lambda }\in \Lambda }B_{\varepsilon _{\lambda }}(x_{\lambda })=O} である。x ∈ OI の任意性から、O は O d {\displaystyle {\mathcal {O}}_{d}} の開集合である。
上述の命題の条件3から特に次の系が従う:
系 ― 開球は O d {\displaystyle {\mathcal {O}}_{d}} の開集合である。
上述の命題より、 O d {\displaystyle {\mathcal {O}}_{d}} が位相の定義を満たす事が従う:
証明( O d {\displaystyle {\mathcal {O}}_{d}} が位相の定義を満たす事) ∅ , X ∈ O d {\displaystyle \emptyset ,X\in {\mathcal {O}}_{d}} は自明に従う。 上述の命題より開集合である必要十分条件は(有限または無限個の)ε -球の和集合として書けることだったので、開集合の(有限または無限個の)和集合も当然(有限または無限個の)ε -球の和集合でかけるため、開集合である。 O 1 = ⋃ x ∈ O 1 B ε x ( x ) {\displaystyle O_{1}=\bigcup _{x\in O_{1}}B_{\varepsilon _{x}}(x)} 、 O 2 = ⋃ x ∈ O 2 B δ x ( x ) {\displaystyle O_{2}=\bigcup _{x\in O_{2}}B_{\delta _{x}}(x)} を開集合とするとき、 O 1 ∩ O 2 = ⋃ x ∈ O 1 ∩ O 2 B min { ε x , δ x } ( x ) {\displaystyle O_{1}\cap O_{2}=\bigcup _{x\in O_{1}\cap O_{2}}B_{\min\{\varepsilon _{x},\delta _{x}\}}(x)} も開球の和集合でかけるので開集合である。
なお、位相空間の定義より開集合の(有限または無限個の)和集合は開集合であり、開集合の有限個の共通部分も開集合であるが、開集合の無限個の共通部分は開集合になるとは限らない 。実際、任意の自然数n > 0 に対し、1/n -球 B 1 / n ( x ) {\displaystyle B_{1/n}(x)} は定義より開集合であるが、
⋂ n ∈ N B 1 / n ( x ) = { x } {\displaystyle \bigcap _{n\in \mathbb {N} }B_{1/n}(x)=\{x\}} は開集合ではない。
上述のように集合X 上の距離構造に1つの位相構造が対応するが、この対応関係は一般には「単射」ではなく、異なる距離構造が同一の位相構造を定める事も多い。実際、次の命題が成立する:
命題 ― (X ,d ) を距離空間 とし、f : X → X を連続な全単射で逆写像も連続なものとする。このとき、
d ′ ( x , y ) = d ( f ( x ) , f ( y ) ) {\displaystyle d'(x,y)=d(f(x),f(y))} と定義すると、d とd' はX 上に同一の位相構造を定める。
なお、上記の命題における「連続」の概念は距離空間における連続の事であるが、本稿では後で位相空間上の連続性を定義し、位相空間としての連続性の概念と距離空間としての連続性の概念が一致する事を見る。
上述の命題は、距離空間を連続変形しても位相構造が変わらない事を意味する。したがって連続変形に対して不変な性質を研究する位相幾何学 にとって基礎的である。
ベクトル空間の場合 本節では(実または複素)ベクトル空間における距離と位相の関係を述べる。本節の内容はベクトル空間が有限次元の場合は幾何学 、無限次元の場合は解析学 に応用がある。
ベクトル空間では、ノルム の概念を定義する事ができ、ベクトル空間上の距離としてはノルム から定まるものを考える事が多い。本節ではまずノルムの定義を振り返り、ノルムから定まる距離を定義し、その距離から定まる位相の性質を見る。
ノルムの定義 まずノルムとは何かを簡単に説明する:
定義 (ノルム) ― K を R {\displaystyle \mathbb {R} } もしくは C {\displaystyle \mathbb {C} } とするとき、K 上ベクトル空間V のノルム とは写像
‖ ⋅ ‖ : V → K {\displaystyle \|\cdot \|~:~V\to K} で以下の3性質を満たすものの事である。ここでx 、y はV の元でα はK の元である:
‖ x ‖ = 0 ⇔ x = 0 ‖ a x ‖ = |a |‖ x ‖ ‖ x + y ‖ ≤ ‖ x ‖ + ‖ y ‖ R n {\displaystyle \mathbb {R} ^{n}} 上の代表的なノルムとして、p ≧1 に対するℓp ノルム
‖ v ‖ p = ( | v 1 | p + ⋯ + | v n | p ) 1 / p {\displaystyle \|v\|_{p}=(|v_{1}|^{p}+\cdots +|v_{n}|^{p})^{1/p}} が知られている。ここでv =(v 1 ,...,v n ) である。
ノルムから定まる距離と位相 V 上にノルム‖ ・ ‖ が1つ与えられると、
d ( x , y ) = ‖ x − y ‖ {\displaystyle d(x,y)=\|x-y\|} により、V 上の距離が定まる。
このようにノルムから距離が定まり、距離から位相が定まるが、ノルムが「同値」であるとそこから定まる位相が同一になる事が知られている:
定義・定理 (ノルムの同値性と位相) ― V を(実もしくは複素)ベクトル空間 とし、 ‖ ⋅ ‖ {\displaystyle \|\cdot \|} と ‖ ⋅ ‖ ′ {\displaystyle \|\cdot \|'} をV 上定義された2つのノルム とする。 ‖ ⋅ ‖ {\displaystyle \|\cdot \|} 、 ‖ ⋅ ‖ ′ {\displaystyle \|\cdot \|'} が
∃ C 1 , C 2 > 0 ∀ x ∈ V : C 1 ‖ x ‖ ′ ≤ ‖ x ‖ ≤ C 2 ‖ x ‖ ′ {\displaystyle \exists C_{1},C_{2}>0\forall x\in V~:~C_{1}\|x\|'\leq \|x\|\leq C_{2}\|x\|'} を満たすとき、 ‖ ⋅ ‖ {\displaystyle \|\cdot \|} 、 ‖ ⋅ ‖ ′ {\displaystyle \|\cdot \|'} は同値 なノルムであるという。
‖ ⋅ ‖ {\displaystyle \|\cdot \|} 、 ‖ ⋅ ‖ ′ {\displaystyle \|\cdot \|'} が同値であれば、これらのノルムが定める距離
d ( x , y ) = ‖ x − y ‖ {\displaystyle d(x,y)=\|x-y\|} 、 d ′ ( x , y ) = ‖ x − y ‖ ′ {\displaystyle d'(x,y)=\|x-y\|'} は V 上に同一の位相を定める。
有限次元ベクトル空間の場合 V が有限次元の場合は次の事実が知られている[1] :
命題 ― 有限次元の(実もしくは複素)ベクトル空間上定義されるノルムは全て同値である。
この事実から、有限次元ベクトル空間の場合は、ノルムのとり方によらず同一の位相構造が定まる事がわかる。この位相を有限次元ベクトル空間上の自然な位相 、通常の位相 等と呼ぶ。
無限次元ベクトル空間の場合 一方解析学で頻繁に使われる、無限次元のベクトル空間の場合は、同一のベクトル空間上に複数の同値でないノルムが存在し、それらのノルムがそれぞれ異なる位相構造を定める事になる。例えば[0,1] 区間から R {\displaystyle \mathbf {R} } への連続写像全体の集合
C ( [ 0 , 1 ] , R ) = { f : [ 0 , 1 ] → R {\displaystyle C([0,1],\mathbf {R} )=\{f~:~[0,1]\to \mathbf {R} } , 連続 } {\displaystyle \}} を写像の和と定数倍に関してベクトル空間とみなすと、各 p ≥ 1 {\displaystyle p\geq 1} 対し、Lp ノルム
‖ f ‖ p = ∫ [ 0 , 1 ] | f ( x ) | p d x p {\displaystyle \|f\|_{p}={\sqrt[{p}]{\int _{[0,1]}|f(x)|^{p}\mathrm {d} x}}} やL∞ ノルム (一様ノルム とも)
‖ f ‖ ∞ = sup x ∈ [ 0 , 1 ] | f ( x ) | {\displaystyle \|f\|_{\infty }=\sup _{x\in [0,1]}|f(x)|} が定義できるが、これらはp が異なれば異なる位相を定め、実際Lp ノルムでは収束するのに別のLq ノルムでは収束しない例を作る事ができる。
また無限回微分可能な写像の空間
C ∞ ( [ 0 , 1 ] , R ) = { f : [ 0 , 1 ] → R {\displaystyle C^{\infty }([0,1],\mathbf {R} )=\{f~:~[0,1]\to \mathbf {R} } , 無限回微分可能 } {\displaystyle \}} にはLp ノルムの一般化であるソボレフノルム
‖ f ‖ k , p = ∑ ℓ = 0 k ∫ [ 0 , 1 ] | f ( ℓ ) ( x ) | p d x p {\displaystyle \|f\|_{k,p}={\sqrt[{p}]{\sum _{\ell =0}^{k}\int _{[0,1]}|f^{(\ell )}(x)|^{p}\mathrm {d} x}}} ‖ f ‖ k , ∞ = max ℓ < k sup x ∈ [ 0 , 1 ] | f ( ℓ ) ( x ) | {\displaystyle \|f\|_{k,\infty }=\max _{\ell <k}\sup _{x\in [0,1]}|f^{(\ell )}(x)|} も定義可能であるが、これらもk 、p が異なれば異なる位相を定める。なお、 ‖ ⋅ ‖ k , ∞ {\displaystyle \|\cdot \|_{k,\infty }} の定める位相をCk -位相 と呼び、この位相は位相幾何学 で図形の連続変形を扱う際重要な役割を果たす。
その他の具体例 密着位相、離散位相、補有限位相、補可算位相 定義・定理 ― X を集合とする。このとき以下は位相の公理を満たす。
空集合 ∅ {\displaystyle \emptyset } と全体集合X のみを開集合とする位相を密着位相 という。 X の任意の部分集合を開集合とする位相をX の離散位相 という。 X の任意の有限部分集合と全体集合を閉集合とする位相をX の補有限位相 という。 X の任意の可算部分集合と全体集合を閉集合とする位相をX の(補可算位相 )(英語版) という。 密着位相と離散位相はいわば「両極端」の人工的な位相構造に過ぎないが、これらの位相構造は、位相に関する命題の反例として用いられる事がある。またこれらの位相構造は、任意の集合上に位相構造を定義できる事を意味している。
離散位相はX 上に離散距離
d ( x , y ) = { 0 x = y 1 otherwise {\displaystyle d(x,y)={\begin{cases}0&x=y\\1&{\text{otherwise}}\end{cases}}} をいれたときに距離から定まる位相と一致する。
X が1元集合、有限集合、可算集合の場合は明らかに密着位相、補有限位相、補可算位相はいずれも離散位相に一致する。 それ以外の場合、すなわちX が2元以上ある集合、無限集合、非可算集合の場合は、密着位相、補有限位相、補可算位相はX 上のいかなる距離から定まる位相とも一致しない[注 2] 。
ザリスキー位相 P = { 2 , 3 , 5 , 7 , … } {\displaystyle P=\{2,3,5,7,\ldots \}} を素数 の集合とする。各整数 n ∈ Z {\displaystyle n\in \mathbb {Z} } に対し、
V ( n ) = { p ∈ P ∣ n {\displaystyle V(n)=\{p\in P\mid n} はp の倍数 } {\displaystyle \}} と定義し、V (n ) 全体の集合を閉集合系とするP 上の位相をP 上のザリスキー位相 という。 ザリスキー位相はP 上のいかなる距離から定まる位相とも一致しないことが知られており[注 3] 、距離から定まらない位相でなおかつ数学の重要な研究対象となっているものの代表例である。 ザリスキー位相の概念は一般の可換環 R の素イデアル 全体の集合に対しても定義する事ができる事が知られている。
一方、これとは全く異なる角度からザリスキー位相を定義する事ができる。K を複素数体(もしくはより一般に代数的閉体 )とし、Kn を考える。そしてK 上の多項式の任意の集合S に対し、
V ( S ) = { x ∈ K n ∣ ∀ f ∈ S : f ( x ) = 0 } {\displaystyle V(S)=\{x\in K^{n}\mid \forall f\in S~:~f(x)=0\}} と定義し、V (S ) 全体の集合を閉集合系とする位相をKn 上のザリスキー位相 という。
以上で述べた2種類のザリスキー位相は一見全く異なるように見えるが、実は同種の概念を別の角度から見たものである事が知られている。これら2つが同種である事は代数幾何学 の最も基本的な定理の一つとなっている。
加工により得られた位相空間 数学で使われる多くの位相空間は、距離空間(から定まる位相空間)のような既知の位相空間を加工して作られている。 例えば既知の2つの位相空間の和集合や積集合に対して、位相を定めてこれらを位相空間とみなしたり、位相空間上で同値関係を考えてその同値関係による商集合 に対して位相を定めて位相空間とみなしたりする。
こうした加工の結果として得られる位相空間の例として、非常に重要なものの一つが多様体 である。多様体とは、直観的にはn 次元曲面のことであるが、これは R n {\displaystyle \mathbb {R} ^{n}} の部分集合を何枚も張り合わせる事で実現されている。
既知の位相空間の和集合、積集合、商集合といったものにどのような位相を定めるべきかに関しては一般的な導出方法が知られており、これについては「#位相空間の導出 」の節で説明する。
位相空間に関する諸概念 定義 内部、外部、境界 位相空間X の部分集合A に対し、A の「内部」、「外部」、「境界」の概念を定義できる:
x は、それを含むある開集合もまた
S に含まれるため
S の内点である。一方
y は
S の境界上にある。
定義 (内点、外点、境界点[2] ) ― ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} を位相空間とし、A をX の部分集合とする。このとき、
x ∈ X がA の内点 であるとは、ある開集合O ⊂ X が存在し、x ∈ O ⊂ A が成立する事をいう。 Ac の内点をA の外点 と呼ぶ。 A の内点でも外点でもない 点x ∈ X をA の境界点 という。 定義 (内部、外部、境界[2] ) ― ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} を位相空間とし、A をX の部分集合とする。このとき、
A の内点全体の集合をA の内部 (ないぶ, 英 : interior )または開核 といい、 A ∘ , Int A {\displaystyle A^{\circ },\operatorname {Int} A} などと表す。 A の外点全体の集合をの外部 (がいぶ, 英 : exterior )といい、 A e , Ext A {\displaystyle A^{e},\ \ \operatorname {Ext} A} などと表す。 境界点全体の集合をA の境界 (きょうかい, 英 : frontier )とい、 Fr A , Bd A , ∂ A {\displaystyle \operatorname {Fr} A,\ \operatorname {Bd} A,\ \partial A} などと表す。 なお、境界を表す記号「 ∂ A {\displaystyle \partial A} 」は多様体 の縁(ふち, 英 : boundary )を表す記号としても使われるが、両者は似て非なる概念なので注意が必要である。
閉包 さらに閉包を次のように定義する:
定理・定義 (閉包、触点) ― ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} を位相空間とし、A をX の部分集合とする。このとき、
A ∘ ∪ Fr ( A ) {\displaystyle A^{\circ }\cup \operatorname {Fr} (A)} をA の閉包 (へいほう, 英 : closure )と呼び、 A ¯ , Cl ( A ) , A − {\displaystyle {\bar {A}},~\operatorname {Cl} (A),~A^{-}} などと表す。 A の閉包の元をA の触点 という。 定義から明らかに次が成立する:
命題 (内部と閉包の関係) ―
A c ¯ = ( A ∘ ) c {\displaystyle {\overline {A^{c}}}=(A^{\circ })^{c}} よって内部と閉包は双対的な関係にあり、内部に関する性質にド・モルガンの法則 を適用する事で閉包の性質を導く事ができる。
基本的な性質 定義より明らかに次が成立する。
命題 ―
x ∈ X がA の外点 ⇔ x ∈ O を満たすある開集合O ⊂ X が存在し、O ⊂ A c x ∈ X がA の境界点 ⇔ x ∈ O を満たす任意の開集合O ⊂ X に対し、 A ∪ O ≠ ∅ {\displaystyle A\cup O\neq \emptyset } かつ A c ∪ O ≠ ∅ {\displaystyle A^{c}\cup O\neq \emptyset } x ∈ X がA の触点 ⇔ x ∈ O を満たす任意の開集合O ⊂ X に対し、 A ∩ O ≠ ∅ {\displaystyle A\cap O\neq \emptyset } X が距離空間であれば、上では「x ∈ O を満たすある開集合O ⊂ X 」、「x ∈ O を満たす任意の開集合O ⊂ X 」となっているところを、「x のあるε -近傍 B ε ( x ) {\displaystyle B_{\varepsilon }(x)} 」「x の任意のε -近傍 B ε ( x ) {\displaystyle B_{\varepsilon }(x)} 」に変えてもよい。これについては基本近傍系 について記述する際、より詳しく述べる。
さらに次が成立する。
命題 ― 位相空間 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} の任意の部分集合A に対し次が成立する:
内部、境界、外部は、全空間X を排他的に分割する。すなわち、 A ∘ ⊔ Fr ( A ) ⊔ A e = X {\displaystyle A^{\circ }\sqcup \operatorname {Fr} (A)\sqcup A^{e}=X} A ∘ ⊂ A ⊂ A ¯ {\displaystyle A^{\circ }\subset A\subset {\bar {A}}} A の内部、外部は開集合で、境界、閉包は閉集合である。 内部、閉包の性質 内部および閉包は以下のようにも特徴づけられる事が知られている:
命題 (内部および閉包の特徴づけ) ― 位相空間 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} の任意の部分集合A に対し次が成立する:
A ∘ {\displaystyle A^{\circ }} はA に含まれる最大の開集合 ⋃ O ∈ O , O ⊂ A O {\displaystyle \bigcup _{O\in {\mathcal {O}},O\subset A}O} に一致する[2] 。 A ¯ {\displaystyle {\bar {A}}} はA を含む最小の閉集合 ⋂ F ∈ F , A ⊂ F F {\displaystyle \bigcap _{F\in {\mathcal {F}},A\subset F}F} に一致する[2] 。 内部の概念は以下を満たす:
定理 (内部の性質 ) ― 位相空間X の任意の部分集合A 、B に対し、以下が成立する[2] :
A ∘ ⊂ A {\displaystyle A^{\circ }\subset A} ( A ∘ ) ∘ = A ∘ {\displaystyle (A^{\circ })^{\circ }=A^{\circ }} ( A ∩ B ) ∘ = A ∘ ∩ B ∘ {\displaystyle (A\cap B)^{\circ }=A^{\circ }\cap B^{\circ }} X ∘ = X {\displaystyle X^{\circ }=X} A ¯ = ( ( A c ) ∘ ) c {\displaystyle {\bar {A}}=((A^{c})^{\circ })^{c}} である事を用いて、以上で述べた内部に関する結果をド・モルガンの法則により閉包の結果に翻訳できる:
定理 (クラトウスキイの公理系 [3] [4] ) ― 位相空間X の任意の部分集合A 、B に対し、以下が成立する:
A ⊂ A ¯ {\displaystyle A\subset {\overline {A}}} A ¯ ¯ = A ¯ {\displaystyle {\overline {\overline {A}}}={\overline {A}}} A ∪ B ¯ = A ¯ ∪ B ¯ {\displaystyle {\overline {A\cup B}}={\overline {A}}\cup {\overline {B}}} ∅ ¯ = ∅ {\displaystyle {\overline {\emptyset }}=\emptyset }
内核作用素・閉包作用素による位相の特徴づけ ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} を位相空間とするとき、
写像 A ⊂ X ↦ A ∘ {\displaystyle A\subset X\mapsto A^{\circ }} を内核作用素 という[2] 。 写像 A ⊂ X ↦ A ¯ {\displaystyle A\subset X\mapsto {\bar {A}}} を閉包作用素 という[2] 。 本項ではこれまで、開集合系を使って位相空間を定義し、これをベースに内核作用素を定義したが、逆に上述の性質を満たす内核作用素の概念を使って位相空間を定義し、これを使って開集合と定義する事も可能である。すなわち以下が成立する:
定理 (内核作用素による位相の特徴づけ[2] ) ― X を集合とし、X の冪集合からそれ自身への写像
I n t : P ( X ) → P ( X ) {\displaystyle \mathrm {Int} ~:~{\mathfrak {P}}(X)\to {\mathfrak {P}}(X)} で、 A ∘ := I n t ( A ) {\displaystyle A^{\circ }:=\mathrm {Int} (A)} が「定理(内核作用素の性質) 」で述べた4性質を満たすものとする。
このときX 上の位相構造 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} で位相空間 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} の内核作用素が I n t {\displaystyle \mathrm {Int} } に一致するものがただ一つ存在する O {\displaystyle {\mathcal {O}}} の開集合系 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} は具体的には以下のように書ける:
O = { O ⊂ X ∣ O = I n t ( O ) } {\displaystyle {\mathcal {O}}=\{O\subset X\mid O=\mathrm {Int} (O)\}} A ¯ = ( ( A c ) ∘ ) c {\displaystyle {\bar {A}}=((A^{c})^{\circ })^{c}} である事を用いて、以上の結果を閉包作用素の結果に翻訳できる:
定理 (閉包作用素による位相の特徴づけ) ― X を集合とし、X の冪集合からそれ自身への写像
C l : P ( X ) → P ( X ) {\displaystyle \mathrm {Cl} ~:~{\mathfrak {P}}(X)\to {\mathfrak {P}}(X)} で、 A ¯ := C l ( A ) {\displaystyle {\bar {A}}:=\mathrm {Cl} (A)} がクラトウスキイの公理系 を満たすものとする。
このときX 上の位相構造 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} で位相空間 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} の閉包作用素が A ¯ = C l ( A ) {\displaystyle {\bar {A}}=\mathrm {Cl} (A)} に一致するものがただ一つ存在する[3] [4] 。 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} の閉集合系 F {\displaystyle {\mathcal {F}}} は具体的には以下のように書ける:
F = { F ⊂ X ∣ F = F ¯ } {\displaystyle {\mathcal {F}}=\{F\subset X\mid F={\bar {F}}\}} その他の関連概念 集積点、導集合 定義 (集積点、導集合、孤立点) ― ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} を位相空間とし、A をX の部分集合とする。このとき、
x ∈X が A ∖ { x } {\displaystyle A\setminus \{x\}} の触点であるとき、x をA の集積点 という[2] 。 A の集積点全体の集合を導集合 といい、Ad と表す[2] 。 A ∖ A d {\displaystyle A\setminus A^{d}} の元をA の孤立点 という[2] 。 定義より明らかに次が成立する。
命題 ―
x ∈ X がA の集積点 ⇔ x ∈ O を満たす任意の開集合O ⊂ X に対し、O はx 以外にA の元を含む。 x ∈ X がA の孤立点 ⇔ x ∈ A であり、しかもx ∈ O を満たすある開集合O ⊂ X があって、O はx 以外にA の元を含まない。
稠密 定義 (稠密) ― A が位相空間 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} の稠密な部分集合 であるとは、A の閉包が X に一致することである。
これは言い換えるとX の任意の点の任意の近傍が、A と交わることを意味する。
可算な稠密部分集合をもつ位相空間は可分 であるといい、例えば R {\displaystyle \mathbb {R} } においては Q {\displaystyle \mathbb {Q} } が可算な稠密部分集合なので、 R {\displaystyle \mathbb {R} } は可分である。
近傍 本節では近傍の定義を述べ、その基本的な性質を述べる。近傍はすでに述べたように位相空間における収束の概念を定義するのに用いられるが、それ以外にもある点x の周りの局所的な性質を記述する際に広く使われている。
定義 近傍の定義は以下のとおりである:
定義 (近傍系、開近傍系) ― ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} を位相空間とし、x をX の点とする。このとき、
x ∈ O を満たす開集合をx の開近傍 (かいきんぼう, 英 : open neighborhood )という。 またX の部分集合N が以下を満たすとき、N はx の 近傍 (きんぼう, 英 : neighborhood )であるという[5]
ある開集合O ⊂ X が存在し、x ∈ O ⊂ N 点x の近傍全体の集合をx の近傍系 といい[5] 、x の開近傍全体の集合をx の開近傍系 という。
近傍系のことを近傍フィルター (英 : neighborhood filter)ともいう。
基本近傍系 点x の近傍N はx ∈ O ⊂ N を満たし、距離空間における開集合O は B ε ( x ) ⊂ O {\displaystyle B_{\varepsilon }(x)\subset O} を満たす。したがって以下のように基本近傍系 の概念を定義すると、距離空間においては { B ε ( x ) ∣ ε > 0 } {\displaystyle \{B_{\varepsilon }(x)\mid \varepsilon >0\}} が基本近傍系になっている事がわかる。また一般の位相空間でも開近傍全体の集合が基本近傍系になる事がわかる。
定義 (基本近傍系) ― ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} を位相空間とし、x をX の点とし、 N x {\displaystyle {\mathcal {N}}_{x}} をx の近傍系とする。 N x {\displaystyle {\mathcal {N}}_{x}} の部分集合 B x {\displaystyle {\mathcal {B}}_{x}} が以下を満たすとき、 B x {\displaystyle {\mathcal {B}}_{x}} をx における基本近傍系 という[6] :
任意の近傍 N ∈ N x {\displaystyle N\in {\mathcal {N}}_{x}} に対し、ある B ∈ B x {\displaystyle B\in {\mathcal {B}}_{x}} が存在し、x ∈ B ⊂ N 近傍概念は収束などx の局所的な振る舞いを記述する際に用いられるので、多くの場合全ての近傍を考える代わりに、基本近傍系のみを考えれば十分である。例えば次が成立する:
命題 ― B x {\displaystyle {\mathcal {B}}_{x}} を位相空間 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} の点x における基本近傍系とする。このとき、
x ∈ X がA の内点 ⇔ ∃ N ∈ B x : N ⊂ A {\displaystyle \exists N\in {\mathcal {B}}_{x}~:~N\subset A} x ∈ X がA の外点 ⇔ ∃ N ∈ B x : N ⊂ A c {\displaystyle \exists N\in {\mathcal {B}}_{x}~:~N\subset A^{c}} x ∈ X がA の境界点 ⇔ ∀ N ∈ B x : A ∪ N ≠ ∅ {\displaystyle \forall N\in {\mathcal {B}}_{x}~:~A\cup N\neq \emptyset } かつ A c ∪ N ≠ ∅ {\displaystyle A^{c}\cup N\neq \emptyset } x ∈ X がA の触点 ⇔ ∀ N ∈ B x : A ∩ N ≠ ∅ {\displaystyle \forall N\in {\mathcal {B}}_{x}~:~A\cap N\neq \emptyset } x ∈ X がA の集積点 ⇔ ∀ N ∈ B x : {\displaystyle \forall N\in {\mathcal {B}}_{x}~:~} N はx 以外にA の元を含む。 距離空間においては点x のε -近傍全体が基本近傍系をなすので、上記の定理より、距離空間においては内点、外点といった概念はε -近傍を用いて定義可能である。教科書によっては、このε -近傍を用いた定義を距離空間における内点、外点等の定義として採用しているものもある。
近傍系の性質 近傍系は以下の性質を満たす:
定義 (ハウスドルフの公理系 [5] ) ― 点x の近傍系を N x {\displaystyle {\mathcal {N}}_{x}} で表すとき、X の任意の部分集合N 、N' 、M に対して以下が成立する。
N , N ′ ∈ N x ⇒ N ∩ N ′ ∈ N x {\displaystyle N,N'\in {\mathcal {N}}_{x}\Rightarrow N\cap N'\in {\mathcal {N}}_{x}} N ∈ N x , M ⊃ N ⇒ M ∈ N x {\displaystyle N\in {\mathcal {N}}_{x},~M\supset N\Rightarrow M\in {\mathcal {N}}_{x}} N ∈ N x {\displaystyle N\in {\mathcal {N}}_{x}} であれば、ある L ∈ N x {\displaystyle L\in {\mathcal {N}}_{x}} が存在し全ての y ∈ L {\displaystyle y\in L} に対して N ∈ N y {\displaystyle N\in {\mathcal {N}}_{y}} ハウスドルフの公理系を満たす近傍系は位相を特徴づける:
定理 (近傍系による位相の特徴づけ) ― X を集合とし、X の元にX の冪集合の冪集合の元を対応させる写像
N : X → P ( P ( X ) ) , x ↦ N x {\displaystyle {\mathcal {N}}\colon X\to {\mathfrak {P}}({\mathfrak {P}}(X)),~x\mapsto {\mathcal {N}}_{x}} がハウスドルフの公理系を満たしたとする。このときX 上の位相構造 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} で位相空間 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} の各点x の近傍が N x {\displaystyle {\mathcal {N}}_{x}} に一致するものがただ一つ存在する[5] 。 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} は具体的には以下のように書ける:
O = { O ⊂ X ∣ ∀ x ∈ O : O ∈ N x } {\displaystyle {\mathcal {O}}=\{O\subset X\mid \forall x\in O~:~O\in {\mathcal {N}}_{x}\}}
収束 本節の目標は、位相空間上での収束概念を定義し、収束概念によってこれまで述べてきた様々な概念を捉え直す事にある。 位相空間における収束概念は、距離空間における点列の収束概念を適切に修正する事により得られる:
定義 (距離空間における点列の収束) ― ( X , d ) {\displaystyle (X,d)} を距離空間とする。X の点列 ( x n ) n ∈ N {\displaystyle (x_{n})_{n\in \mathbb {N} }} がX の点x に収束する とは以下が成立する事を言う:
∀ ε > 0 ∃ n 0 ∈ N ∀ n > n 0 : x n ∈ B ε ( x ) {\displaystyle \forall \varepsilon >0\exists n_{0}\in \mathbb {N} \forall n>n_{0}~:~x_{n}\in B_{\varepsilon }(x)} ここで、 B ε ( x ) = { y ∈ X | d ( y , x ) < ε } {\displaystyle B_{\varepsilon }(x)=\{y\in X|d(y,x)<\varepsilon \}} である。
位相空間における収束を定義するにあたり、上述の距離空間における収束の定義に2つの変更を行う:
ε -近傍 B ε ( x ) {\displaystyle B_{\varepsilon }(x)} の代わりに一般の近傍を用いる。 点列の概念を一般化した有向点族 の概念を導入し、有向点族の収束を定義する。 1番目の変更を行うのは、位相空間には距離の概念がないので、そもそもε -近傍を定義できないからである。一方2番目の変更を行うのは、点列の収束概念だけでは位相空間の諸概念を定式化するのに不十分だからである。たとえば距離空間の場合には連続性の概念は
lim n → ∞ f ( x n ) = f ( lim n → ∞ x n ) {\displaystyle \lim _{n\to \infty }f(x_{n})=f(\lim _{n\to \infty }x_{n})} が収束する任意の点列に対して成り立つ事により定式化できるが、一般の位相空間の場合は「任意の点列」ではなく「任意の有向点族」に対してこれと類似の性質が成り立つ事により連続性を定義する必要がある。
なぜなら点列の場合は添字集合が可算なので、点列の概念で連続性を捉え切るには位相空間の方にも何らかの可算性を要求する必要があり(列型空間 を参照)、一般の位相空間の連続性の概念を適切に定義するには点列の概念では不足だからである。
なお、位相空間上ではフィルター の収束 という、もう一つの収束概念を定式化できる事が知られているものの、収束する有向点族と収束するフィルターとにはある種の対応関係がある事が知られている。詳細は(有向点族#フィルターとの関係 )を参照。
有向点族 すでに述べたように位相空間では点列の概念を一般化した有向点族の概念を定義した上でその収束を定義する。本節では有向点族の定義を与える。その為にまず有向集合 の概念を定義する
定義 (有向集合) ― 空でない集合 Λ とΛ 上の二項関係 「≤ 」の組 (Λ, ≤) が有向集合 (ゆうこうしゅうごう、英 : directed set )であるとは、「≤ 」が以下の性質を全て満たす事を言う[7] :
(反射律 )∀λ∈Λ : λ ≤λ (推移律 )∀λ,μ,ν∈Λ : λ ≤ μ, μ ≤ν ⇒ λ ≤ ν Λ の任意の二元が(上界 )を持つ。すなわち∀λ,μ∈Λ∃ν∈Λ : λ ≤ ν, μ ≤ν なお、有向集合の二項関係「≤ 」は、反射律と推移律を満たすのものの反対称律は満たす必要がないので、前順序ではあるものの順序 の定義は満たしていない。
定義 (有向点族) ― 集合X 上の有向点族 とは、X 上の族(x λ )λ ∈Λ で添字集合Λ が有向集合であるものを指す[7] [注 4] 。有向点族はネット (英 : net )、 Moore-Smith 列 (英 : Moore-Smith sequence [8] )、generalized sequence [8] などとも呼ばれる。
具体的にはX に値を取る点列 ( x n ) n ∈ N {\displaystyle (x_{n})_{n\in \mathbb {N} }} や、実数を定義域に持つX 値関数f から定義される族 ( f ( x ) ) x ∈ R {\displaystyle (f(x))_{x\in \mathbb {R} }} が N {\displaystyle \mathbb {N} } や R {\displaystyle \mathbb {R} } 上に自然な順序を入れた場合に有向点族になるので、これらの収束概念は有向点族の収束概念により定式化できる。
しかしより重要なのは、以下に述べる開近傍系を添字集合に取る有向点族 である
命題 (開近傍系を添字集合に取る有向点族) ― a を位相空間X の点とし、 V a {\displaystyle {\mathcal {V}}_{a}} をa の開近傍系とする。このとき V a {\displaystyle {\mathcal {V}}_{a}} 上の二項関係
U ≤ V : ⟺ V ⊃ U for U , V ∈ V a {\displaystyle U\leq V~:\!\iff V\supset U~~~~{\text{for }}U,V\in {\mathcal {V}}_{a}} を入れると、 ( V a , ≤ ) {\displaystyle ({\mathcal {V}}_{a},\leq )} は有向集合である。よって V a {\displaystyle {\mathcal {V}}_{a}} を添え字に取るX 上の任意の族 ( x U ) U ∈ V a {\displaystyle (x_{U})_{U\in {\mathcal {V}}_{a}}} はこの二項関係に関して有向点族である。
上の例で特に
x U ∈ U {\displaystyle x_{U}\in U} を満たす有向点族 ( x U ) U ∈ V a {\displaystyle (x_{U})_{U\in {\mathcal {V}}_{a}}} を考えれば、U が小さくなればなるほど x U ∈ U {\displaystyle x_{U}\in U} がa に「近づく」ので、この有向点族が収束概念を考える際に重要な役割を果たす事が了解されるであろう。
また開近傍系は開集合の集まりなので、この有向点族 ( x U ) U ∈ V a {\displaystyle (x_{U})_{U\in {\mathcal {V}}_{a}}} は、これまで開集合の概念を通して定義してきた位相空間の概念と有向点族の収束性の概念との、いわば架け橋として機能し、開集合の概念から収束を定式化したり、逆に収束の概念から開集合を逆に定式化したりする際に役に立つ。
なお上では開近傍系を添字集合とする有向点族について記したが、(開とは限らない)近傍系を添字集合とする有向点族も同様に定義できる。
部分有向点族 先に進む前に部分有向点族の概念を定義する。この概念は収束概念を定義する上では使わないが、収束概念を使って位相空間上の他の概念を定式化する際に用いる。
定義 (部分有向点族) ― X を集合とし、X 上の有向点族 ( y γ ) γ ∈ Γ {\displaystyle (y_{\gamma })_{\gamma \in \Gamma }} 、 ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} に対し、以下の性質を満たすh : Γ →Λ が存在するとき、 ( y γ ) γ ∈ Γ {\displaystyle (y_{\gamma })_{\gamma \in \Gamma }} は ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} の部分有向点族 という[9] :
∀ γ ∈ Γ : y γ = x h ( γ ) {\displaystyle \forall \gamma \in \Gamma ~:~y_{\gamma }=x_{h(\gamma )}} ∀ λ ∈ Λ ∃ γ 0 ∈ Γ ∀ γ ∈ Γ : γ ≥ γ 0 ⇒ h ( γ ) ≥ λ {\displaystyle \forall \lambda \in \Lambda \exists \gamma _{0}\in \Gamma \forall \gamma \in \Gamma ~:~\gamma \geq \gamma _{0}\Rightarrow h(\gamma )\geq \lambda } (2を強共終性 (英 : strong cofinality [10] )という)
上の定義でh が単射 である事を要求してない 事に注意されたい。これはもしh に単射性を要求すると病的な例(Tychonoff plank)のせいでいくつかの当然と思われる定理が成り立たなくなってしまうからである。
これが原因で、点列 ( x n ) n ∈ N {\displaystyle (x_{n})_{n\in \mathbb {N} }} を有向点族とみなした場合の部分有向点族は点列になっていない場合もあり得る。実際、 ( x h ( γ ) ) γ ∈ Γ {\displaystyle (x_{h(\gamma )})_{\gamma \in \Gamma }} を ( x n ) n ∈ N {\displaystyle (x_{n})_{n\in \mathbb {N} }} の部分有向点族とすると、h が単射でない事から同じx n が部分有向点族に複数回(場合によっては非可算無限回)登場するかもしれないし、Γも全順序ではないかもしれない。
なお本項に載せた部分有向点族の定義は(Kelly 1975) による。書籍によってはこれとは異なる定義を採用している場合もあるが[10] [11] 、こうした別定義とも何らかの意味で同値である事が示されている[10] [11] 。
収束の定義 詳細は「(極限#位相空間 )」を参照
以上の準備のもと、有向点族の収束の概念を定義する。
定義 (有向点族の収束) ― ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} を位相空間とする。X 上の有向点族 x = ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle x=(x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} がa ∈X に収束 するとは、
∀U (a の近傍) ∃ λ 0 ∈ Λ ∀ λ > λ 0 : x λ ∈ U {\displaystyle \exists \lambda _{0}\in \Lambda \forall \lambda >\lambda _{0}~~:~~x_{\lambda }\in U} が成立する事をいう[7] 。 x = ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle x=(x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} の収束先a が一意であれば、
lim λ → ∞ x λ = a {\displaystyle \lim _{\lambda \to \infty }x_{\lambda }=a} 、 lim Λ x = a {\displaystyle \lim _{\Lambda }x=a} 等と表す。
B x {\displaystyle {\mathcal {B}}_{x}} をx の基本近傍系とするとき、以上の定義における「x の任意の近傍U 」を「 B x {\displaystyle {\mathcal {B}}_{x}} の任意の元U 」に変えたとしても定義としては同値になる。
よって特に、距離空間から定義される位相空間の場合は、「x の任意のε ー近傍」としてもよい。従って点列の収束に関しては位相空間におけら収束と本章の冒頭にあげた距離空間における収束の定義は一致する。
収束の一意性 一般の位相空間において有向点族の収束の一意性は必ずしも成立しないものの、収束の一意性が保証される必要十分条件は下記のように記述できる事が知られている:
定理・定義 (ハウスドルフ性 ) ― 位相空間 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} において、下記の2つの性質は同値である。これらの性質の1つ(したがって両方を満たす事)をハウスドルフ性 もしくはハウスドルフの分離公理 といい、ハウスドルフ性が成り立つ位相空間をハウスドルフ空間 もしくはT2 -空間 という[12] 。
X 上の任意の有向点族 ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} に対し、 ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} が収束すればその収束先は一意である。 X 上の任意の2点x 、y に対し、x の開近傍U と、y の開近傍V が存在しU ∩V' =∅ なお、ハウスドルフ性は数ある「分離公理」の一つであり、「T2 -空間」という名称も「T1 -空間」や「T3 -空間」といった他の分離公理と区別するための名称である。詳細は本項の分離公理の説明 や分離公理 の項目を参照されたい。
収束による諸概念の再定式化 有向点族の収束概念を用いると、閉包の概念を収束によって捉え直す事ができるようになる:
定理 (有向点族による特徴づけ) ― A を位相空間X の任意の部分集合とき、以下が成立する:
A は閉集合である⇔A 上の有向点族(x λ )λ∈Λ でa ∈X に収束するものがあれば、a ∈A である[13] 。 点a がA の閉包に含まれる⇔A 上のある有向点族(x λ )λ∈Λ が存在し、(x λ )λ∈Λ はa に収束する[13] 。 点a がA の集積点である⇔ A ∖ { a } {\displaystyle A\setminus \{a\}} 上のある有向点族(x λ )λ∈Λ が存在し、(x λ )λ∈Λ はa に収束する[13] 。 上の定理の閉集合に関する部分は以下のように非常に簡単に示せる。他のものの証明も同様である:
証明
(⇒) a ∈ A ¯ {\displaystyle a\in {\bar {A}}} である事は以下と同値である:
a の任意の近傍U に対し、 U ∩ A ≠ ∅ {\displaystyle U\cap A\neq \emptyset } ...(1)これはU ∩ A に少なくとも一つ元が存在する事を意味するので、そのような元をx U とすると x U ∈ U ∩ A ⊂ A {\displaystyle x_{U}\in U\cap A\subset A} である事から ( x U ) U ∈ V a {\displaystyle (x_{U})_{U\in {\mathcal {V}}_{a}}} はA 上にある。しかも前節で述べたように ( x U ) U ∈ V a {\displaystyle (x_{U})_{U\in {\mathcal {V}}_{a}}} は有向点族でありしかもa に収束する。
( ⇐ {\displaystyle \Leftarrow } )逆にa に収束するA 上の有向点族(x λ )λ∈Λ があったとすれば、収束性の定義からa の任意の近傍U 内に有向点族の点x λ が存在する。しかも仮定からx λ ∈ A でもあったので、これは(1)が成立する事を意味し、したがって a ∈ A ¯ {\displaystyle a\in {\bar {A}}} である。
距離空間では、点列の収束概念を用いて閉包や閉集合を同様にして特徴づけができる事が知られており、上記の2つの定理はこの特徴づけを一般の位相空間に拡張したものである。しかし一般の位相空間の場合、上記2定理で述べられているように、距離空間と違い「点列」ではなく「有向点族」で特徴づける必要がある。
なぜなら点列の添字が全順序な可算集合であるという制約が原因で、一般の位相空間の性質を記述するには不足であり、点列の概念で閉集合や開集合を特徴づけるには位相空間の方にも可算性に関する条件を満たす必要があるからである。詳細は列型空間 を参照されたい。
二重極限の定理 次に有向点族の二重極限に関する定理を紹介する。後述するように、この定理は有向点族の極限で位相を特徴づける際に役立つ。定理を記述するため、まず有向集合の直積に有向集合構造が入る事を見る:
命題・定義 (有向集合の直積) ― (Γ λ )λ ∈Γ を有向集合の族とするとき、(Γ λ )λ ∈Γ の集合としての直積 × λ ∈ Λ Γ λ {\displaystyle {\underset {\lambda \in \Lambda }{\times }}\Gamma _{\lambda }} に
( γ λ ) λ ∈ Λ ≥ ( ξ λ ) λ ∈ Λ : ⟺ ∀ λ ∈ Λ : γ λ ≥ ξ λ {\displaystyle (\gamma _{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }\geq (\xi _{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }~:\iff \forall \lambda \in \Lambda ~:~\gamma _{\lambda }\geq \xi _{\lambda }} という順序を入れると、 × λ ∈ Λ Γ λ {\displaystyle {\underset {\lambda \in \Lambda }{\times }}\Gamma _{\lambda }} は有向集合になる。この順序をいれた × λ ∈ Λ Γ λ {\displaystyle {\underset {\lambda \in \Lambda }{\times }}\Gamma _{\lambda }} を (Γ λ )λ ∈Γ の有向集合としての直積 という。
定理 (二重極限の定理(英 : Theorem on Iterated limit [14] ) ) ― Λ を有向集合とし、各λ ∈Λ に対し、Γλ を有向集合とし、 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} を位相空間とする。 各λ ∈Λ に対し、有向集合Γλ を添え字とするX 上の有向点族 x λ = ( x λ , γ ) γ ∈ Γ λ {\displaystyle x_{\lambda }=(x_{\lambda ,\gamma })_{\gamma \in \Gamma _{\lambda }}} が、yλ に収束するとし、さらに有向点族 ( y λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (y_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} がz に収束するものとする。
(Γ λ )λ ∈Λ の直積を Γ = × λ ∈ Λ Γ λ {\displaystyle \Gamma ={\underset {\lambda \in \Lambda }{\times }}\Gamma _{\lambda }} とし、有向点族 ( w λ , ξ ) ( λ , ξ ) ∈ Λ × Γ = ( x λ , ξ λ ) ( λ , ξ ) ∈ Λ × Γ {\displaystyle (w_{\lambda ,\xi })_{(\lambda ,\xi )\in \Lambda \times \Gamma }=(x_{\lambda ,\xi _{\lambda }})_{(\lambda ,\xi )\in \Lambda \times \Gamma }} を考える(ただし ξ = ( ξ λ ) λ ∈ Λ ∈ Γ = × λ ∈ Λ Γ λ {\displaystyle \xi =(\xi _{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }\in \Gamma ={\underset {\lambda \in \Lambda }{\times }}\Gamma _{\lambda }} と定める)。
このとき ( w λ , ξ ) ( λ , ξ ) ∈ Λ × Γ {\displaystyle (w_{\lambda ,\xi })_{(\lambda ,\xi )\in \Lambda \times \Gamma }} はz に収束する[14] [15] 。
極限による位相の特徴づけ 最後に有向点族による極限概念によって位相が特徴づけられる事を見る:
定理 (極限による位相の特徴づけ[16] [15] ) ― X を集合とし、 C {\displaystyle {\mathcal {C}}} をX 上の有向点族とX の点の組からなるクラス とする。
( ( x λ ) λ ∈ Λ , y ) ∈ C {\displaystyle ((x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda },y)\in {\mathcal {C}}} であるとき ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} がy に C {\displaystyle {\mathcal {C}}} -収束するという事にするとき、以下が成立するとする:
x λ が恒等的にy に等しければ、 ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} はy に C {\displaystyle {\mathcal {C}}} -収束する ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} がy に C {\displaystyle {\mathcal {C}}} -収束するとき、 ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} の任意の部分有向点族もy に C {\displaystyle {\mathcal {C}}} -収束する ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} がy に C {\displaystyle {\mathcal {C}}} -収束しないとき、 ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} の部分有向点族 ( x λ γ ) γ ∈ Γ {\displaystyle (x_{\lambda _{\gamma }})_{\gamma \in \Gamma }} で ( x λ γ ) γ ∈ Γ {\displaystyle (x_{\lambda _{\gamma }})_{\gamma \in \Gamma }} のいかなる部分有向点族もy に C {\displaystyle {\mathcal {C}}} -収束しないものが存在する。 二重極限の定理 で「収束」を「 C {\displaystyle {\mathcal {C}}} -収束」に置き換えたものを満たす。このときX 上の位相構造 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} で ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} における有向点族の収束が C {\displaystyle {\mathcal {C}}} -収束に一致するものが唯一存在する。 O {\displaystyle {\mathcal {O}}} における閉包作用素は具体的には以下のように書ける:
A ¯ = { y ∈ X | ∃ ( x λ ) λ ∈ Λ ⊂ A : ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle {\bar {A}}={\Bigg \{}y\in X~{\Bigg |}~\exists (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }\subset A~:~(x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} はy に C {\displaystyle {\mathcal {C}}} -収束する } {\displaystyle {\Bigg \}}}
連続性と位相同型 本節では位相空間 ( X , O X ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}}_{X})} から別の位相空間 ( Y , O Y ) {\displaystyle (Y,{\mathcal {O}}_{Y})} に向かって定義された関数f : X → Y の連続性の概念を定義する。後述するように位相空間における連続性の概念は、距離空間における連続性の定義で「点列」を「有向点族」に置き換える事で定義可能であるが、近傍や開集合といった、位相空間の概念を使った別定義も可能であり、両者の定義は同値となる。
なお、紛れがなければ、f が2つの位相空間の間の写像である事を強調して、「f : X → Y 」ではなく
f : ( X , O X ) → ( Y , O Y ) {\displaystyle f~:~(X,{\mathcal {O}}_{X})\to (Y,{\mathcal {O}}_{Y})} という表記を用いる事もある。
一点での連続性 位相空間X 上で定義された関数f の点x ∈X における連続性を以下のように定義する。
定義・定理 (一点における連続性) ― ( X , O X ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}}_{X})} {"@context":"http:\/\/schema.org","@type":"Article","dateCreated":"2023-05-22T22:13:42+00:00","datePublished":"2023-05-22T22:13:42+00:00","dateModified":"2023-05-22T22:13:42+00:00","headline":"位相空間","name":"位相空間","keywords":[],"url":"https:\/\/www.wiki2.ja-jp.nina.az\/%E4%BD%8D%E7%9B%B8%E7%A9%BA%E9%96%93.html","description":"位相空間 数学 gt 空間 収束 gt Phase spaceについては 物理学 をご覧ください ウィキブックスに論関連の解説書 教科書があります 数学における いそうくうかん 英語 topological space とは 集合X に位相 topology と呼ばれる構造を付け加えたもので この構造はX 上に収束性の概念を定義するのに必要十分なものである 注 1 の諸性質を研究する数学の分野を論と呼ぶ 目次 1 概要 1 1 と距離空間 1 2 応用分野 2 定義 2 1 開集合を使った特徴づけ 2 2 閉集合を使った特徴づけ 2 3 その他の特徴づけ 3 距離空間の位相構造 3 1 ベクトル空間の場合 3 1 1 ノルムの定義 ","copyrightYear":"2023","articleSection":"ウィキペディア","articleBody":"数学 gt 空間 収束 gt 位相空間 Phase spaceについては 位相空間 物理学 をご覧ください ウィキブックスに位相空間論関連の解説書 教科書があります 数学における位相空間 いそうくうかん 英語 topological space とは 集合X に位相 topology と呼ばれる構造を付け加えたもので この構造はX 上に収束性の概念を定義するのに必要十分なものである 注 1 位相空","publisher":{ "@id":"#Publisher", "@type":"Organization", "name":"www.wiki2.ja-jp.nina.az", "logo":{ "@type":"ImageObject", "url":"https:\/\/www.wiki2.ja-jp.nina.az\/assets\/logo.svg" },"sameAs":[]}, "sourceOrganization":{"@id":"#Publisher"}, "copyrightHolder":{"@id":"#Publisher"}, "mainEntityOfPage":{"@type":"WebPage","@id":"https:\/\/www.wiki2.ja-jp.nina.az\/%E4%BD%8D%E7%9B%B8%E7%A9%BA%E9%96%93.html","breadcrumb":{"@id":"#Breadcrumb"}}, "author":{"@type":"Person","name":"www.wiki2.ja-jp.nina.az","url":"https:\/\/www.wiki2.ja-jp.nina.az"}, "image":{"@type":"ImageObject","url":"https:\/\/www.wiki2.ja-jp.nina.az\/assets\/images\/wiki\/22.jpg","width":1000,"height":800}}